ロシア美術の名作が集結 『国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア』がBunkamura ザ・ミュージアムで開催

SPICE

2018/8/9 13:51


展覧会『国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア』が、2018年11月23日(金・祝)~2019年1月27日(日)まで、東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催される。

本展は、ロシア美術の殿堂・国立トレチャコフ美術館が所蔵する豊富なコレクションより、19世紀後半から20世紀初頭の激動のロシアを代表する作家、クラムスコイ、シーシキン、レヴィタン、ヴェレシャーギンらの作品72点を、自然や人物像に宿るロシア的なロマンに思いを馳せて紹介する。クラムスコイの名作《忘れえぬ女(ひと)》が約10年ぶりに来日するほか、同じくクラムスコイの《月明かりの夜》、シーシキンの《雨の樫林》、バクシェーエフの《樹氷》といった作品にも注目だ。

ふるい立つ当時のロシア美術界


この時代のロシアの文化は、チャイコフスキー、ムソルグスキーといった作曲家や、トルストイ、ドストエフスキーに代表される文豪は日本でよく知られているが、美術の分野でも多くの才能を輩出した。その美術界では19世紀後半にクラムスコイら若手画家によって組織された「移動派」グループが、制約の多い官製アカデミズムに反旗を翻し、ありのままの現実を正面から見据えて描くことをめざしていた。移動派の呼称は、啓蒙的意図で美術展をロシア各地に移動巡回させたことによる。

一方、モスクワ郊外アブラムツェヴォのマーモントフ邸に集まったクズネツォフ、レヴィタン、コローヴィンらの画家たちは、懐古的なロマンティシズムに溢れた作品を多く残したが、彼らと移動派には共に祖国に対する愛という共通点が見出せる。

展覧会の見どころは、日本にない広大な自然やロマン

広大な大地や深い森

イワン・シーシキン 《正午、モスクワ郊外》 1869年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
イワン・シーシキン 《正午、モスクワ郊外》 1869年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ロマンティックなロシアと言うときの背景のひとつとなるのが広大な大地だ。日本のような狭い島国の住人にとって、ロシアの圧倒的な広さは体験したことのない未知の世界でもある。

たとえばシーシキンの《正午、モスクワ郊外》に描かれた地平線まで続く道は、そんなロシアならではの雄大なロマンを感じさせる。雪景色にもまた、北国のロマンがあふれている。バクシェーエフの《樹氷》は、真っ白な樹氷が青空に冴え、透き通った大気を感じさせる華やかな作品だ。またアイヴァゾフスキーらの描く海景画も、同様の大きな空間の広がりとして展覧会のアクセントとなっている。
ワシーリー・バクシェーエフ 《樹氷》 1900年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
ワシーリー・バクシェーエフ 《樹氷》 1900年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

吸い込まれるような深い森

イワン・シーシキン 《雨の樫林》 1891年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
イワン・シーシキン 《雨の樫林》 1891年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

日本の国土よりも広くどこまでも深い森もまた、私たちの知らない心惹かれる世界だ。雨傘をさして森の中を歩くカップルを描いたシーシキンの名作《雨の樫林》は、映画のワンシーンを見ているかのよう。この画家には樫の木を単独で描いた作品もあり、それは人物の肖像画のような風格を湛えている。

森は季節の移り変わりとともに様々な容貌を見せる。そこには熊たちが棲む場所もあり、本展にはそれを描いたシーシキンの大作《松林の朝》の油彩習作が出品され、情景の雰囲気が伝わってくる。

都会の中に見つけたロマン

ニコライ・グリツェンコ 《イワン大帝の鐘楼からのモスクワの眺望》 1896年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
ニコライ・グリツェンコ 《イワン大帝の鐘楼からのモスクワの眺望》 1896年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

自然だけでなく、ロシアの都会での暮らしにもさまざまな物語がある。コローヴィンの描く《小舟にて》には、雑踏を逃れて二人の時間を過ごすカップルの様子が描かれているが、何が起きているか、つまり愛を語っているのか別れの瀬戸際なのかは想像するしかないものの、緊張感溢れる画面からはドラマが展開していることが伝わってくる。

そして暮らしの舞台となる都市そのものにも目をやると、伝統的な建築で彩られた都市風景には、グリツェンコの《イワン大帝の鐘楼からのモスクワの眺望》のように、日本人にとって遠い異国の情景としての魅力に溢れるものが多数あることがわかる。

なお、本展には名作《忘れえぬ女(ひと)》の作者で、モスクワで活躍した画家クラムスコイのレーピンによる肖像も出品される。

郊外での暮らしというロマン


ロシアにはダーチャと呼ばれる菜園付きのセカンドハウスがある。都会から1時間程度で行くことができる場所にあり、必ずしも豪華な邸宅である必要はなく、多くの市民は週末に利用し、老後を自然の中で過ごすための場としても使われる。そこでの暮らしはロシア人にはくつろぎのひと時で、彼らなりのロマンティックな時間の過ごし方であり、肩の荷を下ろして愛する人や家族と静かに過ごすことのできる幸福のひと時なのだ。

本展では、マコフスキーの《ジャム作り》のような心和む作品などが出品されている。そしてその庭や野で摘まれるような花の静物画も、ここに加えた。

男性たちが釘付けになる女性像

イワン・クラムスコイ 《忘れえぬ女(ひと)》 1883年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
イワン・クラムスコイ 《忘れえぬ女(ひと)》 1883年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

ロシアの風景を描いた作品とは別に、私たちをロマンティックな世界に誘う女性像。中でもクラムスコイの名作《忘れえぬ女(ひと)》は、過去に何度か来日しているにもかかわらず毎回待望感がある花形作品だ(前回は約10 年前)。文豪が綴る世界を一枚の絵画の中に凝縮したようなこの作品のモデルは、トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』とも言われ、地位や階級を超えた文学的ロマンティシズムを画家が視覚的にとらえた傑作と言えるだろう。
イワン・クラムスコイ 《月明かりの夜》 1880年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
イワン・クラムスコイ 《月明かりの夜》 1880年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

また、大画面に描かれた同画家による《月明かりの夜》は、夜の古い庭園で物思いにふける白いドレスの麗人を叙情的に描いたもので、この画家の世界をさらに深く堪能できる魅力溢れる作品となっている。

子どもたち

ワシーリー・コマロフ 《ワーリャ・ホダセーヴィチの肖像》 1900年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery
ワシーリー・コマロフ 《ワーリャ・ホダセーヴィチの肖像》 1900年 油彩・キャンヴァス (C) The State Tretyakov Gallery

子どもを描いた作品がロマンティックというカテゴリーに入るかどうかは意見が分かれるところかもしれないが、子どもの世界に心の安らぎを覚え、特別な思いを寄せる人も多いのではないだろうか。本展には、そんな子どもたちの様子を身近な生活の中に描き出した秀作が充実している。

かわいらしい子どもたちの絵の中で、例えばコマロフの描く《ワーリャ・ホダセーヴィチの肖像》に登場する幼い少女の姿は、子どもの世界にも奥深い内面的なものがあることを証明している。同様にヴィノグラードフの《家で》と題された作品では少女が広い室内で独りたたずむ姿が描かれ、何かの物語の始まりを予感させる重厚な作品となっている。

他にも、子どもたちが遊ぶ様子を描いた作品も何点か出品され、童心に帰る児童文学コーナーさながらとなっている。

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