戦争の恐怖が体に伝わる…戦時中、野戦病院で日本兵たちに施された恐ろしい“処置”

日刊SPA!

2018/8/9 08:31



― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆激しい水虫と歯痛……戦争の恐怖が体に伝わるお勧めの一冊

おかげさまで『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)は、18万部を超えました。今週(8/6発売)からは、『ヤングマガジン』で東直輝さんによるマンガ連載も始まりました。

そんな中、これもまた多くの人に知って欲しいという本があります。

去年の12月に出版されて、10万部を突破している『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(吉田裕著/中公新書)です。

戦争はダメだとか、国際紛争を解決する手段としてやってはいけないなんてことは、たぶん、みんなが思っています。

けれど、隣の国が気に入らなくなると、「戦争もあり?」と思う人も出てくるのでしょう。

そういう時、「反戦」とか「厭戦」とか、漢字レベルの言葉で主張してもあんまり意味はないんじゃないかと僕は思っています。

本当に戦争をするのが嫌になるとしたら、それは、「身体的実感」というか、体を巻き込んだインパクトで訴えないとダメだろうと思っているのです。

で、これはそういう本なのです。

丁寧に、戦争ということは具体的にどういうことなのかを教えてくれるのです。

例えば、戦争では水虫が猛威を振るいました。

水たまりや泥濘(でいねい)での塹壕戦が続き、ある歩兵兵士は半年間も靴を脱げず、「言語に絶するほどの悪臭を放つ水虫に感染したと告白します。その水虫には、戦後も十年以上、悩まされ続けました。

3千人から4千人に一人の割合でしか軍隊には歯科医がいなかったという事実も驚きます。ただでさえ、行軍の間、一度も洗顔も歯磨きもできないという状態で、虫歯にならない方がおかしいのです。

けれど、歯医者が足らないので自分でなんとかするしかなく、「クレオソート丸(現在の正露丸)を潰して埋め込むか、自然に抜けるのを待つという荒療治」しかなかったのです。結果、歯をすべて失う兵隊が続出します。

◆野戦病院の兵士達へ施された「処置」

歩兵が背負う武器や装具の重さも想像を超えます。

1943年の徴兵検査の記録では、20歳の合格男子の平均身長161.3センチ、平均体重53.2キロ。運ぶ重量は、体重の50%を優に超え、ひどい場合は、自分の体重に近い負担量を持って行動していました。

それで、一日何十キロと歩くのです。空襲が激しくなると夜間歩行に変わります。極端な疲労と過激な睡眠不足の中、自分の体重の50%を超す荷物を背負って、激しい水虫と歯痛に苦しめられながら歩くのです。いやもう、ゾッとする話です。

『不死身の特攻兵』を書くために、特攻の実情を調べている時は、悲しくて悔しくて辛くて、本当に苦しい思いをしました。

それは「なんでこんなことが?」という理解できない命令を下し、実行した人達に対する怒りでした。

『日本軍兵士』で紹介されている、野戦病院に横たわる兵士達への「処置」に対しても、また、「なんでこんなことを」という理解を超えた怒りが湧いてきます。

部隊が撤退する時に、上官は病人達に自決を迫ります。その能力がないものには、毒薬をふくませたり、注射したりしました。

抵抗した衛生兵の手記があります。「処置すべし」という命令に対して、「多少のヒューマニズムも持ち」「国際赤十字条約も少しは知っており」処置の指示に抵抗すると、上官に「この大馬鹿者奴(め)、帝国軍人として戦友に葬られる事こそ最高の喜びじゃ! やれ!」と大喝されます。結果、「判りました」と答えていました。

捕虜になって、敵軍の飯を食い、敵軍に世話されるというのは、当り前に考えて、別の戦い方だと思います。それを拒否するというのは、そもそも理解できない作戦です。名誉とか戦闘意欲の関係で、捕虜になることを禁ずるのは、愚かだと思いますがまだ判ります。

けれど、動けない自軍の病人を処置することは、敵軍の治療や介護の負担と手間を減らすことはあっても何のメリットもないとしか思えないのです。かつて、自国の軍隊がこんな愚かな命令を堂々と組織決定していたことに心底恐怖を感じるのです。

お勧めの一冊です。

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