金融庁新長官、初会合での対話路線転換宣言が銀行界に衝撃…銀行に反論を許容か


 金融庁の新長官に、遠藤俊英前監督局長が昇格した。長官としては異例の3期を務めた森信親前長官は、その剛腕で金融行政をリードしたが、行政の民間介入とも取れる手法が仇となり、スルガ銀行のシェアハウス不正融資問題で晩節を汚す結果となった。金融庁に対する不信感漂う銀行界に対して、遠藤長官は果たして信頼を取り戻すことができるのか。

遠藤氏は7月中旬、長官に就任してからは初めて地方銀行業界のトップが顔を揃える会合に出席した。ひとしきり就任の挨拶と施政方針演説が終わると、唐突に話し始めたのは、「対話」についてだった。

「最後に対話について述べたい」と口火を切った遠藤氏は、「人によって対話の解釈が異なっているようだ」と述べ、自らが考える対話とは、どのようなものなのかについて話し出した。

「対話というのは、討論のように相手を言い負かすことを目的とするものではない。説得や説教とは異なる。心構えとすれば、相手の言うことをじっくり聞く。アカデミックな分析では、相手の発言を大事にすることと、是非の判断をただちに行わず、留保することが重要なプロセスとされている」

「対話」は金融庁にとって重要なキーワードだ。前任の森氏は、金融庁と銀行界が対話を重ねることで、金融庁の考え方を銀行界に浸透させようとした。“強権的”とも揶揄される金融庁の政策について、銀行界との対話を通じて相互理解を深めようとしたのだ。しかし、結果的に森氏の対話は「一方的なものであり、銀行経営への介入のような言動もあった」(地銀幹部)ことから、銀行側は金融庁との対話に疑心暗鬼となった。

遠藤氏の言葉は続く。

「私なりに解釈すれば、自分が相手の立場であればどう考えるかを想像しながら応答すると理解している。対話という呼びかけと、応答のプロセスのなかでお互いの共通の基盤を構築し、お互いに気づきを得る。そうした気づきは、新たに挑戦しようとする機運を醸成する。アカデミックでは、これを生成的対話というそうである」

これを聞いた別の地銀幹部は、「森氏とは違い、遠藤長官は金融庁の各部署を経験してきたいわば金融行政のプロであり、職人気質。その点で、遠藤長官の考える“対話”には、期待が持てる」と歓迎の意を表した。

そして遠藤長官は、対話についての話をこう締めくくった。

「当局が言うことなので、腹に落ちていなくても従うというのではなくて、ご自分の新たな発見、気づきに基づき行動するといった流れをつくっていきたいと考えている」

本当に当局の言うことに対して納得がいかなければ、銀行側が反論することなど可能なのであろうか。そして、その主張の正当性を認め、金融庁が改めることがあるのだろうか。

ある地銀幹部の「正直に言って、にわかには信用できない」というのが、これが銀行界のほとんどの受け止め方だろう。

森氏がつくり上げた「金融庁と銀行の対話」という“負の遺産”を引き継いだ遠藤氏だが、その“対話”を通して、信頼関係を回復しようとしている。だが、一度傷つき壊れた信頼関係ほど修復するのが難しいものはない。果たして、遠藤氏は銀行界とどのような対話を積み重ね、信頼を回復していくのか。その手腕が大きく問われることになる。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

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