瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』が上半期第1位!本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10発表!!

BOOKSTAND

2018/8/8 09:45


さあ今年も上半期ベスト10のシーズンがやってきた。絶妙家族小説からほっこり古本漫画まで、定食とビールを飲みつつ決定した2018年前半のエンターテインメント・ベスト10の発表です!(「本の雑誌」2018年8月特大号より)

〈2018年上半期エンターテインメント・ベスト10〉① そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ 文藝春秋② ひと 小野寺史宜 祥伝社③ できそこないの世界でおれたちは 桜井鈴茂 双葉社④ ペンギンは空を見上げる 八重野統摩 東京創元社⑤ 山猫クー 川口晴 河出書房新社⑥ ディス・イズ・ザ・デイ 津村記久子 朝日新聞出版⑦ Go Forward! 花形みつる ポプラ社⑧ 青春のジョーカー 奥田亜希子 集英社⑨ 菩薩花 今村翔吾 祥伝社文庫⑩ 古本屋台 Q.B.B.集英社A 今年の上半期はなんといっても瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』ですよ。直木賞をとると思っていたのに候補にも入らない。ここで推すしかないよ。
B 山周賞の候補にはなったけど受賞しませんでしたからね。三十七歳の男と十七歳の女の子が同居してHな関係にならないなんてありえないって理由で落とされた。
C それはおかしいよね。そういうリアリティを求める話じゃないんだから。
A うん。主人公の女の子は父親が三人、母親が二人いたわけだよ。それだけ親が変わると不幸だと思うじゃん。でも、ぜんぜん不幸じゃなくて申し訳ありませんってところから始まるわけで、これが最高に素晴らしい。つまり世の中の常識とは違う新しい価値観の物語なんですよ。そこで内情が語られる。その中でお父さんが十七歳の女の子に手をつけない男であるっていうことは書いてあるじゃない。
C そうそう。そういうキャラクターとして書かれてるわけだから。
A そういう小説だってことを読めないのかね。誰なんだよ、それは(笑)。
B 世の中の男がみんなそうだと思われたら困るよね。僕、四十六歳だけど、十七歳とHしたいとは思わないもん。
A それは言っとけ言っとけ。
C 二部構成になってて、二部のほうが七年後の後日談になってるんですよね。その後日談が抜群によかった。
A そう。構成も素晴らしいんだよ。
B 目黒さんはこれが一番なんですか。
A 一番。匿名なのにこれを言うとAが俺だってバレちゃうけど、俺、日経新聞で前半に星五つつけたのこれだけなんだよ。
C え、これ匿名なの?
A 今年はもうこれしか星五つつけないだろうって自信はある。つまり、これは瀬尾まいこの最高傑作でもあるし、今年、これから出てくる家族小説のなかでもベストだと思う。とにかく、キャラクターが絶妙なんですよ。瀬尾まいこは、もともとすごくうまいんだけど、これは飛び抜けてうまい。これだけキャラクターの造形がうまかったら、ストーリーはどうでもいいと思ってるんだよ、実は。
B 昔からそうでした?
A そうだよ。ストーリーに多少問題があっても、キャラクターや文章がものすごくよければ小説を読む喜びがあるわけですよ。『そして、バトンは渡された』は、なおかつストーリーも上手い。何が不満なのか俺にはわからない!
C 別に不満はないんだけど、一位かと言われると、そこまでのインパクトがあるかな、という気はする。
A えっ、信じられないこと言うな。じゃあ、これに対抗するものを出しなさい! いや、俺から言おう(笑)。
C (笑)。それは、○?▲?
A ○です。これに対抗するのは、奥田亜希子の『青春のジョーカー』。エンタメで言ってしまえばよくある話なんだけど。
B 僕、こっちは何でHしないのかなあと思った。
C ああ、俺もそう思った。だって何度も一人暮らしの女子大生の部屋に行ってるんだよ。これは全体に頭でっかちの女の子が書いた小説って感じがする。
B うん。男心をわかってない気がする。
C でも定番だけど、うまいし面白かったよね。中学生を主人公にした青春小説としては出色と言えるかも。
A 何だよ、お前!(笑)
B まあまあ。▲はないんですか。
A 迷ってるんですよ。僕は今年の上半期を象徴するのは主人公が年少である作品が三作あることだと思う。
C 年少!? というと、『青春のジョーカー』と...?
A いや、もっと幼い。九歳、十二歳、十三歳だから。まず九歳が『山猫クー』。九歳の少年と少女がバンコクで出会って、二人でバンコクの町を歩き回る回想シーンがものすごく美しい。これが九歳。それで次、十二歳。これは盲点になってるんだけど、東京創元社のミステリ・フロンティアから出た八重野統摩の『ペンギンは空を見上げる』。ラノベを書いてる作家の初の単行本で「新鋭がジュヴナイル・テイストで、大切なことを描きます。」という帯が。
C その帯で読みたいと思うんだ(笑)。
A この帯に惹かれて読み始めたの。ミステリーの枠を超えた作品だと思うので、あえてここで取り上げたいんだ。小学六年生の男の子が主人公でね、彼はNASAのエンジニアになりたくて、ずっと空を見上げて自分で風船のロケットを飛ばしてそこにスマホをつけて地球の写真を撮りたいと計画している。で、帰国子女の転校生ともうひとりの共感者の三人で風船ロケットをつくるんだけど、最後の五十ページが圧巻なんだ。そこで初めて仕掛けがわかるわけ。
C ほお。面白そう。
A それで、十三歳が『チンギス紀』(集英社)。主人公はもちろん、のちのチンギス・ハン、テムジンなんだけど、第一巻は十三歳なんだよ。同じモンゴル族ですごく強くてかっこいいやつがいて、そいつも十三歳。十三歳同士が手を組む若々しい物語なんですよ。読んでるとゾクゾクするよ。今年の上半期のトピックはこの三作で...。
C 幼少期主人公もの。
A あと超有名だから外したんだけど、裏ベストは宮部みゆきの『あやかし草紙』(KADOKAWA)。それとみなさん、お忘れじゃないですか。一月に出た本って忘れちゃうじゃない。
B 一月はまだ覚えてますよ(笑)。
A スポーツ小説が上半期にたくさん出てるんですが、なかでも一番は一月に出た『Go Forward!』。ラグビーもの。
C 花形みつる。いいんじゃないですか。スポーツ小説はベスト10に入れましょう。
A それから、青春小説で意外だったのは杉江が号泣したという『ひと』。俺はあるところで泣いたんだけど、すごく個人的な事情だからさ。やっとお父さんの店がわかるってところでジーンときちゃって。
C 普通はそこで泣かないよね。
B 僕は揚げ物屋の親父がいい親父だなって思って、ジーンときたの。
C ああ。「ウチのだからうまいわけじゃない。コロッケってもんがうまいんだ」
B これがこれまでの小野寺史宜の作品に比べていいのは、部屋を借りる同級生と金を借りに来る親戚がいるでしょ。ああいうイヤなキャラクターを出せるようになったところですよね。
A で、そういうイヤなやつに対して自分が何を思ったか一切書いてないんだよ。
B そうそう。目黒さんがガイドで書いてたように最後の一か所だけ感情を爆発させる。あれがいいよね。
C 最後の一ページは一行しかない。あれがたまらないんだ。
B 目黒さんじゃないけど、俺、四十六になって久し振りにキュンときたもん。
C あの女の子、最高だよね。
B いい小説でした。目黒さんのおすすめを読んで、久し振りに素直に面白かった。
A ある意味、地味な話だけど、脇役のキャラクターもよく描かれてるし構成もいい。こういう小説が売れてくれると希望が出てくるよね。
C これはジャンルとしては青春小説?
B 主人公は二十歳ですからね。
A いちおう、青春小説ってくくりで六冊選んでるんだよ。
C ほかは何があるんですか。
A 『Go Forward!』と『青春のジョーカー』。それと額賀澪の『完パケ!』(講談社)。額賀澪はちょっとした仕掛けがうまい。それから...ええと、これはなんて書いてあるんだろう。
C 自分で書いたのに読めない(笑)。
A 三浦しをん『ののはな通信』(KADOKAWA)か。これは裏ベストだな。あと南博の『パリス』(駒草出版)
B ジャズ・ピアニストのやつですね。
A 上半期の青春小説はこの六冊。
B 僕と気が合った、桜井鈴茂の『できそこないの世界でおれたちは』は青春小説に入らないんですか。
A あれはその他になってるね。
B これ、めちゃくちゃ面白いんだけど、目黒さんがよく読めたなと。
A だって、俺の好きなダメ男小説の系譜じゃん。
B 四十代の、行き着く先はだいたいわかってるんだけど、もうちょっと生きられないかなって思ってる人たちの話。
A 主人公は自分がフラフラしてるとは思ってないんだよ。確信犯的にフラフラ生きてるわけじゃなくて、ただ自然に生きてる。自然に生きてるだけなのに、まわりからはフラフラしてるように見えちゃう。それに対して何もフォローしないし、弁解もしないし主張もしない。そこがうまい。
B でも、文体からしたら文学なんですよ。エンタメと文学の間くらい。だから目黒さんはどうかなって。
C 文学といえば、僕の上半期のベスト1は橋本治『草薙の剣』(新潮社)なんですよ。
B ああ! 俺も同じですよ。読んだ、目黒さん?
A 読んでない。
C 名作ですよ。すごい大河小説。
B 百年以上の時代が描かれてる。目黒さん、大好きですよ。
A 暮れの年間ベストまで待って、ゆっくりやればいいんじゃない?
B ああ、俺たちがね(笑)。
C いま、ベスト10に入れといたほうがいいんじゃないの? 忘れちゃうし(笑)。
A 大丈夫。君たちは忘れないよ。
C どんな話か聞こうという意思がまったくない(笑)。年末までとっておこう。
B じゃあ、時代小説は何かあります?
A 今年の上半期のエポックは今村翔吾。角川春樹小説賞を受賞したんだけど、実は祥伝社文庫から羽州ぼろ鳶組っていう火消小説のシリーズを出していて、『菩薩花』というのが五巻目なんですよ。
B それが面白いの?
A 火消の世界ってものすごく複雑な仕組みで、最初に半鐘を鳴らすのは大名火消じゃなきゃダメなんだよ。火事を発見したからって誰でも鳴らしていいわけじゃない。大名火消が鳴らしたら町火消が鳴らす。全部仕組みが決まってるの。それをネタにしてるわけ。ある時、大名火消がぜんぜん鳴らさない。なんで鳴らさなかったのかとかね。すごく面白いよ。
C 上半期の時代小説ベスト1?
A あとはさっき言った宮部みゆき『あやかし草紙』、佐藤賢一『遺訓』(新潮社)。さすがに面白かった。問題は飯嶋和一『星夜航行』(新潮社)で、これは今月のめったくたガイドを見てください。
C さりげなく宣伝(笑)。
A あと面白かったのは集英社文庫の阿部暁子『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』。ライトノベルの作家が初めて書いた時代もの。同じように中世を舞台にしたのが幡大介『騎虎の将 太田道灌』(徳間書店)。これも面白かった。
B 時代小説は以上ですね。SFもあるんですか。
A 山本弘『プラスチックの恋人』(早川書房)。よかったよ。セックスアンドロイドがいて主人公の女性のライターが取材に行くわけですよ。そうするとホストクラブみたいになってて、アンドロイドだってわかってるんだけども自分が性におぼれちゃう。最後のほうでアンドロイドたちが全部衣装をとった無垢の姿で会うというのがすごくうまいのよ。あとは、話題になった田中兆子『徴産制』(新潮社)。男が産まなきゃいけないやつ。
B ああ、それは面白そうだった。
A あと、ミステリーだと一般的には翻訳のベストは決まってるんだよ。たぶん、このミスと文春の一位は、フィツェック『乗客ナンバー23の消失』(文藝春秋)。ものすごく面白くてものすごくうまい。みんなどんでん返しに驚いて叫んじゃうよ。これが大方の一位だと思う。
B ということは目黒さんは違うのね。
A そう。個人的な一位は僕が解説書いてるんだけど、いま一押しの作家、カリン・スローターの『罪人のカルマ』(ハーパーBOOKS)。ウィル・トレントシリーズ第五作。これが素晴らしい。ピークが今作なの。
B そのあとを読んでないのにピークって言うのは早いんじゃない?(笑)
A ウィル・トレントって中年の男性警官なんだよ。それにも関わらずこれまでの五作すべて女性たちが主人公なの。すべての作品が女性が主人公の、ヒロイン小説なんだ。警察小説にしては変わってるんだよね。だからぜひ、幅広い年代の女性読者に読んでもらいたい。
B それが一位でいいんじゃないですか。
A いや、それはちょっと(笑)。僕は瀬尾まいこ推しでいきたいですね。
B 小野寺史宣の『ひと』は?
A 『ひと』もいいけど、一位というより二位か三位かなあ。一位は内容的に盤石の瀬尾まいこか、あっと驚かせる『ペンギンは空を見上げる』か、どちらかだな。
B じゃあ、『ひと』が二位で。
A 杉江は『できそこないの世界でおれたちは』を三位にしたいんでしょ。
B そりゃあ、三位ですよ。
A それも異色だけどね。
C じゃあ、一位は正統派で瀬尾まいこでいいんじゃない?
B 一位決定。四位が『ペンギン』。
C 『山猫クー』を五位に。
B 六位に入れてほしいのは年末のサッカー本大賞受賞が決まってるんですけど、津村記久子の『ディス・イズ・ザ・デイ』。 J2を応援しているサポーター小説で、ディテールが細かくて、サッカーファン感涙です。
A よし。その代わり七位に花形みつるの『Go Forward!』を入れて。
B サッカー小説とラグビー小説とね。ワールドカップがあるからサッカーを先にしてもらおう。
A 『青春のジョーカー』は?
C 八位に入れましょう。
A じゃあ、九位は『菩薩花』。
C 残りは十位だけ。
B 浜本さんは橋本治以外にないの?
C 小説はないけど、『古本屋台』を! あんなにゆるい本はないよ。
B 『孤独のグルメ』以上にゆるいですよね。キャラクターはあるけどストーリーはない。目黒さんにもぴったりだ(笑)。

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