上司がLINEで「死ね」「バカ」「カス」「まだ利益を出せないAへ」とパワハラ!訴えられた会社はまさかのトンデモ攻撃

リテラ

2018/8/8 06:58


 本件は、ブラック企業の被害事案であるとともに、被害を受けた労働者が代理人弁護士を依頼して企業を提訴し、記者会見をしたところ、今度は代理人弁護士に対する攻撃がなされたという少し珍しい事件である。

Aさんは、2014年5月、当時急成長しつつあった不動産仲介会社X社に新卒で入社した。

就職説明会で配付されたパンフレットには、大きく「基本給30万円」と、新卒としてはかなり高い給与が記載され、そのほか「完全週休2日制」などの魅力的な条件が掲載されていた。また、同社社長が「日本で一番、人を大切にする会社を創る」などと謳っていたため、Aさんは安心して長期に働ける企業だと思い、大事な新卒カードを行使して、X社への就職を決めた。Aさんは入社後、同社の都内支店に配属され、ホームページ上の物件入力作業、店舗内での物件紹介や店舗外での物件案内に従事した。

ところが、入社後まもなく、以下のような問題が判明した。

① 求人票とは異なる給与体系
 入社後、初めて受け取った給与明細には、基本給15万円、「固定割増手当(いわゆる固定残業代)」15万円と記載されていた。採用及び入社の際はもちろん、退職するまで、同社はAさんに対し、固定残業代制度をとっていることやその内訳について何ら説明をしたことはなかった。

② 当初の説明とかけ離れた長時間労働と残業代不払い
 Aさんの配属された支店においては、朝8時に出社し、終電間際まで働く長時間労働が常態化していた。朝8時の「朝礼」に必ず出席することを求められ、大量の業務を与えられ、連日終電で帰宅するしかない状態だったのである。休憩時間は1日20、30分程度、休日は月2日程度しかとることができなかった。

このような労働環境のもと、Aさんの残業時間は、5月は約150時間、6月は約200時間に及んだ。いわゆる「過労死ライン」月80時間を大幅に超える労働時間である。

また、たとえ固定残業代制度の下でも、一定時間以上残業をした場合には追加して残業代を支払う必要があるが、同社は追加の残業代を一切支払っていなかった。どれだけ残業をしても、実質的には固定給30万円しか支払われない違法な状態だったのである。

③ パワーハラスメント
 さらに、配属支店では店長からの社員らに対する暴言が常態化しており、原告自身、口頭やLINEグループ(業務等の連絡がLINEグループで行われていた。)で「死ね」「バカ」「カス」「ブタ、承知しましたじゃねーよ。謝れ」などの暴言を受けた。

心身共に疲労が蓄積したAさんは、不眠症状が現れ、昼間でも意識が朦朧としたり、論理的な会話が成り立たなくなるなどした。こうしてAさんは、入社から2カ月程度で退職に追い込まれた。

退職の意思を告げた際も、Aさんは、配属支店の店長らから不当な対応を受けた。

配属支店店長は、「まだ利益を出せないAへ」と、暗に新卒社員であるAさんが営業成績をあげられていないことを非難しながら、残務整理を済ませてから退職するよう告げた。また、同店主任は、以前、Aさんが、社用車を運転中、後方から衝突され、加害者に逃げられたトラブルを挙げ、「このままだと、会社はお前の両親に車の修理代を請求させてもらうことになる。」などと脅した。

このように、Aさんは多大な精神的・肉体的苦痛を受け、キャリアを傷つけられた。Aさんは、同社や不動産業界全体の労働環境改善に繋がればと思い、未払残業代及び慰謝料の支払いを求める裁判を起こすことを決意した。
前述の「死ね」「バカ」「カス」「ブタ、承知しましたじゃねーよ。謝れ」などの暴言はLINEにしっかりと残っており、また、終業についてもLINEで逐一店長に報告していたため、これを証拠として添付し、提訴したのである。

●労働者に提訴された会社が、労働者の弁護士をまさかの"返り討ち"攻撃!

筆者は、Aさんの代理人弁護士に就任し、X社を被告として、未払残業代等請求訴訟を東京地方裁判所に提起し、同日、提訴報告の記者会見を行った。
記者会見には、事前に「プレスリリース」を作成し、記者に配布して、説明を行った。「プレスリリース」には、ここまで述べてきたような本件事案の概要を記載し、「「ブラック企業」の被害事案」であるので提訴し、あわせて記者会見をする、旨を書いていた。

本件は数社のマスコミによって報道がされ、それなりに世論の反響を呼んだ。なお、記者会見後、筆者は、自己の個人ブログに、上記記者会見のプレスリリースと同内容の記事を掲載していた。

すると、X社は、筆者に対し、当該ブログ記事の削除を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立ててきたのである。マスコミの記事が既に大々的に広まっているのに、さして閲覧数もない筆者の個人ブログの記事を削除してもあまり意味はないと思われるが、とにかく、X社はそのような手段に出てきたのである。

ただちにブラック企業被害対策弁護団で協議をし、弁護団所属の弁護士を中心とする74名の弁護士が筆者の代理人に就任し(自分も弁護士だが、「弁護士って頼りになるな!」と感じた瞬間である。)、本件記事に何ら違法性はないため削除は断固拒否する態度を貫いたところ、数回の裁判期日を経て、X社は仮処分の申立てを取下げた。

未払残業代及び慰謝料請求事件についても、ほぼ同時期にAさんの言い分をほぼ認める内容での和解により終結した。

X社がこのような仮処分を起こしてきた真の狙いは、代理人の弁護士を攻撃することによって、Aさんの未払残業代等請求事件を事実上早期に幕引きすることにあったと考えざるを得ない。これはブラック企業被害撲滅のための活動に取り組む弁護士及び各種団体にとって、看過できない問題である。
このような攻撃に対しても、いわば「返り討ち」ができた事案であるので、ここに報告する。

なおAさんは、すぐに優良な職場環境の別業種に転職することができ、やりがいをもって働かれているようである。
(田村優介/城北法律事務所 http://www.jyohoku-law.com)

【関連条文】
労働契約の内容の説明→労働契約法4条
残業代→労働基準法37条
過労死ライン→平成13年12月12日付基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

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