テクノロジーはトムの限界を押し上げるために存在する 『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』レビュー

MI_fallout_main
Image: (C) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

すごい、すごい、すごい!

何がすごいって『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』のトム・クルーズのアクションですよ。今回のトムは飛行機からジャンプしちゃうし骨折してるのに全力疾走しちゃうし、ヘリコプターも操縦しちゃうんです。

え、そんなのどの映画でもやってることでしょ、どうせVFXじゃないの、って?

とんでもない、普通ならVFXでやるようなことをトム・クルーズ(56歳)本人が全部やっちゃってるんです。トム(しつこいけど56歳)はまさに生きるVFXなんですよ!

もはやストーリーはどうでもいいです。『ミッション・インポッシブル』シリーズは、トムのスリル中毒を満たし、観客に本物のアクションを観てもらうためだけに作られるものであって、ストーリーはそれを綺麗にまとめるためだけに存在しているパセリのようなもの。大切なのは「世界の平和が保たれているのはぜーんぶイーサン・ハントの活躍のお陰」と観客に理解してもらうことであり、陰謀や裏切りや復讐なんて別に理解してなくてもノープロブレムです。

そんなわけで見所はなんといってもトムのアクション! そして彼の飽くなきチャレンジ精神とダダ漏れぎみなドーパミンを必死に作品に落としこむスタッフならびに共演者の愛とド根性 です!

トムが求める「不可能なミッション」を可能にする技術


「技術」と言ってもVFXのことを指しているのではありません。トムの人間離れした要求を実現するため、つまりトムの限界を引き上げるために開発される技術の数々です。



たとえば、トムの長年の夢だったHALO(ヘイロー)ジャンプ。これは高高度降下低高度開傘といって、約1万メートル程度の高さを飛ぶ飛行機からジャンプして、地上ギリギリでパラシュートをひらく降下方法です。敵に見つかりにくいということで60年代にアメリカ空軍によって開発されたんですが、失神や死の危険もあるのだそうです。

忙しいトムの練習用に世界最大規模のバーティカル・ウィンド・トンネル(垂直風洞)

今回、トムはこのHALOジャンプをしながらヘンリー・カヴィル演じるウォーカーを助ける演技をしなくてはなりません。しかしすでに撮影は始まっていたので、忙しい合間を縫って演技を練習するために、バーティカル・ウィンド・トンネルを使うことに。

ところがすぐに用意できた移動式のものは小さく、大きいサイズのものを手に入れる必要が出てきました。トムはこの練習のときにすでに足首を骨折しており、狭いウィンド・トンネルの壁に衝突してそれ以上痛めてしまうことを懸念したのです。そこで最終的に、12週間かけて幅20フィート×高さ10フィート、4つの10メガワットジェネレーター駆動の世界最大バーティカル・ウィンド・トンネルを作りました。

トムのご尊顔をクリアに見せる特殊酸素供給ヘルメット
MI_fallout_fallingA
Image: (C) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

『ミッション・インポッシブル』シリーズを見に来る人は、トムの体当たりアクションを見に来ているといっても過言ではありません。なのでトムも監督も「トムを見せる」ことを重要視しています。もちろん、HALOジャンプもトムの表情をしっかり見せなきゃ意味がありません。そこで生まれたのが、顔がハッキリ見える特殊酸素供給ヘルメット!

本来ヘイロージャンプするのは敵の目を欺くため。あんなに派手なヘルメットだと都合が悪いし意味がありません。劇中でトムが装着していた大きな透明窓つきライトアップヘルメットはトムの顔を鮮明に見せるためだけに作られました。

トムのジャンプを捉えるヘッドマウントカメラ



一度見たら忘れることができないヘイロージャンプは飛んだ瞬間から着地する直前まで2分37秒の長回し。スタントなしで飛んだトムはすごいけど、これってヘッドマウントカメラをつけて飛んだカメラマンもむちゃくちゃすごいんですよ。

クリストファー・マッカリー監督によると、トムと一緒に飛んでいるあいだカメラマンはどんなふうに撮影できているか確認できずに感覚だけが頼りだったそうです。しかも、時速320kmで背中を下にして落下しつつ、全体を写すために離れたり、近影のために接近したりして。衝突したらけがするなんてレベルではないし、死んでしまう危険性もありました。2回目に見ても、いや2回目で知識が増えていたからこそ、このシーンは本当にハラハラドキドキさせられました。

圧倒的な「リアル」を届けるために無茶をする


本作に限らず『ミッション・インポッシブル』シリーズはたいていのアクション映画よりも長回しが多く使われています。それはトムが本当に素晴らしいアクションをしていて、その様子を余すところなく観客に見てほしいからに他なりません。

本作の見せ場は、ヘイロージャンプシーン、トイレ・フィストファイトシーン、脱獄手助けバイク/カーチェイスシーン、追跡猛ダッシュシーン(骨折つき)、ヘリコプター操縦シーン、ロッククライミングシーンとてんこ盛(テストスクリーンでアクションが多すぎると注意されて減らしたのにこのボリューム)。これらシーンのすべてのショットが長め長めに撮影されているから、トムが本当に演じている様子をリアルに楽しめるんです。



たとえば、記者会見でヘンリー・カヴィルに「撮影の後は必ずと言っていいほど涙がにじんだ」と言わしめたトイレ・フィストファイトシーン。殴って殴られてまた殴って吹っ飛ばされるといった一連のアクションが、クローズアップではなく全体を見せるロングショットで長回しといったように撮影されています。これにより、どこに何発パンチが入ったあとにどの部分を強打したか、といった攻撃と痛みのヒストリーを追うことができるので、アクションが生々しく感じられます。

ヘリコプターは2000時間(1年半)の特訓を受けてトム本人が操縦しています。プロのヘリ操縦士でも躊躇するという「らせん落下(スパイラル)」すらトムがやっています。なんでそこまで体を張るのか、というとカメラワークに大きな差がでてくるから。本人が演じていれば顔が映りこむことを気にする必要がないのでヘリの内外、どの角度からでも編集を意識せずに撮影できます。他の映画のヘリシーンと比べるとその違いは歴然!



ちなみにこのヘリシーンで体を張ったのはトムだけではありません。ヘンリー・カヴィルはドアが開いたヘリコプターに実際に乗って演技をしていました。記者会見でマッカリー監督が言っていましたが、上空の撮影は極寒を極め、一緒に乗っていたカメラマンは一回の撮影を終えた後「もう出来ない」と辞めてしまったんだとか。


『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』は、「観客はフェイクとリアルの違いがわかるから騙せない」というトムの信念と観客リスペクトを貫くためのテクノロジーが活用されていました。もちろん、VFXがいけないとか怒涛の編集アクションが悪いなんて思っていません。でも最近、AIが人の仕事を奪うだなんだと穏やかでない話題が多かったので、この人間ありきのテクノロジーという姿勢は、見ていて本当に気持ちがよかったです。

レジェンド級のヘイロージャンプシーンが楽しめる『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』は絶賛公開中。是非とも大画面でお楽しみください。

Source: 映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』公式サイト

あなたにおすすめ