連載第1回「愛し合っているかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

Walkerplus

2018/8/7 12:28

■ ドラマと、愛し合っているかい?

かつて篠山紀信は山口百恵を撮ってこう言った。「時代と寝た女」と。昭和の高度成長期が彼女を必要としたのだ、と。受け入れられるには、ワケがある。その時代で大ヒットしたTVドラマもまた然り。

「ドラマは時代と寝て作られる」。

主題歌や、はやりのファッション。スポンサーも絡むし、流行語や事件など、世相が詰め込まれている。ドラマは流行をギュッと圧縮したカプセルのようだ。蓋を開ければそこから様々な「あの頃」が浮かんでくる。平成はメディア大革命の時代。ポケベルが登場し、ケータイが登場し、インターネットが登場し、配信技術が進化し…。流行やカルチャーの形がガラリと変化した時代を、ドラマはどう切り取ったのか?

タイムマシンの舵取りはこの人に任せるしかない。関西ウォーカー本誌でTVコラム「テレビのホンネ。」を連載中の影山貴彦氏。毎日放送(MBS)でプロデューサーとして活躍した後、現在は同志社女子大学でメディアエンターテインメントを教え、数々の新聞や雑誌にコラム連載を持つ、真のメディア評論家である。もちろん連載第1回は「平成元年」。あの頃胸を熱くしたドラマの名ゼリフやシーンに出会う時間旅行にレッツゴー!

■ 好景気の「ノリ」を体現した陣内孝則

―89年と言えば、「バブルど真ん中」というイメージが思い浮かびます。

バブル期は1986年から91年というのが定説ですが、タクシーチケットを使いまくったバブル定番のエピソードにあるような祭り感、アレを実際に世間が体感していたのは88年から91年頃までではないでしょうか。私がMBSに入社したのが86年で、89年はまだまだ駆け出しの若手でしたが、それでも「中古マンションは価格がどんどん上がるから買っとけよ!」と局の先輩から言われ、実際に買ったりもした、冗談のような時代でした。

ドラマも、88年にはダブル浅野がひたすら華やかに恋と友情を繰り広げる「抱きしめたい!」、陣内孝則さん演じる刑事が犯人をほぼ追わず、ブランドスーツを着てナンパに明け暮れる「君の瞳をタイホする!」など、景気の良さが全面に溢れたドラマが続々と放映されていました。

そして、89年はなんといっても月9「愛しあってるかい!」ですね。このドラマ定番の「愛しあってるかーい!」という、のけぞりながらタイトルバックで叫ぶ陣内孝則さんのハイテンション。これは89年そのものだったと思います。あれが浮きもせず、「ウザい」とも思われず、「イェーイ!」と返せる、そんなおおらかな時代。

共演の小泉今日子さん、柳葉敏郎さん、KONTAさん、藤田朋子さん、そして今でも私が大好きな和久井映見さんは生徒役で登場していますが、全員が「ハネている」んです。常識や理想、感動よりもとにかくノリ重視。教育論そっちのけで「イェーイ!」(笑)。あのパワーはすごいですよね。小泉今日子さんが歌う主題歌「学園天国」はフィンガー5のカバーでしたが、オリジナルが売れたのも1974年の高度経済成長期。右肩上がりに伸びてくる時だからこそ、受け入れられるリズム、売れる楽曲というのはありますね。

脚本は野島伸司氏。彼はフジテレビヤングシナリオ大賞の出身で、フジテレビととても縁の深い、生粋の「フジっ子」です。連続ドラマデビュー作もフジテレビ「君が嘘をついた」(88年)で、「愛しあってるかい!」の後も、彼は「すてきな片想い」「101回目のプロポーズ」とフジテレビの月9枠でガンガン大ヒットを飛ばしていきます。90年代中盤からは独特の絶望路線にシフトしますが、好景気の空気に乗りハッチャけさせた「愛しあってるかい!」が、私は一番好きです。

―89年は、「愛しあってるかい!」の他に「教師びんびん物語Ⅱ」や「はいすくーる落書き」など、学園ドラマも多かったです。

特に「教師びんびん物語Ⅱ」と「愛しあってるかい!」が同じ月9枠で放映されているのは面白いですよね。「教師びんびん物語Ⅱ」はかつての名作「熱中時代」を引き継いだ、奇をてらっていないまっすぐな王道の学園ドラマ。「愛しあってるかい!」はそれまでの定番や常識を外し、突き抜けた明るさを追及した、全く違う学園ドラマ。時代や流行は、新しいものと懐かしいものがよせては返す波のように作られていく。デジタルのようにハッキリと切り替わるものではない、というのがよく出ていると思います。

―「愛しあってるかい!」の最終回は視聴率26.6%を獲得しています。

フジテレビの黄金期はこのあたりから速度を増していきます。ブランド化したのは「東京ラブストーリー」からでしょうか。主演の鈴木保奈美さんは、「君が嘘をついた」(88年)などのトレンディドラマ数本に出演、仲良しグループのお嬢さまや末っ子的な役が定番で、89年ついに「白鳥麗子でございます!」で主演を務めました。「オーッホッホ!」という高笑いと高飛車な演技を頑張っています。そんなバブルな下積みがあって「カーンチ!」に行き着くと思うと、胸が熱くなります。

―この時期、題名は覚えているけれど、主演や共演者が似ていて、ストーリーが出てこないドラマもあります。

ありますね。ただ、名言・名シーンが思い浮かばないけれど、それが「駄作」とは限らなくて、「なんか好きだった」「なんとなく覚えている」というのは、とても大切なことだと思うんです。私たちはなにも、常にドスンと胸に突き刺さるものだけを求めているわけではない。ボーッと見て、ああ楽しかった。この「ああ楽しかった」で終わるエンタメって重要ですよね。89年のナンバーワンヒット「Diamonds」(プリンセス プリンセス)に、「うまく言えないけど宝物」という歌詞がありますが、まさにそれ。特に、当時は深さよりも、次々と新しい展開を追い求めていた。それが時代のニーズだったと思います。

■ キョンキョンの「客観性」

もう一度「愛しあってるかい!」に戻りますが、当時の陣内孝則さんの活動は興味深くて、ヤクザ映画に数本主演しているんです。テレビドラマでは右肩上がりの好景気の「イェーイ!」な時代と寄り添ってコミカルで弾けた演技をし、映画ではとことんシリアス、ハードな役柄に徹しているんですよね。メディアを変えて演技の幅を広げていたというか、お芝居としっかり向き合っていた。実は「浮かれる俳優」ではなく「見据える俳優」さんだと思っています。

小泉今日子さんも、奇抜なアイデアに自ら首をつっこんでいく新人類の申し子のようなイメージがあります。しかし、ご本人は常に客観的だったようで、「ビジネスマンのようにアイドルをやってきた」と語っていて、85年、一世を風靡した「なんてったってアイドル」の時も「また大人が悪ふざけして。これを背負わされるのかよ」と思ったと、雑誌のインタビューで答えています。彼女も浮かれていた空気を「見据える人」だったのではないでしょうか。

余談ですが、私は陣内孝則さん・柳葉敏郎さんが共演した映画「さらば愛しのやくざ」(1990年/東映)が大好きで、劇場に3度も足を運びましたが、陣内さんの息子役を演じている青年に、若い子にも上手い役者がいるもんだなと感心したことを覚えています。実は彼こそ稲垣吾郎さん。今のご活躍も、納得です。

■ 誰だって、主人公の真似をした

―ドラマ「愛しあってるかい!」ももちろんですが、この頃のドラマは流行を発信するという役目がありました。

SNSが無い時代、流行の発信源は間違いなくテレビでしたね。私もいろいろ真似しました(笑)。「男女7人夏物語」のブーツ型のビールジョッキ、「抱きしめたい!」のコロナビール+ライムという飲み方。「愛しあってるかい!」はトヨタ自動車がスポンサーでした。ソアラやスープラなどの高級車が登場して、車好きの男性はみな憧れていました。キョンキョンのパッツンボブも流行りましたね。

ドラマではありませんが、89年に大ヒットしたJR東海「クリスマス・エクスプレス」のCMがあります。山下達郎さんの「クリスマスイブ」をバックに、牧瀬里穂さんがクリスマスプレゼントを持ってダッシュする、ストーリー仕立ての名作です。冗談ではなく、当時遠距離恋愛カップルがその真似をして、「なんちゃってJR東海CM」が新幹線のホームのあちこちで繰り広げられていました。プレゼントのお決まりはティファニー。男性はこぞってあのブルーのパッケージを彼女に差し出したものです。

―みんながドラマやCMを、素直に「真似して楽しむ」時代だったんですね。

今なら「カブる」と嫌がられることかもしれませんね。当時は「真似る」というか、同じ方向を見ていた気がします。そのフラッグを立てるのが放送局や広告代理店の役割。彼らの発信するものが実際、人々のライフスタイルを作っていたし、メディア側も「自分たちが流行を作っている」自負がありました。発信側がおおいにハネて、見る側は拍手喝采し素直にそれに憧れた時代。乗り遅れたくないという焦りもついて回りましたが(苦笑)、目的を指示してくれるリーダーがいて、わかりやすかったことは確かです。

■ トレンディドラマ全盛の時期に終了した「ザ・ベストテン」

ドラマ以外のエンタメを調べてみると、89年「ザ・ベストテン」(TBS)と「オレたちひょうきん族」(フジテレビ)といった長寿番組が終わり、出版ではバブルとは真逆の設定である「一杯のかけそば」が大ベストセラーになっています。こういったうねりも流行の面白いところですよね。

テレビドラマの場合は、歌も服も言葉も風景も、たくさんの要素でその時の流行や世相が詰め込まれます。これが「時代と寝て作る」と言われる所以です。いい脚本と演出、キャスティングの三拍子があれば大ヒットする、といいますが、時代性を逃すと、どんな力作でも「ちょっと早かったね」などと言われてしまうことになってしまうんですよね。

現在はネットや配信がメインとなり、いろんな部分をカットして短時間で全体が分かるまとめ的なものも多いです。これは大変便利に見えて、まとめ方によっては別物になってしまっているものもある。それを見て「こんな感じか」と解釈して、場合によっては黒歴史と決めつけ、改めて全部をじっくり見たら印象が違ってビックリ……なんてことも多々あります。作品も時代の流れも、プロセスを飛ばし、部分的につまんでそれを愛した気分だけで済ませてしまうのはもったいない。なにより、間違った情報に踊らされる危険が高い。リスキーですよね。

「ドラマと、本当に愛し(向き)合っているかい?」

メディアに関わっている私自身、常に己に言い聞かせています。

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説。刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。(関西ウォーカー・田中稲)

https://news.walkerplus.com/article/157431/

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