米ハリウッド・ボウルに出演したミュージカル女優・綿引さやかに聞く「夢は描き続け、信じ続ければ絶対に叶う」

SPICE

2018/8/7 06:00



今年2018年5月25日(金)・26日(土)に、米・ロサンゼルスの野外劇場ハリウッド・ボウルにて、ディズニーの名作『美女と野獣』を大スクリーンで鑑賞しながらフルオーケストラの演奏と共に歌やパフォーマンスを楽しむという『ビューティー・アンド・ザ・ビースト』イン・コンサートが開催された。


このコンサートではベル役をズーイー・デシャネル(映画『(500)日のサマー』)、野獣役をアンソニー・エヴァンス(オーディション番組『ザ・ヴォイス』)、ガストン役にはテイ・ディグス(ミュージカル『レント』)など、日本でも知られているキャストが多数出演していたが、そこに日本人としてただ一人、出演したのが女優・綿引さやかだった。『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役をはじめ、『ジャージー・ボーイズ』『Beautiful』など数多くのミュージカル作品に出演してきた綿引が、何故海を越えて、このコンサートに出演することができたのか。現地での稽古の模様、日本との違いなど、コンサート出演を通して綿引が体験してきたことを存分に語ってもらった。
綿引さやか 「美女と野獣」イン・コンサート@ハリウッド・ボウル
綿引さやか 「美女と野獣」イン・コンサート@ハリウッド・ボウル

■ディズニー音楽のレジェンドが繋いでくれた縁


――まずは、このコンサートについて教えてください。現地ではどのような位置づけにあるのでしょうか?

家族で楽しめるコンサートとして人気があるようですね。2年前には『リトル・マーメイド』のフィルムコンサートを実施したそうです。今回は『美女と野獣』をやる事になり、今年からプロジェクション・マッピングも取り入れるなど、お客さまがより作品世界に入り込めるような工夫もされたようです。

――ハリウッド・ボウルは野外劇場だそうですが、何人くらい収容できるんですか?また、雰囲気はいかがでしたか?

17,000人です! 「ハリウッド・ボウルは素晴らしい場所だよ」と、周りの人から伺ってはいたのですが、実際行ってみて「これが……伝説の場所か!」と感じるくらい生命力にあふれていました。一歩足を踏み入れた瞬間、この場所がまるで生き物のような感覚を味わいました。丘の中腹に作られたドーム型のステージ。木々と空に囲まれていて、出演する側も気持ちが高揚する場所でした

映画を最初から最後まで上映するのですが、例えば野獣が攻撃されてしまう場面になると、お客様たちが皆一緒に戦うんです。ガストンが野獣を倒すシーンでは、「やめろ!!」とか村の善良な人々のようになって声をあげているんです。映画を100倍くらい楽しんでいるようでした。「観る」「聴く」だけじゃなく自分たちも「参加して楽しむ」スタイルだったんですよ


――お国柄も見えるようでおもしろそうですね! このコンサートに出演するにあたり、ディズニー映画の音楽を多数手がける“レジェンド”、アラン・メンケンとの出会いがきっかけになったそうですが。

今年の2月に、Disney on CLASSIC Premium『リトル・マーメイド イン・コンサート』に出演させていただきました。アランさんが手掛けるステージに出演できることは私にとって夢の夢のまた夢くらい憧れだったんです。そこで本物のアランさんとお会いし、「自分はディズニー作品がすごく好き」「ミュージカルを仕事としてやらせていただいている」など、お話させていただきました。そうしたら公演の最終日にアランさんのマネージメントもされている、プロデューサーのリチャード・クラフトさんが「もしよかったらハリウッド・ボウルでの美女と野獣のコンサートに出演してみないか?」と声をかけてくださったんです。その時はもう信じられなくて、その日からしばらくはリチャードさんの言葉を自分の中で何度もリピートしていました(笑)。「本当なのかな、夢なのかな」って

――以前綿引さんを取材した際、「いつか海外で仕事をしたい」「ディズニーに携わる仕事がしたい」とおっしゃっていた記憶があるんですが、その夢が着々と実現しているんですね。

はい。そもそも『リトル・マーメイド イン・コンサート』に出演させていただいたこと自体もすごく嬉しかったのですが、さらに海外でディズニー作品のコンサートにも出演することができるなんて思ってもいませんでした。しかもディズニー作品の中で自分がいちばん好きなのが『美女と野獣』ですから! ……なんだか一生分の運を使い果たしたようです(笑)

――まだまだ運はたくさん残ってますよ(笑)!
『美女と野獣』イン・コンサートのパンフレットには当然、綿引の名が見える
『美女と野獣』イン・コンサートのパンフレットには当然、綿引の名が見える

■自分のために皆が歌ってくれた「Be Our Guest」で思わず涙


――さて、コンサートに出演するその日に向けてどんな事をしてきたのか、詳しく教えていただきたいです。まずは出演決定してから現地に入り、本番を迎えるまでどのくらいの日数がかかったのでしょうか?

半月ほどです。本番は2日間でした。実は日本にいる時は、どんな歌をどんな役割で歌うかまったく分からず、楽譜をいただけたのもすべて現地に入ってからだったんです。でも何も分からないからこそ、いい意味で気負わずに現地に入れました。覚悟が決まったような感覚でした(笑)。私は「シンガー」として出演させていただき、アンコールも含めると8曲歌いました

――基本的な質問ですが、綿引さんは英会話や英語の楽曲を歌うことへのハードルはどの程度だったんでしょうか?

歌う曲の英語の歌詞はずっと聴き続けていたのでなんとなく分かったつもりでいましたが、やはり細かい発音は現地のキャストさんに一つずつ教えていただきました。自分では合っているつもりでも「ここがちょっと違うんだよ」とすごく細かく教えてくださったり。自分がソロの部分を歌っていると、休憩の時に「さっきのこの曲はこの部分をこうするといいよ」と教えてくれたりしました。現場では通訳さんもいらっしゃらなかったので、すべて英語でのコミュニケーションが求められていました。だから言語のハードルは想像以上に高かったです。ステージを作っていく上での文化やスピリットも日本とは違う部分が多かったです
綿引さやか 「美女と野獣」イン・コンサート@ハリウッド・ボウル
綿引さやか 「美女と野獣」イン・コンサート@ハリウッド・ボウル

――例えば、どんな点が日本と違うと感じましたか?

向こうの方々はどんな小さなことでもリスペクトし、一回一回些細なことでも称賛を贈るんです。例えば、メインキャストじゃない人でも何かいいアイディアを出したら「今、彼女がこのアイディアをくれたんだよ、ありがとう!」「さすが〇〇さんだね!」、また、時間通りに稽古が終わると「現場を仕切っていた〇さんの能力だね!」などとその場で皆に伝える、それに対して皆が「ありがとう」と声をかけるんです

日本だと褒めていただけると照れたり「そんなことないですよ」と謙遜してしまいがちですが、向こうでは言われたことにすべて「サンキュー!」と返します。「サンキュー! 私はその部分ですごく頑張ってきたんだよ」「それが出来たのは父と母のおかげでね」などと必ずそういった想いも返していくんです。一人ひとりが自分の仕事に誇りを持っていることが伝わってきました

――プラス思考で経験をどんどん積み重ねていくんですね。素敵な環境でいい経験ができましたね。

ええ。実は渡米する前は「海外の方々=すごい」というフィルターがかかっていて、自ら壁を作ってしまい、その壁を見上げて「なかなか高い壁だなあ」と思って怖気づいていたんです。でも何日かやってみると自分がこれまでにやってきたことに自信を持って、ステージに貢献していけば、周りもきっと受け入れてくれるし、自分もやりやすい環境になる、と思えるようになったんです。また、自分は他のキャストよりハンデがあると思い込んでいたのですが、みなさんもものすごく努力しているし、頑張っているんだと気が付いたんです。私も皆と同じラインで戦っている、そういうスタンスでいていいんだ、と思えるようになったんです

自分なりに、小柄なりに、英語がうまく喋れないなりに、出来ることをポジティブに探していくことが出来るようになりました

――現地での稽古中に特に印象に残る出来事はありましたか?

稽古初日、楽譜をいただいて、いよいよ始まるんだな……でも知り合いもいないし、とすごく不安で固まっていたんです。すると私に出演の声をかけてくださったリチャードさんが「彼女は日本から今回のコンサートのために来ていて、これから皆と一緒にコンサートを作り上げていくので、どうか一緒にいい物を作り上げていってね」と言うと『美女と野獣』のナンバーから「Be Our Guest(ひとりぼっちの晩餐会)」を皆が歌ってくれたんです。それを聴いて嬉しさの余り思わず涙してしまいました。


――粋なことをしてくれますね! こちらもその時の様子を想像するだけで涙が出そうです。さて、コンサートのキャストですが、メインキャストはなかなかの顔ぶれですね。

メインキャストの方々はさすがに皆さんお忙しいので本番直前にしか会えなかったんですが、ズーイー・デシャネルさんは個人的にすごく好きで彼女のCDも持っていたくらい。だから共演できて光栄でした。

――他にテイ・ディクスやレベル・ウィルソン、ジェーン・クラコウスキーなど、海外ドラマファンの方が「おお!」と反応しそうな方々もいらっしゃいますね。

本当に驚くような方々ばかりで。だからといって彼らは何か私たちと壁を作る感じではなくて、実にフレンドリーな存在で「出来ないことは皆教えてね、私がやれることは教えるから!」ってすごく気さくに接してくれました。皆さんそれぞれ歌声の迫力はもちろんなのですが、人としての魅力にもあふれていて、惹き込まれました

今回野獣役をやったアンソニー・エヴァンスさんは、オーディション番組『ザ・ヴォイス』で世に出てきた方なのですが、彼の歌は特に素晴らしくてリハーサル室で初めて「Evermore(ひそかな夢)」を歌った時、歌い終わった瞬間に、オーケストラメンバー、キャスト全員から大歓声が! 私も涙が止まらなくて。「本物」というのは、例え言葉が通じなくとも、人の心を突き動かすのだと強く感じました。なので、アンソニーが歌うときはリハーサルでも本番でも、舞台袖に皆が集まって聴き入っていたんです

テイさんはもちろん有名な方ですが、彼がステージに出た瞬間のお客様のどよめきと拍手はすごかったです。

――他に現地で稽古をすることで、驚いたり、気になった事はありますか?

そういえば、現地では組合がしっかり役者を守ってくれているので、稽古の終了時間になると、皆ピタッと仕事を止めるんです。稽古は10:00から18:00までだったんですが、たとえば17:56くらいから「Be Our Guest」を歌い始めるとすると、あと数分で曲が終わるのに18:00になった瞬間、コンセントを抜いたかのようにピタッと止めて稽古を終わらせるんです(笑)。「うっそー! あと数小節で終わるのに!」って思いませんか(笑)? 他にも仕事の話をしている途中で18:00になると会話の途中でも止めて「また明日」になるんです。最初それを体験したときは思わず笑ってしまいました。なんてはっきりしているんだろうって。
カンパニーのみんなで記念撮影
カンパニーのみんなで記念撮影

■「夢を叶えるノート」はやる気になるためのお守り


――以前の取材時、綿引さんが書き続けている「夢を叶えるノート」の存在について盛り上がったんですが、今もまだ書いていらっしゃいますか? 確か「~したい」という願望ではなく、「~する」「~した」と完了形で書き込むルールでしたよね?

……今日、実物を持ってきたんです! (バッグから取りだす)実はこの1ページ目に「アラン・メンケンさんと共演する」って書いていたんです。今回その夢が叶ったので「実は……」とアランさんにこのノートをお見せしたら、なんとそのページにサインを書いてくださったんです
綿引さやかの「夢を叶えるノート」
綿引さやかの「夢を叶えるノート」
アラン・メンケンの五線譜サインが眩しい
アラン・メンケンの五線譜サインが眩しい

――うわー! 本当に夢が叶ったんですね! すごい!

ええ。この中には壮大な夢もあるんですが、例えば「エビアンの似合う女性になる」「白のスキニーパンツが似合う女性になる」というささやかな夢も書いているんです(笑)。まだ叶っていない夢もたくさん書いていますが、それは秘密です(笑)

昔、『レ・ミゼラブル』に出たいと思っていた頃は、最初に自分が『レ・ミゼラブル』を観に行った時のチケットをここに貼りました。それから出演できるまで数年かかりましたが2013年にその夢が現実となりました。

自己満足かもしれないけれど、このノートは自分がやる気になるためのお守りのような存在なんです。自分が思い描いているものって、どういうタイミングで、どういうきっかけで、どういう経緯で自分の前に現れるか、なんて本当に分からないものですよね。アランさんのことも、すごく昔に思い描いていた事が、何年も経ってまさかこんな形で実現するとは思いもしていませんでしたし。
アラン・メンケンとハリウッド・ボウルの客席にて
アラン・メンケンとハリウッド・ボウルの客席にて

――では、綿引さんのこれからの夢は?

やはり、日本でも海外でも活躍できるような実力と、人としての魅力を兼ね備えて、世界中の人たちと音楽を通して繋がっていきたいです。今回このコンサートに出演出来たことでその可能性を与えていただき、また自分を信じる力も与えていただいたように思うんです。

――最後に、これからミュージカルの道を目指そうとしている方々に向けてメッセージをいただけますか?

ありきたりかもしれないですが「夢は描き続けて信じ続ければ絶対に叶う」。この言葉を贈りたいです。「どうせ私は~」などとあきらめないで欲しいです。ショービジネスの世界なので、自分が思い描いている場所にすんなり行けない事も多いと思いますが「その場所にいつか立ちたい」と思い続けることで必ずそこに繋がる道に向かっていけると私は信じています
自身が出演したコンサートのパンフレットと共に
自身が出演したコンサートのパンフレットと共に

取材・文=こむらさき  写真撮影=荒川潤

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