【実録】死闘8時間! 池袋の喫煙所でやたらフレンドリーに話しかけてきた「目が据わったオッサン」の話を最後まで聞いたらこうなった



世の中に数多ある謎。普段は日常に隠れているけれど、街を歩けばふとした瞬間、そんな謎にぶち当たることがある。私(中澤)がロケットニュース24入社前、池袋の喫煙所で行き会ったのは、やたらフレンドリーに話しかけてくるオッサンだった

短髪・ポロシャツ・チノパンのごく普通の見た目。年齢は30代後半くらい。だが、「どうも」と笑顔で話しかけてきたオッサンの目は据わりきっており、私を貫通して後ろの空を見ているようである。世間話がしたいだけ? それとも何か目的があるのか? 最後まで話を聞いてみたらこうなった

・目的を悟らせないように話す人
街中で見知らぬ人に声をかけられることがよくある私。道を聞かれたりなど、目的がハッキリしている人については誠意を持って接するが、目的を悟らせないように話していると感じる人がいる

池袋の喫煙所でそんな雰囲気で赤の他人に話しかけられるのは3回目。こんな仕事をするなんて全く予想していなかった当時の私は、上記のようなちょっと怪しい人は全てスルーしていた。

・雨の喫煙所
理由は、ネットワークビジネスの勧誘とか何かしらの目的があるに違いないと決めつけていたから。だが、その時にふと頭をよぎった。「『何かの勧誘をされる』と思い込んでいるが、この人はただ人と話したいだけなのかもしれない」と。
かくして、遠い目をしたポロシャツの話を最後まで聞いてみることにしたわけだ。私が会釈をすると、まずは天気の話題でジャブを打ってくるポロシャツ。ちなみに、その時の天気は雨で、私たち2人は傘をさしながら話していた。
もし、ポロシャツが池袋によくいる路上野菜売り・果物売りであれば、掴みの会話の後すぐにその話へと移るだろう。しかし、ポロシャツは天気の話が終わった後、身の上話を始めた。相変わらず目は合わない。

・名前を聞いてくる
島根県から2~3年前に上京してきたポロシャツ。ずっと魚屋をしているという。名前も名乗ったが、ここでは仮にフミオと呼ぶことにする。「東京に知り合いが全然いなくて寂しい」と言うフミオ。私も上京組なので気持ちは痛いほど分かる。

そのことを伝えると、「今はここら辺に住んでるの?」と聞かれた。「そうですね」と答えると、「え、どこら辺?」とさらに詳細を知りたがるフミオ。ついでに名前も聞いてくる。

自然な流れのようにも思えるが、かつて職場の同僚からネットワークビジネスに誘われたこともある私。フミオにはその人物と同じ何かを隠しているような空気感を感じる。そこで「それは教えたくないわ。ゴメン」とバッサリ言うと、引き下がるフミオ。

「雨やまないッスね!」ただの世間話ならそこで終わってもおかしくなかったが、フミオは無理に会話を繋げた。間違いない。何か目的がある。

・執拗に名前を知りたがる
そこで、フミオが振ってくる会話に乗っかってひと盛り上がりしてから終わらせ、引き出しを確実に空っぽにしていくことにした。弾がなくなればいずれは目的を切り出すしかなくなる。

「彼女いるの?」「いないよ。欲しいけどね。フミオは?」「オレもいない。欲しいよね、彼女。あそこにいる子とかどう?」「いや、失礼でしょ」「ええ、良いじゃんそれくらい。あの子どう?」「失礼だからヤメロって言ってんだろ!」

同じ喫煙所でタバコを吸っている人をイジり始めるフミオ。「は?」みたいな視線で、みんな避けながら逃げていく。マジでやめろや! 迷惑だろ!! イジるのは俺だけにしとけや

そう言うと、「あなた、良い人ですね」とフミオ。そして再び名前を聞かれた。「こんなに良いヤツとは友達になりたいから名前教えて」と。相変わらず目は合わない。

・固い握手
「いや、それはマジで嫌だから」そう答えると、「分かった! でも、もう俺たちは友達だ!!」と握手を求めてくるフミオ。「名前を絶対教えない」と心に決めている男が友達かどうかは不明だが、我々は固い握手を交わした

目的があるということは、逆に言うと、目的を達成するまではこちらが何を言おうと大丈夫ということかもしれない。それはある意味気持ちが楽である。その後も、たまに暴走するフミオをいさめながら会話を続ける。バシャバシャ降っていた雨が止んだ
太陽が雲間から顔を出し、洗われたような青い空が見える。綺麗……。曇り空には不穏に映える白い焼却塔が、光を反射して真っ白にキラめいた。登ってみたい。もう1度名前を聞かれる。優しく答えた。それは無理だよ

やがて、西に傾き始める太陽、オレンジに染まるフミオの横顔。沈黙の時間も長くなってきたが、フミオはまだこの場所を離れる気配はない。ならば私も最後の最後まで付き合うべきだろう。

・フミオの目的
そして、フミオと話し始めて8時間。日もとっぷり暮れた頃、「実はですね……オススメしたいものがあって」とフミオが切り出した。ついに来た! フミオの本当の目的が!! テンション上がってきたァァァアアア! フミオがカバンから取り出したのは……

日蓮宗系の本と新聞

──宗教の勧誘だった。目的が分かりスッキリした私はフミオに伝えた。「ごめん、興味ないや」と。そして、そのまま我々は解散した。もう2度と会うことはないだろう

だが、なんだろうこの切なさは? ひょっとしたら、心のどこかでフミオを信じていたのかもしれない。「実は目的なんてなくてただ話したいだけなんじゃないか」と。「喫煙所で行き合ったことから始まる友達関係もあるかもしれない」と。

そんな私の信心が経典の登場によって打ち砕かれたのは皮肉でしかない。それにしても、8時間かけて1人を勧誘するってコスパが悪すぎる。そういう意味では勧誘に向かない不器用で純粋な男だったのかも。

フミオは今頃どうしているのだろうか? 池袋の空に煙を放つ度にあの軽薄な笑顔を思い出さずにはいられない。

イラスト・執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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