辰巳琢郎「おいしいものを、自然に“おいしい”と感じられる状態にいられることが、人間は一番幸せ」幸せを食べる人間力

日刊大衆

2018/8/6 04:00


 1991年1月から93年末まで『くいしん坊!万才』(フジテレビ系)のレポーターを務め、だいぶ鍛えられました。幼い頃から家では「ご飯粒ひとつ残しちゃいけない」という教えが叩き込まれていましたが、そのうえでさらに、食に対する考え方や立ち位置を学びましたね。

苦手だった貝類なども食べられるようになりましたが、クセがありすぎる食べ物については、「テレビを見ている人が食べたいと思わないものはやめませんか」とスタッフに提案したこともあります。『くいしん坊!万才』では、その土地の、家庭料理や郷土料理が主役ですからね。

たとえば地のものでは、漁師さんの船に乗せてもらい、獲れたカツオをその場ですべて食べたこともあります。捨てるところは本当に何ひとつなく、頭は、砕き、味をつけて団子状に丸めて焼いて食べたりする。あれはおいしかったですね。

そうやって各地の生産の現場を周り、収穫などを経験する中で最も感じたのは、その土地の食べ物を旬にいただくことの尊さです。

「たくさん採れ、増えすぎた自然の恵みを分けていただく」というのが、本来の“旬を食す”ことだと思います。ですが、人口が増えた今は、ハウス栽培や養殖が半分以上になった。それは仕方がないことです。そんな時代に、逆に本来の“旬”を味わえることって、とても贅沢なことだと思いませんか?

また、これまでいろいろと食べ歩いて、「安くておいしいお店」を見つけることの難しさは感じますね。いい店を見分けるポイントは、賑わっているかは当然ですが、長年続いているかどうかを見ます。お店を続けていくことは本当に大変なんです。そんな中で長く続いている店には、相応の理由があるのです。

ただ、「賑わっている」という点では、東京ではあてになりません。おいしくなくてもなぜか人が集まるのが東京ですから、ご注意を(笑)。

今回、JCBゴールドカードの会報誌で4年間連載したエッセイを、『やっぱり食いしん坊な歳時記』として一冊にまとめました。連載中は毎月本当に大変だったんです。原稿を書くこと自体も大変でしたが、書くネタの裏どりがまた大変で。毎月、5~6日は、何かいい話はないかと、アンテナを張りつつ、食べ歩きもしていました。

テーマの食材を決め、過去の記憶をたぐり寄せ、紙に落としますが、やっぱり思い出話だけでは面白くない。そこでお店に出向き、店主とカウンター越しに話しをして、新たな発見を得たりするんです。

また、古い本を読むことで、新鮮な情報が得られることもあります。

■書くことは七転八倒、苦しみましたね

 たとえば、収穫せず伸びたアスパラガスはほうきを立てたような形になります。それが群生していると、「雉が姿を隠すのにちょうどいい」ということから、「オランダキジカクシ」という名がついた……といった記述があるわけです。アスパラがオランダから日本に伝えられたのは知っていましたが、そんな表現までは知らなかった。新たな知識を得られることはうれしいことです。

でもね、やっぱり書くことは七転八倒、苦しみましたね。この年になって2日間の徹夜など、とても辛かったですね。

夜食を食べるかは、そのときどきですが、ジャンクな物にも手を出します。カップ焼きそばは特に好きで、コンビニで全種類を買って来て食べ比べをしたこともありますよ。個人的には『U.F.O.』が好きですね。でも、食べるとビールを飲みたくなってしまうので、徹夜仕事の夜食には向きませんね(笑)。

今日はワイン番組の収録なので、何が出てくるか楽しみです。いい仕事でしょ? そして明日からはおいしいものがたくさんある大阪へ。心斎橋には串カツの「うえしま」という店があって、そこにはイカの串カツの上に生うにを乗せた絶品メニューがあるんです。そんな逸品を30年も前に考えたんですから、すごい店ですよね。

でも、やっぱり一番おいしいのは、炊きたてのご飯。昔ながらのしょっぱい塩シャケを、少しだけ箸に乗せ口に運び、すぐにごはんをかっこむ。それも、人と一緒に食べるのが最高ですね。

そうしたおいしいものを、自然に「おいしい」と感じられる状態にいられることが、人間は一番幸せなんだと思います。

ヘア&メイク 釣谷ゆうき 撮影協力 la billage SHIBUYA

辰巳琢郎(たつみ・たくろう)
1958年8月6日生まれ。大阪市出身。京都大学在学中に『劇団そとばこまち』を主宰し、プロデューサー、演出家として学生演劇ブームの立役者に。卒業と同時にNHK朝の連続テレビ小説『ロマンス』で全国区デビュー。以後、多方面で活躍中。『辰巳琢郎のくいしん坊!万才』以降、食通として知られる。ホストを務める『辰巳琢郎の葡萄酒浪漫』(BSジャパン)が放送中。8月9日に八重洲ブックセンターで食エッセイ刊行記念トーク&サイン会。

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