不動産業界をひっくり返しかけた「更新料」をめぐるあれこれ

日刊Sumai

2018/8/5 21:30

今回は賃貸物件で発生する「更新料」についてご説明します。
更新のタイミングは住居費が急上昇して家計に与える影響も大きく、それだけ更新料というものは多くの人々の関心を集めやすい話題です。
更新料が無効だと主張した裁判が各地で起こされ、地裁・高裁レベルでは判例が真っ二つに分かれたため、最終的に最高裁判決が出るまで随分とやきもきした記憶があります。
更新料とはあくまで商慣習にすぎない
賃貸物件
metamorworks / PIXTA(ピクスタ)
更新料は賃貸物件の賃貸借契約において、契約期間が満了して更新契約を締結する際、借主から貸主に対して支払うお金です。
不動産の賃貸借契約を締結する際に契約期間というものは大変に重要な項目になります。
「平成28年12月20日から平成30年12月19日まで2年間」というように曖昧さを一切排除して契約書に明記しますが、その隣には必ず「更新」という項目があり、「借主は、新賃料の1ヶ月分に相当する更新料を貸主に支払った上、更新できるものとする」と書かれているものです。
更新料はこのように不動産取引において重要な事項ですが、実は法律や条例等において根拠となる規定は一切なく、これまでの商慣習に基づくものでしかありません。

更新料に関する驚きの地域差
都心
J6HQL / PIXTA(ピクスタ)
筆者は賃貸物件の仲介に関しては首都圏でしか実務経験がありませんが、特優賃のような特殊な物件を除けば取り扱ったすべての契約書に「2年ごとに1ヶ月分の更新料」という定めがありました。
しかし国土交通省が平成19年にまとめた「民間賃貸住宅に係る実態調査」によれば、更新料を徴収する割合は神奈川県で90.1%、千葉県で82.9%、東京都で65.0%、埼玉県で61.6%、京都府で55.1%、愛知県で40.6%、沖縄県で40.4%という意外な結果となっていました。
関西
まちゃー / PIXTA(ピクスタ)
大阪府と兵庫県では更新料を取らないようですが、その代わりに「敷引き」と呼ばれる償却方法を採用する割合が兵庫県で96.0%、大阪府で29.9%となっています。
同じ関西圏でも京都府になると状況は全然違っており、更新料に関しては1年ごとに1ヶ月分、あるいは2年ごとに2ヶ月分という契約が多いほか、1年ごとに2ヶ月分の更新料を必要とする契約もあるといいます。
これに加えて「敷引き」も広く行われているようであり、京都の家主は何とがめついのかと思いがちですが、中心部が狭い上に古都保存のため様々な開発制限や建物の高さ制限がかかるという京都特有の問題があり、それによって貸主が思ったような賃貸住宅を建てられないといった事情が背景にあるようです。

更新料は何に使われる?
家イメージ
Graphs / PIXTA
不動産会社で実際に更新業務に携わっていた筆者としては、更新料は更新事務を行うことに対する事務手数料のようなイメージを持っています。
賃貸物件の「管理費」は管理に使われるとは限らないという話を以前ご紹介しましたが、更新料に関しても何か特定の使い道がある訳ではありません。
筆者が扱った事例において更新料はすべて家主と管理会社で折半しており、それぞれで売り上げとして計上していました。

不動産業界の一番長い日
家計費
tomcat / PIXTA(ピクスタ)
住居費というものは多くの家庭における支出の中で最も大きいものの一つですが、特に更新の時は出費が跳ね上がることになり、更新料は多くの人の不平不満の種となっているようです。
ところで消費契約法の第10条では
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本事項に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」
と定められており、更新料はこれに該当して無効なのではないかという議論が以前から存在していました。
全国各地で訴訟が提起され、地裁・高裁レベルでは有効と無効とで見事に判例が分かれていましたが、万一「更新料は無効」ということになるとこれまでの賃貸業務が根底からひっくり返ってしまうことになります。
そのため一担当者に過ぎない筆者でまで裁判の行方には注目していました(無効判決が確定した場合に備えて極秘で準備を進めた不動産会社も多かったといいます)
最高裁判所
barman / PIXTA(ピクスタ)
この問題に関しては平成23年7月15日に最高裁判所から判決が出され「賃貸住宅の契約を更新するに当たり、賃料と比して高すぎるという事情がない限りは更新料を支払うことは有効である」という判断が下され、これにより「更新料は有効」ということで判例が確定しました。
この日は朝からニュースが気になって仕方がなく、判決の内容を知ってただひたすら安堵しましたが、間違いなく「不動産業界の一番長い日」だったのではないかと思います。

更新時は家賃交渉の絶好のチャンスでもある
更新料は時代背景の影響もあって以前からネット上で話題になりやすく、最高裁判決以前はそれこそ「『法令違反で無効だから払いたくない』とはっきり意思表示すれば払わなくてよい」というような極論で満ち満ちていたものです。
更新料はなるべく払いたくないものですが、更新というタイミングは実は家賃交渉の絶好のチャンスであることはあまり知られていません。
空室
もとくん / PIXTA(ピクスタ)
自宅の家賃が周辺相場と比べて明らかに高いと感じた場合、根拠を示して管理会社を通じて貸主に申し入れれば、すくなくとも検討だけはしてくれます。
貸主としては借主が退去してしまって部屋が空くのはなるべく避けたいものなので、申し入れが正当な内容であれば心ある貸主なら応じてくれるものです。
契約書上で更新料は「新賃料の1ヶ月分」と規定されている場合が大半ですので、このようにして家賃交渉に成功すればその分だけ更新料も減額できます。

くだらない駆け引きで貸主との信頼関係を壊してはいけない
ネットの噂
Graphs / PIXTA(ピクスタ)
最高裁判決により更新料が合法であることが確定しましたが、それでも「合法的に更新料をなくすウラ技」というような記事がネット上に依然としてはびこっています。
私は弁護士ではないので、ここに書かれた内容が本当に合法的で有効な手段なのかはわかりませんが、少なくとも法令や契約書の裏をかくような内容であることは間違いありません。
賃貸住宅で生活するということは貸主と借主の間に信頼関係があるからこそ成立するもので、たかが賃料1か月分をケチるためのくだらない駆け引きでこの信頼関係を壊してしまうことはあってはならないと思います。
賃貸住宅で生活している場合、貸主を怒らせるとロクなことになりませんので、そのあたりは十分に気をつけていただきたいと思います。

あなたにおすすめ