“何気ない”インプットこそが重要!? 職場での「雑談力」を高めるために必要なこと

長時間労働や子育て・介護と仕事との両立といった問題、働き方の多様化などを受け、「働き方改革」に取り組む企業が増えています。しかし、いち早く成果を上げている企業がある一方で、なかなか浸透しない、成果につながらないという企業も多いようです。

そんな中、「雑談力」が注目を集めています。
業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士であり、『話し下手のための雑談力』 (幻冬舎)著者である沢渡あまねさんによると、「雑談がある職場とない職場では、雰囲気はもちろん、メンバー同士の協力体制、ひいては生産性にも大きな差が出る」とのこと。働き方改革の成果をも、大きく左右するのだとか。

では、「雑談力」を上げるにはどうすればいいのか──サイボウズフェローであり、セミナーや講演会に多数登壇する野水克也さんをファシリテーターに、年間300回近くのプレゼンテーションを行っているという“プレゼンの神”日本マイクロソフトの澤円さんと沢渡あまねさんに語っていただきました。

▲左から、サイボウズ株式会社 社長室フェロー 野水克也さん、日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長 澤 円さん、あまねキャリア工房 代表 沢渡あまねさん

雑談によるインプットの重要性を、企業が理解していない


働き方改革は、ある種ムーブメントのようになっていますね。


たしかに。昨年は1年間で266回プレゼンを行いましたが、そのうち100回くらいは「働き方改革」がテーマでした。


この1年半ぐらいのムーブメントですね。昨今話題になった長時間労働による事件などを受け、政府を始めあらゆる企業や官公庁、自治体が「働き方改革を推進すべし」と言うようになりました。

ただ、実際に着手したのは、残業規制や有給休暇取得促進などの制度面の整備が中心。もちろん、制度で気持ちを引き締めるのは大事なことですが、ここにきて「仕事があるのに無理やり退社させられている」「社内のコミュニケーションが希薄になり、モチベーションが下がった」「会社へのエンゲージメント(愛社精神)がなくなった」などの声が上がっています。制度による急激な引き締めで現場にフラストレーションが顕在化してきています。

沢渡 あまね(さわたり あまね)氏

IT運用エバンジェリスト。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。ITサービスマネジメント/プロジェクトマネジメントのノウハウを応用した、企業の働き方改革・業務プロセス改善・インターナルコミュニケーション促進の支援・講演・執筆活動を行っている。


うまくいっているところもあるようですが、多くの企業ではなかなかうまく進んでいないようです。


企業の生産性を測る公式は、「アウトプット÷インプット」ですが、働き方改革の成果が出ていない企業の多くが行っているのは「インプットを減らす」こと。すなわち、同僚と雑談する時間など「直接的には業務につながらない時間」を極力減らすなどしてギリギリまでインプットを減らし、最大のアウトプットを出すよう指導する…という方法に陥りがち。でも、インプットとアウトプットって必ずしも同時発生しないんですよね。


どういうことですか?


野水さんって、マーケティングのプロでありながら、カメラマンとしても活躍されていますよね?たとえば野水さんと私が同じ会社の同僚で、2人で雑談しているときに「僕、カメラマンもしているんだよ」と言われたら、そのときは「ヘー」で終わるでしょう。

でも後日、部門長から「沢渡君に、わが社の広報誌を新たに作ってほしい。記事づくりなどは全部任せる」と言われたら…はっと野水さんがカメラマンであることを思い出し、「野水さんに記事の写真を撮ってもらおう!」と考えるはずです。

過去の何気ない雑談によるインプットが、このように仕事でのアウトプットに変わるまでには時間がかかるかもしれない。でも、インプットの蓄積があれば、高品質かつ早いアウトプットを出すことが可能なんです。


なるほど、そういう意味ですか!たしかに。


最近は「働き方改革」というお題目をもとに、「会社の徳」が問われているのだと思います。「費用対効果」ばかりに捕われず、中長期的な視野を持って業務時間中にしっかりインプットの時間を確保し、かつ生産性向上に注力する。そういう会社は徳がある。

なのに、最近よく聞くのは「生産性向上を掲げているのに、『新しいITツールを導入して社内コミュニケーションのスピードを上げたり、社外のイノベーターと協働して新しいプロダクトを開発しましょう』と提案すると、『セキュリティが…、費用対効果が…』と言われて、まったく進まない」と。


なんで二の足を踏む企業が多いのかというと、上に怒られるのが嫌だからなんですよね。こういう変な構図になっているのは、日本企業が社員を子ども扱いしているから。小中高と「正解がある前提」の教育を受け続け、正しいと定義されている答えを頭に詰め込んで大学に入る。そして大学でしっかり遊んで脳内はリセットされる。白紙になって入社してきた新入社員を、企業は40年かけて彼らのキャリアプランを作ってあげるのが義務だったんです。


家族のように、社員を見ていると。


「家族」というと聞こえがいいですが、家族って一番雑談しない相手でもありますよね?「言わなくてもわかる相手」という。だから日本企業は雑談が足りず、インプット量が足りず、アウトプットの質が低い。


「毎日顔を合わせることで通じるものがある」と思い込んでいるのも、昔ながらの企業の悪しき慣習ですね。私はさまざまな企業の社内コミュニケーション改善に取り組んでいますが、そういう中でも、未だにリモートワークを頑なに拒絶するところがあります。

離れている相手と信頼関係なんて築けないというけれど、毎日ただ顔を合わせているだけで信頼関係を築けると思っているのがおかしい。うまくいっている会社は離れていようが、きちんと情報を開示し合っているし、会って話したほうが早いと思ったら「対面」も選択的に使っています。そもそも仕事がグローバル化したら、どうするんですかね(苦笑)?

「コミュニケーション活性化」の流れで課長が疲弊している


働き方改革で一定の成果を上げている企業においては、次のステップとして「社内コミュニケーション」に注目する動きがあるようです。


そうですね。実際、私のもとにも、「働き方改革からさらに一歩踏み込んで、社内コミュニケーションを活性化させるには、どうすればいいでしょうか」という相談が多数舞い込んでいます。働き方改革で残業は減り、労働時間も縮小してきた。さあ、次は職場の本質的な課題である業務改善だ、コミュニケーション活性化だ、と。でもこの動きには問題がありまして、多くの企業はこのミッションを、課長クラスにストンといきなり落として、はいオシマイ。

野水 克也(のみず かつや)氏

サイボウズ株式会社 社長室 フェロー 兼 フリービデオグラファー。大学卒業後、北陸の番組制作会社でキー局の北陸担当カメラマンおよびローカルのディレクターを8年勤める。サイボウズでは広告宣伝担当やマーケティング部長を歴任して現職、年間100回を超える講演のエバンジェリスト活動の傍ら、副業として自治体の観光PR動画や空撮、インディーズアーティストやIT企業のプロモーションビデオを制作。


現場を取りまとめる課長に、「コミュニケーション活性化も君の責任だ」と。


最近伺う企業の多くで感じていること。課長クラスの表情がとても暗い(苦笑)。予算は達成しないといけないし、部下は早く帰さないといけない。モチベーションも上げないといけない。

さらに社内コミュニケーションだ、そのためには雑談だと。スゴいところでは、コミュニケーションを学ばせるために、課長クラスを対象に「落語家による話し方講座」を行うところもあるんです。「このうえ落語まで勉強しなきゃいけないんですか!?」と、そりゃ重たくもなりますよ。


でも管理職も人間。コミュニケーションが不得意な人もいますよね。私も講演会やセミナーでのプレゼンは得意ですが、1対1はあまり得意ではありません。


おっしゃる通り、コミュニケーション下手は実はとても多いです。野水さんはそんなことないと思いますが、寡黙で内向的なタイプの管理職が、無理やりコミュニケーションを活性化しようとしても痛々しいだけ。無理に部下に話しかけるから、部下も辛いしモチベーションだって下がります。

澤 円(さわ まどか)氏

日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 マイクロソフトテクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。2011年7月、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長に就任。2015年2月より、サイバークライムセンター日本サテライトも兼任。


そもそも、そういう人を管理職に抜擢する企業側の責任も大きいですよね。そして、日本の管理職は、トレーニングを受けて管理職になるわけではなく、名誉職。現場で高い実績を上げた人が管理職に抜擢されています。でも決して、素晴らしいプレイヤーが、素晴らしい管理職になれるわけではありません。

ところで、MLBロサンゼルス・ドジャース元監督のトミー・ラソーダって知っています?


野茂英雄さんがドジャースにいた時代の?


そうです。ラソーダ元監督はもともとピッチャーだったんですが、メジャーリーグに3年いて0勝4敗しかしていないんです。選手としては鳴かず飛ばずでした。でも、監督としては素晴らしい才能を発揮し、ワールドシリーズで2回も優勝、オリンピックでも金メダルを獲りました。

彼のコミュニケーション力と人心掌握力はすごいそうです。そもそも、自身の実績をバックグラウンドに選手に圧力なんてかけられないから、自分のバリューを理解してもらい、かつ監督として皆に認識してもらうことで、うまく選手をコントロールしながらプレーに専念してもらうことができたんです。


逆にスポーツ界もそうですが、企業の現場でものすごく活躍したプレイヤーが管理職になると、部下に平気で「お前は何でできないの!?」なんて言っちゃう。俺はできていたのにって。


管理職のあなたが、うまく教えていないからなのに。


つまりは、日本企業のやり方がまだまだ「昭和的」すぎるんです。同じようなことが、ダイバーシティでも起きていますよね。「女性も増やしたし、外国籍の社員も増やしました、以上!」という。


多様な人材、価値観があり、働き方も多様化しているわけで、企業もアップデートしていかなければいけないですよね。


そこで働く個人は、今の会社のやり方を疑問に思ってほしいですね。例えば、エンジニアが9時~17時勤務で、スーツにネクタイを締めて毎日出社する企業は未だに多い。その必要はあるのか?など。そうして個人個人が、それぞれの仕事への向き合い方を考え、「自分はこの働き方が一番心地いい。最もパフォーマンスを上げられる」と思える“仕事の勝ちパターン”をつかむことが、現状を変えることにつながると思っています。

企業の「生産性が高い状態」とは、従業員一人ひとりが自身の仕事の勝ちパターンを認識し、実践している状態を指します。だから、自分の勝ちパターンをつかんだら、上司に「このやり方でやらせてください!」とどんどん発信してほしい。発信できる土壌が作れれば、自然と職場での雑談が増え、仕事に役立つインプットも増えます。


今の沢渡さんのお話の中で肝になるのは、自分の勝ちパターンが見つかったらきちんと「言語化」すること。言語化できないと上司などほかの人に発信・要求することができないし、そもそも再現できません。見聞きしたもの、感じたものを言語化して相手に伝えるのは雑談のコアの部分。普段から言語化を意識すれば、雑談力も自然につき、インプット量がぐんと上がります。

「雑談」こそが、企業の生産性UPに有効


サイボウズには、業務時間中に「雑談の時間」があるんですよ。副社長が始めたものなのですが、マネージャークラスがみんな真似するようになって、私もマネージャー時代は毎週30分取って各メンバーと「雑談」していました。会議じゃなくて「雑談」だから、カフェでコーヒーを飲みながら、本当にざっくばらんに。話す内容もお互いの好きなことや嫌いなこと、得意な仕事、不得意な仕事とか。


業務時間内ってのがいいですね。会社の「徳」を感じます。


基本的には、仕事において好きなことをやっていれば生産性は上がるはずで、それが会社の方向性に合っていれば生産性は飛躍的に上がっていくはず。だからメンバーの仕事も均等に振るのではなく、メンバーごとの好き・嫌いを把握して、好きな人に好きな仕事を割りすることを意識していました。今は作業量で評価される時代じゃない、質のアウトプットが重要だと考えているので。


そうなんです。質で評価される時代であるはずなのに、働き方改革が進んでいない企業の多くは、「質」を言語化できていないから「量」に頼っている。これも日本企業が抱える大きな問題であり、昭和的なやり方だと危惧しています。「質」は定性的なもの。言語化しないと評価の基準が「人依存」になりがちで、「あいつは頑張っているから」というよくわからない一言で評価を決めてしまうんですね。

でも雑談をしていると、「質」を言語化するために必要なピースがいっぱい見つかるので、企業を上げて雑談を推奨すればいいと思うんです。

社内に残る「昭和の常識」をアップデートしよう


このような「昭和的」な体制の企業において、個人が有益な雑談をするには、どうすればいいのでしょう?


私は、「自ら職場の景色を変えに行き、それにより昭和の常識をアップデートすること」だと思います。


「景色を変える」とは、具体的にはどういうことですか?


何でもいいのですが、例えばチャットツールを導入するなどは一つの好例です。野水さんは先ほど、「1対大勢は得意だけれど、1対1は苦手」とおっしゃっていましたよね。そういう人って実はとても多いのですが、チャットツールは、「大勢の人に対してコミュニケーションしているようで、個々のやり取りもできる」いい方法だと思います。


おお、ネットだと1対1でも普段より饒舌になれるのはこのせいか(笑)。


日本企業の悪しき呪縛なのですが、「コミュニケーションの課題を解決しよう」となったとき、たいていはプレゼン能力が高い人、ものおじせずズバズバ発言できる人にスキル依存しがち。でも、Slackやチャットワーク、Teamsなどに代表されるチャットツールを導入すると、大人しくて引っ込み思案だと思われた人がどんどん発言し出して、現場の問題点を指摘したり、仕事に役立つ情報を発信し出したりすることが多いんです。これって組織も個人もWin-Winですよね。


メールだとフリーすぎて、どのタイミングで返信すればいいか、どこを引用すべきか、気を使うパラメータが多すぎるんですよね。でも、チャットツールならばトピックが決まっているし、過去のつながりもすぐに見られるし、途中で返信を挟み込むことだってできる。すごく気軽で便利です。


「わざわざ」をなくすことは、雑談環境を作るのに非常に重要です。メールはわざわざ立ち上げて、わざわざ引用部分を考えてCCに入れるべき人は誰かも考えて、わざわざ送るタイミングも考えなければならない。何なら、冒頭文はどうしようかとわざわざ頭をひねらなければならない。これって雑談には圧倒的に足かせだし、重荷になります。


たしかに…。うちはグループウェアがメインだから「わざわざ」を感じることは少ないですが、一般的にはまだまだメールが主流ですよね。


昭和的なやり方は「わざわざ」のトラップが多いのです。コミュニケーションもそう。上司に相談したくても、「まずは相談内容をメールで送って、スケジューラで空き時間を押さえといて。そして会議室も用意しといて」となるから、そこでコミュニケーションを止めてしまう人は多いはず。控えめに言って、すごくめんどくさい(苦笑)。これでは会話の機会が増えるはずはありません。


昭和的な方法で雑談の機会を持とうとする企業もありますね。「社長が若手と雑談したいと言っているから、各部から若手社員を1人ずつ出すべし」的な。


あるある!「雑談の場で会話する内容は、事前に事業部長のチェックを通すこと」「雑談が終わった後は、事業部長に報告を出すこと」とか(笑)。


無用な忖度が働いているんですよね。会議室を取り、事前に会話の内容を集め、部長がチェックしてプッシュバックして…、当日は「○○君からまずお話しして」などと雑談のキュー出しまである(笑)。

雑談を生む「さりげないきっかけ」を自ら作る


雑談のための環境作りって、大事ですよね。先ほどの「社長の雑談」みたいに、ちょっとずれたら雑談ではなくなってしまう。


さりげないきっかけを社内に作るだけでも全然違うと思います。ざっくばらんに会話できるようなソファがあったり、そこに自由に書けるホワイトボードやちょっとつまめるお菓子があったりするだけでも、雑談は生まれます。「そういうスペースを作ってはどうか」と上司に提案してみるのも、一つの方法です。

『話し下手のための雑談力』の中でも紹介しているのですが、福島のEyes, JAPANという会社では「アイスクリーム・ブレイク」なる面白い取り組みをしています。午後3時になると、社長が社員のみんなとアイスクリームを食べながら雑談するんです。

アイスクリームを嫌いな人ってあまりいないし、業務時間中だと時短勤務中の人も気軽に参加できる。お金をかけず、少し景色を変えている好例だと思います。こういう提案ならば、若手社員もできるのでは?


以前勤めていた会社で、音楽プレイヤーを机の上に置いていたら「仕事に関係ないものはしまえ」と言われてびっくりしたことがあります。こういう机上のアイテムは、会話を促進するいいきっかけになるはずなのに。だから音楽プレイヤーでも、好きなグッズでも、何でもどんどん置いたらいいと思います。


そして、個々の自己開示は何より大切。自分が得意とする仕事、苦手とする仕事、そして前述した「自身の勝ちパターン」を開示し、発信することは重要だし、正義です。自身のパフォーマンスが上がれば、それだけ会社に貢献できるのですから。子育て中、介護が必要な社員が「リモートワークを認めてほしい」と提言するのも前向きな発信。自分のためにも会社のためにも、どんどん発信してほしいですね。


「昭和時代のカタブツな上司だけれど、嫌いではない」ならば、あえて近づき、上司のプロデューサー役になるという方法があります。プロデューサーと言っても難しいことはなくて、彼がドヤ顔できるトピックを与えればいいだけ。

例えば、上司が知らないような人気アプリを「これ若い人がみんな使っているから、知っているとウケますよ」などと教えてあげるだけでOKです。おじさん世代から重宝されますし、仕事や働き方の話にも耳を傾けてくれるようになるでしょう。若い世代ならではの、賢いやり方だと思います。


外の風を少し入れてみるという方法も、いいかもしれません。渋谷のITベンチャーが、近隣の企業の社員を招いて定期的にランチ会を行っていますが、ランチ会で外の情報をインプットできるうえ、それをもとに社内での雑談も生まれやすい、なかなかいい方法だと思いますね。

もしも、こんなライトな提案であっても会社が取り合ってくれない、頭ごなしに否定する…という状態ならば、すぐに転職したほうがいいですよ。少子高齢化の進行で、さらなる労働力不足が目に見えている今、そんなつまらない会社に明日はありません。

取材・文:伊藤理子 撮影:平山諭

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