目指せスティーブ・ジョブズ!? 営業マンがプレゼンをコソ練した - 前編


●虎の穴でプレゼン修行する
取引先だけでなく、社内の調整や家族の説得など、いろんな場面でプレゼンテーションは求められる。しかし、それを得意とする人は多くないだろう。

プレゼンに対するアンケート調査によると、マイナビニュース会員も「言いたいことが相手に伝わらない」「緊張して頭が真っ白になる」などの課題を感じているという。

そこで、同じような悩みをもつ広告代理店の営業・Mさんを相手にプレゼンの誌上レッスンを開催した。トレーナーを担当するのは、大手企業の経営者を中心にプレゼン指導を行っているヴァンツアンドバリューの永井千佳さん。

Mさんは変わることが出来るか!?

レッスンを行う特訓所(会議室)にMさんと向かうと、永井コーチは、笑顔で出迎えてくれた。一見すると、企業経営者をビシビシ鍛える猛者には見えないが。

○まずはプレゼンを自己評価

最初に行われたのは、プレゼン実技。コーチの前で、Mさんが作成した企画書をプレゼンし、同時にその姿をスマホで動画撮影する。プレゼンが終わった後に、動画で自分のプレゼンをチェックするのだ。

「自分の姿を見て、反省することでプレゼンは大きく変わります」と説明する永井コーチ。

自己評価チェックシートは、「声」「話し方」「目線」「表情」「身振り、手振り」「ファッション」の6指標について、5点満点(★★★★★)で採点する方式。

Mさんが自身のプレゼン動画を見る前に、永井コーチから質問が飛ぶ。

永井:「プレゼンにおけるベストな改善方法は、なにかわかりますか?」
M:「自分のプレゼンを見ることですか?」
永井:「そう。それが一番大切なのです」
M:「でも、なんか自分のプレゼンを見るのは恥ずかしいですね」

「それを見ているのは、お客様なんですよ! お客様にその恥ずかしい姿を見せてしまっているということを、まず認識してください」という厳しいアドバイスが。

美しい虎が、隠した牙を見せ始めた瞬間。

それを聞いて、遊び半分だったMさんの顔がマジモードに。張り詰めた空気が漂ってきた。完全に他人事だった私にも、その緊張感が伝わり、ちょっと息苦しい。

永井コーチの「今の自分の姿を見て、反省して、変えていく。そうしないと、絶対にプレゼンは上達しません」という言葉が胸にささったようだ。

コーチの評価は、以下の通り。まさに牙と爪でバッサリやられて、今にも死にそうだ……。

今回、注力して改善すべきは「声」「話し方」「目線」「身振り、手振り」の4つだそう。以下、コーチの評価コメントも紹介する。虎によるとどめの一撃。

「声」:ちょっと一本調子でしたね。でも、声はそんなに悪くありません。トーンが低いので、発声がきっちりできると、説得力のあるダンディーな声になります。
「話し方」:声が低いので、傾向としてボソボソとした話し方になっていて、とても聞き取りにくいです。これを変えていきたいですね。
「目線」:台本(企画書)ばかり見て、私と一度も目を合わせてくださいませんでしたね。これはダメです。お客様にはアイコンタクトしてください。
「身振り、手振り」:ほとんど動作がありませんでしたね。言葉とリンクした手振りや、気持ち(パッション)を伝える身振りを加えることで、相手に伝えたいことを強く印象づけることができます。

Mさんは息も絶え絶えだが、課題を改善すれば生存できる(伸びる余地がある)。コーチによると、Mさんの秘めたポテンシャルは大きいそうだ。

●どんなキーワードを誰に伝えるか
プレゼンテーションのタイプは、「パッション型」「信念型」「統制型(優等生型)」「ロジカル型」の大きく4つのタイプに分かれると永井コーチは説明する。

Mさんは、声質、話し方などから「パッション型」タイプ。このタイプは、低音の声を活かし、力強いメッセージを出していくことで、相手を動かすプレゼンができるようになる。

そこで、コーチはMさんに目指すべきビジネスパーソンや政治家の動画を達人として紹介した。その動画を見たMさんにどのようなことを感じたのか意見を聞きながら、達人の優れている点を解説していった。

達人の特徴的な部分は、誰にメッセージするかが明確なことだ。

「達人は多くの聴衆がいる中でも、一人だけをイメージして、その人に向かってメッセージを発信している。だからこそ、力強いメッセージになるのです」と永井コーチは言う。

この言葉に、Mさんは気づきが得られたようで、自身で感じた疑問をコーチにぶつけた。

Mさん:「プレゼンでは、相手に言いたいことがなかなか伝わらない」という悩みがあるのですが、それはターゲットを絞ってプレゼンできていないところに理由があるのでしょうか?

永井さん:それもあります。それともうひとつ重要なことは、プレゼンは何のために行うのか、しっかり理解していることです。企画書を上手に説明すればプレゼンは成功というわけではないですよね。真の目的は、お客様を行動させること。Mさんの場合であれば、提案メディアを広告主に使っていただく。これが一番の目的なので、これを意識して企画書をつくったり、プレゼンを行ったりしなければなりません。

目的がはっきりしているから、言いたいことや伝えたいことが明確なプレゼンができるということか。

この後、Mさんはコーチのアドバイスのもと、企画書をブラッシュアップしていった。さらにクライアントがアクションを起こせるメッセージを新たに考えて追加した。

「このメディアを利用すれば、あれもできる。これもできるというメリットは一生懸命伝えていたのですが、何故これなのか? という、気持ちのこもったメッセージが足りなかったように思います」とMさんは言う。

それを受けて、永井コーチは「著名な人が言っていたというような借り物の言葉ではダメ。Mさんの中にある。これだという自分の言葉でなければ、お客様には伝わりません。でも逆に言えば、これさえあれば、他でうまくいかなかったとしてもプレゼンは成功です。そのくらい重要なことなのです」と力強く話してくれた。

なるほど、自分が心から話したいことをプレゼンすれば、自然と相手の心がつかめるというわけか。ここは大事なポイントだ、私も注意しよう。

しかし、Mさんはしぶとい。これだけダメ出しされても、めげない。
○「相手に言いたいことを伝える」ために必要なキーワード

次に、永井コーチがMさんへ指導したのは「キーワード作成」だ。

「プレゼンで、キーワードになるものを1文の中から2つぐらいをピックアップして、紙に大きく書いてください。これを言い忘れるとまずい言葉や、伝えるべき重要な言葉です。その他は忘れてください」

実は、Mさんは最初のプレゼン用に台本を書いてきていたのだ。にもかかわず、キーワード以外は必要ないという。なぜだろうか。

「台本があると、ついそれを読むことに集中してしまい、プレゼンを聞いている相手への視線(アイコンタクト)がおろそかになってしまうからです。それに、台本を読むと話し方も一本調子になり、聞いている人を引き込むような話し方は期待できません」と永井コーチは言う。

やり方としては、キーワードを書いた用紙をテーブルの上に並べて、目の端でそのキーワードをとらえながら、プレゼン相手とアイコンタクトをとっていくというのだ。そして、何回か練習をしていくなかで、そのキーワードを入れて、段々と自分の言葉で話せるようになってくるそうだ。

「緊張して頭が真っ白になって、プレゼンが続けられないときがあります。それでも、このキーワード作成は通用するのでしょうか」と質問するMさん。

もう一度言おう、Mさんはしぶとい。

永井コーチの答えは快刀乱麻を断つかの如く。

「緊張して、頭が真っ白になるというのは、台本を覚えてプレゼンに臨むからだと思います。最初から台本がなければ、忘れることもありません。そこで大切になるのは、やはり相手を動かしたい(意識を変えたい)という想いをどれだけ持っているかということだと思います。情熱をもって、自分の言葉で話せるようになれば、多少緊張しても、臨機応変にプレゼンができるようになります」

「プレゼンが上達するには、もっとテクニックが必要だと思いがちですが、その前に、プレゼンをやる意味や、自分の想いがとても大切だと痛感しました。まったく意識していなかったように思います」と反省するMさん。

次回は、プレゼンを成功させる要素である「声」を中心に、「話し方」「目線」「身振り、手振り」のポイントについて伺っていく。

○監修者プロフィール : 永井 千佳氏(ながい ちか)
トップ広報プレゼン・コンサルタント
ウォンツアンドバリュー株式会社 取締役

音楽理論に基づき、トップ広報のメッセージ力を改善することにより、短時間で経営者が持つ個性や才能を引き出す方法論を生み出し、企業ブランド強化を実現する「トップ広報プレゼン・コンサルティング」を開発した。広報・IR・リスクの専門メディア月刊「広報会議」では、2014年から経営トップ「プレゼン力診断」を毎号連載中。
主な著書に、「DVD付 リーダーは低い声で話せ」(KADOKAWA 中経出版)がある。

あなたにおすすめ

すべての人にインターネット
関連サービス