詳しくは以前、私が書いた
記事を参照していただきたいのだが、旅番組『相席食堂』(ABCテレビ)に出た際の長州力は抜群だった。町の食堂で女性客に相席を申し出るも「帰っていいですか?」と拒否反応を示されたり、漁師からもらったホタテがあまりにおいしくて「飛ぶぞ」と物騒な発言をしたり、出会った人の飼い犬が寄ってくるや「におう」と、とんでもないことを言いだしたり。奇跡と名場面の連続。
昨今、テレビ界に氾濫する“おさんぽ番組”と長州の相性は、想定外にすこぶる良い。
■街ブラ中にキレかける長州
6月1、15、22日と3週にわたって放送された『次課・長州の力旅』(BSフジ)は、その名の通り、長州とお笑いコンビの次長課長が街ブラするロケ番組である。といっても、ただブラつくだけじゃない。「狛犬」「電線」「マンホール」など、ニッチな専門家と各ジャンルの聖地を散策するアカデミックな内容となっている。イメージとしては、『ブラ
タモリ』(
NHK総合)に近いだろうか。
『相席食堂』ではスタミナ切れを起こし、途中で勝手にロケを切り上げてしまった長州。そんな彼が、興味のないジャンルにまつわる街ブラに耐えられるのだろうか?
第1週目、一行が訪れたのは、浅草寺の隣にある「浅草神社」である。ここで狛犬研究家を名乗る“先生”と落ち合った3人は、先生の指示で狛犬の写真撮影に挑戦した。まず、カメラを持ったのは長州。彼が撮った写真を先生が確認するや、返ってきた評価は「普通ですよね」だった。対して、次課長の井上聡が撮った写真には「これ、いいんじゃないですか」と高評価が……。
これをきっかけに、長州がピリピリしてきた。そして、それをあからさまに態度に出す。ある場所にいる狛犬を指し、先生が「あの狛犬は逆立ちをしている」と説明すると「逆立ちしているようには見えない」と異を唱えたのだ。
長州「逆立ちに見えないもん。なんか、あざらしがほえてるような」
先生「あざらしには見えないけどなあ」
長州「先生、それはね、先生はこれを見てわかってるから。僕たち凡人はこれを見て『おっ、あざらしがほえてる』って思う。これ、逆立ちしてるようにはマジで見えない!」
自らのことを「凡人」と卑下する長州だが、決してそんなことはない。油断してると、不意にさえたことを言いだすのが彼なのだ。一行が「三囲(みめぐり)神社」を訪れると、そこになぜかライオン像がそびえ立っていた。
先生「これ、どこかで見たことありません?」
長州「三越?」
先生「そう!」
長州「三越から奉納されたのかと思って」
大正解! このライオン像は三越の池袋店にあったものだそう。同店が閉店したあと、この神社に奉納されたのだ。
「言ってみるべきだなあ。びっくりしたろ? 言った俺もびっくりした」(長州)
長州からインテリジェンスがこぼれ落ちた瞬間である。
■ロケ中にモツ煮込みに夢中になる
長州は基本的に忖度なし。「電線」を愛好する先生が電線の魅力を一生懸命解説しても「いや、入ってこない」と態度がそっけなかったり、「室外機」を愛好する先生とぶらり旅をしながら「オレ、マジで(散策から)外れたいわ」と遠慮なくこぼしたり。
そんな彼がひときわ前のめりになったのは、テーマが「角打ち」になった時だ。ちなみに「角打ち」とは、居酒屋ではなく酒屋の一角で酒を飲む(打つ)文化のこと。酒好きの長州のテンションが上がるのは当然だろう。
まず、「角打ち」を愛好する先生が、この文化の魅力を説明する。いわく「角打ちの魅力は酒の濃度を調整できる」とのこと。お店にある酒と割り材を購入し、自分で割ることができるからだ。
やはり、長州はプロレスラー。いきなりコップへ焼酎をすべて注ぎ、ちょぼちょぼとお印程度の炭酸水を入れ、ほぼストレートの状態でゴクゴクいった。カメラが回ってるというのに……。
酒を飲むならば、つまみも欲しくなる。角打ちは先払いが基本だが、長州はその辺にあるおつまみの袋を勝手に開け、むしゃむしゃと頬張り始めてしまった。お金、まだ払ってない!
河本「それ、やってること山賊と一緒だから!」
長州「ごめんなさい」
ついにはモツ煮込みを注文し、本格的に酒を満喫し始めた長州。
「ここで(ロケは)終わりじゃないの?」(長州)
確かにこの酒屋で街ブラは終わりなのだが、まだまだロケの途中である。
ペースの速い長州は、いよいよいい感じになってきた。そして、プロレス界の酒豪伝説を披露した。
河本「アンドレ(・ザ・ジャイアント)よりも力さんのほうが飲んでましたか?」
長州「河本君、言ってやろうか? アンドレの飲み方は……くぅ~、半端じゃないよ。パンナムの缶ビールが全部なくなるんだよ!?」
井上「パンナムってなんですか?」
長州「エアラインの」
井上「飛行機の!? 飛行機のビール、全部なくなるんですか?(笑) 1回のフライトで!?」
長州「メルシャンワインって昔あったじゃん? 1ケースを控室に置いとくんだよ。あれ、“ポン”って開けて(たばこを吸うように人さし指と中指で挟んで)こうやって飲むんだよ。すごいよ。彼が食う太巻きは消火器くらいあるよ!」
3週限定で放送されたこの番組、ネット上ではなかなか好評のよう。「『タモリ倶楽部』や『ブラタモリ』みたいに、マニアックな世界の知識欲が満たされる」「『水曜どうでしょう』みたいな愉快なキャラクターたちのゆるい会話」「くつろぎながら見るのに最適。30分番組でもいいので毎週見たい」といった声が散見されるのだ。
加えて、街ブラ中にプライベートの長州小力と遭遇するというミラクルも一行は起こしている。
長州「なんでここにいんだ? お前は誰だよ! お前は誰なんだよ!?」
小力「いや、びっくりした……。今、普通に長州さん見えたから」
長州「そのしゃべり方はやめろって言ってるだろ。(うなだれながら)もう、張り詰めたものがすべて……」
小力「ちょっと俺、すげえうれしいんですけど……」
河本「(小力を)呼んだんですか?」
長州「呼ぶわけないだろう。やってない、やってない。(スタッフに向かって)絶対、やってんだろう?」
ものすごい引きである。この吸引力を発揮し、レギュラー化の流れも引き寄せていただきたいと願うばかりだ。
(文=寺西ジャジューカ)