「西郷どん」23話。錦戸亮の濡れた瞳、美術の赤が効いた寺田屋騒動

エキレビ!

2018/6/24 09:45

大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第23回「寺田屋騒動」6月17日(日)放送  演出:石塚嘉


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久光を怒らせる吉之助
倒幕派の有馬(増田修一朗)の行動を止めた吉之助(鈴木亮平)を島津久光(青木崇高)が怒り切腹だと言い出す。
大久保(瑛太)は慌てて京都に吉之助を探しに行くと、吉之助は島で身につけた踊りなども使って、久坂玄瑞たちを牽制しようとしていた。

その場の美術が赤を強調していて印象的だ。
追いかけてきた大久保と話す場面は、赤い窓ごしに階下で庶民たちがたくさん歩き回り京都の活気ある様子がわかる。
透け感のある赤い格子窓を背景に、刺し違えようと迫る大久保だったが、「やれ」と微笑む吉之助に刺すことができない。
この透明な赤が血を思わせてならない。

みんなで鰻を獲る
その間、久坂たちは帰ってしまい、残った者(大山、有馬など)たちで死ぬか生きるというときにも腹が減るなどと明るくふるまっていると海江田(高橋光臣)が来て、余計なことを久光に話してしまったため、切腹を免れることができなくなる。

「らっきょう(久光のこと)を怒らせてしもて~」と深刻なときに「らっきょう」と言って泣く海江田。そこでもみんなの腹が鳴る。
吉之助は皆を誘って川に行き鰻をとる。
少年の頃に帰ったかのようにみんなで川をじゃぶじゃぶ。
川に入るとき大山役の北村有起哉がピッと羽織を伸ばす。朝ドラ「わろてんか」で落語をはじめるときもぴっと襟をただす動きをしていた。するーっと流れてしまいがちな動作に時々、アクセントになる動きを差し込むと画面が引き締まることをよく心得ているなあといつも感心する。

鰻をとる仲間に入れたことがなかったと22話で嘆いていた信吾(錦戸亮)は望みがかなったことを喜ぶ。

西郷は物差しだ
童心に帰り青春を感じながらしみじみした後、川から宿へ帰ってくると追手が待っていた。
吉之助は観念して捕まるままに。
京都にやって来た久光に腹を斬れと迫られても、「まつりごとの潮目ちゅうもんは刻一刻と変わりもす」と薩摩のためになることをしたという気持ちは揺るがなかった。日本を変えるためには国父様が変わってほしいと訴えるが、久光は聞く耳をもたない。
すっかり怒ってこの場でたたき斬ると言い出した久光に小松が「(西郷は)主君の目の前に置かれた物差し」「使いこなせるかどうかで主君の器量がわかる」と亡き斉彬(渡辺謙)が言っていたと進言し、大久保が「国父様なら使いこなせる」と持ち上げたことによってその場で斬られることは免れたものの、再び島流しに合うことに。今度は新八(堀井新太)も一緒だ。

「帰ってきたらまたみんなで鰻を食べよう」と去っていく吉之助。
そこへ鍵屋の虎(近藤春菜)が追いかけてきて、丘を転がり全力で走るという熱演をする。
悲しいシーンだが、前述のお腹が鳴るのと同じように、ちょっとだけ笑ってホッとなる。
だが以後、この回は一気に重苦しいものに。

寺田屋騒動
文久2年4月23日、寺田屋騒動勃発。坂本龍馬とは関係ない寺田屋騒動だ。

薩摩藩による勤王倒幕派の弾圧は苛烈を極め、追い詰められた倒幕派は有馬を中心に行動を開始。
信吾もそれに倣う。
寺田屋に集まった有馬たちを大山たちが説得に向かうが、壮絶な切り合いがはじまってしまう。
その前に、大久保が行くと言うが、久光は自分の元にいろと命じる。そのときの青木崇高の演技がいかにも悪よのうという感じに粘っこい。

戦いがはじまると大山はうろたえる信吾を戦いの現場から外す。
「ないごて ないごて こないなこつに」と涙目になる信吾。
有馬も信吾をかばう。
血にまみれた仲間同士の殺し合い。前半の血のような赤い背景はこの場面の予兆だったように感じる。
有馬を抱いて泣く大山。遅れて来た大久保に黙って血をぬぐった懐紙を懐に挟む大山。この回、北村有起哉がいい動きをしている。

信吾はまるで「狼と七匹の子山羊」の末の子山羊のよう、狼にきょうだいが食われてしまうなか、生き残った子山羊のように、この悲劇をその瞳に宿す。童話ではきょうだい山羊も助かるが寺田屋騒動ではそうはいかない。
つねに瞳に涙をたたえているように見える錦戸亮は世の不条理を見つめる役がよく似合う。映画「羊の木」やテレビドラマ「流星の絆」「ごめんね青春!」などに顕著だ。「トットてれび」の坂本九役も哀切を感じさせた。

この悲劇は吉之助(まだ薩摩で島送り前)にもすぐに伝わる。鈴木亮平の号泣演技が切ない。このとき、外や牢屋のなかに赤い網がかけてあり、画面をすこし赤く見せる。これもまたうっすら血を思わせる。この回、美術に力入っていた。

演出は「海底の君へ」「猿飛三世」「運命に似た、恋」「4号警備」などにも参加していた石塚嘉。俳優の芝居も大事にしつつそれを増幅する絵作りを大事にしているドラマが多い。

この回、注目したいのは近衛忠房役の大窪人衛。言葉が自然と思ったら京都出身だった。「散歩する侵略者」や「太陽」など映画化もされている作品を輩出している劇団イキウメ所属の俳優。
(木俣冬)

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