もはや京大も“Fラン”なのか……「京大百万遍コタツ事件」上田雅子が語った一部始終

日刊サイゾー

2018/6/22 02:00



「逮捕される可能性は、考えていないわけではありませんでした。しかし、このタイミングで来るとは……」

昼下がりのカフェで、京都大学大学院生の上田雅子は笑みを浮かべながら話し始めた。

今、京都大学に大手新聞やテレビまでもが注目している。立て看の撤去問題。そして、学生寮のひとつ吉田寮の取り壊し問題。さまざま、新しさのある言葉を並べて学内での学生の自主活動を規制。学生が自治管理する空間をなきものにしようとする大学当局と学生とのせめぎ合いは、日を追う毎に盛り上がっている。とりわけ、大学当局が立て看の撤去を開始した5月以降、緊張感は緩むことがない。

そんな状況下で、上田が京都府警下鴨署に逮捕されたのは5月22日のこと。道路交通法違反が、彼女にかけられた容疑である。

今年の2月25日。上田は数人の仲間と共に京都大学近くの百万遍交差点にコタツを置き、鍋を囲んだ。そして仲間たちと共に、こう呼びかけた(この日は入試当日でもあった)。

「よかったら、こちらの方に来て、一緒に鍋を囲みませんか~」

こんな学生たちの「運動」が行われるのは、これが初めてではない。道路や施設の前にコタツを置き拡声器で情宣をするスタイルは、1990年代に「法政大学の貧乏くささを守る会」を嚆矢とし、連綿と受け継がれてきたもの。それが、逮捕へ至る苛烈な弾圧を受けたケースは、これまでに聞いたことはない。

2003年。この年に開業した六本木ヒルズの、最初のクリスマスの日。前日に某大学でバラ撒いたビラから警察当局の知るところとなった「六本木ヒルズ粉砕闘争(首謀者とか経緯は、ここでは省略)」の時のこと。鍋を出せば、早くもバスを連ねてやってきた多数の機動隊に囲まれるという異様な光景が、そこにはあった。だが、緊張感はあれども、逮捕される物はなかった。

どこで知ったか、その「伝統」を受け継ぐ京大生らのコタツ闘争も、これまで苛烈な弾圧に晒されたことはなかった。

「過去にも、さまざまな学生が百万遍交差点にコタツを出して情宣することは行われてきました。通報を受けた警察官がやってきて、やめるよう注意されることはありましたが、これまで逮捕されたケースはなかったのです」

好意的に受け止める者。迷惑がる者。あるいは「バカな学生がいるな」と思いつつ、自分も参加する者や、批判をする者。コタツ闘争への評価はさまざまあれども、警察当局も逮捕するまでの行為は躊躇していた。

■当初は警察への協力を拒んでいた大学当局


 上田は、メモも見ずに日付なども正確に逮捕までの経緯を語った。

事態が急変したのは3月に入ってからだった。突然、警察が現場検証を実施したのだ。3月29日には、文学部教務課に家宅捜索が入り名簿に掲載されていた何人かの学生の写真を撮影して帰って行ったのである。

「誰の写真を撮影したのかはわかりませんが、自分たちのことじゃないかなとは思っていました……ただ、その後は音沙汰もなかったので……」

それから2カ月以上が経った5月22日の朝。バイトに出かけようとした上田の携帯電話に、見知らぬ番号から着信があった。

「下鴨署です、もうすべてわかっていますから」

午前10時に出頭するように要求する相手に対し、上田は拒否。弁護士と相談の上、午後になって出頭した。さっそく始まった取り調べの中で、幾度も聞かれたのは今回一緒に逮捕されたもう1人を除く、あとの2人の名前だ。

「とにかく『ほかの人間の名前を言え』と、言うんです。それを拒否していたら、逮捕されてしまいました」

留置所の独房に泊まることになってしまった上田。ところが、裁判所は拘留申請を却下。わずか数日で、晴れて釈放となったのである。

いったい、たかが「また京大生がバカなことやっているな」程度のコタツ闘争で、逮捕にいたってしまった理由はなんなのか。

筆者の想像に過ぎないが、その背後には、大学の方針に逆らう中心メンバーの名前を捕捉したい大学当局と公安警察の意図が見え隠れする。

持久戦から実力行動まで、さまざまな方針が入り乱れてはいる。立て看問題や吉田寮問題の双方に取り組む者。それぞれは別個の問題と捉える者など立場はさまざまだ。京大当局の弾圧体制に対し違和感を抱く学生は増えている。思想の左右や有無にかかわらず、である。その中でも、より活動的なメンバーの首根っこを押さえることで運動を収束に向かわせるのは、あちこちで繰り返されてきた弾圧の常道だ。

いずれにしても、上田のような学内で大学当局への反抗の台風の目になっている目障りな学生を、一刻も早く排除したいという点で、大学当局と公安警察の一致した結果が、今回の逮捕へと至ったのであろう。

■京大はもはやFラン


 では、ここからは上田も暮らす吉田寮の問題について記していこう。

吉田寮というのは、事情を知らなければ「意味がわからない」と思われる場だ。ここは学生寮ではあるのだけれど、管理運営するのは大学当局ではない。寮に住む学生が自治組織をつくって運営にあたる、今や日本でも数少ない空間である。

そんな、大学でありながら大学が手出しをできない「治外法権」の場。それは21世紀の大学には相応しくはないと、大学当局は考えているのである。そんな空間を一刻も破壊するためには、上田のような「活動家」の学生の氏名を捕捉し、排除することが目論まれているのであろう。

「取り壊しに反対する寮生が少数派になれば『ヤツらはオカシイ人たちだ』『過激派だ』とレッテル貼りして、機動隊を招き入れればよいと考えているのではないでしょうか」

そんな陰謀に立ち向かう吉田寮の寮生たち……と、思いきや意外に雲行きは怪しい。というのも上田が逮捕された直後、吉田寮の自治会は声明を作成し、ホームページ上に公開している。

* * *

2018年5月23日付報道に関する吉田寮自治会の見解

5月23日、本寮の寮生が道路交通法違反の容疑で逮捕されたという報道があった。本件について、吉田寮自治会は一切関与していない。また当該行為を吉田寮自治会として是認・推奨するものではない。

にもかかわらず、本件に関する一部の報道において、実名ならびに住所が公開されることによって、吉田寮に居住していることが恣意的に言及されている。この点について、京都府警および各報道機関に対して抗議する。

https://sites.google.com/site/yoshidadormitory/seimei/2018nian5yue23ri-fu-bao-daoni-guansuru-ji-tian-liao-zi-zhi-huino-jian-jie

* * *

コタツの是非はともかく「弾圧に対しては救援」が大前提……かと思いきや、どこか日和見で無関係を装うような声明。ここに現在の吉田寮の空気感が見え隠れしている。

かつて、吉田寮に住むことを選ぶ学生には「学生の自主管理空間を守る」という意識のある者が多かった。だが、そんな気風も、もはや失われつつあるのだ。

「寮生の中に留学生の割合も増えています。お金のために住んでいる学生のほうが多数派なんです」

そんな中でも、とりわけタチの悪いのが「意識高い系」ともいうべき学生たち。すなわち、何十年にもわたる学生運動によって寮が存続されてきた歴史をわかっていない者たちの存在だ。

「そうした学生たちは『学生運動をやっているから寮が攻撃される』と考えています。そして、大学当局が代替宿舎を斡旋するのは、寮生の退去(註:大学当局はあくまで表向きは<退去>としかいわず<建て替え>には言及していない)を円滑に進めるための分断工作であることを見抜けずに、代替宿舎に行くのは<賢明な判断>だと思っています。大学当局が本気で攻撃してきたら、ひとたまりもないのに対等なワケがありません」

先日、吉田寮祭で講演会&弾き語りライブを開催した外山恒一は「京大はもはやFラン大学」と看破したというが、それはあながち間違いではないようだ。

■まずは千坂恭二の本を読め


 すでに大学当局による立て看撤去から1カ月以上を過ぎ繰り返される攻防。この問題が複雑なのは、明確な「黒幕」が存在しているわけではないからだ。総長の山極壽一、副学長の川添信介など、外向きには「リベラル」な発言で知られる教授陣が弾圧を指示しているのは確かだ。だが、彼らを潰したとて、新たに同様の思考を持った人物は次々と補充されてくるだろう。企業などとも協力して、手早く実利を得られる研究をやる大学こそ最先端。そんな意識が尽きない限り、状況は変わらない。

「弾圧に積極的な教授陣は僅か。ほとんどの教員は無関心なのです。楠木正成の千早城のごとく、粘り強く持久戦を展開していくしかないでしょう」

上田に取材したのは6月2日に獨協大学で開かれた「日本フランス語フランス文学会 春季大会」で、彼女が発表を終えた後であった。

全国の研究者の前で上田の発表した題目は「『ジュリエット物語又は悪徳の栄え』研究ーサン・フォンの「悪の至高存在」」というもの。門外漢の筆者は、理解するのに必死だったが、マルキ・ド・サドの作品をもとに、そこに込められた思想を分析するというもの。ここで上田が提示したのは、サドの作品においてキリスト教が否定されるのは、キリスト教が「反自然」の思想だからという見方。つまり、サドの作品は単にエログロを描いたのではなく、自然な人間の生き方を否定するキリスト教への反発があるというものであった。

発表後の質疑応答も筆者には難解だったが、大学で教鞭を執る研究者からは、より建設的な提案も出た。つまり、発表は大成功だったのである。

つい10日前まで、大学に反逆し獄に堕ちた学生が全国から名うての研究者が集まる学会での発表に成功し、京大の名も高める。なんとも、搦め手からの大学当局への痛烈な一撃ではあるまいか(おまけに活動と研究とが一致しているのに注目)。

逮捕直後、一部報道で上田は「逮捕された上田雅子容疑者は『見た目』と『名前』は女だが、性別はれっきとした男だ」と書かれ、SNSでのどうでもいい発言を拾われるなどの攻撃も受けた。だが、弾圧から10日余りでの痛烈な逆転劇は、すべての愚劣な攻撃を跳ね返している。

最後に、そうした報道に触れた時、上田はこう話した。

「ツイートを拾うなら、もっといいツイートがあるじゃないですか。とりわけ、千坂恭二の研究会に関するツイートを拾って欲しいものです」

千坂恭二といえば、長年の隠遁生活から復活した著書『思想としてのファシズム「大東亜戦争」と1968』(彩流社)により、世界を震えさせている台風の目。その思想の根幹たる「神武革命論」に関する一書も、まもなく上梓されるという。

ともあれ、スキャンダリズムとテロリズムの騒動が京大のみならず、あちこちで始まる乱世は近い。
(文=昼間たかし)

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