W杯日本×コロンビア戦 現地レポ――「サランスクの奇跡」そして我らは人気者となった

日刊SPA!

2018/6/21 15:53



6月19日、この日は日本サポーターにとって忘れられない日になった。とくに宿も無いサランスクにやってきて、あの光景を目にした人々には。

朝から灼けるような暑さ、そして乾燥。正直モスクワより暑い気温となったこの日、記者は4年前の光景を思い出していた。そう1−4でコロンビアに歴史的大敗を喫し、W杯を去ったブラジル内陸の街・クイアバ。洗濯したジーンズが2時間で乾くほどカラッカラで、宿は少なく高騰化、露頭に迷った日本人サポーターはスタジアムで強烈な光景を見せつけられ、肩を落として帰った。

「ネクスト!」。あのときも街を“制圧”していたコロンビア人の何人かにそう言って肩を叩かれた。「ユニフォーム交換して」とその3倍くらいの連中が言ってきたのだけど。今まさに自分が、コロンビア人と握手をし、「ネクストゲーム!」と気持ちよく言える日が来るとは……。

試合開始4時間前に、昨日と同じ、教会の広場に出ると旗を掲げ、おそろいのコールを叫び、隣のスーパーで買ったビールをがぶ飲みする大勢の彼らがいた。

日本人サポーターはモスクワから夜行列車で10時間揺られ、この日の朝、サランスクに入ったと聞いていたがそれほど数は見られなかった。

隣のスーパーでペットボトル入りのビールを発見、720mlで60ルーブル(120円)だから恐れ入る。レジで並んでいたコロンビア人が瓶入りのコロナビールの購入を断られていた。なるほど乱闘になったとき凶器化するのを防ぐためだろう。

広場に座ってビールを飲んでいると、やはりコロンビア人の60代くらいのオッサン連中に「今日のスコアは何点?」と聞かれる。彼らは「3-0」。いささか辟易しているので「そうだね。もし、日本が勝つなら0-1かな」と答える。挨拶代わりで悪気はないのはわかっているが、彼らの嬉しそうな顔をみるとちょっとイラっとする。

広場を出て、昨日夜拝んだスタジアムへ向かったとき、重大なことに気づいた。暗闇で青く光っていた昨晩のスタジアムはW杯のスタジアムではなかった。その角をちょうど曲がった遥か向こうに、人口30万人の街が威信を持って新設した「モルドヴィア・アリーナ」があった。

角を曲がった瞬間、戦慄した。スタジアムまでおよそ1kmの一本道がすべて黄色で埋め尽くされていたのだ。断片でしか見えてなかったコロンビアサポーターの全容が明らかになり、少し鳥肌が立った。果たして日本人はどれくらいいるのだろうか?

太鼓、笛、そしてコール。自然発生的に歌われる「チャント」(サッカーの応援歌やコール)には聞いたことのあるものが多い。Jリーグで歌われているこれらの歌は、海外からもってきたものが多い。そう言えば、昨日、コロンビア人でオーストラリア在住、日本にも何度か旅行に行ったことがあるという女性から「日本のチャントを教えて、明日一緒に歌ってみたいから」と言われビールを奢られた。

いくつかを実際に歌って教えると怪訝な顔をされた。「イタリア語とかスペイン語が入っているの!? どうして日本語で歌わないの?」と聞かれ返答に窮した。「日本のサッカーはプロになってまだ25年で子供なんだ。だから海外の素晴らしい歌を借りているんだよ」と答えると、腑に落ちない表情。でも彼女は一生懸命覚えてくれて「明日、必ず歌う」と言っていたが、ゲームの展開的に気持ちよく歌ってくれただろうか。

日よけが一切ない一本道を歩くだに、倒れそうになる。うだるような暑さ、この時点で正直「番狂わせが起きたらいいなぁ」といった気分だった。クイアバでも同様の気持ちだったのにすぐに気づいたが。

川沿いに建てられた、巨大なスタジアムは美しかった。道中、案内の地元の女のコたちが、ハイタッチで迎えてくれている。スタジアム横の広場には屋台が出ており、なぜかAKB48の曲がガンガンかかっていた。これも地元の人のおもてなしの一環なのだろうか。

厳重なセキュリティチェックを何度もくぐり、ようやくスタジアム内に。緑のピッチを見た瞬間は高揚感に包まれる。記者の席は日本人サポーターの対面のゴール裏だった。当然ながら、周りはコロンビア人だらけ。隣がイギリス人男性だったのが救いか。

試合が近づくにつれて盛り上がるスタジアム。44000人ほど入るスタジアムの8割が黄色、残りが青といっったところだろうか。日本人サポーターの応援も聞こえてくるが、黄色い集団の声にあっという間にかき消されてしまう。選手が入ってきたときは最高潮の盛り上がり。ただ、先発メンバーにエース、ハメス・ロドリゲスが入っていないのには驚いた。

国歌斉唱はコロンビアから。ちょっと音痴だけど大声で歌うコロンビア人たち。歌声が観客席上の屋根に跳ね返って地鳴りのよう。跳ねるようなリズムで勇ましい国歌は、戦いの歌だろう。続いて日本国国歌。ワールドカップで流れる君が代には毎回鳥肌が立つ。国歌斉唱で感極まる選手がいても当然だろう。

キックオフ。いきなりのファウル、そしてPK判定。記者の反対側での出来事なので何が起きているかわからない。隣のイギリス人男性が冷静に「ハンドで相手DFがレッドカードで退場だ」と教えてくれた。香川のゴールで先制! シーンと静まり返るスタジアム。喜んでいるのはちらほらいる日本人と地元っ子のみ。すぐさま地鳴りのような歌声が始まり、選手を鼓舞するコロンビアサポーター。

前半終了間際、ゴール前での日本のファウル。相手のフリーキックは壁の下を抜け、滑るようにゴールへ。GK川島がギリギリで止めたに見えたが、ゴール判定。微妙な判定に一時試合が止まる。コロンビアサポーターは「ゴール、ゴール」と盛り上がる。一方の記者は「いや、入ってないぞ!」と敢えてコロンビア人に聞こえるように叫ぶと、爆笑された。

結果はゴール。1−1に追いつかれてしまった。蘇る4年前の記憶。初戦のコートジボワール戦も先制しながら、途中出場した相手エースドログバに流れを替えられて立て続けに同点、そして逆転された。なんとか前半終了。相手は一人少ない10人だというのに全くそれを感じさせない。

隣のイギリス人も「このままだと後半危ないかもね」と言う。不気味な伏線は張られた。後半早々、ハメス・ロドリゲスが交代で登場。4年前のドログバのときのように会場の空気が変わった。そこからテンポが良くなるかに思えたが、それを見越したように、ゆっくりと横にパスを回しだす日本。会場はコロンビアサポーターの大音量の口笛に包まれる。それが仇となったのか、焦れてファウルを犯すコロンビア。試合は膠着状態となった。

そこで登場したのが本田圭佑。香川との交代で入ると、地元のロシア人が喜んでいる。ロシアでプレーしていただけあって、人気は高い。これでまた会場の雰囲気が変わった。ロシア人がホンダ、そして日本を応援しはじめた。

そして生まれた大迫の決勝ゴール。本田のコーナーキックからのヘッドはポストに当たり、ゴールに吸い込まれていった。目の前でのゴールに記者も大興奮。一瞬静まり返るも、また大声で歌い出すコロンビアサポーター。より一層音量はデカくなる。

攻め手を欠くコロンビア。90分を回り、アディショナルタイムは5分。観客席を見ると、帰りだすコロンビアサポーターが。負けを見たくないのだろう、ぞろぞろと出口に向かっている。そして試合終了! 勝利の瞬間、日本語のウガスカジーの曲が会場に流れた。

前後のコロンビアサポーターから握手を求められる記者。「勝利、おめでとう」と次々に声をかけられる。「次のゲームがある。そっちも頑張れ」と返すと、記念撮影を求めらた。

試合が終わると引きが早い。勝利の余韻に浸る日本サポーター。コロンビアサポーターはあっという間に観客席からいなくなっていた。

街に戻ると、今度はロシア人から握手攻め。記者は試合に出たわけでもないのに青いユニフォームを着ているだけでこの歓待ぶり。たどたどしい英語で「素晴らしい試合だった、本当におめでとう!」「強いね日本!」とわざわざ言いにきてくれる。あるいはスマホの翻訳で「あなたたちは次も勝てるだろう」などと、エールを送ってくれる人も。

日本語を少し勉強しているという地元の女のコからは「本当におめでとうございます」と言われ、浮ついた気分に。このあと行われたロシア代表の試合をパブリックビューイングで、ロシア人とともに応援したが、そこにいたコロンビア人がみな座り込んで疲労困憊だったのには笑ってしまった。

他の日本人も記念撮影を頼まれたり、コロンビアサポーターとユニフォームやグッズを交換するなど、試合後夜遅くまで交流は続いた。この6月19日は現地にいた日本人にとっては最高の日となった。

取材・文・撮影/遠藤修哉(本誌)

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