本のスペシャリストに聞いた! 人生観が変わる珠玉の一冊

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じめじめした気温に、しっとりと降る雨。こんな日は無理に外に出るのはやめて、とことん家で過ごしてみるのも良いかもしれません。

なんとなく家でぼーっと過ごしてしまうのも悪くないけど、せっかくなら、家にいながらにして本の中で新しい世界に出会ってみるのはどうでしょう。思わず人生観が変わってしまうようなおすすめの本を、スペシャリストたちに聞いてみました。

まずは、女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆・選書を行い、「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中のナカセコエミコさんにおすすめの本をお伺いしてきました。

■『コンセプトライフ』柴田陽子





──これはどういった本なのでしょうか?

「コンセプトクリエイターである著者の柴田陽子さんの、学生時代から起業する現在までを綴ったエッセイ本です」

──コンセプトクリエイターという職業は初めて聞きました。

「コンセプトに沿ってキャッチコピーを考えたり、お店を作ったりするお仕事です。著者は最初から明確に『クリエイティブをやろう!』と仕事をしていたわけではなく、目の前にあることをどんどんこなしていって、気がついたら会社を辞める流れになり、たまたま貯金が300万あったから起業していたという。起業家の方って『起業するぞ!』と気合を入れているイメージがあるんですが、その自然体のゆるい感じが良いなとずっと手放さずに持っている一冊です」

(コンセプトについて書いてあるページ)

──今回、なぜこの本をおすすめしてくれたんですか?

「この本を初めて読んだ時は、ちょうどわたし自身がいもむし女子世代と同じ30歳くらいの頃でした。当時は、組織の中で商品企画をやっていて、クリエイティブとかコンセプトってなんだろうって悶々としていたんです。明確な答えが出なくて悩んでいた時にこの本を読んで、著者の方の“ゆるさ”に『こういう風な仕事の仕方をしても良いんだ』と気持ちが楽になりました」

──30歳を前にすると自分の生き方を明確に決めなくてはいけないのかなって焦りが出てきますよね。

「具体的な何かに出会えていない人もいるし、周りと比較してしまうこともありますよね。でも、この本を読むと、物事って明確に分けたりしないで、全部並べて楽しんでも良いんだって思えるんです。あとは文体もおしゃべりしているかのような、話し言葉で書かれていますし、写真も随所に挟んであるので、気楽に読めるところも好きですね」

■『「私らしく」働くこと 自分らしく生きる「仕事のカタチ」のつくり方』一田憲子





──どういった本ですか?

「著者の方が、さまざまな年齢・職業の働いている女性にインタビューをしてまとめた本です。いろんな生き方があるんだな、と働くことについて考えるきっかけになると思います。

あと、文章の温度が高すぎないところがお気に入り。テンションが高すぎると『頑張らなきゃ!』と思ってしまうので、ほどほどに読めるのが良いんです」

──読んでいて楽でいられるというのは良いですね。

「かといって、軽すぎるというわけでもないんです。出産とか結婚とか、あとはまあ離婚とか、女性って自分のやりたい・やりたくないに関わらず、大きなライフイベントが来てしまったりするじゃないですか。そんな中でうまく仕事と向き合いながら、やっていくしかない……そういう葛藤みたいなものを、ドロドロしすぎずリアルすぎず、適度な温度感で書いてあるのが良いなと思います。解決策が書いてあるわけではないけれど、『みんな同じなんだな。また頑張ってみようかな』と思えるのではないでしょうか」

──特にお気に入りの方のインタビューはありますか?

「文筆家の小川奈緒さんのインタビューです。小川さんは、自分の仕事は自分がいなくちゃダメだって思っていたんですけど、いなくても回るんだって気づく瞬間があったんです。そういう時に、やっぱり自分がいないとダメだってさらに頑張るのも間違っていないし、そういう働き方も尊いなと思うんですけど、この方は、ならもっと自分のペースでやってみようってシフトチェンジしていくんです。そういう考えがとても良いなと思いました。

著者自身も含めて、全部で8人の方の働きかたについての話が入っているので、きっとどれかには共感できるのではないかなと思います」



今回、二冊とも「働く」という観点から人生観が変わるきっかけになる本をおすすめしてくれたナカセコさん。

「結局、人って働かないといけない人がほとんどですけど、誰しもすぐに天職に巡りあえるわけではないですよね。その中で、今やっていることがゆくゆくは天職になるかもしれないし、もしかしたら全然違うことになるかもしれない。そういうことを、ふと考えるきっかけになれれば良いなと思います」と語ってくれました。

続いては、『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』(秀和システム)を著書に持ち、三省堂書店神保町本店で勤務する新井見枝香さんに、おすすめの本を伺いました。

■『湯遊ワンダーランド』まんしゅうきつこ





──これはどういった本なのでしょうか?

「漫画家のまんしゅうきつこさんがお風呂とかサウナの世界に入っていくマンガエッセイですね。インドアだったり、弟夫婦の家に居候していたりと、いもむし女子でもあるまんしゅうさんが、サウナの世界にどっぷり入っていくんですよ」

──サウナってたくさん汗をかくから、疲れも取れて良いって言いますよね。

「一人暮らししてるとバスタブに湯を張ることすらめんどくさいなーって時、あるじゃないですか。でも銭湯だと500円くらいでサウナまで入れるところもあるんです。良いリフレッシュになりそうだなって思います。休日に街まで出るのも億劫だなって時に、家から一番近い銭湯に行ってみるのも良いかもって思えるんじゃないかな」

──銭湯って行きづらそうって思ってしまっている人にも良さそうですね。

「確かに銭湯って、毎日来ている人や、その中で“主”みたいな人もいるし、本当にいろんな人がいて、独特なルールもあります。初めは入りづらかったまんしゅうさんが、だんだんそれを乗り越えていくのもおもしろいんです」

そしてサウナといえば、大体水風呂もセットなんですけど、まんしゅうさんは最初冷たすぎて入れないんです。でも死ぬほど熱くなるまでサウナで我慢したあと、水風呂に入った時の気持ちよさにだんだんのめり込んでいくんです。水風呂に入るためのサウナ、みたいになっていくんですって。

(特におすすめなのが水風呂の気持ちよさに昇天した時の一コマ)

──絵柄が結構リアルな女性の体型なんですね。

「そうなんです。20代って女性誌とかをたくさん読むと思うんですけど、ついモデルと自分の体型とを比べて落ち込んでしまいますよね。でも銭湯に行けば『あれ、周りも大したことないな』って気付けるというか、それを擬似的にも感じられるリアルさなんです。あと、自分よりも歳をとっていて体型も崩れたりしているおばちゃんたちも、おしゃべりしてみると恋をしていたり、『昔はモテたのよ』なんて話を聞けたりもするんです。そういったすごく楽しそうな描写も良いんですよね」

──新しい交流も生まれそうですね。

「少し名称は変更されていますが、作中に出てくる銭湯はどれも実際にあるものをモデルにしています。わかる人にはすぐわかるそうなので、行ったことがある人は『知ってる』と思えるでしょうし、気になるところは行ってみることが出来るところも良いと思います」

■『ぐるぐる博物館』三浦しをん





──これはどういった本なんでしょうか?

「三浦しをんさんは『舟を編む』などですごく評価されている作家さんですが、実はすごくオタクで、放っておくと家から出ないくらいインドアな人。そんな三浦さんがボタンの博物館とか、メガネミュージアムとか、『そんなのあるんだ』というくらいマイナーな博物館をめぐるエッセイ本です」

──どの博物館が一番おすすめですか?

「日本で唯一のSMフェティシズム専門図書館である『風俗資料館』です。三浦さん自身も最初は『どんなもんなんだろう』という感じで行くんだけど、本当にすごいものが揃っている上に、自分で撮ったプライベートなSMの写真を寄贈する人もいるんですって。家には置いておけないけど、理解のある人に見てもらいたいという、謎の思考が感じとれたりするところがおもしろいなあと思います」

──全く知らない世界なので逆に興味が湧きますね。

「館長さんは女性なんですけど、この職業に就いたきっかけが変わっているんです。資料館の存在は学生の頃から知っていたけど実際に閲覧しに行くのはハードルが高かったので、『じゃあ働かせてもらえないか』と申し込みをしたことから採用されたそうで。

館長さんが唯一心がけていることが『図書館然としたところを崩さないところ』。あくまでも好きな人がゆっくり静かに見ることができる環境を大切にしたいそうです」

──博物館って大きくて時間をかけないと楽しめないようなイメージがありますよね。

「そうですね。『学び』とか『感じ入る』とかしないといけないのかなって思うかもしれないですけど、三浦さんの視点ってすごく俗っぽいし、すごく素人臭いし、だからこそ読みやすいと思います」

最後に人生観が変わる! という内容ではありませんが、今の時期にぴったりのおすすめの一冊も紹介してくれました。

■『雨の降る日は学校に行かない』相沢沙呼





──これはどういった作品なんでしょうか。

「中学校が舞台になっている短編集で、梅雨と聞くと必ず思い浮かぶ作品です。ひとつひとつの話が繋がっているわけではないけれど、順番に読んでいくと『あれ?』と思わず読み戻りたくなってしまうようになっている、ちょっとした仕掛けも楽しめる作品だと思います。

短編集なので気軽に読み始められるところも良いですし、『はるかぜちゃん』が書いている解説文が秀逸なのでそこもぜひ読んでほしいです。まるで友達の話を聞いて、それに対して相槌を打っているかのように感想を書いているところがおもしろいんです。

普段小説を読まない人は『感動しなきゃ』とか『文学的な要素を見出さなくちゃ』とか思ってしまうかもしれませんが、それくらいの感覚で読んでも良いんだなと思えるきっかけの一冊になると思います」



新井さんがエッセイ本などを選ぶ基準として、自分よりも若干年上の人の本を選ぶことが多いのだそうです。「特にエッセイなど、その人の気持ちを綴ったものは、まだ自分はその境地には行けていないけれど、もう少ししたら行けるのかもって思えて元気が出るのでおすすめです」と教えてくれました。

最後に、TSUTAYA BOOKSTORE五反田店で働き、数々の書籍をヒットさせ”仕掛け番長”と呼ばれる栗俣力也さんにおすすめの本を伺ってみました。

■『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』服部昇大





──どういった本なんですか?

「今までに出た漫画の中でもっとも真面目にヒップホップについて書いてある本です。

普通のヒップホップ漫画ってヒップホップをお笑いにして終わりとか、恐いイメージがあったりとか、実際ヒップホップがどんな感じなのかわからない人も多いと思うんですよね」

──確かにヒップホップって専門的な用語もありますし、少し難しいイメージもあります。

「例えば“disる”とか“パンチライン”といったヒップホップ用語を紹介していたりだとか、ヒップホップの歴史も学べたりします。あとはこれだけ読めばにわかに思われないヒップホップの知識がおもしろく描かれていたりするところがお気に入りです」

──レトロな絵柄が可愛いですが、ギャップがすごいですよね。

「この作品は『ヒップホップを知って、どんどん外に出ていこうぜ』という女性に対してのメッセージを込めた漫画なんですよ。絵のタッチとして30代40代の女性が読んでいた昔の漫画の絵柄なんです。レトロな絵柄ってまたブームとして再燃していて今は世代問わず愛されていると思います。

実はヒップホップって、ストレスが溜まってる現代人に向けてもぴったりなジャンルなんですよ。汚い言葉って普段なかなか言えないですけど、歌だったら言えたりしますよね。ストレス発散になるような曲もありますし。本音をさらけ出した歌詞に『わかる!』と思えるんじゃないかな」

(OLに向けたメッセージ)

実は誰でも知っているような曲が、曲調としては ヒップホップに近いものがあったりだとか、ジャンルとして知らないだけで実は耳馴染みがある人も多いと思うので、この本をきっかけにして聞いてみるのもおすすめです。

■『すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。』御坊





──これはどういった本なんですか?

「レズ風俗のお店を経営している方のエッセイ本です。少し前に『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』というマンガエッセイが話題になったんですよ。その時に内容だけではなくお店のこともかなり話題になったんですが、そのお店の話です」

──タイトルがなかなか衝撃的で少し手に取りにくいかなとも思うのですが、内容としてはどういったものなんでしょうか?

「レズ風俗というものを推奨するわけではなく、自分とは一歩違う世界に入ることによって、もやもやがなくなってちょっとだけ元気になって先に進めるんだよ、という内容です。

例えば、ネイルやエステに行くと気分が変わる、それと同じ流れでレズ風俗があっても良いのではないかということです。なので、タイトルで一歩引いてしまうことなく、読んでいただければ読後は非常に前向きになれる一冊だと思います」

──心のケアにもなる一冊ということなんですね。

「実は最近、レズ本というのもよく売れているんです。男女の恋愛はドキドキやストレスもありますが、女性同士の恋愛は割と癒しというか安らぎのような感覚で読めるんだそうです。

とはいえ、いきなりレズ本というのはまだ馴染みの薄い方も多くいらっしゃるとは思うので、その入門書のようなかたちでこの本を読めると良いのではないかなと思います」

■『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に』佐藤青南/栗俣力也(原案)





──栗俣さんが原案をされているんですね。どういった本なんですか?

「恋愛をしていない時期にぜひ読んでほしい小説です。同じ出来事に対して、三人の登場人物のそれぞれの目線で物語が進んでいきます。人ってつい自分目線で物事を見るけれど、同じ出来事に対して、三人いたら三人まるっきり違うふうに見えているんだということを伝えたかった作品です」

──ストーリーの内容を少しだけ聞いても良いですか?

「物語は三部構成です。一部では、男性目線で物語が進み、一応これが事実の出来事です。二部では、一部の男性目線では全くそんな描写はなかったのに、男性が自分の恋人だと思っている峰岸という女性の物語です。三部が実際に一部の男性と両思いの女性の話。

男性は、二部に出てくる峰岸に殺されてしまうんですが、何故かというと男性が三部に出てくる女性を守るためなんですね。

そして意外なのが、峰岸に感情移入してしまったという感想をよくもらうことです」

──犯人の女性に感情移入してしまう方が多いって、確かに意外な感じですね。

「そうですね。誰かを好きになると、周りのことが見えなくなっちゃうじゃないですか。その状態の人って周りから見るとこんなに頭おかしいって思われるんだなということがよくわかるんです。

その周りが見えなくなってしまう峰岸に、自分を重ねてしまう人が多いんじゃないかなと思います」

──読後感として、恋愛したいって思うのか、したくないって思うのか、栗俣さんとしてはどちらですか?

「一応、恋愛をしたくなるような終わり方にはしたつもりです。でも、こうなりたくないからやっぱり恋愛はいいわってなる人もいると思います。それって多分どれくらい峰岸に感情移入するかによると思うんですよね。

なので、今恋愛をしていない人は、読んでみてどんな読後感を抱くのかぜひ試してみてもらいたいなと思います」



たくさんの本を用意しておすすめの本を教えてくださった栗俣さん。

「家で読んだ時に、新しい自分に出会えるような、生き方が変わるような本を選んでみました。恋愛の話もありますが、結論として伝えたいことが恋愛というわけではないので、今は恋愛はご無沙汰でそんな気分になれないって方もぜひ読んでみてください」と語ってくれました。

実際に体験したわけではなくても、読んでいるうちにその世界に飛び込めちゃうのが本の良いところ。
今回、ご紹介した本の中でもし気になるものがあれば、ぜひ手にとってみてください。新しい一歩が踏み出せるかもしれません!

(佐倉ひとみ+アリシー編集部)

<取材協力>ナカセコミエコさん

<取材協力>新井見枝子さん

<取材協力>栗俣力也さん

当記事はALICEYの提供記事です。

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