有安杏果が卒業しても“存続し続ける”ももいろクローバーZは、矢沢永吉や長渕剛と同じく“不変”であることが魅力のアーティストである

wezzy

2018/6/15 06:15


 2018年で結成10周年を迎えたももいろクローバーZ(以下、ももクロ)。この1月には有安杏果がグループを卒業するという大きな動きがあったが、5月22・23日にはグループとして初となる東京ドームでの単独公演「10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢-」を成功させた。

ももクロが本格的にブレイクをしたのは、結成メンバーのひとりである早見あかりが脱退し、「ももいろクローバー」から「ももいろクローバーZ」に改名した2011年あたりとされている。この脱退によって5人組となったももクロは、この年の夏にファーストアルバム『バトルアンドロマンス』(キングレコード)をリリース、さらにクリスマスにはさいたまスーパーアリーナ公演を成功させる。

この頃からメディアへの露出が急増、ロックフェスなどにも出演するようになり、アイドルファン以外の間での知名度を急速に高めていく。そして2012年には念願のNHK紅白歌合戦にも出演を果たし、いよいよ日本を代表するアイドルグループへと成長していったのである。

しかし、翻ってここ最近のももクロはといえば、メディアへの露出は以前に比べて極端に減少している。確かに地上波レギュラー番組『ももクロChan~Momoiro Clover Z Channel~』(テレビ朝日)を持ってはおり、スズキなどのCMにも出演してはいる。しかし、ニュースで取り上げられることは少なくなり、シングル曲がヒットを連発していた頃に比べれば、そもそも2016年以降はシングルのリリース間隔が事実上年に1度という状況。ともすれば「ももクロはもう終わった」といわれても仕方がないような状況にあるにもかからず、上記の通り、東京ドームでの2デイズを大成功させてしまうというのは、一体どういうことなのだろうか?

ももクロの人気が継続している理由のひとつとして挙げられるのが、「ライブ」であろう。ももクロのライブは「平和」だ、とはアイドルファンのあいだでしばしば語られる評である。「モノノフ」と呼ばれるももクロファンは、派手に暴れたり周囲に迷惑をかけるような行為に及んだりすることが非常に少ないというのだ。ライブに足を運ぶ客層は30代以上の男性が多く、大人であるがゆえにマナーがいいということなのかもしれない。いずれにせよももクロのライブ現場は非常に平和であり、居心地がいいというのがアイドルファンの中での認識なのである。

となれば、以前からのファンが「またライブに行きたい」と感じるのは当然のこと。しかも、ももクロはいまや、メディアでの活動よりもライブにこそ重きを置いている。たとえメディア露出が減ったとしても、素晴らしいライブがありさえすれば、ずっとファンを続けていられるのだ。事実、毎年大きな会場でライブを続けていたことにより、見事にファンの定着化に成功しているというわけなのだ。

また、ももクロはブレイク後、ロックフェスなどには出演するものの、いわゆるアイドルフェスと呼ばれるイベントにはあまり出演してこなかった。こうしてほかのアイドルとの交流をひかえてきたということも、結果としてももクロが多くのファンを離さずにここまでこられた要因なのかもしれない。

そもそもももクロは、アイドルに興味がなかった層をファンとして取り込むことができたためにブレイクしたといわれている。結成当初からマネージャーを務める川上アキラ氏の趣味趣向によるところも大きいとされるが、プロレス的なモチーフなどの“サブカル”的な要素をももクロの活動にうまく取り入れることで、本来はアイドルに興味がなかったような多くの“非アイドルファン”を取り込むことに成功したとうわけだ。そして、ブレイク後は、そうした“非アイドルファン”=“モノノフ”に、ほかのアイドルを見せないようにすることで、ファンの流出を防いだ、と考えることもできよう。

そもそも昨今の女性アイドルブームの中にあっては、各アイドルグループ間でアイドルファンの“争奪戦”が繰り広げられているという現状がある。しかしももクロは、上記の通り川上アキラ色の強い独自路線を突き進むことで、結果的にほかのアイドルとの交流もあまりなく、モノノフをほかのアイドルに奪われる機会そのものが少なかった。そうして、ももクロだけを見ているモノノフはより一層ももクロの世界に魅了されていき、その愛情を深めていったーー。こうした好循環が生じているのである。
矢沢永吉や長渕剛と同じく、“進化”“深化”こそあれど“変化”はせず
 さらに、モノノフたちのディープなももクロ愛を支える大きな要素として、ももクロの“不変性”も挙げられる。

10代半ばから20代半ばまでが女性アイドルの“旬”だとすれば、そもそもアイドルグループを長期間同じメンバーで続けるというのは非常に困難なこと。ゆえに、グループを持続させるためにメンバーチェンジを繰り返すというのが常套手段となるのであり、事実、AKB48をはじめ多くのアイドルグループがこの手法を採用している。

しかしももクロは、結成当初こそメンバーチェンジを頻繁に繰り返したが、2011年に「ももいろクローバーZ」になって以降は、先般の有安の卒業までメンバーチェンジが一度もなかった。さらに、モノノフの多くがブレイク後の「ももいろクローバーZ」になってからのファンであり、結成当初のももクロについてあまり多くの知識を有しないことを考えれば、事実上、2018年を迎えるまでメンバー変更がなかったというこになる。

メンバーが変わらなければ、メンバーそれぞれのキャラや役割も大きく変わることはなく、またももクロは楽曲の方向性を極端に変えることもなかった。つまり、“進化”や“深化”こそあれど、“変化”がないのがももクロ。いわば矢沢永吉や長渕剛のように、個性的な魅力で昔からのファンを囲い込み、息の長い活動を展開するアーティストと同じことをしているわけである。

ももクロが変わらないということは、いったんファンとなったモノノフにとってみれば、“常に自分が好きなももクロであり続けてくれる”ということを意味する。これは、モノノフにとっては大きな安心感となろう。安心感があり現場も平和なのだから、そこには幸せしかない。となれば、ファンをやめる必然性など生じ得ないのである。

さらに、“変化がない”ということは、いつの時代のももクロを好きになったとしても、今のももクロのライブを楽しめるということにもつながる。たまたまYouTubeで見つけた過去の楽曲がきっかけでももクロを好きになり、最新曲は知らないというような者でも、ももクロのライブは存分に楽しめる作りとなっている。極端にいえば、メジャーデビューシングル「行くぜっ!怪盗少女」(2010年)しか知らなかったとしても、その1曲のイメージのままで最新のももクロを理解できるのだ。ももクロは、いったん獲得したパブリックイメージ通りであり続けるがゆえに、“ももクロ初心者”にも優しいコンテンツとなり、結果、新規ファンを獲得しやすい状況ができあがっているのだ。

モノノフは、“ももクロ教の信者”である
 このように“不変性”こそがももクロ人気の源泉だったとすれば、結成10周年という記念の年に起こった有安杏果の卒業という事態は、活動の根幹にさえ関わる巨大な事件だったといえよう。これまで変わらなかったももクロが、急激に、しかも根本的に変わってしまう危機だったのだから。仮にメンバーたちの間に「この5人だからこそももクロなのだ」という強い気持ちがあれば、有安の卒業によってそのまま解散、という選択にさえつながっていたことだろう。しかしメンバー4人はももクロの存続を選択し、東京ドーム公演を見事に成功させてみせた。

逆説的な形ではあるが、今回の危機を乗り越えたことによって、ももクロメンバーとモノノフの中では、「ももクロを続けていく」ことの意味がより大きくなったのではないだろうか。10周年というメモリアルイヤーの、しかも初の東京ドーム公演。その数カ月前にあっけなく有安杏果の卒業を認めたということは、「“5人のももクロ”にはこだわらない」という意思表明であり、裏を返せば「ももクロを信じることができない者は、ももクロには必要ない」というメッセージとも捉えられる。

もちろん、有安杏果の意思が固かったということは大いにあろう。しかし、それに対して残されたももクロサイドがドライな判断を下したことによって、「1人のメンバーよりも、グループのほうが重要」という意志が明確になったのはまぎれもない事実。残されたももクロメンバー4人とモノノフは、それを受け入れ、東京ドーム公演を楽しみ、そして成功させた。去りゆく者の気持ちも大切だが、それを無条件に上回る優先事項として、「ももクロ」は絶対的に存在する。有安杏果の卒業は、結果としてその事実を浮き彫りにしたのである。

時にモノノフは、“ももクロ教の信者のようだ”などと揶揄されることがある。変化がなく絶対的なももクロを愛しているという点では、それもあながち間違いではないだろう。そしてその愛は、10周年というまさかのタイミングで起きた有安杏果の卒業によって、より強固なものとなった。となればその深い“信仰心”は、ももいろクローバーZのメディア露出が今後ますます減ったとしても、そう簡単に消え去ることはないだろう。

ファンに安心感を与え、居心地のいいライブ現場を提供し続けてくれるももいろクローバーZ。新陳代謝が必要不可欠とされる女性アイドルグループとしては真逆のアプローチといえるが、音楽ビジネスという視点で見れば、特段珍しいことをしているわけではない。もちろんメンバーたちの私生活に変化があれば、ももクロとしての活動に少なからず影響を与えることもあるだろう。しかし、それでも「ももクロを続ける」という選択さえできれば、このビジネスモデルのままで継続していけるはず。特に、この2018年、有安杏果卒業からの東京ドーム公演成功という一大事を乗り越えてみせたことで、ももクロが採用した現在のビジネスモデルが正解であることを強く示すことができた。いよいよ安定期に突入したももクロは、まだまだ続いていくだろう。

(文/青野ヒロミ)

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