板谷由夏×藤井隆 絶妙な“間”が作品のポイント シニカルだけど笑って泣ける大人のコメディ舞台『大人のけんかが終わるまで』 

SPICE

2018/6/13 18:00


『ART』『大人は、かく戦えり』といった作品が日本でもたびたび上演されているフランス人劇作家ヤスミナ・レザ。映画化もされるなど、シニカルな大人のコメディで世界的に注目される存在だ。その彼女の最新作『大人のけんかが終わるまで』が、岩松了の上演台本、上村聡史の演出で日本初演される。破局寸前の不倫カップル(鈴木京香・北村有起哉)と、偶然居合わせたその男の妻の友人カップル(板谷由夏・藤井隆)、そしてそのまだらボケの母親(麻実れい)の5名が繰り広げる一夜の会話劇だ。板谷由夏と藤井隆に意気込みを聞いた。

ーー役どころからお聞かせ願えますか。

板谷:内縁の夫エリック(藤井)の、まだらボケの母親イヴォンヌ(麻実)に疲れ気味のフランソワーズを演じます。自分の親友の夫であるボリス(北村)が不倫していることを知ってしまい、許せない。それによって、彼女の中のどろっとしたもの、押さえつけてきたものなんかも出てきてしまう役どころです。不倫相手であるアンドレア(鈴木)と意気投合しちゃったりもして、女性陣に男性陣が振り回されるという感じですね。

藤井:僕が演じるエリックは、けんかすることはするんだけど、自分からうわぁというより、巻き込まれる側の人ですよね。親友の夫が不倫していたことに対するフランソワーズの怒りに同調していたりいなかったり、そのうえで、エリックとしては、母親の誕生日をちゃんとお祝いしたいという気持ちがあって。

板谷:みんなふつふつと自分の中でわきあがってくるものがある感じですよね。
板谷由夏
板谷由夏

ーーこの手の修羅場、実人生で体験されたことは?

藤井:全然あります。ありますが、こういう感じにならないような気がする。

板谷:すごくフランスっぽいですよね。

藤井:そうそう。

板谷:フランスだと、離婚した前の奥さんと今の奥さんと交えて食事するっていうことが当たり前にあると思うのですが、そういう日本にはないオープンさがあるというか。

藤井:この物語の始まりもめちゃめちゃおもしろいよね。言えないけど。その稽古がすごく楽しみで。あれ、どうするんだろうね。

板谷:どうするんでしょうね?

ーーそこをぜひ、言える範囲で。

藤井:言えないです(笑)。劇場でぜひご覧ください。いや、意地悪じゃないんですよ。それは言っちゃいけないだろうという。だからセットもどうなるのか楽しみで。

板谷:楽しみ! レストランと、ガレージと、お手洗いと。どういう展開にするんだろう?

藤井:でも、なんか、台本を読んでわっはっはと笑えるという風ではないよね。喜劇……?

板谷:すごく不思議な本ですよね。人が演じて立体化するとおもしろいんだと思いますが、字面だけではまだどのようになるか想像がつかない。

藤井:“間”がめちゃめちゃいっぱいあって、一人で読んでるだけではどうなるのか全然わからないから、本読みが楽しみで。いや、こういう取材していただく際にね、簡単に、丁々発止の大人のコメディですって言えるといいんだろうけど、多分そういう感じじゃないと思うから。

板谷:シニカルというか……。

藤井:なんかね、感覚が日本人と全然違う。

(右から)板谷由夏・藤井隆
(右から)板谷由夏・藤井隆

板谷:最初に翻訳されたものを読んで、その後岩松さんの台本を読んだんですけど、岩松さんの台本になってますます複雑になったというか。会話劇としてシンプル化された分、セリフとセリフの感覚を自分たちでつかんでいかなくてはいけないんだろうなという。

藤井:レストランでの会話だから、料理名とかも会話も挟み込まれていて、細かいセリフがいっぱい詰め込まれている中に、麻実さん演じるイヴォンヌが同じことを何回も言ったりとか。でも、生活ってそうですよね。一つの話題だけに集中しているわけじゃない。舞台上、暮らしているように時間が流れていくんだと思うんですが。なんか、キャッチボールしているようで……。

板谷:していなかったりする。全部を全部拾って投げ合うわけでもなく、相手にカチンときたところだけ拾っていたり。その人じゃなくてこっちの人のボールを取っちゃうんだとか。そのあたりが会話としておもしろいんじゃないかなと思うんですが、難しいですよね。

藤井:難しい。

板谷:稽古してみないとわからないなと思います。岩松さんのシニカルさ、ひねりみたいなのはすごくおもしろいなと思って。岩松さんの作品って、毒っ気と人の愛おしさみたいなものが両方あって、すごく好きなんです。

藤井:骨太さと繊細さがあるよね。でもとにかく、こんなに“○○の間”って書いてある台本も見たことないなって(笑)。

ーー先日出演されていた『酒と涙とジキルとハイド』でも藤井さんの“間”には絶妙なものがありましたが、そのあたりはどう体現されていかれるんですか。

藤井:そこはもう作家さんと演出家さんのものだと思うので、自分の”間”でやるものではないと思うんですけど、本番が始まって、お客様が教えてくれる場合も多いですよね。その微調整もあります。ただ、そんなことばっかり考えて演じていると乗り遅れるから、経験で培った自分の判断というのもきっとあると思います。でも、この台本に関しては、その“○○の間”ってどんな風に作るんだろうと思って、稽古場がすごく楽しみで。その“○○”が実際具体的にお客様に察知されたとしたらすごいなと思うんですけど。チャレンジングですよね。

藤井隆
藤井隆

板谷:けんかするって、人の内面が出てきますよね。強がり含め、人の弱さみたいなものが出てくる。それをお客様が観たときに、自分だったら……とか思うのではないかなと。特に、“大人のけんか”というのがキーワードで、子供が無邪気に自分の言いたいことを口にするのとは違った、いくつにも重なったところ、自分がこれまで背負ってきた物語も含めてけんかするわけだから。それを観て、自分と重ねたときに、せつなかったり、もどかしかったり、そういう複雑な感情が生まれるのではないかなと思うんです。大人が必死でけんかしてるシーンって、観てると逆に泣きそうになりませんか?

藤井:わかる。

板谷:ぐっときちゃう。そういう映画を観ていても、そんなに自分をさらけ出すんだって、むき出しの表現に泣いちゃうんです。大人だからこその何かが出せたらいいなと。

ーー『大人のけんかが終わるまで』、引き込まれるタイトルですよね。

藤井:『終わるまで』でよかったなって(笑)。どうなる? だとしんどいけど、『終わるまで』、それまでおつきあいくださいという。

板谷:大人は終わった後、日常に戻らないといけないですもんね。それが大変。

藤井:なんかね、板谷さんとは若いときに一度共演していて、その後女優としてもいろいろキャリアを積まれて、そんな方が、今回の作品の会見で、裸で飛び込んで頑張りますとおっしゃっていて、すごく誠実だなと思って。なかなか言えることじゃないじゃないですか。この間の『フォトグラフ51』が初舞台とは思いませんでした。

板谷:3月、藤井さんが出演されていた『酒と涙とジキルとハイド』と稽古場が隣だったんです。

藤井:大変です! という板谷さんの顔を見られて、ちょっとうれしかった。なんでも要領よくパーフェクトにできます! という方かなと思っていたので。

板谷:いやいや。もうあのときは、廊下で藤井さんを見つけて、藤井さん~!ってすがってしまいました(笑)。

藤井:夫婦役を演じる方の、そういうもろいところを見られて、僕としてはよかったなと。きっとおもしろい夫婦になると思います(笑)。
(右から)板谷由夏・藤井隆
(右から)板谷由夏・藤井隆

<板谷由夏>
●ヘアメイク:林カツヨシ(JILL)
●スタイリング:古田ひろひこ(chelseafilms)

<藤井隆>
●ヘアメイク:柳美保
●スタイリスト:奥田ひろ子

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本れお

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