「まったく違う“渡辺勘治”が生まれるだろうね」市村正親&鹿賀丈史がWキャストでミュージカル『生きる』に挑む

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2018/5/30 18:00



2018年10月8日(月・祝)から東京・TBS赤坂ACTシアターにて、ミュージカル『生きる』が上演される。本作は日本を代表する映画監督・黒澤明が1952年に発表した代表作をミュージカル化したもの。主人公の渡辺勘治をW主演で演じるのは市村正親鹿賀丈史の盟友コンビ。つい先日までミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』で夫婦役を演じてきた二人が、今度は和製オリジナルミュージカルで同じ人物を演じることとなった。現在の心境や作品から感じとれる魅力について話を聞いた。


――製作発表会見では、本作のワークショップの話が出ていましたね。具体的にはどのような内容だったのでしょうか?

市村 僕はワークショップというものに初めて参加したんですが、これをやることで次のステップに進める、という「点検する作業」という印象でした。ワークショップに入るまでの段階で台本が何度も書き変わりましたし、楽曲もジェイソン・ハウランドさんがその場ですぐ「ああしよう、こうしよう」と書き換えていくし。僕らも実際にやってみて「ここがまだ書き足りないんじゃない?」「ここは長いかも?」などと知恵を出し合ったりしてね。

鹿賀 そうだね。僕もワークショップは初めて。『ラ・カージュ・オ・フォール』の公演中だったのであまり参加できなかったんだけど、原作はあるものの、一から作り上げて行く、その初期の段階から参加できるのはおもしろい体験でした。自分の意見も取り上げて作品に活かされていきますし。

――そのワークショップを経て、本作の魅力をどのように感じましたか?

市村 主人公の渡辺勘治が役所の市民課で平凡な人生を送っていたある日、胃ガンを患ってしまい、そこから彼の人生が大きく変わっていくんです。彼の「命」は終末へと徐々に向かって行くんですが、「生きる」気持ちは逆に「芽生え」てくる。これって今の時代でも当てはまるテーマだなと感じましたね。劇中で流れるジャズ音楽もパワーを感じさせるものです。映画版『生きる』とは違った物語を本邦初演で作っていけるんじゃないかな。

鹿賀 一人の男に光を当てて、これだけ正面から描いた作品はそんなに多くないと思います。内容は非常にシンプルで、黒澤監督はよくぞ『生きる』というこんなにもシンプルでインパクトのあるタイトルをつけられたなぁと感じます。作品が生まれた1952年当時の想いは、60年経った今の時代でも共通する想い。それを僕らが「ミュージカル」という形で広く伝えていくことになるんですね。


――製作発表会見では本作のオリジナルの楽曲が数曲披露されていましたが、昭和の日本というより、ブロードウェイの香りがするようなおしゃれなナンバーですね。渡辺勘治もそういった楽曲を歌う場面はありますか?

市村 ええ。勘治が歌う曲は「ゴンドラの唄」のほかにも4、5曲あります。バラードが多いんです。他の方たちが歌う曲はいろんなバリエーションの曲があるので、こっちも聴いていて楽しいです。ジェイソンさんが作ったメロディに日本語の歌詞が乗った瞬間、「ミュージカル」になりました。いい作詞家といい作曲家が揃ったなぁって実感しましたね。あとは僕らが稽古を重ねて楽曲を自分の身体の中にいれていくだけです。

鹿賀 楽曲が楽しいでしょ? こういった舞台の製作現場にいることができたのは本当にラッキーだと思いました。長く俳優人生をやってますが、なかなかゼロから作り上げることってないんですよ。それ故に作る喜びを感じることができました。

市村 今、ふと思い出したんですが。劇団四季にいた頃、子ども向けのミュージカルを皆で作っていたんです。今回の『生きる』はその大規模バージョンなんだなぁと思うんですよ。ゼロから作る作品って、どこか愛着が生まれますよね。


――お二人は、その劇団四季時代からの長いお付き合いですが、お互いの魅力、特に「生きる」力をどう感じられていますか?

鹿賀 いっちゃん(市村)はねー、「生きる力」という点では天才的ですよ(笑)。本当に休んでいる暇があるのかってくらいずっと走り続けている。僕とは対照的。僕はぼーっとしているときを大事にしたいタイプなんです。劇団四季時代からずっとこんな感じです(笑)。

市村 年齢と共に膝の半月板を痛めたけど、もし膝が普通だったらもっと動き回っていたと思うよ(笑)。もっとレッスンにも行って動けるだけ動いてしまう。僕はマグロのよう。泳いでないと死んじゃうの(笑)。

――そんな市村さんから見た鹿賀さんの魅力は?

市村 ぼーっとしていてね(笑)。

鹿賀 それ僕がさっき自分で言ったままじゃん(笑)。

市村:(笑)。丈史は根がおもしろい人だからね。僕はおもしろくしようとしている人だけど、この人は元々おもしろいの。そこが俺と違うなって思います。


――そんな対照的なお二人が、渡辺勘治という一人の男をWキャストで演じることになります。どんな男が出来上がりそうですか?

鹿賀 Wキャストだと、同じ表現になる部分もあるかもしれないけれど、顔つき、役の捉え方など、一つ一つ違いが出てくると思いますよ。かなり違った見え方になるかもしれないので、お客様から見たらきっと楽しいと思いますよ。

市村 2種類の味が楽しめるってことなんじゃないかなあ。俺も丈史の芝居を観て「ああ違うな。あれは俺にはない表現だな」って楽しんで観てみたいです。「違い」というのは決して悪いことじゃないですからね。昔から僕らはライバルのような扱いを何かとされてきましたが、そもそもお互いの「質」が違うので比べようがない、と思っているんですよ。

鹿賀 そうそう。僕らは似てないんだよ。それが長く付き合っていける秘訣でもあるんだよ。


――ところで。今回、勘治の息子・光男役を市原隼人さんが演じることになりました。彼の印象はいかがですか?また、初舞台となる市原さんにどのようなアドバイスをしたいですか?

市村 気持ちのいい男ですよ。目がキラキラ輝いていて、エネルギーの塊という感じ。先日までのワークショップが彼にとってもいい経験になったと思うんです。これで下地が出来たと思うので、あとは自分のコンディション作り。舞台の役どころって少しずつ作っていくものだから、気負わないでいてほしいです。初舞台で身体もガチガチになっているかもしれない。僕らが若い頃に苦しんだことを彼にも伝え、うまく乗り切ってほしいと思っています。

鹿賀 彼は本当に真っ直ぐな男。物事を真っ直ぐ見る目が印象的ですね。僕からアドバイス、ということはもちろんできると思いますが、結局俳優というものは自分で作り上げていくものだから、あくまでも同じ立場でやっていきたいですね。

――市原さんに対する向き合い方も対照的ですね!そして演出の宮本亜門さん。お二人とも過去宮本さんとお仕事をされた経験をお持ちですが、お二人からみた宮本さんの印象はいかがですか?

鹿賀 とにかくエネルギッシュですね。発想も豊かなので、一緒に仕事をして楽しい演出家です。

市村 宮本さんは考えこまないからね。思い立ったらすぐやってみよう!の人だし……演出家さんによっては「うーんうーん……」って俺らのことをまったく見ないまま、ずーっと唸り込んでいる人もいるよな!

鹿賀 (笑)

市村 昔、そういう人がいましてね(笑)。「おい、こっちの芝居を見てくれよー!」って思いましたね……宮本さんはそうじゃない人だから本当に楽しいですよ。


――では最後に。役者として「生きる」…今、すごく生きている!って思う瞬間ってどういうときですか?

市村 やっぱり舞台に立っているとき。台詞で丁々発止とやりあっているときは「生きている!」って思いますね。

鹿賀 うん。

市村 袖に入ったときは即、死んでるけどね(笑)。

鹿賀 ふふふ(笑)。僕も舞台の上にいるとき「生きている」と感じますね。特にミュージカルは歌や踊りがあるので、普通のストレートプレイよりおもしろみが多く、それゆえ「生きている」感をさらに強く感じています。


取材・文=こむらさき  撮影=福岡諒祠

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