ウェス・アンダーソン「犬ヶ島」これは傑作アニメ、王道にして奇怪で過剰なディテール

エキレビ!

2018/5/28 09:45

少年と犬との冒険と友情の物語という、王道の題材。そして目が回るような偏執狂的ディテールの蓄積……。『犬ヶ島』は、直球の冒険物語と製作陣の以上なこだわりとが絡み合った、ストップモーションアニメの新たな傑作である。


ウェス・アンダーソン、「日本」と「犬」の映画を撮る
『犬ヶ島』の監督はウェス・アンダーソン。『グランド・ブダペスト・ホテル』など、キュートでキッチュでありながらキメにキメた構図と、そして意外に重たい味わいのテーマを組み合わせた作品で知られている。そんな彼が今回監督したのが、日本を舞台にしたアニメだった。

舞台は今から20年後の日本。ウニ県のメガ崎市では、犬を媒介とする疫病である"ドッグ病"が流行っていた。人間への感染を警戒した小林市長は、メガ崎のあらゆる犬を集め、ゴミ捨て場である"犬ヶ島"へと追放すると宣言。数ヶ月をかけて大量の飼い犬が犬ヶ島へと送り込まれ、島はゴミと空腹を抱えた犬たちで溢れることになった。

そんな犬ヶ島に、ある日小型の飛行機が墜落する。乗っていたのは市長の息子である小林アタリ少年。犬をご禁制にした市長の息子でありながら、護衛犬であり親友でもあったスポッツを探して犬ヶ島にやってきたのだ。墜落によって負傷した彼を助けたのは、かつて人間に飼われていた犬たちであるレックス、キング、デューク、ボスの4匹に、もともと野良犬だったチーフを加えた5匹の犬たち。飼い犬だった過去を持つ4匹はたちまちアタリ少年と馴染むが、野良犬であるチーフは人間に対して心を開かない。

鍵のかかった檻に入ったまま死んだと思われたスポッツだったが、それは違う犬だったことが判明。まだどこかで生きているはずのスポッツを探し、犬ヶ島に住む伝説の予言犬ジュピターとオラクルを訪ねるアタリ少年と5匹の犬たち。一方メガ崎ではドッグ病の特効薬を研究し小林市長を批判していた渡辺教授が監禁され、その裏の陰謀を暴くべくメガ崎高校の新聞部員たちが動き出す。そしてアタリ少年を捕らえるべく追っ手を放つ小林市長一味。はたしてアタリ少年はスポッツに再開できるのか。そして小林市長たちの陰謀とは。

「メガ崎」という地名からわかるように、『犬ヶ島』はちょっとヘンテコな日本を舞台にしている。劇中でも日本人であるキャラクターたちは全て日本語で話し、画面に出るスタッフの字幕などには全て横にカタカナ表記も出る。いきなり出てくる相撲や和太鼓、巨大なコンビナートやカタカナで書かれた看板、ぶっ壊れた原子力発電所などなど、「合ってはいるけど、なんだか変」な日本描写がパンパンに詰まっているのだ。

しかし、この映画のスタッフはおそらくこの「ちょっと変な日本描写」を、完全に分かった上でやっている。なんせ監督が細部にこだわり抜くウェス・アンダーソンである。『犬ヶ島』でも全ての色彩と構図が完璧にコントロールされ、「ちょっとずれた、変な日本」を表現するために奉仕している。また、シンメトリカルな構図と固定されたカメラによる戯画的なムードも見所。なんせ『犬ヶ島』は、画面に映るもの全てを意のままにできるストップモーションアニメだ。犬たちの毛並みの汚さ(どの犬も臭そうなのである)から三船敏郎のような小林市長の表情、サビの浮いた犬ヶ島の施設や積み上げられたゴミのひとつひとつに至るまで、めまいがするようなディテールが集積されている。

しかし『犬ヶ島』がすごいのは、このディテールの総量ではない。これだけのディテールを詰め込んだ上で、少年と犬たちの熱い冒険物語をぶちかました点にあるのだ。

シンプルなストーリーと複雑な細部は、一級の娯楽作品の証
『犬ヶ島』のストーリーはシンプルだ。アタリ少年とスポッツの友情を軸に、5匹の犬たちとの冒険を描いた映画である。「犬ヶ島に送り込まれた飼い犬スポッツを探す」という目的がハッキリしており、それを妨害する悪役たちもちゃんといる。言ってしまえば、ひねりがない。今時珍しいくらい一本道のストーリーである。

しかしその中に、犬たちの悲哀もちゃんと織り込まれている。元々飼い犬だった犬たちは人間の勝手な都合で捨てられたにも関わらず、病に感染しながらも「主人がほしい」と口にし、アタリ少年が現れると大喜びで協力する。「主人を持たない犬の悲哀」「主人と目的を与えられた犬たちの献身」というテーマからは何やら押井守感(それも『ケルベロス・サーガ』感)が漂っている気もするが、基本的には人類の友である犬たちとの友情の物語だ。唯一元から野良犬であるチーフとアタリ少年の関係が変化していく様も、見ていて清々しい。最初はクセの強いデザインに見えた犬たちやアタリ少年も、このストーリーを見ているうちにどんどん可愛く見えてくるから不思議だ。

シンプルで王道な冒険物語に、過剰なまでに詰め込まれたディテールを組み合わせる……。おれはそういう映画が大好きだ。わかりやすいところで言えば、古典的冒険物語に完成度の高いデザインや使い込まれた宇宙船の汚さなどを組み合わせた『スター・ウォーズ』シリーズの『新たなる希望』なんかはモロにこれである。ストーリーはシンプルかつ力強く、そしてディテールは過剰かつ複雑に。古今の名作に匹敵する芯の強さと情報量を兼ね備えた『犬ヶ島』は、何度でも見たくなる作品なのだ。
(しげる)

【作品データ】
「犬ヶ島」公式サイト
監督 ウェス・アンダーソン
出演 コーユー・ランキン リーブ・シュレイバー ブライアン・クランストン エドワード・ノートン ビル・マーレイ ジェフ・ゴールドブラム ほか(全て声の出演)
5月25日より上映中

STORY
近未来の日本。メガ崎市に蔓延する"ドッグ病"の原因となった犬たちは、「犬ヶ島」と呼ばれるゴミ捨て場の島にまとめて捨てられることとなっていた。そこに市長の息子である小林アタリが飛行機で不時着。かつて護衛犬だったスポッツを探しに来たアタリは、犬ヶ島の犬たちと協力する。しかし、小林市長の追っ手が島に迫りつつあった

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