「石橋貴明のバブルノリ」が嫌われてしまうワケ――フジ『たいむとんねる』大コケを考える


 「バブル世代に武勇伝を語られても面白くない」――そんな痛烈な批判を巻き起こしたのが、4月にスタートした深夜バラエティ『石橋貴明のたいむとんねる』(フジテレビ系)だ。

今年3月、とんねるずのご長寿番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』(同)が終了、そして新たに石橋をMCに据えて『たいむとんねる』が始まったのだが、「石橋貴明とミッツ・マングローブがゲストと『勝手に語り継ぎたい昔のアレコレ』を掘り起し『あったねぇ~!懐かしい~!』を共有する」(公式サイトより)という内容が視聴者にウケにくかったのか、工藤静香をゲストに迎えた「イケイケだった80年代テレビ業界」という初回の視聴率は、3.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と大コケしてしまった。

いったい同番組の何が不評を買ったのか。ネット上に飛び交う初回視聴者の声を見ていくと、「石橋が80年代のイケイケ話をドヤ顔で語るってダサい」「バブル時代はとっくに終わってるんだけど……」「石橋はもうオワコンでしょ」など、「石橋×バブル」の組み合わせに、時代遅れ感を抱いている若い世代が多く見受けられた。しかし昨今メディアでは、バブルカルチャーを目にする機会が多い。特に昨年は、「OK!バブリー!!」のギャグで知られるバブル芸人こと平野ノラ、また大阪府登美丘高校ダンス部のバブリーダンスが若者を中心に大ブレーク。バブルカルチャーのリバイバルイベントも各地で盛んに行われているという。

そんな人気コンテンツであるバブルが、石橋と組み合わさることで、なぜ人に煙たがられてしまうのだろうか? そんな疑問を解消すべく、元吉本芸人で、“コミュニケーション学”や“笑い”に関する研究をしている桜美林大学講師・瀬沼文彰氏に取材を行った。

若者はバブルを“ネタ”として消費する


 最初に、瀬沼氏は、若者間のバブルブームをどのように見ているのだろうか。

「若者は、バブルを“ネタ”として消費をしていると思います。そういった流れを牽引したのは、やはり平野ノラさんなのではないでしょうか。ノラさんから『バブルってこういうふうに見ると面白いよね』というヒントをもらい、若者がネタとして楽しむようになったと見ています。また、バブルの自由さ、存在感、キラキラした感じは、SNSとの相性がよく、例えば“バブル的な写真”をインスタグラムに投稿すると『いいね!』がもらえる……みたいなところから、ブームになっていったと感じています」

いまの若者が、バブルを本気で実践しようとすると、圧倒的にお金が足りないのは事実。しかし、「今はシェアの文化が発達し、高級バックやハイブランドファッションのレンタルシステムがあったり、リムジンもみんなお金を出し合って借りることができるんです。あと、SNOWなど、デジタル加工が発達しているので、写真にバブル的なキラキラ加工を施せる。意外とバブルって実践できるんですよ」とのこと。

「若者は、バブル的なキラキラした日が、ずっと続くのではなく、“たまにあるといいな”という感覚のようです。リアルが充実していることをアピールしたい半面、『私、すごいでしょ?』と自慢して周りから浮くことを避けたいという思いがあるのでしょうね。バブルを“ネタ”として消費するのも、“これは冗談だよ”と予防線を張っているように思いますし、むしろ、バブル的なキラキラ感を楽しむのではなく、『私はバブルを面白いと思っている』という自分のセンスをSNSでアピールさえできれば、満足なのかもしれません」

ただし、メディアで騒がれるバブルブームは、「マスコミ主導なブームという印象がある」という瀬沼氏。若者の間で生まれたのではなく、「ノラさんのような影響力のある人から“降りてきた”ものだと思います」。

とんねるずの成り上がり方がバブル的だった


 若者にとって、“周りから浮かない、適度なキラキラ感の自己演出ツール”の1つになっているというバブル。一方で、石橋はなぜ嫌われるのだろうか? まず瀬沼氏は、人々が石橋に感じる“バブル感”を紐解いてくれた。

「『みなさんのおかげでした』でよく見られた“フジテレビの大掛かりなセット”での企画がそういったイメージを生んだのかなと。また、『“イマココ”を最大限楽しむ、先のことを考えない』といったノリや、内輪の業界ネタ、上から目線でガンガンものを言うスタイルなども、バブルっぽいと受け止められるのではないでしょうか。あと石橋さん……というか、とんねるずは、素人として出場したお笑いコンクールで活躍し、デビューを果たしたんですが、そのままの勢いで、素人やアイドル、テレビにあまり出ていない俳優、ときには大御所までもイジる、スタジオを壊して暴れまくるといったノリでどんどん成り上がっていったコンビなんです。その勢いこそバブルノリだと捉えられるのではないでしょうか」

そんな石橋のバブルノリが若い世代にウケないのは、ズバリ「“冗談だから”“ネタだから”という予防線が張り巡らされていないから」と瀬沼氏は考察を繰り広げる。

「石橋さんが『たいむとんねる』で語った80年代のイケイケエピソードは、視聴者の若者からしたら、直接的すぎてしまい、“ギャグ”に聞こえないと思うんです。もしかしたら本人は、ネタとして言っているのかもしれませんが、視聴者は、ガチの自慢話をされているとしか受け取れないのでは。あと単純に、昔話だから共感できないというのもあると思いますね。それから、いまの若者は、“話している内容+見た目”に面白さを見いだす傾向があり、ノラさんも、あの“見た目”でのバブル感もあるからこそ、若者にウケたと思うんです。そう考えると、石橋さんにはそういった見た目としての面白さは演出できていないので、ウケにくいのかもしれませんね」

よしもと的笑いの中でオワコン化した石橋


 若者の感性に合わないという石橋のバブルノリは、同様に今の芸能界やバラエティの空気からもズレてしまい、“オワコン”化して見えるという。

「今の芸能界やテレビって、“礼儀と挨拶”が徹底され、番組内でも空気を乱さぬように謙虚にならざるを得ないんです。またバラエティでは、“よしもと的な笑い”が寡占化している状態。“よしもと的な笑い”とは、基本的にボケとツッコミの笑いが大半で、みんなで協力して盛り上げていくスタイルなのですが、これは1954年、よしもとが『吉本ヴァラエティ』(毎日放送)という新喜劇の前進となる舞台をテレビで放送し始めた頃から、ずっと受け継がれているものなんです。MCの仕切りがいて、誰かが何かを言ったらそれをみんなで拾う。また、面白いキャラの人がいてそれをみんなでイジる――そういった、みんなで面白くしていくスタイルの今のバラエティに、石橋さんのような1人のパワーで全てを壊せてしまうような人は合わないと感じます」

確かに、石橋はワンマンスタイルで、みんなで協力し合って笑いを作り上げていくというタイプではない。一方で、わかりやすく濃いキャラの持ち主でもないだろう。

「“みんなで一緒に”という、よしもと的笑いに慣れた人からすると、石橋さんの場を壊すことによる笑いは、パワハラ上司的に見えるかもしれません。若手芸人と絡んでいても、接待されているように見え、“現実を忘れられる”というバラエティの良さを感じにくいんですね。また、コンプライアンス重視の今のテレビ局では、“めちゃくちゃやる”という芸風の石橋さんを起用しづらい面もありますね。以前、『みなさんのおかげでした』で保毛尾田保毛男をリバイバルした際、『差別的な笑いってどうなの?』と炎上したように、世間でポリティカル・コレクトネスが定着したことも、石橋さんが敬遠される理由だと考えられます」

石橋は、SNSに活路を見いだすべき!?


 そんな石橋について、瀬沼氏は、「年とともにバブルノリ自体は弱まっていると思う」といった印象も受けるそうだ。

「『たいむとんねる』を見ると、昔に比べると落ち着いたなぁとも思います。当時の勢いを面白く求めている人は絶対にいると思うので、個人的には、ネットやSNSに活路を見いだしてほしいですね。本人はそういったものに否定的みたいですが、例えばTwitterでの素人いじり、YouTubeで大暴れするなど、“炎上”も含めて面白くなるのではないかと。規制のないところで、自由に暴れて、日本をかき乱してほしいです」

ただ、『たいむとんねる』に対しても、このまま“大爆死”だけで終わるのはもったいないという。

「売れ続けている芸人って、ちょっとずつ新しいキャラをプラスしていこうとするんです。例えば、ダウンタウン松本人志さん、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんは、“知的な面”を出し、コメンテーターなどをするようになったのですが、一方で、石橋さんは、こうした“新たなキャラを見せること”をあまりしてこなかった。だからこそ、石橋さんは、『たいむとんねる』で新たなキャラを確立してみてはどうだろうと思いますね。過去のアレコレを振り返るという番組内容は、視聴者の『僕も、私も話したい!』という気持ちをくすぐると思うので、石橋さんには“人の共感を引き出す”新たなキャラを目指して、番組を盛り上げてほしいです」

「バブル的な勢いを失くして落ち着いた」というネガティブな面も、見ようによっては、新たな魅力につながるということか。ご長寿番組が終わった今、石橋がどのような進化を遂げるのか見守っていきたい。

【著書紹介】
ユーモア力の時代―日常生活をもっと笑うために』(日本地域社会研究所)
生活の中にユーモアがあると、自分が見ている世界や日常はもっと面白くなる――そんな“ユーモア”について分析、その効果の大きさと影響力を示すとともに、誰にでもできるユーモア力アップの方法と技術を具体的に紹介した1冊。

当記事はサイゾーウーマンの提供記事です。

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