“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士&妻と“元リアル極妻”瓜田母は、映画『孤狼の血』をどう見たのか?

日刊サイゾー

2018/5/17 18:00



“キング・オブ・アウトロー”こと作家の瓜田純士(38)が、森羅万象を批評する不定期連載。今回のテーマは、瓜田が「原作は未読だけど公開初日に見たい!」と熱望した東映映画『孤狼の血』(原作:柚月裕子、監督:白石和彌)だ。“警察小説×仁義なき戦い”と評される同名原作を映画化した本作。果たして、極道上がりで深作ファンでもある瓜田の御眼鏡にかなうのか?

かつては“リアル極妻”だった瓜田の母と、エログロバイオレンスが苦手な瓜田の妻も劇場に招き、三者の感想を聞いてみた。

『孤狼の血』の公式サイトによると、「昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島の架空都市・呉原を舞台に、刑事、やくざ、そして女が、それぞれの正義と矜持を胸に、生き残りを賭けて戦う生き様を描いた映画」とある。

公開初日の土曜日ということもあってか、場内はほぼ満員。客層は20~40代風のおとなしそうな人が中心で、男女比は半々といったところか。若い単独女性や、高齢の単独男性の姿もちらほら。コワモテの客は、瓜田1人だけのように見えた。

以下は、映画終了後に近所のとんかつ屋で行ったインタビューである。

* * *

――いかがでしたでしょう?

瓜田純士(以下、純士) いやぁ、めちゃくちゃ良かったです。感動しました。

母・恭子(以下、恭子) 最初から最後まで、最高だったよね!

妻・麗子(以下、麗子) 『アウトレイジ 最終章』の2億倍良かったわ~(参照記事はこちら)。

――おやおや、奥様まで。みなさん、何がどう良かったのでしょう?

純士 まず、みんなのケジメのつけ方が、きっちりと描かれてたのが良かったです。東映の本気と、それに応えてやろうという役者陣の本気を見たという感じですね。あの時代(昭和63年当時)の広島って、本当にああいうマル暴がいただろうし、やくざも本当にあんな感じだったと思うんですよ。で、今この時代にこういう映画をやるとなったときの、引き受けた役者たちの「一癖も二癖もある感じに悪く演じてやろう」という本気度に圧倒されました。きっとみんな役者をやってる以上、東映の任侠映画を見て育ってきただろうし、ファンだったと思うんですよ。だからこそ、下手な芝居はできないところですが、そこをきっちりやり切ったのがすごいな、と。

恭子 私は岩に波がザバ~ンとぶつかって「東映」ってマークが出てきたところから、「うわ、昔のまんまだ!」って感じで一気に引き込まれちゃったわ。でも出てる役者は今の役者だから、懐かしくも新鮮な面白さがあったわね。

純士 終盤の太鼓の迫力と、その音に合わせたケジメの付け方も、さすが東映といった感じ。盛り上げ方を知ってるな、と。

麗子 役者もみんな光ってたな。

純士 うん。主役の刑事から脇役のチンピラに至るまで、キャスティングがピカイチだった。中でも刑事を演じた役所広司松坂桃李が、とびきり良かったね。真相を知ったときの松坂の演技なんて、もう……。

恭子 純士、泣いてるのかと思ったわ。

純士 結構、泣いちゃったよ。

麗子 ウチも何度も泣きそうになったけど、化粧が崩れるのがイヤやから必死でこらえたわ。

純士 松坂が、あるアイテムを探り当てたときの感情表現とか、めちゃくちゃ上手かったじゃない。真面目一徹の新人刑事が、だんだんディープな世界に引き込まれていく。あれが他の役者だと、例えば東出昌大とかだと嘘臭くなっちゃった可能性がある。あの松坂の絶妙な正義感が良かった。

恭子 良かったよね~。私、松坂桃李って役者としてあまり好きじゃなかったのよ。だけど今回、そのすごさを思い知らされちゃった。あんなにいい男だとは知らなかったわ。役所さんもすごかった。宝くじの宣伝してる場合じゃないわよ(笑)。

麗子 ウチは、真木よう子がたまらんかったわ。あれは、実生活で酸いも甘いも噛み分けた彼女にしかできへん役ちゃうかな。

純士 真木は、喫茶店での暗い顔、あの本当に腹を決めてる表情とかが本当に良かったし、終盤にも大きな見せ場があったよね。終始、貫禄がすごかった。

麗子 貫禄はあるけど、細くて美しいという。

恭子 あの顔と体型って、本当に私の理想なのよっ!

麗子 おっぱい、めっさデカいしな。

純士 役者の力もすごかったけど、今回、この作品を最初から最後まで冷めることなく楽しめたのは、「時代設定の上手さ」もデカいと思う。俺もこないだ現代物のノワールを書いたんだけど、主人公の刑事の設定をどこまで過激にしていいのかとか、ここまで書いたら不自然なんじゃないかとか、いろいろ考えすぎた結果、思い切り安パイを取っちゃって、あんまり悪くない刑事にしちゃったんですよ。なんでかというと、時代的に「ウソだろ!」「そんなの今どきありえない!」と突っ込まれちゃうから。でも今回の原作者が上手いと思ったのは、「あの時代だから許される」という設定にしたこと。「これは昭和の話です」という一文を入れるだけで、許されちゃう。俺もその手法を取れば良かったな、と思いましたもん。

恭子 田舎だから特にね。

純士 そうそう。広島だからより一層、刑事とやくざの癒着もあっただろうし、タマも普通に飛んでただろうし。パチンコ屋でパチンコが出なくてパチンコ台を弾いたっていうもん、当時のやくざは。そういう時代性を感じさせる細かいディテールの描き方も良かったですね。

――それは例えば?

純士 やたらとハイライトを吸ったり、ゴテゴテのジッポを使ったり。悪い刑事って格好いいな、と思えちゃうじゃないですか。実際にいたら迷惑ですけど(笑)。あのカチコミに行ったやくざ(中村倫也)が、行く前に景気付けに一発ポン(覚せい剤)を打つとかのディテールも良かった。シラフじゃあんなもん務まらないから。そいつがウワーとか掛け声かけて行くもんだから、そんなことしたら直前にバレて取り押さえられちゃうだろと思ったけど、その見てるほうが不安になる頼りなさってのが、リアルな鉄砲玉っぽくて良かったです。

恭子 あのヒットマンのキチ●イっぽい顔つきを見て、私は昔の純士を思い出したわよ(笑)。開襟シャツ着て目もトンじゃって。うわ、純士の再来だ! 悪夢再び! って。

純士 ヒットマンが走る前に一発ヅケようが、右翼(ピエール瀧)の嫁が家で猟銃をブッ放そうが、そんなの微罪。当時のデコ(警察)は、本線の殺しとは関係ないから引っ張りもしないっていう感じも良かった。揉み消しだったり、潰しだったり、なんでもまかり通る時代だっただろうから。

麗子 薬剤師の女の子(阿部純子)の下着や靴下も、いかにも昭和って感じで懐かしかった。あの子、初めて見る女優やけど、印象深かったな。

――元やくざの瓜田さんから見て、不良描写や暴力描写は、いかがだったでしょう?

純士 親分衆の貫禄も、若い衆の緊張感も、リアルでした。中でも、石橋蓮司。あいつが一番やくざでしたね。

麗子 磯野波平な。波平も良かったわ。

純士 石橋がホステスにセクハラするシーンとか、病院でクチャクチャうなぎを食ってるシーンとか、めちゃくちゃ本職っぽかったですよ。ものすごく下品で、卑猥で、汚れた感じで、いやらしく笑って……ってのが不良の鉄則ですから。実際のやくざはああいうのばっかりで、逆に江口洋介みたいなスマートなのは1人もいませんから。

麗子 江口は『るろうに剣心』のまんまやったわ。

恭子 何それ?

麗子 こないだ、江口が出てる『るろうに剣心』をDVDで見たんですよ。そんときと何も変わってへん印象やった。

純士 江口はケジメを取りに行くシーンは最高に格好良かったけど、いかんせん顔と体型がきれいすぎるというのはあるな。そういやなんで、一之瀬(江口の役)は、モリタカとも呼ばれてたんだろう? 稼業名と本名、ってことなのかな。やくざは江口のことを「男前の一之瀬」と呼んでたけど、ガミさん(役所広司)とかは「モリタカ」と呼んでたから、「それ、奥さんの名前だろ」と思ったんですよ(笑)。

恭子 あ、森高千里か!(笑)

純士 「男前」ってキーワードでどうにかわかったけど、あれ、事前にパンフレットを読んでない人は混乱するでしょうね(編注:江口が演じた役のフルネームが「一之瀬守孝」だと後に判明)。

恭子 私は竹野内豊が物足りなかったわ。いい男で本当に大好きな役者なんだけど、目立たなかったのが悲しい。なんだかしょぼい役だったし、出番も少なかったから。

純士 あれはあれで良かったよ。派手でタチの悪いやくざの実在感があった。リアルさってことでいうと、田舎やくざ(音尾琢真)が外国にかぶれてフィリピンのことを「フィリペン」って発音したりするのも本物っぽかったし、面白かったね。

恭子 商店街の「◯◯ギンザ」とかって看板も、東京に憧れてる地方都市の感じが出てて面白いなぁ、と思って見てたわ。ただ全体的に、昭和63年というよりも、それより10年前の昭和53年っぽい背景だな、と感じたのは、私だけかしら? 昭和63年といえばちょうどバブル絶頂期だけど、その頃は黒電話じゃなくてプッシュホンを使ってた記憶があるから。

純士 それは、東京と広島の違いもあるのかもしれないね。俺は、タバコやジュースの自販機とか、缶ビールのプルタブの形状とかも、懐かしいな、そういやこんなのあったな、って楽しんで見れたし、広島弁も違和感なかった。NHKの朝ドラなんかの昭和はいかにもセットって感じだけど、この映画では各アイテムが町並みにしっかり溶け込んでて、興をそがれることはなかったね。

恭子 NHKの朝ドラで思い出したけど、滝藤賢一! 今あの人『半分、青い。』で松雪泰子とほのぼのした夫婦役をやってるんだけど、『孤狼の血』では目つきから声まで、まるで別人だから驚いたわ。役者ってやっぱ、すごいよねぇ。

麗子 あの人、西川きよしの長男ちゃう?

恭子 違う、違う(笑)。目だけで判断しちゃダメよ。

純士 暴力描写のリアルさってことでいえば、刑事が手荒い取り調べの前に腕時計を外したでしょ。なんであんなこと、知ってるんだろう? って感心しました。ああいう細かい描写がリアルだと物語の説得力が増しますよね。きっと一個一個、細かく研究したんだと思うよ。

――ところで奥様はさきほど、「『アウトレイジ 最終章』の2億倍良かった」とおっしゃっていましたが、何がどう違ったのでしょう?

麗子 『アウトレイジ』は男の人の作った映画やからか、「戦う、死ぬ、終わる」だけやった気がするんですよ。エロビで言うと「入れる、出す、終わる」みたいな。でも『孤狼の血』は原作が女の人やろ? 女の人ってデートの前段階を楽しむ生き物やないですか。ダイエットして、エステして、服買って、ああだこうだとその前をすごい楽しむ。『孤狼の血』はエロビで言うと、入れるまでの前戯がめちゃめちゃ長くて濃厚で、こっち目線あり、あっち目線あり、あ、こう来たか、という斜め上からの攻めが何度もあったから、気持ち良かったし、終わったあとの余韻も心地良かったんですよ。

恭子 アッハッハッ!

――エログロが苦手な奥様が、この作品を受け入れたことが驚きでした。

麗子 確かに暴力描写やグロいシーンも結構あったけど、事件解決に向けて純粋な気持ちでボコってはるシーンが多かったし、変態的なグロやなく、敵討ちのための必然的なグロが大半やったから、全然OK。この映画はきっと、原作が女性やから、ウチでも楽しめたんやと思うわ。

純士 『極道の妻たち』は、原作が女だけど映画は駄作だったじゃん。

恭子 “極妻”は確かにやりすぎというか、嘘くさい感じがあったわよね。

純士 北野武の『アウトレイジ』はきっと、男にだけウケりゃいいぐらいに思って最初から作ってる。『孤狼の血』は『仁義なき戦い』にインスパイアされて作ってる。それに尽きるよ。男女の性差は関係ない。『仁義なき戦い』、見た?

麗子 見てへん。

純士 そのタッチなんだよ。舞台は広島だし、テロップも入るし、独特のナレーションも入る。原作はどうだか知らないけど、映画に関しては『仁義なき戦い』に思い切りインスパイアされてる奴らが、脚本を書いてるんだよ。

麗子 そんなん、知らん!

純士 こっちは物書きだから。

麗子 ウチは一般女子やから。しかも女子力高め女子やから(笑)。

恭子 アッハッハッ!(手を叩きながら大笑い)

純士 (呆れ顔で)ウチの嫁は、いつも鼻高々に思い切り的外れなことを延々としゃべるんですよ。

麗子 いいねん、いいねん。それが女子力高め女子の可愛らしい感想や。ウチは訂正せえへんで!

恭子 クックックッ(笑)。そのぐらいに思ってないと、世の中生きていけないよね。

純士 まあとにかく、いい映画だったよ。粗を探す気にならない。今日が、公開初日じゃん。今日の来場者数や反応次第で、上映館の数が増えたり、次回作の話が来たりっていう勝負の日だと思うんだけど、ただの一観客であるこっちが、「なんとかこの映画が世に広まってくれないかな」って目で見てたもん。

麗子 今まで見たやくざ映画の中で一番面白かったわ。「入れる、出す、終わる」ちゃうかったもんな。

純士 ここ、ご飯を食べるところだから。

麗子 前戯が濃厚やったし。

純士 ここ、ご飯を食べるところだから。

麗子 調子乗っちゃって~♪

恭子 こいつ、ウザい!(笑)

純士 忘れちゃいけないのは、『孤狼の血』は任侠映画っぽいけど、主人公が警察だってこと。警察の世界にも任侠があるじゃん。暴力団に対抗するための。だから、これをやくざ映画とは思いたくない。伏線もしっかり回収されるし、ちゃんとミステリーにもなってるから、ジャンル的には「警察VS 極道のハードボイルド」なんだと思います。両者のむき出しの狂気や、それぞれの落とし前の付け方、そして喰うか喰われるのかの迫力と色気がすごかった。その作品の屋台骨を最初から最後まで支えたのは、なんと言っても役所広司だね。

――役所広司って、女性から見て男前なんでしょうか?

麗子 色気がありますよね。

恭子 あ、そう? 私は全然いい男とは思わないけど、役に入り込んだときのオーラが別格。だから役者って本当にすごいなって思ったわ。

麗子 今回ちょい役で出てた中村獅童もそうやけど、やっぱ舞台やってはる人は、存在感の示し方がハンパないな。

純士 役所はくどいおじさんだけど、そのくどさがいい。真木よう子の店で飲んでる最中、子どもから「暑苦しい」と言われたときの反応も、「プライベートでもきっとこういう顔するんだろうな」と思って見てました。あと今回、役所で印象に残ったのは、「俺は綱渡りをしている。歩かないと落ちて死ぬるから歩き続けるしかないんだ」みたいなセリフ。もう戻れないってことですから。あのセリフはシビれたなぁ。

――三者ともに大絶賛といったところですが、不満点はありますか?

麗子 ないな。イントロの養豚場のシーンから小洒落たエンドロールまで、飽きることなく見れたし、泣けたし、最高でした。

恭子 私はさっきも言ったけど竹野内豊が目立たなかったことと、黒石(高大=かつて瓜田純士と共に格闘技大会の『THE OUTSIDER』に出ていたこともある役者)が、すぐに死んじゃう役だったのが悲しかった。黒石は本当にいい男なんだから、もっといい役で出させてください! って思ったわ。

純士 黒石はまだ役者として下積み中だから。あの唐沢寿明だって若い頃は、何十回も死体役をやったって言うじゃない。黒石も5年後、10年後には、もっといい役をもらえるようになるはずだよ。というか今回の役は決して、悪い役とは思わない。役名もあったし、前半でまず印象を与えて、中盤でまたちらっと出て、後半またそのシーンが出るっていうのは、他の名もなきエキストラとは扱いが全然違うでしょ。

――純士さんは、本作への不満点は?

純士 強いて言うなら、ガミさん(役所)と親友の貫目が釣り合ってなかったような気がします。親友がもうちょい大物、それこそ江口の組の親分(伊吹吾郎)あたりだとバランスが取れたし、ガミさんが威張ってる意味もわかったんだけど。

恭子 え、本当? 人間味があっていいな、と思ったけど。

純士 あとは、松坂がやりすぎたかな、ってこと。

恭子 え、本当? もっとやれ! と思ったけど。

麗子 ウチもや!

恭子 どうしても、松坂側を応援してる自分がいるんだよね。

純士 そこが上手く描けてたよね。これが不良目線だとここまで心は動かなかったと思う。刑事目線で見てるってことは、見る側は正義だってこと。だから気持ちのいい映画でしたよ。

麗子 うん、気分ええな。

恭子 やっぱ映画って、見終わったあとに考えさせられるよりも、最後はスッキリするほうがいいよね。

純士 さあ、さんざんしゃべったから、食べましょうか!

恭子&麗子 いただきまーす!

* * *

養豚場でのエグいシーンが印象的でもある映画だったが、そのあと瓜田一家はおそらく無自覚のまま、「とんかつ定食」をおいしそうにたいらげていた。それだけ後味の悪さがなく、爽快さの残る映画と言うことができるだろう。(取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ)

※瓜田純士の人生相談「No problem」
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