「暴力の割を食うのはいつだって一般の人たち」。『孤狼の血』で白石和彌監督が目指した真のテーマとは?

Movie Walker

2018/5/16 18:30

“警察小説×「仁義なき戦い」”と評される柚月裕子の同名小説を、役所広司を筆頭にした豪華俳優陣で映画化した『孤狼の血』(公開中)。本作を手掛けた白石和彌監督に直撃すると「かつての“実録路線”の熱量を持つ映画をやりたいと言われ、正直僕でいいのだろうかと思いました」と、製作開始時の心情を振り返る。

これまで『凶悪』(13)や『日本で一番悪い奴ら』(16)など、センセーショナルな衝撃作を次々に世に送りだしてきた白石。彼は「この時代に東映の看板をふたたび掲げる」という大役を担い「中途半端はいらないからやりきってくれ。R15+でもいいから、とにかく尖った映画にしてくれ」との言葉通りに、現代の日本映画界にひと泡ふかせるほどの熱量を持つ本作を作り上げたのだ。

深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズなどで知られる東映の“実録路線”は、一時代を築きあげた任侠映画に代わる新しい日本映画の流れとして70年代中盤に最盛期を迎えた。「僕自身は高校生くらいのころに、ビデオで“実録路線”の作品を観ていました。中でも『仁義の墓場』を初めて観た時の衝撃が忘れられない」と語る白石。

そして「『県警対組織暴力』をベースにした原作なので、改めて観直してみました」と、本作の原点とも言える名作を挙げ「かつての実録映画の熱量と言いながらも、本作は完全なるフィクション。どうやって熱量を維持しながら現代的に置き換えるかを考えた時に、韓国のノワール映画を意識しました」と、様々な模索を重ねたことを明かした。

そんな白石の並々ならぬこだわりは撮影方法に表れている。それは30年前を描いた物語にもかかわらず、すべてのシーンをロケーション撮影で臨んだことだ。「呉という町には昭和末期の雰囲気がいまも残っている。建物やアーケードの光景は、まさに昭和63年で止まっているような感じなんです」。

しかも撮影が行われた広島県呉市は「仁義なき戦い」シリーズの舞台となった場所。「でも『仁義なき戦い』は京都撮影所とその周りの商店街で撮影していて、実景シーン以外で呉が出てこない。だから実際に呉に行って撮影をすれば『仁義なき戦い』に映しだせなかったなにかを切り撮れると思った」と、“実録路線”の金字塔に挑戦した意欲もうかがわせた。

さらに白石は、彼が師事した故・若松孝二監督から受け継いだ社会派スピリットを本作に反映させていることを明かす。「『アウトレイジ』は僕も大好きでおもしろく見たのですが、描いているのはいわゆる暴力団同士によるパワーゲームの話が中心。でも一方で彼らの暴力の割を食うのはいつだって一般の人たち。たとえ底辺から出てきた人たちが集まっても、組織暴力と化したらもう底辺ではなくなってしまうことを忘れてはいけない」。

そして「僕は若松監督が頻繁に言っていた『世の中を注意深く見る』という教えに従って、社会のレイヤーを映画で描いてきました。これからも社会だけでなく、それと対となる組織からでさえも外れてしまうアウトローの人たち、そんな“愚かな人たち”を描写していきたいですね」とつづけた。(Movie Walker・取材・文/久保田 和馬)

https://news.walkerplus.com/article/146888/

あなたにおすすめ