三宅裕司と小林幸子に聞く、熱海五郎一座『船上のカナリアは陽気な不協和音』の見どころと東京喜劇の格好良さ

SPICE

2018/5/10 14:00



三宅裕司が座長を務める「熱海五郎一座」が小林幸子をゲストに迎え、2018年6月1日より東京喜劇『船上のカナリアは陽気な不協和音~Don't stop singing~』を上演する。新橋演舞場に進出して5周年の記念公演とあり、三宅、小林の他、渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博、深沢邦之らお馴染みのメンバー、さらにビッグバンド「三宅裕司 & Light Joke Jazz Orchestra」も出演する。歌謡界の大御所でありながら若い世代からは"ラスボス"の名で親しまれ、どの世代にも説明不要の演歌歌手・小林幸子がビッグバンド・サウンドにのせて歌うジャズと、一流の喜劇人たちによる最高にくだらないギャグ。しかも会場は、新橋演舞場。贅沢な構成に期待が高まる中、三宅と小林に、本作の見どころや東京喜劇の魅力を聞いた。


演歌を歌わない小林幸子


―― 新橋演舞場シリーズ東京喜劇『船上のカナリアは陽気な不協和音』の製作発表記者会見を大変楽しく拝見しました。小林さんは2009年以来、2度目のご出演とのことですが、熱海五郎一座のゲスト女優さんで、2度目の出演を果たされるのは小林さんが初めてではないでしょうか?

三宅 はい、小林さんが第1号です。東京喜劇の笑いができ、音楽性があり、新橋演舞場にお客さんを呼ぶ力のある方って、ものすごく限られるんです。すでに一回りしちゃって、また小林さんにお願いしていると考えても、小林さんがいかに貴重な存在かお分かりいただけると思います。今回は音楽に力を入れた作品をやりたかったので、小林さん以外に考えられませんでした。

小林 そう言っていただけてうれしいです。今回、劇中で演歌は歌わないんですけれどね(笑)。

三宅 演歌の代わりにジャズを歌っていただきます。演歌の小林さんが、ジャズを歌う。この設定には、ちゃんと意味があり、ストーリーにも絡んでいます。

―― 『船上のカナリアは陽気な不協和音~Don't stop singing~』は、豪華客船を舞台に繰り広げられる喜劇だそうですね。小林さんは、エノケン(榎本健一)さん、三木のり平さん、てんぷくトリオさん等、昭和の喜劇を代表する方々とご縁があったとのこと。会見でそのエピソードが紹介された時は、記者席だけでなく壇上の一座の皆さんも興味津々の様子でした。

小林 思い返してみると、笑いとの出会いには恵まれていました。いかりや長介さんも、大変可愛がってくださったんです。『ドリフ大爆笑』という番組でもよく呼んでいただき、「おそうじおばさん」というコーナーも持たせてくださって(笑)。その時に教わったことは、ずっと今も生きていると感じます。

三宅 2009年に出演いただくよりも前から、たしかに小林さんには、軽いトークもできるしシリアスな演技も出来る方という印象がありましたね。


―― お二人は、いつ頃から親交があったのでしょうか?

三宅 最初は『THE夜もヒッパレ』(1995年-2002年。三宅が司会を務めた人気音楽バラエティ番組)ですかね。

小林 「見たい!聴きたい、歌いタイ!」ってご一緒させていただきました(笑)。思えばあの時も三宅さんは、場をまとめる天才だったんですよ。スタジオに入る前の前室からずーっと出演者の笑い声に溢れていて、その空気のまま本番に入るんです。

東京喜劇の演出家・三宅裕司


―― 舞台の演出家としての三宅さんには、どんな印象を持たれていますか?

小林 演出家には色々なタイプの方がいらっしゃいますが、三宅さんは目を三角にして怒るようなことが一切ない方でした。もちろん舞台を作る上で深く突っこんだ話もされますが、誰かに何かを注意するにしても笑いに包んで伝える。言い方が楽しいので、言われている側もつい笑いながら、でもちゃんと「あ、こういうことを言っているんだな」って気がつけるような伝え方。三宅さん、舞台の稽古で怒ったことあります?

三宅 昔、劇団SETですごく怒ったことがあります。怒った直後が自分の出番で、ものすごくばかばかしいことをしなければならなかった。でもあまりに怒りすぎたせいで、咄嗟に詰まってしまったんです。「ああ、これはいかんな」と、それ以来ですね(苦笑)。

小林 なるほどねぇ(笑)。

―― 一座の稽古場の雰囲気もお聞かせください。

小林 毎日本当に楽しかった。稽古と本番をあわせると2か月近くご一緒することになるのですが、それがずっと楽しかったんです! たとえば(春風亭)昇太さんが噛むと皆が喜びます。噛まないと「つまんな~い」って逆のダメ出しが入ったりもして(笑)。

三宅 「まさか昇ちゃん、台詞を覚えてやしないだろうね?」ってね(笑)。コメディを作る時は、稽古場の雰囲気が大事なんです。その点、一座のメンバーは人間的にできています。全員がすでにベテランで、自分の立ち位置も分っている。僕の位置も皆が分っていて協力してくれるのでやりやすいです。

小林 ばかばかしいことを、皆で真剣に作っている姿は本当に素敵ですよ!


コメディだから笑いで乗り越えられればOK


―― 先日80歳記念のコントライブで共演された伊東四朗さんが、三宅さんには「何をやっても拾ってくれるという安心感がある」とおっしゃていました。

小林 伊東さんのおっしゃる通り、三宅さんはどんな球でも全部キャッチしてくれます。

三宅 コメディだからできることです。誰かが台詞を間違えても、笑いで乗り越えられればOK。突っ込みどころがひとつ増えたというだけです。

小林 笑いで乗り越えると言っても、やり方次第ではつまらないものになりますよね? 三宅さんがすごいのは、そこなんです。笑いに持っていく方法をたくさんお持ちで、これが来たらこう、あれが来たらこう。何でも拾って笑いに変えてしまわれます。

―― 反射的にできてしまうのですか?

三宅 “全部芝居の中でやる”ということは意識していますね。例えば誰かが台詞を噛んだ時、「今、台詞を噛んだよね?」と言ってしまうとシラケます。芝居の中でやるならば「言いたいことはわかるが、上手く伝わらない。もう一回いってくれないか」とか。生活の中でもありえる会話で、芝居の世界の中で返します。そういえば以前、伊東四朗さんが台詞を忘れて、後ろに下がりだしたことがあったんです。

一同 (笑)

三宅 本番中で僕も笑いそうになりましたが、「あなた、自分に都合の悪いことがあると後ずさりするでしょ!」って芝居を続けました。

小林 さすがです!(笑)


ジャズと東京喜劇の相性について


―― 今回、劇中で生演奏を披露するビッグバンド「三宅裕司 & Light Joke Jazz Orchestra」は、すでに結成10年を越えています。東京喜劇と並行してジャズを続けてきた三宅さんからみて、喜劇とジャズは相性の良いものですか?

三宅 音楽のリズムの中には4ビートや8ビートがありますが、ジャズに多く使われる4ビートは東京喜劇にあっているかのもしれないですね。8ビートの♪ズンズンタッ、ズンズンタッというリズムは、大阪の喜劇と相性が良さそうです。

――4ビートといいますと・・・。

三宅 ♪ブンブンブンブン、ブンブンブンブン(ベース・ランニング)

小林 ♪ブーン、ブン・ブーン、ブン・ブーン

三宅 ♪チーチッキ、チーチッキ、チーチッキ、チーチッキ(ハイハット)

(同席した関係者一同、2人の即興にどよめく)

―― なるほど! 読者の方に音声でお届けできないのが悔やまれます…。

小林 4ビートは洒落ていますね。その“粋”を全面に出すのが東京喜劇。8ビートはきっちりリズムがあって華がありますから、三宅さんのおっしゃるとおり大阪の笑いに近いイメージです。どちらにもそれぞれの魅力がありますね。

三宅 笑いのとりかたも、大阪はウケる笑いはとことん追いかける。お客さんもそれを期待しますし、実際にそれがウケる。東京喜劇は、3回ツッコんでも絶対にウケるというところを2回目でやめる。お客さんはきっと「もう1回聞きたい!」と思うツッコミをあえてやらずに次に行く。それが格好いいだろ?みたいなところですね(笑)。

―― それが小林さんのおっしゃる“粋”ですね。

三宅 一座でいえば、ストーリーから外れたギャグをしつこくやらない。そこをしつこくやるのが、ラサール石井とリーダー(渡辺正行)です。

一同 (笑)


豪華なセットにせこいギャグ


――小林さんは紅白歌合戦の大トリをつとめたご経験もありながら、ニコニコ動画でボカロ曲のカバーを発表するなど、幅広い世代の方と多くの接点をもたれていますね。若い世代の方々からの愛称「ラスボス」の由来となった大きな衣装は、劇中に登場するのでしょうか?

小林 ラスボスってね(笑)。衣装はストーリー上、必然性があって、三宅さんが「もってきて」とおっしゃるならいつでも! 新橋演舞場でしたら搬入・搬出できますからね(笑)

三宅 いいんですか? 使いますよ? ストーリー展開の中であの衣装でジャズを歌う必要があるかどうかによりますが、豪華客船の中にも立派なステージはありますしね。ただ……あまりに大きな衣装だとバンドメンバーがみんな隠れちゃいそうで。

小林 あはは! そうね。

――小林さんのご出演が、若い方々に東京喜劇を知っていただくきっかけになるかもしれません。

小林 世代によって求める笑いは違うものだと思います。その中でも最近は、楽しみ方があまりにも分散して、細分化されていますよね。ネットの中にもたくさんの笑いがありその形も色々ですから、「東京喜劇は自分には合わないな」と思う子もいるかもしれないけれど、まず劇場に足を運ぶ経験をしてほしいですね。熱海五郎一座の笑いは、どの世代にとっても絶対に面白いですし、きっと癖になりますよ!

――最後に三宅さんからも、お誘いのコメントをお願いします。

三宅 東京喜劇を作る上で「豪華なセットにせこいギャグ」というポリシーがあります。「こんなにくだらないことのために、金をかけてこんなセットを作ったの?!」という格好良さ、すごさを狙いたい。それは音楽にも言えて、「こんなにかっこいい音楽の中に、こんなくだらないギャグを入れるの?!」という落差。この落差から生まれる笑いを、たくさんの方に観ていただきたいですね。なにより「ラスボスがビックバンドの生演奏でジャズを歌うのを観てごらんなさい」って。

小林 ありがとうございます(笑)。

三宅 そこんところを、若けぇ衆によく言っておいてください。

――かしこまりました(笑)。お忙しい中どうもありがとうございました!

熱海五郎一座の新橋演舞場進出5周年記念公演「東京喜劇『船上のカナリアは陽気な不協和音~Don't stop singing ~』」は、2018年6月1日より28日までの全37公演。


取材・文=塚田史香

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