インドの星一徹とその娘たちのドラマ「ダンガル きっと、つよくなる」これもインド映画だ

エキレビ!

2018/4/15 09:45

レスリングに賭けたインドの星一徹と、その娘たち。直球のスポ根ものである『ダンガル きっと、つよくなる』には、インド社会における女性の地位を背景にした深みもある。


インドの至宝アーミル・カーン、レスリング界の星一徹と化す
『ダンガル』の主演はアーミル・カーン。現在インド映画で最高クラスに客を呼ぶ、俳優兼プロデューサーである。日本でも知られている仕事としては『きっと、うまくいく』での主演などがあり、役作りに時間をかける完璧主義者だ。社会運動家としても活動しており、女性や子供の地位向上、カースト制度の暗部に対する取り組みなども行なっている。主演作品は軒並み大ヒット、インド国外でも人気を集める。

そんなアーミル・カーンが自らの会社であるアーミル・カーン・プロダクションとウォルト・ディズニー・ピクチャーズの共同制作態勢で作り上げたのが『ダンガル』だ。テーマは女子レスリング。しかもカーン本人は題材となった女子レスリング選手2人の父親役だという。

カーンが扮するのはインドの元レスリング強化選手であるマハヴィル。現役時代に国際大会で祖国に金メダルをもたらすことができなかった彼は、いずれ生まれるであろう自分の息子にその夢を託す。しかし生まれてくるのは長女のギータ、次女のバビータといずれも女の子ばかり。男の子じゃないなら仕方ないと、夢を諦めるマハヴィル。

しかし10数年後のある日、ギータとバビータが男の子と喧嘩してコテンパンに打ち負かすという事件が起こる。自分の娘が同い年の少年をボコボコにしたのを見て、顔色を変えるマハヴィル。娘たちには、父親譲りの格闘のセンスが備わっていたのだ。その日から「とりあえず1年自分のいうことを聞け」と娘に言い聞かせたマハヴィルは、地獄の猛特訓を娘たちに課す!

元々インド~パキスタンにかけてはレスリングが盛んな土地だ。100年ほど前の伝説のレスラーであり、漫画『タイガーマスク』にも"プロレス史上最も強かったレスラー"として登場するグレート・ガマを筆頭に、格闘技の伝統がある。インド式レスリングのルールは、早い話が相撲に近い。投げかタックルを用いて相手の背中を地面につければ勝ち。『ダンガル』でも描写されていたように、掘り起こしてならした上でバターミルクやごま油、レモンオイルなどを加えた土のリングで戦う。

主人公マハヴィルは、そんな伝統の延長線上にいる男である。寡黙でマッチョ、目つきは鋭い。見るからに頑固親父だ。演じているアーミル・カーンは普段はそこまでコワモテなルックスではないのだが、今回は肉体改造の結果、見るからに怖いレスリング親父となっている。そんな親父が嫌がる娘たち(あと近所に住んでたいとこのオムカルも)に無理矢理レスリングを叩き込む。目指すはインド初の、国際大会での金メダル。完全に『巨人の星』である。スポ根のソウルは国境を越えるのだ。

レスリングの練習はキツい。朝は5時起き、食べ物だって自由に食べられない。練習が終われば土まみれ、髪の毛まで男の子と同じように短く刈られてしまう。しかもコーチはインドの星一徹だ。ほぼ虐待である。おまけに町の人々からは「女の子がレスリングなんて」と笑い者にされてしまう。ギータとバビータは梶原一騎先生の漫画の登場人物ではないので当然練習を嫌がり、あの手この手でサボろうとする。しかし、同級生の結婚の祝いに行った時に、2人の意識は大きく変化することになる。

女性への抑圧を跳ね返す、試合シーンの盛り上がり
結婚式といってもインドの社会制度に則ったものなので、花嫁はまだ10代前半。しかも結婚相手は顔も見たことがないずっと年上の男だ。「私が習ったことといえば家事くらい。自由にレスリングがやれるあなたたちが羨ましい」と同級生に言われたギータとバビータは一念発起、身が入らなかった練習に全力で打ち込み、もともとセンスのあった2人はメキメキと上達。「女の子じゃないか」と揶揄され時には顰蹙を買いながらも、各地のレスリング大会に出場し、年頃の近い男子選手をバンバン投げ飛ばす大活躍を見せる。

ギータとバビータがやる気を出すきっかけからもわかるように、『ダンガル』には女性や子供が十分に活躍できないインド社会へのメッセージが込められている。いまだに女性たちに対する抑圧が強いインドにおいて、ド根性と父親の薫陶だけで勝ち上がってきた女子レスラーは女性たちの希望の星たりえるのだ。

『ダンガル』はこのメッセージを使って、ストーリーを盛り上げる。ギータが最初の試合に出る時、周囲の客は男ばかり。彼らは「思ったよりかわいいじゃん」「試合で服が破けないかな」とゲスい視線を向ける。映画の中でも、この視線はギャグとかではなく、単純にゲスいものとして扱われている。そんな観客の視線を、ギータとバビータ、そして父マハヴィルは文字通りの肉体言語でひっくり返していく。負ければ「所詮女だから」と言われてしまうギータとバビータは、今までの練習の全てを賭けて"マジで強い"ということを示し続けなくてはならない。2人の頑張りと苦労を見ているこっちとしては、「負けるなよ!!」と試合のシーンで盛り上がらないわけにはいかないのである。

この試合が恐ろしく丁寧に描かれる。レスリングの基本的なルールはマハヴィルのコーチの場面で説明されるし、カメラワークものたうち回りながらくんずほぐれつする選手2人の全体像が理解できるよう工夫されている。これによってレスリング特有の「フォールするか、それとも跳ね返すか」「相手を抱えこめるか、それとも逃げられるか」という時間のかかる攻防が、観客のテンションとがっちり噛み合うのである。「レスリングってこんなに映画向きの題材だったのか……」と舌を巻いた。

とりわけ心に残るのは、国際試合の大舞台を前にしたギータにマハヴィルがかける「これは相手の選手との戦いじゃない。女を見下す全ての人間との戦いだ」という言葉だ。たとえ反発されようが、自分の手を離れようが、娘の今までの戦いぶりを見ていた父親だからこそかけられる言葉である。日本公開があまりにもタイムリーな時期になってしまって見ているこちらがビックリしたが(相撲とレスリングが全く異なる伝統を背負っているのはわかりますけども……)、それは置いておいても腹の底から熱くなれる作品であることは間違いない。
(しげる)

【作品データ】
「ダンガル きっと、つよくなる」公式サイト
監督 ニテーシュ・ティワーリー
出演 アーミル・カーン ファーティマー・サナー サニヤー・マルホートラ ザイラー・ワシーム スハーニー・バトナーガル ほか
4月6日より公開中

STORY
かつてインドのレスリング選手だったマハヴィルには、自分がとれなかった国際大会での金メダル受賞を息子にとらせるという夢があった。しかし生まれてくるのは女の子ばかり。ある日自分の娘に格闘のセンスがあることを感じ取ったマハヴィルは、レスリングの猛特訓を娘たちに課す。

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