金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 第7回 みんなで歌おう『武田家滅亡』! プログレ界の「ラピュタ」(ディスクユニオントークイベントの舞台裏・後編)

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2018/4/14 22:40



2018年2月18日、我が率いるプログレ・バンド「金属恵比須」が、ディスクユニオン新宿 日本のロック・インディーズ館において、インストア・イベントを行なった。それをセルフレポートすべく筆を執ったのだが、このイベントの企画を練るにあたり、私自身の出自が大きく影響していたことが判明した。そこで前回は、私とバンド・メンバー稲益宏美およびスタッフ2名が卒業した東京都立西高等学校(都立西高)に焦点を当て、いかなる奇行を繰り広げた青春時代であったかを暴露した。その中で紹介したとおり、完全に浮いていることを「天空の城ラピュタ」と表現された。今回の後編では前編をふまえつつ、2.18イベント当日のレポートを綴っていきたい。

「みんなでつくろう『武田家滅亡』!」、これが今回のインストア・イベントのタイトルである。

『武田家滅亡』とは、金属恵比須が今年2018年の夏~秋ごろにリリースを予定しているアルバム・タイトルである。歴史小説界において飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続ける作家・伊東潤氏のメジャー・デビュー作『武田家滅亡』(角川文庫)をもとにしたコンセプト・アルバムなのだ。しかも、著者本人公認で、作詞までしていただくことになった。

これはバンドにとって一大事。作曲もアレンジもレコーディングも慎重に進めなければならない。メンバー間で喧々諤々の議論が行なわれており、なかなか定まらない。

そこで、どうせだったらいつも聞いてくださっているリスナーの方に直接ご意見をたまわろうとなり、今回の企画となったわけである。

今回のイベント出演者である私と稲益は、車で新宿へと向かう。都立西高のある久我山周辺あたりから、カーオーディオでプリプロダクションCDを流し始め、本日の議題を決める。

持参の機材は、KORG D3200デジタル・マルチトラック・レコーダー。ギターやドラムといった各楽器の音を独立して録音でき、それを再生することができる機材だ。様々な楽器の音量を決めていく、いわゆる「ミックス」という作業をこれで行なえる。それぞれの音量をその場でコントロールでき、それ次第で曲のイメージがガラッと変わってくるから、ミックスは奥深い。

プリプロ(Pre-production;正式レコーディング前に、楽曲の方向性の確認をするために大まかな曲構成やアレンジなどを簡易レコーディングしたもの)の音源とはいえ、衆人環視のもとリアルタイムでミックスしていくという前例は聞いたことがない。しかも未発表の曲。プログレ界での秘密主義的な掟を破り、「プログレ界の『天空の城ラピュタ』」方面にかじを取る。

ディスクユニオン新宿 日本のロック・インディーズ館に到着。 開始時刻は15:30だが、セッティングが完了した10分前から私が喋りはじめる。

「開始まで少々お待ちくださいませ。しばしご歓談を」

金属恵比須のもはや定番となった「前説」。イベントやライヴの開演直前の沈黙が私としてどうしても耐えられず、フライングして喋ってしまったことが発端。そもそもライヴにおいても異様に長いMCを誇っていた金属恵比須なのだが、MCによって終演時刻が大幅に狂うこともあり、悩みの種となっていた。爾来、前説を行なうことによって本編のMCの長さを大幅に短縮させた実績を持つ。

それにしても、我ながらベラベラ止め処もなく喋ることができるなと感心していたのだが、こんなことが書いてある本を見つけた。今話題となっている『世界一孤独な日本のオジサン』(岡本純子著、角川新書、2018年)より。

「なぜ、オジサンは語りたがるのだろうか。それは、ずばり『気持ちいい』からだ。ハーバード大学の神経学者の研究によれば、『自分のことを話す時、(中略)人はお金や食べ物、セックスと同じような快楽を感じる』のだそうだ」(126ページ)

前説によって、私が「孤独なオジサン」になっている気もしてきたので、今後ちょっとは気をつけようと思う。ちょっと、ね。

本編に入る。伊東潤先生の話題の小説『西郷の首』(角川書店)などを紹介しつつ、マルチトラック・レコーダーにスイッチを入れる。本題に。


■討議① 「天目山」のイントロの旋律の音色は、オルガンか? メロトロン・フルートか?


「天目山」とは、1582年3月、名門・武田家が滅びた最後の戦いの場所である。音楽では「天目山の戦い」を表現した。織田信長の軍が、天目山麓の武田勝頼(武田家最後の武将で本小説の主人公)を追い詰め、進軍する場面。

くだんの討議は、マーチング・ドラムに合わせながら徐々に迫りくる笛の音色をどうするか――である。E,L&P「奈落のボレロ」を意識してキーボードの宮嶋が推すオルガン、ジェネシス「エピング・フォレストの戦い」を意識し私が推すメロトロン・フルート。それぞれを聞いていただく。

判定――多数決にてメロトロン・フルートが圧倒的多数で決定。

なお、この曲には後藤マスヒロのドラム・ソロが入っている。ドラムの音だけを抽出して聞けるのがマルチトラック・レコーダーのいいところ。せっかくなので、バス・ドラムだけ、スネア・ドラムだけの音を披露。一同感嘆。「昔、マルチトラックでマスヒロさんのドラムだけ流しながら、それを肴にお酒飲んだよね」と稲益。マスヒロ加入前の金属恵比須での打ち上げでそういえばそんなことをしたものだ。


■討議② 「躑躅ヶ崎館」のシーケンサーは、必要か? 不要か?


「躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)」とは、甲府の武田宗家の居城である。武田勝頼は、新府城(韮崎)に「遷都」することにより、この地を捨てた。荒廃した甲府の様子を私のピアノ・ソロにて表現した曲である。

ピアノ・ソロの後半に、超高速で12音階をプログラムしたシーケンス・フレーズ(シンセサイザーによる自動演奏のこと)を録音していた。私は不安を煽るこのフレーズを是が非でも入れたいと思っていたのだが、稲益がアコースティック・ピアノの上に電子音は合わないということで反対。バンド内で意見が膠着状態となっていた。ちなみに、現在金属恵比須お休み中のドラマー諸石和馬にこれを聞かせたことがあったのだが、そのとき、「ゲーム『ロックマン』の効果音みたいっすね」と評していた。多分、褒め言葉ではない。

判定――僅差で「シーケンサー不要」に。

私は悔しくなり、リーダー権限を発動。再審議に持ち込む。なぜこのシーケンサーが必要なのかを訴える。「このレコーディングの際に、新しい機材を導入したもんでこの楽器を大々的に使いたいんですよ。曲調云々というよりも」

それに対し、稲益が「曲として必要なわけじゃなくて、新しい楽器を鳴らしたかっただけでしょ? じゃあ、なおのこと必要なくない?」

しまった……墓穴を掘った。再審議では、「シーケンサー不要」が圧倒的多数に。完敗である。


■実践講座 「勝頼」に合わせて大河ドラマオープニングを見てみよう


続いて体験型「やってみよう」のコーナーに移る。主人公・武田勝頼をテーマにしたインストゥルメンタル「勝頼」を聞きながら、それぞれのスマホを使い、Youtubeで「大河ドラマ『徳川家康』」のオープニング映像を見るという企画。

この曲は、仮に『武田家滅亡』が大河ドラマ化された場合、オープニング曲として使えるように作曲した。

まず、歴代の大河ドラマのオープニング曲を徹底分析。メロディ、曲調の変わり目、その時間を測り図式化した。メモを取った楽譜ノートも公開。秒数に合わせて拍数を決め、そこにメロディを当てはめていくというように作ったわけである。

それが実際に映像と合っているかをこの会場にてファンの皆様と検証しようというのが今回の意図。「皆さん、スマホで検索をかけてください。キーワードをいいます。『大河ドラマ』、『徳川家康』、『オープニング』」

ご来場のお客様が一斉にスマホを取り出し、操作を始める。音量をオフにして、音楽が流れないようにする。こちらの機材で再生ボタンを押した瞬間、全員でスマホの再生ボタンを押す。会場全員がうつむきながらスマホを見るという前代未聞の事態。もはや「DIYシネマコンサート」と化す。これも「プログレ界のラピュタ」的な発想と自負している。

ちなみに、会場ではお伝えしなかったが、今年の大河ドラマ『西郷どん』が歴代の中で最も合う。「勝頼」作曲は2017年9月なので、2018年1月放映開始の『西郷どん』に合わせようがないのだが、「勝頼」はこのために作られた曲なのではないかと錯覚してしまうほどだ。裏を返せば、このドラマのオープニングの流れは大河ドラマのオープニングのセオリーを最も忠実に守った映像ともいえる。面白いものだ。


■討議③ 「武田家滅亡」の「危機」風ギターは、必要か? 不要か?


今回のアルバムのテーマ曲である「武田家滅亡」。伊東潤先生の作詞したストーリーテリングな歌詞の裏に、危機感を煽るため、イエスの名曲「危機」をオマージュしたフレーズを忍ばせた。しかし、ベースの栗谷がこれに異議を唱える。

「ちょっとしつこくない?」ということで議論の俎上に。

判定――圧倒的多数で「必要」に。

その際、更なるアドバイスをファンの方からいただく。他に鳴っているアコースティック・ギターは控えめで、「危機」ギターは大きめで。このように議論百出、問題解決が早まるのはバンドにとって非常に健全な状態である。民主主義万歳。

■おまけ 「武田家滅亡」のコーラスをみんなで録音しよう!


ここで参加型コーナー。

どうせマルチトラック・レコーダーがあるのなら、この場で録音だってできる。「武田家滅亡」という曲には、「武田家! 滅亡!」と叫ぶサビがあるので、どうせだったら会場全員で叫んでもらおうというコーナー。

テイク1回目で野武士のような声が録音できた。稲益はこの場で「ディスクユニオン新宿合唱団」と命名。クレジットされることとなった。

実はこの企画、行きの車の中で、ちょうど西高の前を通った辺りで思いついたアイデアだった。「西高のラピュタたち」はやはりホームでこそいいアイデアが思いつくのかもしれない。

なお、先日、ミックス作業(録音したそれぞれの楽器や歌を混ぜていく作業)を行なったのだが、その時の模様がこの映像。


がっつりと大きくディスクユニオン新宿合唱団の歌声を混ぜさせていただいた。

最後になるが、このイベント、当初は「後藤マスヒロ解体ショー」と題し、後藤マスヒロが過去に在籍した頭脳警察や人間椅子、GERARDなどのドラム・プレイを聞きながら貴重なお話を伺うという企画だった。

しかし、マスヒロの体調不良により急遽このような内容になったのである。お蔭様でマスヒロの体調は回復し、無事に金属恵比須に復帰している。では「後藤マスヒロ解体ショー」自体はお蔵入りになったのかと思いきや、4月29日(日)14時より、HMV三宮VIVREにて「後藤マスヒロ解体ショー in 神戸」を行なうことが決定。観覧無料。マスヒロの神戸上陸は人間椅子のツアー以来18年振りである。

これは見逃すわけにはいかない。マスヒロ・ファンの私が一番楽しみにしていたりする。

その日の夜には神戸チキンジョージにて関西初公演もある。なんと学生だったら無料で入れる。これを機会に「プログレ界のラピュタ」をとくとご覧いただきたい。もしかしたら、裏をかいて全くプログレをやらないかもしれない。


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