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“美少女原理主義者”が撮った倒錯的純愛ワールド!! Wヒロインがせめぎあう快楽の極み『聖なるもの』

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 心理学者フロイトの言うところの“快感原則”に従って、庵野秀明監督がテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系)を生み出したことはファンの間では有名だろう。自主映画シーンで活躍する岩切一空(いわきり・いそら)監督の新作『聖なるもの』もまた、快感原則に忠実に従って撮り上げた実写映画となっている。

新歓シーズンで賑わう大学の映画サークルを舞台にした前作『花に嵐』(16)がPFFアワード準グランプリ、「カナザワ映画祭」観客賞を受賞するなど、1992年生まれの岩切監督は新世代の映像クリエイターとして注目されている。岩切監督が最後の自主映画という触れ込みで完成させた『聖なるもの』は、若手監督の登竜門となっている「MOOCIC LAB2017」で長編部門グランプリを含む4冠を受賞した話題作だ。『花と嵐』と同じく“初めての映画撮影”に浮き足立つ主人公を岩切監督自身が演じ、これまで以上に“美少女原理主義者”としての信条を鮮明に打ち出したものとなっている。

岩切監督が「聖なるもの」と名付けた上映時間90分のこの映画を一度観ると、ひと言も台詞を口にしない無口なヒロイン・南美櫻、そして19歳のときに主演・監督した『あさつゆ』(16)が「ゆうばりファンタスティック映画祭」に入選した才媛・小川紗良という、真逆な魅力を持つ2人の美少女の輝きが網膜に焼き付いて忘れられなくなってしまう。

ストーリーはこんな感じだ。全国から上京してきた新入生たちがキャンパスに溢れる新歓期の大学は、まるで毎日がお祭りのような騒ぎ。そんな中、映画サークルに所属する大学3年生の岩切(岩切一空)は、まだ一本も自分の映画を撮れずにいることに焦っていた。先輩が撮る新作映画の主演女優探し&新入部員の勧誘に励むも、メタボ体型でオタクな風貌の岩切が声を掛けても、なかなか女の子は立ち止まってくれない。先輩から無能呼ばわりされて落ち込む岩切だったが、新歓合宿で奇蹟の出逢いを果たすことになる。合宿に向かうバスの中に、名前も知らない、見覚えもない、黒髪の透き通るような白い肌をした美少女(南美櫻)が、ひとりで静かに佇んでいたのだ。

どこからともなく現われた美少女は、どうやら映画サークルに代々伝わる“新歓の怪談”の少女らしい。4年に一度現われ、「彼女を見た者は、衝動的に映画を撮りたくなり、唯一彼女に選ばれ、彼女を被写体に撮った映画は必ず大傑作になる」と言い伝えられていた。誰もいない夜更けの海で、くだんの美少女は裸になって黒い波とひとりで戯れていた。岩切はどうしようもなく叫ぶ。「僕の映画に出てください!」と。

いつもはオドオドしている岩切だったが、自分が監督する映画に主演してくれるヒロインが見つかったことで、態度が急変する。名前のない美少女に、漫画『タッチ』のヒロインの名前にあやかって“南”と名付ける。さらには南がケータイを持っていないことから、「連絡が取りやすいし、いろいろ映画の話もできるし」という口実で、アパートの一室で同棲生活を始める。

おのれの欲望丸出しで、映画製作にのめり込んでいく岩切。映画サークルの有能な後輩である理工学部2年の小川(小川紗良)に対しても、強気でキャスティングを決めてしまう。小川は自分の監督作の準備を進めていたが、岩切のいつにない熱意に押し切られ、5月いっぱいなら岩切の映画に協力すると約束してしまう。南と小川というダブルヒロインを手に入れて、我が世の春を謳歌する岩切だった。だが、南と小川という正反対な魅力を持つヒロインたちは化学融合を起こし、撮影現場は誰にもコントロールできない状況へと陥っていく。

謎のヒロイン・南を演じるのは、プロフィールをいっさい公表していない南美櫻。岩切監督が5年前から出演交渉し、『聖なるもの』が岩切監督の最後の自主映画になることから出演をOKした。台詞はなく、瞬きもせず、劇中劇の中で「こちらの世界」から「向こう側の世界」へと抜け出そうとする女子高生役を演じる。岩切監督にとって至高のミューズである南美櫻だが、そんなミューズに対しても岩切監督は容赦ない。夜の海の場面では、プロの女優ではない彼女のヌードシーンを用意している。大切な人に自分の映画に出てほしい。そして、まだ誰にも見せたことのないレアな姿をカメラに収めさせてほしい。岩切監督の願望はひどく捻れていて、とても純粋である。

劇中劇では女子高生役の南をいじめ、向こう側の世界へ行こうとする南を阻止しようとするクラスメイト役の小川だが、南美櫻がカメラの中で無言の魅力を発揮するのに呼応して、小川紗良も岩切ワールドに溶け込み、呼吸を始める。岩切監督の大学のサークルの後輩だったことから小川紗良は出演することになったそうだが、当初はそれほど出番は多くなかったと思われる。ところが静の魅力を醸し出す南とは対照的に、本人はクールのつもりなのに内面はいつも揺れ動いている小川は動的魅力に溢れ、この2人は相乗効果で輝きを増していく。

庵野監督の『エヴァンゲリオン』でいえば、謎めいた南は綾波レイ、勝ち気な性格の小川は惣流・アスカ・ラングレーを思わせる。後半からは小川の感情の揺れをカメラはどんどん追い掛け、小川のクローズアップが増えていく。岩切が、いや岩切監督が2人のヒロインの間で右往左往していることが手に取るように伝わってくる。さらには『エヴァンゲリオン』の葛城ミサトのようなお姉さんキャラの松本(松本まりか)も現われ、岩切の映画をサポートすることを申し出る。美少女原理主義者である岩切監督は、すべての女性を美しく撮ることに特化していく。だが、女たちのあまりの美しさと奔放さに、岩切が頭の中で夢想していた小さな物語はあっけなく崩壊する。残された岩切は、自制心を失った欲望の塊のモンスターとして暴れ回るしかなかった。

週末を利用して、撮影が進められた『聖なるもの』。すべてのシーンを撮り終えるのに半年を要したそうだ。岩切監督にとっては長いようで短く、そして切ない半年間だった。撮影が終了すれば、サイコーに美しいヒロインたちともお別れしなくてはならない。いつまでも映画の撮影が続けばいいのに。永遠に五月のままならいいのに。できれば、ミューズは自分の世界だけに閉じ込めておきたい。でも、ミューズは男のそんな浅ましい思惑をするりと通り抜け、向こう側へと軽やかに駆け出していく。

庵野監督が快感原則によって生み出した『エヴァンゲリン』だが、その世界には阪神・淡路大震災&地下鉄サリン事件に喘いだ1990年代の日本社会の混迷ぶりが見事なまでに映し出されていた。そして『シン・ゴジラ』(16)では、東日本大震災&福島原発事故というセカンドインパクトからの復興へと向かう現代の日本社会を描いてみせた。庵野監督ばりの快感原則に従って、最後の自主映画『聖なるもの』を撮り終えた岩切監督。これから彼はどんな世界へと向かうのだろうか。
(文=長野辰次)

『聖なるもの』
監督・脚本・撮影・編集/岩切一空 劇中歌・主題歌/ボンジュール鈴木 
出演/南美櫻、小川紗良、山元駿、縣豪紀、希代彩、半田美樹、佐保明梨、青山ひかる、松本まりか
配給/SPOTTED PRODUCTIONS 4月14日(土)よりポレポレ東中野にてレイトショー公開、全国順次公開
C)2017「聖なるもの」フィルムパートナーズ
http://seinarumono.com

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