【試写室】「黒井戸殺し」野村萬斎を“生かす”大泉洋の芸達者ぶり

ザテレビジョン

2018/4/14 07:00

突然ですが、3時間あったら何をしますか?

例えば映画など2時間~2時間半程度のものが多いから見られるし、友達とカラオケに行ってもたくさん歌えて満足できるくらいの時間だろう。

むしろ3時間あれば新幹線なら東京駅から新神戸駅まで行けるし、成田空港から韓国の仁川空港までだって行ける。

この楽しみ方がいろいろある時代に、3時間もの間ずっとテレビの前に座ってドラマを見ているのは難しいのかもしれない。時間の使い方、楽しみ方は人それぞれいろいろあっていい。

ただ、海外にも行ける時間を使ってでも見るだけの価値があるドラマに出逢ってしまった。

各局で放送されているドラマやバラエティー、アニメなどを事前に完成DVDを見て、独断と偏見とジョークに満ちたレビューで番組の魅力を紹介する、WEBサイト・ザテレビジョン流「試写室」。

今回は、4月14日(土)に放送されるスペシャルドラマ「黒井戸殺し」(夜7:57-11:10、フジテレビ系)を取り上げる。近年のドラマとしては異例の約3時間にわたる大作だ。

アガサ・クリスティが1926年に発表した人気長編推理小説「アクロイド殺し」を、三谷幸喜の脚本により日本で初めて映像化する本作。

原作の「アクロイド殺し」はアガサ・クリスティによる6作目の長編小説であり、エルキュール・ポアロシリーズの3作目だ。

事件が起きた人間関係を知るポアロの隣人による手記を読んでいく形で進んでいく本作は、その結末におけるトリックの斬新さによって、当時世界中に衝撃を与えた。

日本でのドラマ化に当たって鬼才・三谷が脚本を担当し、「黒井戸殺し」として「三谷流・アクロイド殺し」を作り上げた。

主演は、フジテレビ開局55周年特別企画として2015年1月11、12日に2夜連続で放送された「オリエント急行殺人事件」でも名探偵・勝呂武尊を演じた野村萬斎、彼の良き相棒としてコンビを組み、事件の謎に立ち向かうことになる医師・柴平祐を大泉洋が演じる。

ほか、向井理、松岡茉優、寺脇康文、藤井隆、今井朋彦、吉田羊、佐藤二朗、草刈民代、余貴美子、斉藤由貴、遠藤憲一らが脇を固める。

■ STORY

昭和27年3月、片田舎・殿里村で、富豪の未亡人・唐津佐奈子(吉田)が寝室で死亡しているのが見つかる。

村で唯一の医師である柴 平祐(大泉洋)は、その検死のため朝から唐津邸を訪れた。死因は睡眠薬の過剰摂取。

佐奈子は昨年、夫を毒殺した疑惑があり、柴の姉・カナ(斉藤)は、佐奈子が夫殺害の罪にさいなまれ自殺したのでは、と推測する。

柴の親友で村一番の富豪・黒井戸禄助(遠藤)は、佐奈子に結婚を申し込んでいたため、彼女の死に大変なショックを受ける。黒井戸は、自宅に柴を招き、姪・黒井戸花子(松岡)、義妹・黒井戸満つる(草刈)、秘書・冷泉茂一(寺脇)、旧友・蘭堂吾郎(今井)らと食事をした後、柴と二人になると、佐奈子が夫殺しの件である男に脅されていると話していた、と明かした。

そこへ、佐奈子から遺書が届く。黒井戸は一人でそれを読みたいと言ったため、柴は屋敷を後にした。屋敷を出たところで、柴は、復員服を着た見知らぬ男(和田正人)と擦れ違い、不審に思いながら帰宅する。

すると、黒井戸が何者かに殺害された、と黒井戸の執事・袴田(藤井)から電話が来た。

柴が屋敷に駆け付け袴田に聞くと、そんな電話をした覚えはないと言う。嫌な予感がした柴は、黒井戸の部屋の鍵を壊し中に入ると、黒井戸が短剣で背中を刺されて死んでいた。

その後、屋敷に刑事・袖丈(佐藤)が到着し、捜査が始まる。聴取を受けた女中頭・来仙恒子(余)が、東京にいるはずの黒井戸の義理の息子・兵藤春夫(向井)を村で見かけたと証言したことから、春夫に疑いがかかる。

春夫の婚約者・花子は、春夫の疑惑を晴らそうと考えを巡らす。半年前に柴家の隣に引っ越してきた職業不定の不思議な男が、実は引退した名探偵・勝呂武尊(萬斎)だと思い出した花子は、ぜひ勝呂に捜査を依頼したいと、柴に相談に来る。

あまり気乗りしない柴だったが、花子の必死の願いを受けて勝呂に捜査を依頼。勝呂は花子の依頼を快諾し、柴にシャーロック・ホームズのワトソンのように相棒としての協力をお願いする。

渋々勝呂と行動を共にすることにした柴。コンビとなった二人は、捜査を開始するのだが…というストーリー。

■ 独断と偏見のレビュー

既に長い文章をさらに長くしてしまうが、つくづく「アクロイド殺し」を事前に読まなくて良かった…というのが約3時間見てからの率直な感想。

小説を知ったころ「アガサ・クリスティ? ふん、それよりLa'cryma Christi(ラクリマ・クリスティー)だべ」とビジュアル系のロックバンドに走っていなければ、恐らくこれを読んでしまい、今回実写化されても「あぁそうなるよね」と純粋に楽しめなかっただろう。

その真偽はともかく、3年ぶりにクセがすごい名探偵・勝呂のお出ましだ。

「オリエント急行殺人事件」のときも、途中までは正直勝呂のしゃべり方が気になって仕方なかったが、だんだん違う意味でクセになってきてしまい、いつの間にか不思議な心地よさを感じていたことは今でも覚えている。

今回も、登場こそ「出たな…」と構えてしまったものの、大泉演じる柴医師とバディを結成したあたりからは、全然気にならなくなった。

ホームズにはワトソンが、杉下右京には歴代相棒が、(先代の)円楽師匠には山田くんがという具合に、萬斎には大泉とばかりに、2人そろうと意外な化学反応が起こる。

三谷作品ということもあって大泉のライトなツッコミがさえるコメディー要素も所々で主張。適度なツッコミがあってこそ、勝呂のキャラがいい感じに溶け込み、濃いコーヒーに入れたガムシロのように静かに効いてくる。

ちょっと何言っているか分からないが、つまり個性強めな勝呂の立ち居振る舞いを、視聴者の代弁的に柴がうまく回収してくれるということ。

萬斎自身、放送に当たって「彼が居ると場が明るくなり和みますね。今回、柴医師のセリフの量もかなり多かったのですが、それにもかかわらずいつもにこやかに撮影現場を盛り上げてくれました」と大泉に全幅の信頼を置いていたのも、頷ける。

そんな大泉演じる柴の姉・カナ役の斉藤。異論は認めるが、個人的に思うこれぞ「女優・斉藤由貴」の真骨頂だろう。

好奇心旺盛でおしゃべり好き、チャーミングで図々しい、本人もコメントで言っていたが「KYなキャラクターで弟を困らせる」タイプ。近年、この手のジャンルの女性は彼女の独壇場だ。

先日、32年ぶりにブルーリボン賞(助演女優賞)を受賞したのも話題になったが、いい意味で今が一番脂がのっている時期なのかもしれない。カレーを作る後ろ姿に注目してほしい。

ほか、佐藤二朗演じる袖丈警部&執事の袴田役・藤井隆の「いつボケるのか」待ち、大御所いるところに天真らんまんな松岡茉優ありの図式など、一級品のミステリーであることをしばしば忘れて楽しめる要素も多々ある。

それに、3年前にもチラッと思ったことがだ、勝呂はある意味理想の上司とも思える。

周りの意見に耳を傾け、「素晴らしい」「あながち間違いではない」「その線もあるでしょう」。

これは意外と大事なことで、上司や上の立場の人から頭ごなしに否定されると、これ以上何も言う気にならないのだが、参考にしてもらえているということだけでも、モチベーションにつながるのでは?

そういう人たらしな側面があるからこそ、すぐに警察も信用して、捜査協力を依頼するのかも。それにしても、すぐ信用し過ぎな気がするけども…。

「点と点がつながって線になる」とよく言うが、謎解きシーンが始まると、ズバリそれが浮かんだ。

ある脚本家は後ろから物語をつむぐという話を聞いたが、これもそういう作り方をしたのではないか?と思うほど、実に見事な回収っぷり。

って、手放しに絶賛するとテレビ局に媚を売っているんじゃないか?とたたかれそうだが、そんなアクドイ労働ができるほど、キレ者ではないし、かといって脳細胞が灰色でもない。

ひとまず、この手記を書くのに疲れたのでこれにて隠居して、四角いカボチャでも作ろうかな。(ザテレビジョン・文=人見知りシャイボーイ)

https://news.walkerplus.com/article/143692/

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