『孤独のグルメ』スタート!「こういうのでいいんだよ」という美学を覆すとんかつ屋の“追いステーキ”ってナンだ!?

日刊サイゾー

2018/4/13 22:30


 レギュラー放送としては1年ぶりとなる『孤独のグルメ Season7』(テレビ東京系)がスタート。

ほぼ毎年レギュラー放送があり、さらに昨年は大みそかの年越し直前枠を2時間SPで任されるまでになった人気コンテンツ。もはや局を代表する顔だ。ただおじさんが独り言を言い(思い)ながら飯食うだけの地味な番組なのだが、それが逆によかった。

言うまでもないが『アンナチュラル』(TBS系)や『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)で1~3月期もフル回転だった松重豊を押し上げた出世作。

Season7の開幕を飾るのは上尾(埼玉)。Season6こそ大阪での遠征スタートだったが、それ以外の初回は、門前仲町、新丸子、赤羽、清瀬、稲田堤というクラクラするほどの地味具合。この気負わぬスピリットは変わらずだが、しかし今回の上尾でのとんかつが、とんでもないやつだった。

■第1話「埼玉県上尾市本町の肩ロースかつ定食」



前日、すんでのところでとんかつを食いそびれた五郎(松重=個人でやってる輸入雑貨の貿易商)は、朝から腹がとんかつ状態。アンティーク照明を希望する呉服店主夫妻にカタログを届けに来たのだが、返す刀で着物を売りつけられそうになる。「売るか、売られるか」の弱肉強食なセールス合戦。なんとなく付き合い的にこちらも「買わなきゃいけない」ような気持ちになるのは営業あるあるだ。

「あやうくミイラ取りがミイラになるところだった」が、なんとか脱出。一安心したその直後、恒例・食事決心のシーン。いつもの「よし、店を探そう」を「よし、とんかつを探そう」とセルフパロディ。

とんかつはSeason1の第6話で「ミックスかつ」、Season4の第7話で「カツサンド」を食べているが、意外とがっつりのとんかつ単体は初めて。

いつもは惹かれそうな中華、洋食、うなぎに目もくれず、とんかつを求め彷徨う五郎。上尾市役所前で職員が行く飯屋があるはずと推理。(実は市役所に隣接する食堂にも、とんかつがあるのだが)長いとんかつクエストの末、たどり着いたのが今回の舞台・キセキ食堂だ。

結論から言うと、地元では有名な人気店。今回の放送を知った店のファンは、むしろ「バレて」しまうことを悲しんでいるだろう。

ドラマ内でも繁盛店として描かれているが、少なくとも今の時点でふらっと来て並ばず入れるようなことはないだろう(放送翌日にいたっては店頭のシート記入がいっぱいになり開店時間前なのに「品切れ」となるほど)。

五郎が選んだのは、肩ロースを低温熟成したという人気ナンバーワンのキセキ定食。カツとステーキ(豚)があるのだが、「初めての方にはステーキをお勧めします」という注意書きを振り切り、カツを選ぶ「初志貫徹」。

■メジャーで肉を採寸する五郎



出てきたカツは『なにこの威圧感』とビビるほどのデカさ。

思わずメジャーを取り出し採寸しちゃう五郎。前シーズンでもアジフライを測っていた恒例のアレ。

横16センチ、縦10センチ、高さ4センチ5ミリ。立体感がレンガのよう。

真ん中の切り身にだけソースをかけ、箸で持ち上げるが、デカい。「ジェンガだな!」と例える心の声もデカかった。ジェンガがピンとこない人は、赤ちゃんの靴くらいのデカさを想像してほしい。もしくは小さめのテレビリモコン。一切れが、だ。一口かじって「何だよこれ、笑うしかないなあ」と目尻が垂れる。この番組(原作)を端的に表す名台詞「こういうのでいいんだよ」という美学とは明らかに違う、今までになかった圧倒的な美味さに屈服する感じ。

続いて塩で一切れ。

「塩とんかつがうまいってことは肉がいい証し。それを白いご飯で追っかける法悦(ほうえつ)」

塩レモンでも一切れ。

「今俺が食ってるのは肉の形をした幸せだ」

辛味噌で一切れ。

「今度は辛味噌で名古屋に行ってみるか!」

ふんだんな調味料でバイキング状態を楽しむ五郎。キャベツもごまドレやソースで味替え。どこにでも幸せはある。

ちょいちょい「ごまドレいってみよー」「塩レモンいってみよー」と宣言する五郎が、いかりや長介みたいでどこか頼もしい。

くどいようだが、肉一切れがデカく、五郎ですら場合によっては4口で食べていた。女性なら5口から6口は要するはず。中は低温熟成ということで、ほんのりピンク。生だと誤解する人もいるらしく、しっかり中まで火が通っていることを告げる張り紙が店内にあるほど。

低温熟成ならではだと感じたのが、箸で肉片を持ち上げた際、両端が微妙にプルンとたわむこと。柔らかそうな食感が口に広がる。食ってないけど。

「肉食ってる感が尋常じゃない肉」

これが230グラムの定食で1,000円。自分が地元民なら紹介した番組を生涯呪う。

■とんかつの後の「追いステーキ」



さらに隣の客の「キセキのステーキとかつ100グラムずつ」という注文の仕方に注目し、「そういうのアリなのか……」とキセキのステーキ100グラムを追加。思わず隣の客に「助かりました」と礼を言い、動揺させてしまう五郎。今回も飯の海を自由に泳いでる。

ラストのかつ一切れを再度とんかつソースで締める。ソースに始まりソースで終わる美学。

そして美学とはとても思えない追加のステーキが到着。

「衣を脱いでなお旨し」という肉をステーキソースで。

「これはご飯いらない、肉で肉が食える」らしい。注文時にも「ここで追いステーキをかませたのはうれしい」と喜んでいたが、五郎独自の言語感覚がこのドラマの人気を支える一つ。いやメインといってもいい。追いステーキって、ソイソースみたいでどこかしっくりくるし。

店員お勧めのオニオンソース。豚肉と玉ねぎの相性の良さから「生姜焼きの原理か」と発見する五郎。美味い組み合わせを考えている時、その舌は科学者だ。

今回、ぜひ確かめたくなったのは、わさび醤油で食う(この店の)豚肉の美味さ。この組み合わせを「ベストアンサー」だと断言した五郎。

「俺の舌は今、感動にむせび泣いている」

食えるか心配していたくせに、結局「あと300グラムくらい全然イケる」と胃袋フル回転。量を食っても軽い肉なのだろう。

「こんなとんかつとこんなステーキが、上尾の街に潜んでいたなんて。豚肉の道、奥深し」

そして原作者・久住昌之がロケ地で飯を食う「ふらっとQUSUMI」のコーナー。原作漫画にない店しかドラマでは描かれないので、作者が来るのも基本毎回初めて。

まずは予約限定の牛タンステーキを、わさび醤油で。美味いに決まってる。驚いたのは小ぶりの熟成ひれカツの150円といういう値段。小ぶりといっても久住ですら4口以上かかりそうな立派な「小ぶり」っぷり。店からしたら大迷惑だろうが、これとご飯だけでも昼飯としてアリだと思ってしまった。

本編でメニューだけ出てきたお子様定食(カツまたはステーキ)も350円だし、五郎も言ってたが、いくら精肉店が経営してるとはいえ「店として大丈夫か?」。

■「行かない」視聴者でも、ただ見るだけで楽しめる作り



この番組は基本実在する店やメニューで撮影しているのだが、店員は役者が演じているし、味わってるのも、あくまで架空の存在・井之頭五郎であって松重豊でないし、もちろん物語部分はフィクション。ドラマ本編部分には必要以上の「情報」的なものは差し込まず(久住コーナーが「情報」に当たるが、あくまで脇。逆に裏返しでここを「メイン」だと言う人もいる)、視聴者が「行く」という前提を強く押し出してはいない。

「食べたいけど行くの面倒臭い」とか「一見さん入りづらそう」とか「そもそも行く時間ない」とか、そういった萎える感情から解き放たれ、ただ井之頭というどこにでもいそうな人物が、ただ一人、悩んだり浮かれたり発見したりしながら日常の飯を享受するサマを観て楽しめばいいだけだ。

グルメ情報を見てる時につきまとう「でもどうせ俺は行かないしな……」という劣等感に苛まれることがない。

もちろん行きたくないわけではない。そりゃ行きたいし食べたいのだが、それはそれとして、「ここ」に行かないで「これ」を食べなくても、別に構わない気持ちにさせてくれる。腹が減ったら各々のとんかつ「らしき」ものを食えばいいのだ。

だがしかし、今回はこのキセキのとんかつは食ってみたくて仕方がない。うれしいような悔しいようなこの気持ち。

あくまで五郎が食らうところを鑑賞することで「自分の中に眠る食の思い出を喰らう」的な楽しみ方を提示してきた番組だったのに、こんなに感情をかき乱されるとは。

Season6でもラム肉だらけの中華という未知の味を突きつけ我々を困らせた「前科」があったが(第8話)、今回は王道の味でありながらそのクオリティの高さと圧倒的なコストパフォーマンスで仕掛けてきた。この方向が番組的にどう影響するかはまだわからない。今週の「世田谷区経堂のバイキング」を待ちたい。
(文=柿田太郎)

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ