世界に広まった「せともの」の謎は、本業窯を訪れることでわかる

TABILABO

2018/4/13 05:59


瀬戸焼をめぐる観光をしたいなら、「瀬戸本業窯(せとほんぎょうがま)」は外せない。

古い登り窯が残っていることや、きちんとしたギャラリーがあることもその理由だけれども、現代の瀬戸のルーツを垣間見ることができるからだ。瀬戸本業窯の八代 半次郎 後継である水野雄介さんは、黄瀬戸の皿を裏返してこう言った。

「ほらね、普通は作家名を彫り込むんですが、うちのものには無いんです。必要が無いから」。この言葉こそが、瀬戸が九谷や益子などの焼き物名産地と、一線を画すものである。

本業は
実用プロダクト



焼き物を趣味にしようと思ったら、いったいどれくらいのお金を使うことになるだろう……そんなイメージがあるかもしれない。

どの焼き物産地に行っても、桐の箱に入っている有名陶芸家の作が目に入る。でも、水野さんは本業窯の器「本業焼」を大事にするため、銘を入れないのだという。


「瀬戸は、日本のどの土地よりも先に釉薬(ゆうやく・うわぐすり)を使い始めました。それまで、焼き物は水がしみ出してしまう素焼きのようなものでしたが、釉薬でガラス層を作ることで、耐水性を兼ね備えたんです」


「瀬戸には、こうした実用品を革新してきたポテンシャルがあります。今でこそ銘が価値を生むのですが、当時は銘など必要がなかった。職人が作った実用品は、実用することで価値を生み出してきたわけです」

つまり、銘をいれて価値を証明する必要はない。本業焼には、プロダクトとしての価値がある。

本業は、プロダクトの価値自体で現代も勝負し続けているのだ。

90年前に滅びかけた登り窯を
昭和54年まで動かした



今でも、瀬戸の街には陶業が根付いている。しかし、従来の製法で器を作っている窯は少なく、車の部品や電気関係の部品、セラミック素材の長所を活かした産業へ転化した。その波に乗れなかった窯は、次々に廃業に追い込まれていった。

本業窯が今でも伝統的な窯業を続けられるのは、一度近代化の荒波に耐えたからだ。

「かつてこの山には、14連房の登り窯がありました。当時ギネスブックがあれば、きっと掲載されたと思います。ここだけでなく、瀬戸のいたるところに登り窯がありました。そのうちに、瀬戸周辺の木が燃料として切り尽くされてしまって、燃料は石炭になり、重油になり、今のガスや電気窯まで進化しました」


「それに、登り窯を操業するには、人の手が必要でした。戦後、GHQの指導によって財閥が解体されたのと同じように、窯の共同体も解体されて、個人で窯を操業しなければいけなくなったのです。そうして、旧来の窯から段々と革新を遂げていき、瀬戸の街は繁栄を続けますが、この本業窯だけは頑なに登り窯での陶業にこだわったんですね。私の父は、おそらく登り窯に火を入れた最後の生き証人でしょう。本業窯は、登り窯を昭和54年まで使い続けました。まわりが効率化を進めて利益を高めていくなかで、相当つらい時代を過ごしていたと思います」

本業とは、瀬戸における旧来の焼き物のこと。その後の瀬戸の焼き物は「新生」と呼ばれて区別される。本業は固有名詞ではなかったが、水野一家が守り続けたことで「本業窯」が水野家の窯を指すことになった。

個性を大事にする時代が
コモディティ化を促進する



石皿、馬の目皿、麦藁手、染付。本業が作るプロダクトは、芸術ではなく工芸としての美に溢れるものだ。瀬戸が、「自分たちのプロダクトだ」と胸を張って言えるものでもある。

瀬戸は、あまりに陶業に優れていたことから、日本に「陶磁器=瀬戸物」という言葉を浸透させるまでに至った。しかし、そのことが「瀬戸」の個性を見えづらくしているのも事実。どの産地の陶磁器でも、プリントものの茶碗でも、僕らは瀬戸物と呼んでしまっている。本来の「瀬戸焼」を瀬戸観光で見つけるのは至難の業だ。

「美大に行くと、個性を大事にしろ、個性を作品に出せ、と言われますよね。今は、土でも釉薬でも好きに取り寄せて自由な作陶ができる。でも、そればかりになると瀬戸から離れたものになっていってしまう。強いては、それがチェーン店ばかりの地方都市を創り出しているようにも思うのです」

と水野さん。

本業で「今」を味わう



伝統を大事に守り続けてきた本業窯の脇には、かつて倉庫として使われていた建物をリノベーションした「窯横カフェ」がある。

店主の杉山奈津子さんは、名古屋での煌びやかな暮らしから一転、この瀬戸の街へやってきた。日本各地のワイナリーを巡っていたバイヤーだった。


このカフェでは、窯職人のパワーフードだった「ごも(五目飯のこと)」などの伝統食も食べられるけれど、本業の馬の目皿や三彩に出てくる甘物がおいしい。

本業の器は、いわば雑器で、何をのせても絵になる。きっと昔から、こうして庶民の暮らしを支えてきたのだと思うと、馬の目皿の一枚でも買って帰りたいなと感じた。


瀬戸本業窯
住所:愛知県瀬戸市東町1-6
TEL:0561-84-7123

「窯横カフェ」
TEL:050-3576-9671


Photo by 稲垣正倫

取材協力: 瀬戸市

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