会社は治外法権じゃない! 不倫の噂で解雇、業績いいのにリストラ、残業代を払わない...労働基準法を無視する会社

リテラ

2018/4/12 16:00


 労働事件をやっていると、「素直に認めればいいのに......」と思うような使用者側の無茶な抵抗に遭遇することが多々ある。私が見た無茶な抵抗のいくつかをご紹介する。

これはとある会社に対する残業代請求事件。残業代について、会社は残業代算定の基礎となる賃金を一方的に1時間1000円と定め、残業代を支払っていた。依頼人の基礎賃金を正しく計算すると1000円より遥かに高いので、相当額の残業代の未払が発生していた。

証拠はかっちり固まっているので、会社側が争う余地はまったくない。この場合に会社が取るべきもっとも賢明な手段は「さっさと払う」ということである。なぜなら、退職者に対して未払いの賃金がある場合、全額支払うまで年14.6%という高い利率の遅延損害金がつくからである。依頼人は退職済みであった。

さらに、こじれて訴訟にまで発展した場合、付加金というのを支払わされることもある。付加金というのは罰金のようなもので、最大で未払残業代と同じ額を支払わされる。つまり、無駄な抵抗を続ければ続けるほど支払うお金が増えていくということになる。

私が残業代の計算書を送って支払いを求めたところ、向こうも計算書を出してきた。しかし、私の計算と金額が合わない。おかしい。よく見ると、法定休日割増しと、週40時間以上部分の割り増しが含まれていない。その点を相手方弁護士(おそらく顧問弁護士)に説明したところ「先生、この会社にはね、法定休日が無いんですよ!」と勢いよく反論された。

「法定休日が無い......だと......?」。それは相手方の会社には日本国の労働基準法が適用されないということである。治外法権と言いたいのか。治外法権と言えば陸奥宗光だな......などとぼんやり思いつつ「いやいや、法定休日適用されないなんてあり得ませんから」と冷静にツッコミを入れたところ、幸いにも相手方弁護士は素直に認めた。素でボケていたらしい。弁護士でもたまにこういう驚きの反論をしてくる人がいるので「弁護士が言っているから」と安易に鵜呑みにしてはいけない。

結局、おおよそこっちの請求額に近いかたちで和解が成立し、素直に支払ってきた。変な反論はしてきたものの、労働審判や訴訟になる前に支払ってきたので、その点では賢明な対応だったと思う。なぜなら、審判や訴訟になれば、さっき言った遅延損害金等に加え、弁護士費用もかさんでいくからである。

さて、こちらも残業代請求事件だが、上記の例と異なり、思いっきり無駄な抵抗をしてきた事案である。私が受任通知を会社に送ってタイムカードの提出を求めたところ、素直に出してきた。タイムカードは残業代請求事件においてもっとも固い証拠であると言っても過言ではない。それを元に残業代を計算したところ、あまり大きな額にならなかったので、金額を伝えれば素直に払ってくるだろうと思われた。

が、違った。「うちの残業は承認制です。承認してないから残業代払いません。」と反論してきた。よくある反論の一つである。承認制を取っていても、タイムカードを見れば残業をしていたことははっきりしており、会社もそれを把握していながら放置していた。さらに、打刻忘れをした際には、手書きで出退勤時間を記載し、上司がそこにハンコを押していた。これらの事情からすれば、残業を黙認していたことは明らかである。しかし、結局支払いを拒絶されたので、労働審判を申し立てた。

労働審判となると、弁護士をつけるか、つけないなら会社の代表者が自ら来なければならない。それはさすがに不要な手間と金がかかるので、第1回期日前に「やっぱり払います」と言ってくるのではないか、と思っていた。しかし......弁護士をつけて思いっきり抵抗してきた。そのなかで、驚きの反論があった。「うちのタイムカードは出退勤時間を記録するためにあるのではない!」と言うのである。それ、「弁護士は弁護するために存在するのではない!」と言っているのと同じレベルだと思うのだが。

もちろんそんな反論は受け入れられず、結局こちらの請求額満額に近いかたちで和解が成立した。向こうは弁護士を2人もつけてきたのだが、最初から素直に支払っていれば明らかに安上がりで済んだと思う。多分、相手方の弁護士に払われた費用は、こちらの請求額よりも多い。

これは解雇の有効性を争った事案である。依頼人はある日突然解雇された。解雇理由も不明であった。そこで、会社に解雇理由証明書の発行を要求したところ、極めて抽象的な内容の解雇理由が返ってきた。具体的にどういった行為が解雇事由になったのか、よくわからない内容であった。

どうも本当の解雇理由は、依頼人を快く思わないある社員が「依頼人と上司ができている」というような噂を経営陣に流し、それを真に受けた経営陣が、ろくに事実確認もせず、証拠も無いのに解雇を決断してしまったようであった。もちろんそんな事実は無く、仮にあったとしても、上司との不倫が確実に解雇事由に該当するわけでもない。

会社が態度を変えないので労働審判を申し立てたところ、会社側は、依頼人が上司とトラブルを起こしたこと等を具体的な解雇事由する答弁書を提出してきた。しかし、それは謝罪をして解決済みのことであり、どう解釈しても解雇理由にはなり得ない。「本当の」解雇理由の方は、何の証拠も無いので主張できなかったようである。

そして迎えた第1回労働審判期日、裁判官の第一声は、
「で? 何が解雇事由なんですか?」。
 ......静寂に包まれる審判廷。「牛丼を頼んだのに牛肉が入ってないんですけど」的な裁判官のツッコミである。解雇は撤回され、依頼人は無事に職場復帰した。めでたしめでたし。結局、会社は無駄な時間と費用を浪費したことになる。素直に解雇を撤回すれば良かったのに......。

これも解雇の有効性を争った事案である。依頼人の勤める会社は、業績不振を理由に人員整理をし、依頼人にも強烈に退職勧奨をしてきた。そんななか、会社の業績は突如大幅に改善した。アベノミクスの影響である。製造業にとって、アベノミクスによる円安は莫大な為替差益をもたらす。相手方はその恩恵にあずかり、業績は絶好調になった。なんと過去最高の売り上げを記録したのである。

しかし......一度振り上げた拳を下ろせないのか、会社は退職勧奨を止めず、ついには整理解雇を強行するに至った。整理解雇というのは業績不振のときに行われるもので、労働者には何の非も無いから、その有効性は極めて厳しく判断される。大前提として整理解雇の「必要性」が無くてはならない。しかし、売り上げ過去最高を記録した会社について整理解雇の必要性が認められる余地など無い。この解雇を有効と判断する裁判官はいないだろう。相手方の弁護士も会社を説得したと思われるが、結局裁判になってしまった。

こういう場合、さっさと解雇を撤回するか、労働者が納得する解決金を支払って合意退職してもらうのがもっとも合理的判断である。しかし、会社はいずれの道も選ばず、結局1審は和解ではなく判決となった。もちろんこちらの勝訴。2審ではこちらの納得する水準で和解が成立し、事件は終わった。

かなり長引いたので、弁護士費用も相当かさんだと思う(相手方の弁護士はとってもお値段の高い法律事務所の人たちだった)。

経営者の方々には、長い目で考えて合理的判断を下していただきたいものである。

【関連条文】
遅延損害金14.6% 賃金の支払い確保等に関する法律6条
残業代不払いに対する付加金 労働基準法114条
割増賃金 労働基準法37条
解雇理由証明書の発行請求 労働基準法22条
懲戒解雇の有効性 労働契約法15条
普通解雇の有効性 労働契約法16条

(明石順平/弁護士法人鳳法律事務所 
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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

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