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『女は二度決断する』新しいファシズムは見えない形で近づいてくる!! ネオナチ犯罪映画を撮った独監督が鳴らす警鐘

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 ドイツでは海外からの移民を標的にした爆破テロが2000年~07年に相次ぎ、女性警察官を含む10名が死亡。さらにテロリストたちは活動資金を得るために、銀行や郵便局を襲撃した。ドイツ警察は移民系裏社会がらみの抗争と断定したことで初動捜査を誤り、犯人がようやく逮捕されたのは11年になって。捕まったのはドイツ人のネオナチグループだった。ドイツ警察における戦後最大の不祥事ともされるこの事件を題材にしたのが、ファティ・アキン監督の『女は二度決断する』だ。クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09)などで知られるドイツ出身の国際派女優ダイアン・クルーガー主演作で、トルコ移民である夫と息子を同時に失ったドイツ人女性カティヤを熱演したダイアンはカンヌ映画祭主演女優賞を、作品もゴールデングローブ賞外国語映画賞などを受賞している。トルコ系ドイツ人という独自の視点から映画を撮り続けるファティ・アキン監督に、本作が製作された社会背景について尋ねた。

──トルコ系移民二世であるファティ・アキン監督は、『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)ではトルコで起きたアルメニア人大虐殺、今回の『女は二度決断する』
ではネオナチ犯罪を題材にしています。日本では政治色の強い映画は資金集めが難しく、有名俳優も出演したがりません。アキン監督もそういった困難を味わったんでしょうか。

ファティ・アキン(以下、アキン) 政治的なトラブルにぶつかることはそれまでずっとなかったんだけれど、『消えた声が、その名を呼ぶ』のときは難しさを肌身に感じたね。僕がこの人と一緒にやりたいと思って声を掛けたトルコの俳優がいたんだけど、作品内容を知って彼には断られたんだ(トルコ政府はアルメニア人虐殺の事実を認めていないため)。トルコ政府やトルコ国民からの圧が掛かることを考慮してのことだったみたいだね。僕にとっては初めての体験で、驚いたよ。トルコを悪く言うつもりはないけど、トルコに比べると僕が生まれ育ったドイツはタブーと呼ばれるものが少ない、とても自由な国なんだなと『消えた声』のときは改めて思ったかな。

──ダイアン・クルーガーが主演した本作には、そういった難しさはなかった?

アキン ダイアンはカンヌ映画祭のパーティー会場で、初対面の僕にドイツ語で「機会があれば、あなたの映画に出演したい」と声を掛けてくれた。それもあって、今回の脚本は彼女をイメージして書いたんだ。さっきはドイツにはタブーがないと言ったけど、表現や言論の自由が認められているドイツにあって、唯一のタブー的な存在となっているのが“ナチス”なんだ。第二次世界大戦の反省もあって、ドイツの学校教育ではナチスが犯した戦争犯罪について学ぶことが義務づけられているし、今でもナチスものを取り上げる際は慎重にならざるを得ないし、ネオナチもジョークの対象にすることは難しい。でも、映画をつくるって、そういった既成概念を壊すことでもあると僕は思うんだ。ネオナチによる実在の犯罪を映画の題材にしていることに対して一部のメディアから攻撃されたこともあったけど、僕の映画監督としてのキャリアに傷がつくようなことにはならなかったよ。

──ドイツでは言論や表現の自由が守られているとのことですが、そのため鉤十字の旗を掲げたり、ヒトラー崇拝を謳わなければネオナチの集会も許されていると耳にします。実際のところはどうなんでしょうか?

アキン ノー、ノー! ネオナチの集会や活動は、決して認められているわけではないよ。でも、今のネオナチは昔と違って、外見では判断することができない。昔なら髪型や服装を見ればナチかナチじゃないかすぐ分かったけど、今のネオナチは普通のファッションで目立たないようにしているし、法律のことも彼らはすごく研究していて、どうすれば法の網に引っ掛からずに済むのかをよく考えて、巧妙に集会を開いたり、活動しているんだ。ドイツの国会ではネオナチの集会を禁じる法案が何度か持ち上がったんだけど、思想や言論の自由が憲法で守られているため、司法側に反対されて成立しなかったという経緯があるんだ。常識のある人はみんな、ネオナチは認めるべきではないと分かっている。でも、ネオナチは法律の抜け穴を上手にかいくぐって、気が付いたときには我々の前に現われている。そのことはドイツではすごく議論が交わされていて、メディアでも度々取り上げられてはいるんだけど、禁じる手がないというのが今のドイツの状況なんだ。

■現代のネオナチは『バットマン』のジョーカーのよう



──夫と息子を爆殺された主人公カティヤ(ダイアン・クルーガー)は、みずから証人として裁判に臨むことに。裁判を傍聴していた被告側の父親(ウルリッヒ・トゥクール)の姿が、とても印象に残ります。いかにも中流階級の真面目そうなお父さんで、何不自由なく息子を育てたはずなのに、息子はヒトラー崇拝者に育ってしまった。加害者家族のやるせなさ、不条理さを感じさせます。

アキン 右翼思想、ファシズム思想の人たちはすべての階級にいると僕は感じているよ。移民ヘイトしているのは、労働者階級だけじゃないんだ。特にネオナチは非常に高学歴で、洗練されたエリート階級の中にもいる。彼らにとってのアイデンティティー・ムーブメントなんだ。さっきも触れたけど、90年代の頃とは違って今は外見からはネオナチかどうか判別できないし、彼らが使うレトリックも以前は論破しやすいものだったけど、より巧妙なものに変わってきている。リベラル系のメディアの中にもネオナチが紛れ込んでいるケースもあるし、左寄りの政党に所属していた政治家が実はネオナチだと正体を明かしたこともある。まるで『バットマン』に出てくる悪役のジョーカーみたいに、普段はその素顔を隠しているんだ。

──本作のドイツ語の原題が「Aus dem Nichts(どこからともなく)」となっているのは、そういう背景があるんですね。

アキン 右寄りのテロリストたちの家族構成を調べてみると、両親は実はリベラリストであることが多いんだ。これは僕の推測だけど、子どもはどうしても自分自身のアンデンティティーを確立したいがために、親からなるべく離れたものを目指してしまうんじゃないかな。若者は特に過激なものへと走ってしまう。ドイツ赤軍派の女性メンバーは、父親が教会の神父だったなんてこともあったしね。僕の家族にもそれは言える。僕の父はすごく保守的な考え方だったけど、僕は若い頃に共産党を支持するなど、父とはまったく異なる政治的思想を持っていた。平穏な家族のもとで育っても、過激な政治思想を持つようになることは、決して珍しいことじゃないんだ。

──中盤まではリアルな法廷サスペンスとして展開しますが、やがて物語は予想外の方向へと振り切っていく。フランス映画の名作『冒険者たち』(67)で知られるロベール・アンリコ監督のもうひとつの代表作『追想』(75)を思わせるクライマックスです。『追想』もナチスが無辜の市民を虐殺した実在の事件を題材にしていました。そういった過去の作品からインスパイアされた部分はある?

アキン ロベール監督の作品はどれも観ているはずだけど……、『追想』は邦題だよね? 意識して撮ってはないけれど、意識下にはあったかもしれないね。ドイツに帰ったら、見直してみるよ。もちろん、僕が撮る映画は古今東西のいろんな作品から影響を受けているよ。ダイアン・クルーガーが夜の街を歩くメインビジュアルはポスターにもなっているけど、『タクシードライバー』(76)の主人公トラヴィス(ロバート・デニーロ)の妹みたいじゃないかい(笑)。ひとりぼっちで歩くダイアンの姿がトラヴィスっぽかったんで、スチールカメラマンに頼んでそのシーンを撮ってもらったんだ。

──『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシ監督も、移民二世という立場から現代社会を描いてきた映画作家ですね。

アキン スコセッシ監督の作品は好きだし、彼と同じように僕もアジア映画からはすごく影響を受けている。ダイアンが身体にタトゥーを入れるシーンがあるけど、そのタトゥーはSAMURAIなんだ。ダイアンが演じているカティヤは、言ってみれば現代のSAMURAI。死してなお、忠義を持って仕える。彼女の場合は、家族に対する忠義というわけさ。社会の法律とは異なる、彼女なりの武士道を持っているんだ。テクニカルな面では、照明などは香港や韓国の犯罪映画をイメージしているよ。僕自身はドイツという西側の国の映画監督だけど、ヒップホップがいろんな音楽をサンプリングするみたいに、アジア映画のいろんな要素とドイツ映画とを組み合わせて、今回の映画は撮ったんだ。

──アキン監督が愛する音楽や映画のように、現実世界もいろんな文化が融合しあった豊かな社会になればいいのにと思います。

アキン 本当にそう願うよ。僕たちがつくる映画が異文化間の相互理解や交流に少しでもつながるよう、これからもがんばるつもりだよ!

(取材・文/長野辰次)

『女は二度決断する』
監督・脚本/ファティ・アキン 音楽/ジョシュ・オム
出演/ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨハネス・クリシュ、サミア・ムリエル・シャクラン、ヌーマン・アチャル、ヘニング・ペカー、ウルリッヒ・トゥクール、ラファエル・サンタナ、ハンナ・ヒルスドルフ、ウルリッヒ・ブラントホフ、ハルトムート・ロート、ヤニス・エコノミデス、カリン・ノイハウザー、ウーヴェ・ローデ、アシム・デミレル、アイセル・イシジャン
配給/ビターズ・エンド PG-12 4月14日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH
http://www.bitters.co.jp/ketsudan

●ファティ・アキン監督
1973年ドイツのハンブルクにて、トルコ移民の両親のもとに生まれる。トルコ系ドイツ人同士の偽装結婚を描いた『愛より強く』(04)がベルリン映画祭で金熊賞を受賞。ドイツとトルコを舞台にした『そして、私たちは愛に帰る』(07)でカンヌ映画祭脚本賞を受賞。庶民向けレストランのオーナー兄弟を主人公にしたコメディ映画『ソウル・キッチン』(09)でベネチア映画祭審査員特別賞を受賞し、30代にして世界三大映画祭の主要賞を制している。その他の監督作に、アルメニア人虐殺を描いた歴史大作『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)、青春ロードムービー『50年後のボクたちは』(16)などがある。

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