『ミスミソウ』見事な実写化!名作ホラー漫画が描き出すカタルシス #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第四十九回

SPICE

2018/4/7 22:30



TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

まさかこんな日が来るなんて!ホラー漫画の人体損壊描写に編集者側が自己判断で自主規制を加えたり、アニメでは血の色を赤くしてはいけない、“人間”を殺してはいけないなどという、ホラーが子どもたち(なのか?)悪影響を及ぼすかもしれないから規制しましょう!という暗黙のルールが少なからず存在するこの時代。よくぞこれを実写化してくれた。ホラー漫画が好きな私がとりわけ愛する作品、押切蓮介先生原作の映画『ミスミソウ』が公開中だ。「精神破壊(メンチサイド)ホラー」というキャッチコピーを付けられた原作は、“胸糞であり胸スカ”などとネット上でも話題を呼んだ作品。簡単に言えば、学生が学生に復讐をするホラー作品なのだが……映画では、どう表現されているのか。

東京から田舎に引っ越してきた野咲春花は、クラスメイトから壮絶ないじめを受けていた。同じ転入生の相場晄(みつる)に助けられながら耐えていた春花だが、いじめは日に日にエスカレートしてゆく。そしてある日、春花は家を激しい炎で燃やし尽くされてしまう。思いもよらぬ悲劇に心が崩壊する春花。やがて、事件の真相を知った彼女は、復讐に打って出ることになる。

濃厚なキャスト・スタッフ

(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会

まず何より、引き受けてくれた役者陣に盛大な拍手を送りたい!先述のようにホラーにおける描写が悪影響だと自主規制される一方の現代で、10代の役者さんたちが、この作品の持つ奥底のテーマや魅力を感じ取って本作に臨んでくれたのが何よりもうれしい(公式HPのキャストコメント参照)。さらにその若い役者陣には、目を見張るものがある。

まず主人公・春花を演じる山田杏奈さん。春花というキャラクターは原作の漫画で、口数は多くなく、どこか寂しげで美しい少女というイメージで描かれている。雪の中に立っているだけで、雰囲気、迫力、そして抱える感情を見事に体現している。
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会

春花と敵対するいじめグループのリーダー格・妙子を演じる大谷凛香さん、元いじめられっ子で、妙子への執着をこじらせてゆく流美役・大塚れなさんの、体当たりの芝居も見物だ。本作でメガホンをとった内藤瑛亮監督には、『ライチ☆光クラブ』(16)、『鬼談百景』(16)で一気に興味を持った。特に、オムニバスである『鬼談百景』で監督を務めた一篇「どろぼう」での薄気味悪さの醸し出し方が印象的だった。この監督ならば『ミスミソウ』も“ぬるく”作ることはないだろうとワクワクしていたし、実際、本作の演出で私の期待に応えてくれた。

雪国が舞台ならではの、エグさと切なさ

(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会

本作には「精神破壊ホラー」と言われるだけあって、ゴリゴリのいじめ、家族を○○○されるなど(ネタバレにならないよう伏せておく)といった心理的にキツい表現が多数登場する。加えて、肉体的にもなかなかにエグい描写があるのだが、そのあたりも原作に忠実に作られていたように思う。

中でも私が昂ぶったポイントは、予告編にもある“除雪車”のシーンだ。どういった流れで登場するのかは伏せておくが、雪をかき分けながら、赤い液体をまき散らすその姿に興味をひかれる方は多いのではないだろうか。北海道出身の私にとって、除雪車はおなじみの働く車だ。それをこんな風に使うというのは、原作にも存在するシーンではあるが、やはりグッとくる。除雪車は高さがあるし大きなスクリューも付いているから、たとえああなっても気づきにくいんだろうな…と思わせる展開だ。これを実写で観られるだけでホクホクしてしまうほど、良いシーンなのは間違いない。雪と血の対比がとても美しいこのシーンは、邦画史に残る名(ショック)シーンと認定しよう(勝手に)!
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会

予告やストーリーを観ると、復讐に燃える春花VS鬱屈したクラスメイトたちのバトルロイヤルが繰り広げられるように見えるが、実のところ本作の根底にあるものは、“抑圧”と“愛”ではないかと思う。あたり一面雪に覆われた、何もない田舎で、遊びに行く場所もなく、都会に出たいという夢すら打ち砕かれた少女たちがストレスを募らせてゆく。そして、そこにやってきた都会育ちの美しい少女に、嫉妬の感情をぶつけてしまう。もしも彼女たちが普通に友だちとしてうまく関係を築けていたら……と考えると、とてつもなく切ない。だがしかし、その切なさにこそ、お腹のあたりからぞわぞわと湧き上がるカタルシスを私は感じる。
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会
(C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会

地吹雪に見舞われ、学校帰りにふっと友だちを見失ってしまうような雪国に育った私には、本作はどこか他人事とは思えない作品だ。自分たちの足では遊びに行ける場所も限られ、東京のように、学校帰りに寄るファーストフード店やカラオケも無い。私が芸事のスクールに通い始めると、他クラスの生徒に興味本位にからかわれたり、噂を流されることもあった。閉鎖的な空間では、そうした目立つ行為は良くも悪くも興味の的になる。私も春花のように周りから浮いた経験があるからこそ、彼女に感情移入するのだろう。それゆえ感じるカタルシスなのかもしれない。皆さんは、どうだろうか。

また、ラストシーンは本作と原作ではガラリと変わっている。その違いも楽しんでもらいたいので、ぜひ、本作を劇場で観た足で、書店に向かってほしい。

『ミスミソウ』は公開中。

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