Uber運転手の夜の顔:犯罪・事故現場を激写する「ストリンガー」に密着

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事件事故の現場に素早く到着し、撮影した映像を放送局やデジタル・メディアに売る仕事は、アメリカでは「ストリンガー」という名称で呼ばれています。本稿では米GizmodoのBryan Menegus記者が、ニューヨークでストリンガーとして走り回るAdamという男性を密着取材しています。




ドライヤーが原因の火事。我々が現場に着いたときにはもうすでに消防車は現場から去ろうとしていた。地下室から燃え上がる炎の映像や、煙を吸い込んだ犠牲者たちが救急車に担ぎ込まれる映像は得られなかった。Adamによると雨の日は銃の事件も減ると言う。その代わりに交通事故はあるかもしれない、と。しかしそれがメディアに売れるような悲惨な事故かどうかは行ってみないとわからない。もちろん、悲惨な事故である方がAdamにとっては商売になるわけだ。

32歳。短く刈り上げられた髪の毛。新人の警察官を思わせるような薄い無精ヒゲ。Adamはローカルニュースの現場においてストリンガーと呼ばれる役割を担っている。街中で起きるあらゆる規模の犯罪、事故、災害をビデオや写真に収める仕事だ。映像を得て、それをライバルよりも早くメディアに売り付ける。

彼が来ているミリタリージャケット、セーフティ・ベストは、彼の以前の趣味であったエアソフトガンから来ている。胸にはマジックテープで「プレス」と貼り付けられている。ロサンゼルスのストリンガーを捉えたNetflixドキュメンタリー「ショット・イン・ザ・ダーク」に登場するストリンガーの一人、Scott Laneが胸に「プレス」と貼り付けているのを参考にしたという。ちなみにこのドキュメンタリーに登場するストリンガーたちは「いかがわしい」「趣味が悪い」「野次馬そのもの」という声を多く集めている。Laneが運営するLoudLabsというグループはドキュメンタリーに登場するストリンガーたちの中でも最も「倫理的にきわどい」グループとして紹介されている。

ニューヨーク市にはまだ正式なストリンガー会社は存在していない。AdamがNYC 911ニュースというブランドを立ち上げたのはたった二カ月前だ。ソーシャルメディア上では彼はAdam Westの名前で通っている。本稿を書くにあたって本当の苗字は公開しない、との事だった。

彼が運転するダークグレーのフォード・フュージョンの中には沢山のツールが隠されている。車のダッシュボードに装着された衛星ナビゲーションのすぐ横には、2つのスマートフォンと、3つの無線受信機が並んでいる。受信機はサンルーフから飛び出しているアンテナとつながっている。これによって広範囲における、ニューヨーク市消防、ニューヨーク市警察特殊捜査部(SOD)の周波数を飛び交う通信をキャッチできるわけだ。3つめのラジオはAdamがいる地域の警察管区の通信を受け取っている。もちろん、彼らが使う略称やコード名の意味は全て記憶している。ニューヨークでは地域における事件や事故、緊急事態を知らせる通知を受け取るアプリCitizenが利用できるが、Adamが持つ二つのスマートフォンのうち1つはそれを常に表示している。もう一つのスマートフォンはAdamが情報源としてフォローしているTwitterアカウントからのツイートと、自分が所属しているWhatsapp上のグループからの情報を表示する。このグループはニューヨークの大手新聞デイリーニュースのカメラマンが運営しているという。

アダムはほとんどの日をUber、Lyftといった複数のライドシェアリング・サービスの運転手として働いている。「俺たちがストリンガーの仕事をやろうと決めた時、報酬をもらえないかもしれないリスクを負う覚悟をしなくてはいけなかった。Uberの場合は、乗客を受け入れた時、報酬がもらえる事は保証されている。値段の保証は無いけれども、報酬がもらえることが保証されている」と語る。

ガジェットを複数搭載しており、外にもプッシュバンパーが付いている彼の車に乗った乗客は、警察の車かと思うと言う。乗客を乗せている間も、Adamはシークレット・サービスが付けるような小型のイヤホンを通して警察の通信を聞いている。チャンスがあれば乗客をおろした後に映像を収録しに現場に向かうわけだ。

私の目の前で受信機の一つが音を鳴らした時、私たちはブルックリンのゴワナス地区にあるマクドナルドの外に車を止めて、Adamがチーズの入っていないトリプルチーズバーガーを食べ終わったところだった。受信機から聴こえる情報を聞いて、彼は頭の中で暗号解読する。どこの署の管轄で、現場はどんな種類の事故なのか。また同時にニューヨークのローカルテレビやデジタルメディアに対してこの事故の映像や写真をいくらで売れるか、を計算している。受信機が伝える情報では、車がクイーンズ地区のエルムハーストと呼ばれるエリアで木に衝突したという。ピンジョブと呼ばれる、乗客が車の中で閉じ込められてしまっている状態になっているかもしれないとのことだ。ピンジョブは一般的に値段が高い。すぐに車に乗り込み、BQEと呼ばれる高速道路を走らせ、ブルックリンからクイーンズに向かう。途中で停止している車が2台、Adamの視界に入ってくる。それを横目で確認する時以外は、彼は速度を緩めなかった。2台の車を確認するためにゆっくりと走っている最中、後ろの車がクラクションを鳴らした。鼻で笑って「オレの仕事を分かってないんだな」とAdamはジョークを言う。
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エルムハーストで木に衝突した車

98番の通りと23番の通りが交差する地点で白色の日産車が見える。カメラをトランクから取り出して早速撮影を開始するが、乗客が閉じ込められている様子は無い。目撃者によると乗っていた二人の乗客は衝突した後、走って逃げたという。警察も目撃者も、どちらもその理由は分かっていないようだった。

アダムは30秒ほどの映像をいくつかの角度から撮影して切り上げた。それから座って作業ができる場所を確保する。高速道路からも近く、ニューヨーク市が設置しているパブリックWi-Fiターミナルからも近い場所だ。必要であればこのターミナルを使ってGoogleドライブに映像をアップロードするためだ。アストリア地区にあるアイルランド系バー「Quays」で休むことになった。

一つの事故からの映像は全てまとめて一つのパッケージとして売られる。良いパッケージは100ドルから300ドルで売れることもある。いくつかのメディアが購入すれば1つのパッケージが1,000ドルになることもある。先程の潰れた日産車のパッケージはおそらく売れないだろうけれど、とりあえずアップロードはしてしまう。ニューヨーク・ワン、CBS、ピックス11、そしてその他12ほどの放送局にEメールを送る。Adamはメールを書きながら「今って土曜日の夜なのか?それとも日曜日の朝なのか?」と口にしている。

値段が高くつく事故・事件というのは当然ある。ピンジョブ、転倒した乗り物、給水のパイプの本管が破裂したもの、火事、切り裂き魔、車や電車によって轢かれてしまった歩行者、橋の柵に立っている自殺志願者(もしくは自殺の後)、建物の中にバリケードをして閉じこもっている人々(人質がいればより値段は高くなる)などがその例だ。「ブロンクスで誰かが銃で撃たれた、という事件はよくあるのでニュースにならない」と彼は言った。

「(犠牲者が)10代の子供だったり、もしくは赤ん坊が銃に撃たれたり、複数の人間が撃たれた、といった事件。そういったものを彼らは欲しがっている」とAdamは説明する。しかしほとんどの事件が大したものではなく、映像を撮るためにガソリンを費やす価値もないとのことだ。車の衝突と言っても、ただ車に傷がつく程度だけで終わることが多い。体が切断された、という情報が入って来ても、実際は指が一本落ちただけかもしれない。ことわざとは違って、煙があっても火がない事は日常茶飯事なわけだ。屋根からアパートの中に不法侵入してきた強盗がいる、という通報も、ただの屋根を打つ雨の音だったりする。

そこでまた受信機が音をたせる。しかし現場は遠すぎるようだ。Adamはボイスメッセージの形で情報を記録する。この情報をNYC911ニュースのWhatsappグループで他のメンバーたちにシェアするのだ。メンバーたちはAdamと同様、他の仕事を抱えている。DJであったり不動産エージェントであったりバイクメッセンジャーであったりだ。お互いに協力するメンバーの数が多いことにはメリットがある。

「ベイリッジ(ブロンクス南部の地区)に俺がいるとして、オレの仲間がブロンクスに入るとする。そしてアラーム・レベル2の火災の通報があったとする。オレがその現場に着くまでには火事は消されてしまう。でもブロンクスにいる仲間はすぐにそこに到着して、犠牲者が救急車に担ぎ込まれる映像を撮ることができる。それが500ドルで売れるかもしれない、複数の放送局で売れるかもしれない、という具合だ。(この場合)少なくともオレは報酬の25%がもらえる。もし映像を売ったのがこの仲間ではなくて、ただの見ず知らずのストリンガーであれば何も報酬にはならない」。

こういったコミッションをもらう代わりに、AdamはNYC 911ニュースを運営する細々とした作業を担当している。NYにおけるストリンガー・コミュニティはまだまだ小さく、NYC911ニュースのような情報共有をする新しいオペレーションは確固たる基盤ができているわけではない。

「気づいたことがある。ストリンガーの多くは自分よりも年上だ。彼らがデイリーニュースやニューヨークポストといった新聞社でちゃんとしたスタッフ職を得たとき、彼らはそこでずっと勤め上げて、辞めたりはしない。現場で見かける若い連中はストリンガー・アプリのユーザーかもしれない。ニューヨーク・ワン(ニューヨークのローカル放送局)やチャンネル12で働いている新卒採用のスタッフかもしれない。」。

Adamにとってはビデオグラファーとフォトグラファーの違いは大きいようだが、それでも事故現場や事件現場を撮影して無料でアップロード・提供してしまう人たちの存在で彼の収益が削られている、と語る。そういった人々の中にはStrigrといった業界人向けの有料プラットフォームを使っている人もいれば、Citizenのような無料のプラットフォームを使っている人もいる。「場合によってはビデオを撮影している人々に、「それCitizenでやってるの?撮影止めてくれない?それによってオレのお金を奪っているんだ」と言ったりもするよ」とAdamは言う。しかしそれだけではなく、最近ではこういった人々をビデオグラファーとしてリクルートする。というアプローチも取ろうとしているという。彼自身もStringrを使っている。実際、この日もStringrの通知を受け取っていた。現場は、川を越えたニュージャージー州のジャージー・シティだったためAdamは動かなかった。
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レストランの外で逮捕される男

それからAdamはまた別の道路における通報を追いかけたが、何でも無いことがわかった。そしてすぐに今度は、地元の警察署が未確認の喧嘩に対応しているという情報を得た。なんと10人もの人数がナイフを持って格闘しているとのことだ。93番の通りとアストリア通りの交差点に行くと10人ほどの警察官が1人の怒っている男を24時間営業のレストランから連れ出しているところを目撃した。現場には8台のパトカーが駆けつけたようだ。ナイフはどこにも見あたらない。「犯人が連れられている様子、俺は好きなんだ」と彼は笑う。手元では撮影した映像を確認する。おそらく売ることができないだろう。しかし彼によると「ソーシャルメディアでは良い素材になるだろう」とのことだ。ニュースアウトレットが彼の映像を買うにしても買わないにしても、YouTube上にアップロードすることでエクストラのお金を得ることができる。彼が最も成功を収めたストリンガー映像は「大喧嘩!ブルックリンでハラルフードのカートが攻撃される!ピックス11とニューヨークポストでも配信」というものだ。映像にはたくさんのコメントがついているが、暴行を加えている人の人種と暴力的な行為を結びつけるものや、暴行を働いている人の人種は何であるかといった類のものが多い。

消防車や警察の連絡を受信して駆けつける。これにまつわる彼のスキルは救急隊員として働いていた経験から来ている。彼はベイリッジ地区で救急車の会社の隊員として働いていた。そこでは緊急通報に耳をすませ、市の救急車が到着する前に現場に到着するということをしていた。医療が高価なアメリカにおいて、これは賛否両論を生むビジネスである。しかし少なくとも助けを必要とする人々を助けるという領域の中に収まっていたわけだ。「救急隊の中でよく言う良いフレーズがあったんだ。「あなたに悪いことが起きて欲しいわけではない。でも悪いことが起きたときにはそこに駆けつけてあげたい」っていうものだ。でもストリンガーのオレらには何かフレーズがあるかと言うと、かっこいいのはないんだよな」とAdamは内省するかのような表情を少しだけ見せた。

「救急隊からこの仕事に移った事はすごく、変な感じだ。現場では救急隊員として働いていたし、警察官とは一緒に仕事をする仲間だった。そこには仲間意識があった。つながりが。何か分かんないけど。この仕事では、俺は犠牲者を映像に捉えようとする悪人になっている」。ごくたまにだが、彼は今でも救急隊員として働くことがある。そんな時、彼が助けようとしている犠牲者たちの情報が、彼のWhatsapp上のグループに流れる。
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FDR高速道路の現場で作業をする警察

午前4時までには雨は止もうとしている。疲れ果てたドライバーたちがミスを犯す時間だ。高速道路FDRの南向きのレーン、出口のところで衝突事故があったという。現場に向かうと救助隊たちが、バンの後にチェーンを巻き付けようとしている。それを使って、衝突したコンクリートのバリケードを引き剥がそうとしているのだ。乗客は目に見えるところにはいない。血は一切流れていないこの事故現場をひたすら撮影する行為をグロテスクに感じながらも、私はなぜAdamのようなアドレナリン・ジャンキーが現場に惹かれるか理解し始めている。5時までには夜は少し明け始める。ブルックリンに戻る前、我々はセブンイレブンに立ち寄って、しばらくの間、新しい事件の情報が流れてこないか受信機を見つめながら待つ。Adamは手の平に消毒剤をすりこんでいる。ビニール袋に入ったクロワッサンを食べ、コーヒーを飲み、最近撮影した事故の映像を見せてくれる。それはかなり大規模な車の衝突事故だった。破壊されたタクシーから女性が運び出されている。次に見せてくれた映像はアラーム・レベル3の火災現場のものだった。消防士たちが巨大なノコギリを使って建物の門をこじ開けて侵入する様子が写っている。夜中働いた後、家に帰ろうかという時間にこれを撮影できたという。煙の中、Adamはマスクもつけずに1時間ほどその場で撮影をした。

ふと我々の背後でサイレンの音がしてAdamの背筋が瞬時に伸びた。「シニア・ケア」と大きく書かれた救急車が走り去る。歳をとった人が死ぬのはニュースではない、それはただ人間の人生だ。Adamは手に持っているクロワッサンをかじって、コーヒーを飲んだ。

Image: Bryan Menegus (Gizmodo US)
Bryan Menegus - Gizmodo US[原文

(塚本 紺)

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