「ザ・キング」普通に大統領職を終えた人の方が少ない韓国で、検事になってやりたい放題

エキレビ!

2018/3/14 09:45

韓国検察のパワーと闘争の世界を垣間見られる『ザ・キング』。バブリーなエンターテイメント性と、それでも民主主義と政治を信じようとする姿勢がグッとくる、骨太な作品である。


コネの力と猛勉強で、スラムのガキから検事になれ! 
韓国では普通に大統領職を終えた人の方が少ない。任期中に汚職が露見したり、暗殺されたり、はたまた職を辞した後に自殺してしまったりと、幸せに仕事を全うしたパターンはほとんどない。そんな最高権力者の犯罪を追求する立場にいるのが検事だ。時の権力者をクビにするほどの影響力を持つ高階級の検事は、韓国においては最高クラスのパワー・エリートなのである。

『ザ・キング』の主人公パク・テスも強権を持つ検事に憧れ、やがてその世界に首まで浸かることになる。テスは貧しい家庭に育ったケンカ好きの不良学生。父親の主な仕事は家電の窃盗だ。しかし、粗暴な父が地方検事の前ではペコペコしているのを見て「真の力を持っているのは検事だ……!」と気づく。一念発起したテスは猛勉強の末に一流大学に合格。兵役の最中でも勉強しまくり、ついに司法試験にも受かる。折しも時代はソウルオリンピックから民主化を経て90年代に入る頃。そんな中で、テスは地方検事としてキャリアをスタートさせる。検事ともなれば結婚相手は選び放題。気の強い金持ちの令嬢サンヒと結婚したテスは、多忙な生活を送ることになる。

2年ほど地方で検事稼業を続けたテス。ある日、女子学生を暴行した高校教師が、元国会議員の父のコネを使って容疑をもみ消したという事件を担当することになる。早速教師をブタ箱に放り込もうとするテスだが、そこにソウル中央地方検察庁戦略部に勤務する先輩検事ヤン・ドンチョルが現れる。「中央の戦略部で働きたければ、事件から手を引け」と迫るドンチョルに、テスは事件から手を引いて出世する道を選ぶ。無事ソウルへと転勤したテスの前に現れたのは、圧倒的なカリスマ性と手腕で権力を手にする部長検事ハン・ガンシク。テスは彼の元で出世街道を驀進する。

パク・テスを演じているのは8年ぶりの映画出演となるチョ・インソン。死ぬほど顔が小さく脚が長い、スーツがビシッと似合う男前だ。しかし『ザ・キング』ではいきなり高校生役(インソンは1981年生まれである)で映画がスタートするので「だ、大丈夫か!?」と心配になった。割とすぐに成人して検事になるので、結果的には大丈夫でした。

そして強烈なのがチョン・ウソン演じる部長検事ハン・ガンシク。スローモーションでグッと溜めつつ登場した直後に「プライドを捨てろ! 権力に寄り添え!」とテスを怒鳴りつけ、ペントハウスで毎晩バブリーなクソバカパーティーを開催。金と権力を振り回すことに躊躇がなく、ヤクザと癒着し、パーティー会場では無表情でキレキレのダンスを見せるイケオジという、濃いキャラクターである。しかも敵対勢力が送り込んできた自分の先輩であるヤメ検あがりの弁護士を自らバットでブチのめし、下手を打った部下にはいきなり飛び蹴りを食らわせるというフィジカルの強さも披露。『アシュラ』の最悪市長や『新しき世界』のイ・ジュングさんに勝るとも劣らない、ワクワクするような悪役ぶりだ。

そんな彼らが、検事ならではの悪事に精を出す。大統領の首が変わるたびに、自分たちと結託している候補を応援するため対立候補に不利な情報を流す。果ては祈祷師の前に跪いてお祈りまで捧げる。応援している候補が当選すれば野党議員のスキャンダルをリークして追い打ちをかけ、自分たちに不利な報道が出れば清純派女優の覚醒剤使用をバラして世間の目を逸らす。さらにはヤクザの上前をはね、犯罪を意図的にスルーする。金も女も自由自在。不良学生から成り上がったテスは、汚職まみれの検事ライフを満喫する。

『ザ・キング』は演出と編集がうまいので、このあたりの悪事の描写にはあまり「犯罪行為を告発する!」みたいな重さがない。どちらかというと『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』みたいなバブリーなイケイケ感とコメディっぽさの方が強く、見ているうちに「お前ら楽しそうだなあ!」という気持ちに。しかし、世の中そこまで上手くはいかないのであった。

熱い友情と濃い口のバイオレンス、その結末とは
やりたい放題のガンシク率いる戦略部は検察庁内の観察部に目をつけられ、過去の悪事が彼らの足を引っ張ることに。さらに戦略部と癒着していたヤクザ「野犬派」(韓国ヤクザにおいて「派」は日本でいう「組」や「会」みたいな意味がある)内の抗争にも巻き込まれ、テスは次第に難しい立場に追い込まれる。

「野犬派」はガンシクと結託しており、ガンシクはその上前をハネると同時に彼らの犯罪を見逃している。人間を殺す際には闘犬をけしかけて生きたまま食わせるという方法を用い、国家権力と結びついて悪事を働く……。ボスを演じたキム・ウィソンの風貌も手伝って、「半端なく悪いヤクザ組織」としては100点である。

ここで泣かせにかかるのが、テスの盟友にして「野犬派」の組員でもあるチェ・ドゥイルだ。テスとドゥイルは地元での不良時代からの付き合いで、お互いが検事とヤクザになった状態で再開する。ドゥイルは「厄介なことや手を汚すことは俺に任せろ」と裏稼業の面からテスを支え、共に成り上がろうと誓い合う。

そのテスとドゥイルの関係が、テスの立場が悪くなることでどう変化し、ドゥイルがどう行動したのかは『ザ・キング』の大きな見所だ。見る前はもっとあっさりした映画だと思っていたので、このテスとドゥイルを巡って韓国映画らしい男同士の情念とバイオレンスが特盛りで見られたのは棚ぼた的嬉しさがあった。

追い込まれたテスがどのような行動に出るのか。ラストに関しては少々教科書的ではあるのだが、それでもやっぱりあれでよかったとは思う。民主化前後から現在に至るまでの韓国史を背景にしたストーリーなので、最後に『ザ・キング』というタイトルの意味が明らかになる箇所にも重みがあった。イケイケな前半と重たい後半で編集のテンポや演出の方向性が切り替わるのも、この展開を見せるためだったのかと納得である。

キレのいいエンターテイメントでありながら、政治と行政と暴力のドラマでもある。正反対の要素を両立した『ザ・キング』は、今このタイミングでぜひ見ておくべき作品だと思う。
(しげる)

【作品データ】
「ザ・キング」公式サイト
監督 ハン・ジェリム
出演 チョ・インソン チョン・ウソン ペ・ソンウ リュ・ジョンヨル キム・ウィソン ほか
3月10日より全国順次ロードショー

STORY
不良少年のパク・テスはあるきっかけから検事を目指し、猛勉強の末に司法試験に合格する。有力者による事件のもみ消しに加担した彼は、その見返りに出世。ハン・ガンシク部長検事率いる戦略部で、エリート検事として権力を振るうようになるが……。

あなたにおすすめ

ランキング

もっとよむ

注目ニュース

もっとよむ

あなたにおすすめ