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映画『スリー・ビルボード』も大ヒット中! M・マクドナーの話題作『ハングマン』を長塚圭史が演出

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劇作家にして演出家、個性派俳優でもある長塚圭史が、風変わりな独特の世界観とブラックな笑いで人気のマーティン・マクドナーによる最新戯曲『ハングマン』に取り組むことになった。アイルランド系イギリス人の劇作家であり脚本家、映画監督でもあるマクドナーは今や2018年2月に日本でも公開された大評判の映画『スリー・ビルボード』の脚本、監督としても広く知られる奇才。『ハングマン』は2015年ロンドンで開幕した途端に評判となり、翌年にはローレンス・オリヴィエ賞の“BEST PLAY(最優秀作品賞)”を受賞、さらに“ナショナル・シアター・ライヴ”として世界各国で上映もされている話題作だ。

物語の舞台となるのは1960年代半ば、イングランド北西部の町、オールダムの小さなパブ。国で2番目に優秀な“ハングマン(首吊り処刑人)”だと名を馳せているハリーは、死刑が廃止となった日もパブで常連の仲間たちと酒を酌み交わしている。そこに謎の青年・ムーニーが現れ、ハリーの娘・シャーリーに近づこうとする。以前、ハリーが絞首刑を執行した連続殺人事件の犯人は、本当に罪を犯していたのか。その事件と関係がありそうなムーニーの正体とは? そして、事態はどんどん意外な方向へと転がっていく……。

かつて『ウィー・トーマス』(2003年、2006年)、『ピローマン』(2004年)、『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』(2007年)と、マクドナー作品の演出を手がけてきた長塚。さらに今回、脚本を翻訳するのは自らも『ロンサム・ウエスト』(2014年)、『スポケーンの左手』(2015年)で同じくマクドナー作品の演出を経験している小川絵梨子だ。マクドナーならではのツボをしっかり心得たこのタッグで、ブラックユーモアがほどよく効いたスリリングな物語を楽しませてくれるはず。久しぶりのマクドナー作品に腕を鳴らす長塚に、作品への思い入れを語ってもらった。

――今回、『ハングマン』を演出することになったいきさつは。

マクドナーの新作の演出に興味があるかというお話をいただいたわけですが、まず「僕でいいの?」って思いました。だって最近はマクドナー作品の演出は、小川(絵梨子)さんも森(新太郎)さんもやっていて、人気ですからね。それに僕が前回マクドナー作品を演出したのは、もう11年前の話なんですって。だからなんだか申し訳ないなと思ったりもして。

――でも過去に3作も手がけられているので、馴染みはあるのでは。

確かに、馴染みはありますね。最初に『ウィー・トーマス』を上演した時は、マクドナー本人が実際に観にきたりして。もちろん彼は既に世界中で脚本が上演されている人気者ではあったし、彼のほうが5歳ほど年上なんだけれども、自分と同世代の劇作家だという意識もありましたからね。それこそ映画の話、サム・ペキンパーの話で盛り上がったりした覚えがあります。だけど彼は『ピローマン』以降、ばたっと演劇の脚本を書かなくなっていたことも知っていたので、今回は少し感慨深いものもあるんです。なぜ彼は『ピローマン』以降、映画に走ったのか。映画界に行き始めた時は、なんだか無性に腹がたったりもしていたので(笑)。そうしたら、この間『スリー・ビルボード』って、とんでもない映画を撮っちゃいましたからね。「ああ、これがやりたかったのか!」と。あれはいい映画でした。

――長塚さんにとって、マクドナー作品ならではの面白さとは?

コメディとして捉えると、非現実的な要素がふんだんに盛られているのにきちんとリアリズムが出るように作られているということと、やっぱりキャラクターの面白さですね。ユニークなキャラクターづくりというのは『スリー・ビルボード』を観た時も思いました、ワンシーンしか出てこない役にも面白味をちゃんと持たせていたので。それもマクドナーならではの人の見方というか、リアリズムをちょっとひとつ越えてくる感じで紡いでいるんですよね。『スリー・ビルボード』に出てくる町も出来事もよくよく考えたら作り物なんだけど、でもそういう嘘が映画の中では本物として感じられる。そして観終わった後に「……っていう、冗談みたいな話なんだけどさ」って言われるみたいな痛快さがある。

――その面白さは映画だけでなく、芝居でも同じ。

そう思います。彼の劇って、僕はたぶんナショナル・シアター・ライヴで『HANGMEN』が上映されることになった時にもパンフレットに書いたかもしれないですけど、つまりリアリズムの枠の中で作っているところが面白いんですね。見立てのような手法は使わないというか、基本的には合わない。『ピローマン』はちょっと違いますけど。基本的にはどこか使い古されたリアリズム演劇の手法に乗っ取って遊んだほうが、より笑えるんです。『ウィー・トーマス』だって、どれだけ死体が転がるのかを一生懸命リアルに作るんです。もちろん舞台上では全部が明らかに嘘なんですけど、なるべくリアルに作るからこそバカバカしさが増して面白い。と、いう風に僕は捉えています。そのせいでちょっと苦しくなって、劇作は一時辞めたんじゃないかとも思うんです。それなら映画のほうが嘘を作りやすくて面白いかなって思ったんじゃないかと。

――ああ、そうなのかもしれないですね。

『ハングマン』には解明できないことがいくつか出てくるんです。理由が不明のところがある。それは小川さんと話をしていて「これ、なんなんだろうね」って確認しても結局わからなくて。「ここの部分は何につながってる?」「この動作、おかしいけどどういうこと?」って探っても、何も書かれていなかったりする。だけどこのなんだかわからないところが、この『ハングマン』の不気味さを表しているとも思うんです。それは、誰かを裁くというという観点からすると、あの不明性が不可欠だったのだと思うんですが。……まあそのことも含めて、すべてのことが解明されない状態で終わるところも、これまでのものより大人っぽいと思いますね。

――真実は、どこにあったのか。

わからないまま。ヒントは散りばめてはありますけどね。そこで言われているのは「そいつが語っていることは全部嘘かもしれないし、本当かもしれない」ということ。これはかなり意識的にやっているような気もします。もちろん、誰の言葉だって全部真実かどうかなんてわからなくて、その本人が言っていることでしかないんだけど。それと話は全然変わりますが、これはイギリスの田舎町の劇なんですね。方言を使うことでそれを乗り越えようという感覚は僕も小川さんも持っていないんです。『ハングマン』の面白さとしては、本国イギリスでは訛りも含めての英語の面白さがあるわけなんですが、これはどうやったって日本語でやるのは不可能。たとえば東北訛りで僕らがやったとしても、ちょっと変なことになっちゃうから。

――違う面白さになってしまいますね。

だからそうではない表現方法を使って、地方色というか、田舎のパブの匂いを出していけたらと思っているんです。それは振る舞いというか、彼らの居ずまいで。つまり都会性を排除することや、都会からやってきた人間に対してどういう振る舞いをさせるか、どういうたたずまいにするか。衣裳やヘアメイクなど視覚的なことも含めて、考えていこうと打ち合わせを進めています。

――今回、原題では『ハングメン』のところを『ハングマン』という表記にした狙いとは。

『ハングメン』と『ハングマン』については、実は僕としては特に深い狙いはなくて(笑)。僕はどちらかというと『ハングメン』でいいんじゃないかと思っていたんですけどね。でも、いわゆる邦題として、より多くの人たちに観てもらうために間口を広げたいと考えたら、『ハングマン』でいいんじゃないかと。だって『スリー・ビルボード』だって原題に沿えば『スリー・ビルボーズ』ですからね(笑)。

――キャスティングも個性派揃いの顔合わせになりました。まず、ハリー役は田中哲司さんです。

まあ、僕はよく知った仲ですし、ここ数年で彼が出演した『RED』や『オレアナ』という作品で新たに培ったものもあるでしょうし。だけどこの作品にはある種のバカバカしさも込められているので、コメディとしてやる劇として挑んでもらいたいんです。『オレアナ』も『RED』もどちらかというと……

――とてもシリアスでした。

基本的にマクドナー作品はなるべくバカバカしく作るべきだと思うんですよね。もちろん情報量は多く、ですけど。大事なところしか聞かないんです、自分の聞きたいことだけを聞く人たちの話なので。みんなが決して知的ではなく、ずっと酔っ払っているようなものなので、大いに聞き逃していいわけです。そういうおかしさを楽しんで演じてほしいなと。ハリーの妻・アリス役として(秋山)菜津子さんに入っていただいたのも楽しみです。もう、マクドナー作品に秋山菜津子が出るってだけで、いいでしょう?(笑)

――ものすごく似合いそうです(笑)。

実に個性的な役者が集まったので、その特性も生かしつつ彼らにもぜひ楽しんでもらいたいんです。中でも(市川)しんぺーさんと谷川(昭一朗)さんと大森(博史)さんの3人組が、一体どんなことになるかは僕も楽しみ。相当、危なっかしいことになるかもしれない。​

――ムーニー役の大東駿介さんについてはいかがですか。

昨年『王将』という舞台でご一緒させていただいたんですが、役者として非常に好奇心に溢れていていいなあと思ったんですよね。居方によっては無害に見える容姿でもあるけど、何を考えているのかわからないような役も合う。とにかく彼はいつも一生懸命で、それでいてとんでもなく抜けてもいる(笑)。そこもまた、愛しいところで。

――ちょっと天然と言いますか(笑)。

だいぶ、天然でしょうねえ(笑)。悪いヤツじゃないかもしれない、いや、もしかしてとんでもないヤツかもしれない、というキャラクターを演じるのはきっと役者冥利に尽きるんじゃないでしょうか。そういうキワドイ役をやらせてみたくなるんです。

――今回は、長塚さんご自身も演者として出演されますが。

森新太郎さんにしても小川絵梨子さんにしても、演出されるだけでご自分は出ないでしょう。だけど僕は出る、っていうね(笑)。そういう若干のふざけが入ってるのかもしれない。といっても、みなさんの邪魔にならないよう一生懸命やります(笑)。どれだけおかしく見せようとしていても、僕らは決して不真面目に作るわけではないので、そこにマクドナーが込めているものは必ず見えてくると思うんです。バカバカしさに笑ったあと、そこにある種の批評性を受け取るのはお客さんたちだと思うので。きっと「あれって、なんなんだろうな」という、モヤモヤも残るはずですしね。そのモヤモヤは、人によっては、権力に対しての不安かもしれないし、今の世界情勢のことを語っているのかもしれないし。さまざまな考えが浮かぶんじゃないかと思いますね。僕自身も今どうこう思っていることよりも、稽古で作り始めたらまた改めて感じることが多々出て来そうな気がしています。

――では、最後にお客様へお誘いメッセージをいただけますか。

まず『スリー・ビルボード』を観てほしいですね。

――そんなに面白いんですか(笑)。

劇作家が映画を本気で書いたらこんなに面白いんだと思いました。役者もみんな引き立てているしね。

――では、映画でマクドナーの魅力に触れてから。

そう、『スリー・ビルボード』を観てから、『ハングマン』を待つっていうのが一番いいんじゃないですか(笑)。僕もそう言いつつ11年ぶりに取り組むことになるんですが、以前手がけていたものとはまた一味違ってくると思うので、そのへんもマクドナーファンは楽しめると思います。なにしろ、僕と小川さんが組むんですから、そこはもう大いに期待していただきたいですね。ぜひともこの機会にマクドナーの戯曲の面白さを堪能してもらい、それを体現する俳優のおかしさも楽しんでもらい。みなさんがまた次のマクドナー作品を期待できるようにやれたらいいなと思っています。

インタビュー・文=田中里津子

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