小泉今日子が雄弁に語る! 独立後の初仕事に選んだ舞台「毒おんな」から見える目的地

wezzy

2018/3/14 14:15


 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

俳優として演技を見せるという行為自体は同じであっても、舞台の世界は、いわゆる芸能界の枠組みとは少し違う力学が働いています。のんこと能年玲奈や成宮寛貴など、スキャンダルや不祥事で所属事務所という芸能界をサバイブするための保護者のもとから離れ“消えた”俳優たちの復帰が、まずは舞台からと噂されることが多いのはそれゆえのこと。

とはいえ、俳優本人が出たい作品であってもマネジメントサイドの意向で出演がかなわなかったり、映像での需要がなくなったがために不本意で舞台に追いやられたりすることは、俳優が事務所に所属している以上、珍いことではありません。

2018年に入り、主演クラスの俳優が事務所から独立してフリーになるニュースが続いています。なかでも大きな話題になったのは、独立とともに不倫も公表した小泉今日子です。「型破りな生き方のキョンキョンらしい」と評されつつも賛否両論でしたが、彼女がフリー初として選んだ作品も、やはり舞台。主演作「毒おんな」は、どんな言葉よりも雄弁に、小泉がやりたかったこと、今後目指したいものを語る作品でした。

「毒おんな」は、東京の新宿・花園神社で上演する野外劇で知られているアングラ劇団・椿組の公演で、脚本は青木豪が手掛け、文学座の高橋正徳が演出。今回の劇場は客席数約200のザ・スズナリで、通常であれば小泉クラスの俳優が出演するキャパシティではありませんが、演劇の街・下北沢の老舗劇場であり、時おり著名俳優が本人の強い希望で出演することがあります。

小泉が演じる札幌のフレンチシェフ秋野楓は、同棲する恋人に暴力を振るわれ、輸入食材店会長・鰐淵次郎の協力で地方の牧場へ避難してきます。垢ぬけた容姿と溢れる教養、セレブな生まれと境遇にも関わらず不遇な彼女に同情した牧場の皆に温かく受け入れられた彼女ですが、やがて鰐淵や牧場に通う獣医から口八丁で大金を引き出し、女性陣にはマウンティングをかましはじめます。

鰐淵に向ける上目遣いや、身の上話をする時の語尾の伸ばし方、「ンフフ」という小さな笑い声のわざとらしさは思わずイラっとくる、いかにもなあざとさ。小泉は肌の白さがとても目を引いたのですが、要求される金額の大きさにためらう会長へ結婚をほのめかし圧力高めに駆け引きする時にきゅっと寄るおでこのシワが生々しく、生き抜くための女の手腕のリアルさを強く感じさせました。

もう自分は若くないからと言いつつ、年下の獣医が内緒で付き合っている牧場のアルバイトの少女のことは、牛の乳しぼりとチーズを作る以外に能がなくて知識と教養がまったくないとこき下ろします。「5、6回やるのはちょうどいいけど、つまんなそう」との直球の発言であっさり若い男を手玉に取る、年齢を重ねたからこその余裕にも説得力がありました。そして、後ろから抱きつかれてスポットライトが消える瞬間の表情の怖さ。楓という女性の目的はただお金ではないという複雑さが伺えました。

所在地を知られたくないはずなのに、自撮りをふんだんに載せたInstagramを更新する楓の華麗な経歴は、実はすべてウソ。幼少時の家庭内不和と、母親のせいで父が亡くなるのを止められなかったことが心の傷となる過去の場面と、現代の牧場の光景が二重写しで展開され、過去の不安そうな表情が現代のシーンへ戻ってもしばらく曖昧なまま顔に浮かんでいるのが、とても演劇的でした。そして彼女を愛した男の末路は、いつも彼女の手にかかることに――。
所属事務所欄、空白。
 ウソで固めた華やかな姿で、結婚をエサに男性を食いものにした実在の事件がありました。楓が振りまくのはそんな大きな罠から、会社からお金を持ちだした鰐淵への息子からの絶縁や、親の介護を妻に任せきりにする牧場オーナー夫妻のひずみの露呈、盛り盛りSNSへのイラつきなどといった、平凡な生活の中に潜む小さな不快感まで、現代社会のさまざまな「毒」です。彼女には自身の中の大きな痛みしか見えず、他人の痛みはわかりません。

脚本の青木豪は、丁寧な人物描写と宛書に定評のある劇作家です。色気ムンムンの悪女ではなく、教養と余裕のある都会的な印象の女性によってそれまでの生活が壊れていくさまを、あえて今の小泉今日子に演じさせることに思わずニヤニヤしてしまうのは、脚本家の狙い通りになってしまったということでしょう。

劇場で配布された公演パンフレットの俳優紹介には、客演者の所属劇団の他、とても珍しいことに各所属事務所も記されていました。もちろん小泉の欄は、空白です。

ザ・スズナリの客席の最前列は、舞台と数10cmしかありません。その距離で観客の視線にさらされる作品を、人生の折り返し時期も迎えたリスタートに選んだことは、自分のやりたいことをやりたいようにやる、という意志の表れではないでしょうか。くだんの不倫相手と小泉は、舞台のプロデュースも協業しています。確かに世間のモラルには反しているけれど、本人いわく覚悟あってとのこと。その覚悟の一片が、「毒おんな」から覗いたように思います。

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