『サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法』展レポート 商業的なポスターをアートへと昇華させた、“魔術師”の魅力に迫る

SPICE

2018/3/13 14:27


フランスを代表するポスター作家、レイモン・サヴィニャックの国内過去最大となる回顧展が、全国5美術館を巡る。そのユーモアとエスプリのきいた洒落た作品を、多くの人が一度は目にしたことがあるのではないだろうか。練馬区立美術館にて始まった『サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法』展(同館では2月22日~4月15日まで開催)の内覧会にて、商業的なポスターをアートへと昇華させ、現在も世界中で愛されるサヴィニャックの魅力を探ってきた。
レイモン・サヴィニャック 左《トレカ:ウールとスプリングのマットレス》1952年 ポスター(リトグラフ、紙) 310.0×232.0cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 左《トレカ:ウールとスプリングのマットレス》1952年 ポスター(リトグラフ、紙) 310.0×232.0cm パリ市フォルネー図書館

作品総数201点、最大サイズは3メートル


レイモン・サヴィニャック(1907-2002年)は、20世紀後半に活躍したパリ生まれのポスター作家。20世紀前半までのアール・デコ様式による装飾的なポスターの世界を、シンプルで洒脱な独自の作風で一新した。宣伝する対象の特性をうまく捉え、見る者に一度見たら忘れられないようなキャッチーな印象を残す。その手法は確かな美的構成力に裏打ちされ、ポスターをアートの域まで引き上げた功績が称えられている。
レイモン・サヴィニャック 《1951年、パリ誕生2000年記念》1951年 ポスター(リトグラフ、紙) 99.0×61.9cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《1951年、パリ誕生2000年記念》1951年 ポスター(リトグラフ、紙) 99.0×61.9cm パリ市フォルネー図書館

本展では、フランス国内の公共機関や個人所蔵家から、出世作《牛乳石鹸モンサヴォン》をはじめとしたサヴィニャックの代表作201点が出品される。また、作られた当時の実物大のサイズ感にもこだわり、最大で3メートルの展示もある。その数と大きさは圧巻だ。
レイモン・サヴィニャック 《牛乳石鹸モンサヴォン》1948/1950年 ポスター(リトグラフ、紙) 148.2×97.5cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《牛乳石鹸モンサヴォン》1948/1950年 ポスター(リトグラフ、紙) 148.2×97.5cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《クリームデザート モン・ブラン》1966年 ポスター(リトグラフ、紙) 278.0×399.0cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《クリームデザート モン・ブラン》1966年 ポスター(リトグラフ、紙) 278.0×399.0cm パリ市フォルネー図書館

当時の写真から感じる、街の中のサヴィニャック


本展の見どころとして、「街の中でのポスター」を感じられる点が挙げられる。今でこそ多くの美術館やギャラリーで、また個人で楽しむポストカードやグッズとしても見られるサヴィニャック作品だが、もとはどれもパリの街角に貼られていたもの。道行くパリジャンやパリジェンヌの心を躍らせたり、時には批判されたりもしてきたのだ。

その現役時代の姿を、本展では多くの写真から見ることができる。ロベール・ドアノーや木村伊兵衛といった著名な写真家によるパリの街並みを映し出した写真や、今回のために地道に集められた初公開写真などを多数展示。パリの街で生き生きとその役割を果たす現役時代を存分にイメージしながら、新しい視点を持ってサヴィニャック作品を鑑賞できるだろう。

レイモン・サヴィニャック 《ドップ:清潔な子どもの日》1954年 ポスター(リトグラフ、紙) 29.0×39.5cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《ドップ:清潔な子どもの日》1954年 ポスター(リトグラフ、紙) 29.0×39.5cm パリ市フォルネー図書館

《パリ、ブランシュ広場に貼られた子どもまつりの「ドップ」ポスター》1953年、2017年プリント 写真(インクジェットプリント) 24.1×23.9cm ロレアル
《パリ、ブランシュ広場に貼られた子どもまつりの「ドップ」ポスター》1953年、2017年プリント 写真(インクジェットプリント) 24.1×23.9cm ロレアル

デッサンや原画からも作品を味わう


本展の出品作には、完成したポスターに加えてデッサンが並べられているものも多い。1933年に作られた作品集に掲載するために再制作されたこれらのデッサンは、ポスターがどのようなレイアウトで構成されているか、その骨組みがよくわかる資料だ。制作工程を想像しながら鑑賞していると様々な発見があり、大変興味深い。
レイモン・サヴィニャック 《ギャラップ》1953年 ポスター(リトグラフ、紙) 87.5×57.5cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《ギャラップ》1953年 ポスター(リトグラフ、紙) 87.5×57.5cm パリ市フォルネー図書館

また、絵の具で着彩された原画と、リトグラフで刷られた完成品のポスターを見比べるのも面白い。やわらかさのあるサヴィニャックの絵を殺さないよう、色鮮やかかつクリアに表現された当時のフランスにおけるリトグラフの技術の高さにも注目したいところだ。
レイモン・サヴィニャック 《ミントならジェット》1966年 ポスター(リトグラフ、紙) 117.0×159.5cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《ミントならジェット》1966年 ポスター(リトグラフ、紙) 117.0×159.5cm パリ市フォルネー図書館

ユーモラスな表現に隠された、デザインの本質


サヴィニャック作品の魅力は、対象の特性をユーモアたっぷりに表現するキャラクターたちにある。製品やサービスがもたらす幸せを満面の笑みで表したり、体全体を使って時には一体化してみたり、非常にシンプルかつ印象的な場面を演じるキャラクターたちは、見る者の心にいつの間にか入り込んでくるようだ。
レイモン・サヴィニャック 《フランス国有鉄道:半額料金パスで旅行を》1964年 ポスター(リトグラフ、紙) 97.8×60.5cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 《フランス国有鉄道:半額料金パスで旅行を》1964年 ポスター(リトグラフ、紙) 97.8×60.5cm パリ市フォルネー図書館

若いころアニメーションを学んでいたサヴィニャックは、26歳の時にカッサンドルのポスターに出会う。1枚で伝えたい情報がすべて含まれており、しかもそれを一人の作者が成し遂げるというポスターの性質に惹かれていったサヴィニャックは、ポスター作家として才能を開花させた。「ポスターは見る人と対話できる」と語ったサヴィニャックだからこそ、一番伝えたいことは何か、それを伝える最善の表現は何かを徹底的に考え抜いたデザインを生み出せたのだろう。このことは、現在のグラフィックデザインにおいても変わらないデザインの本質のように思える。
レイモン・サヴィニャック 中央《ティファール・フライパンは絶対焦げ付かない》1960年 ポスター(リトグラフ、紙) 155.0×112.9cm パリ市フォルネー図書館
レイモン・サヴィニャック 中央《ティファール・フライパンは絶対焦げ付かない》1960年 ポスター(リトグラフ、紙) 155.0×112.9cm パリ市フォルネー図書館

日本のデザイン界でも早くから注目されていたサヴィニャックは、としまえんや森永製菓株式会社といった日本企業の広告も手掛けた。今なお日本でも愛されるサヴィニャックだが、本展をきっかけに今後さらにファンを増やすことだろう。
レイモン・サヴィニャック 《森永ミルクチョコレート》1958年 ポスター(リトグラフ、紙) 105.7×75.4cm トゥルーヴィル市ヴィラ・モンテベロ美術館
レイモン・サヴィニャック 《森永ミルクチョコレート》1958年 ポスター(リトグラフ、紙) 105.7×75.4cm トゥルーヴィル市ヴィラ・モンテベロ美術館
レイモン・サヴィニャック 《としまえん:7つのプール》1980年 ポスター(オフセット印刷、紙) (上)102.7×144.7cm (下)103.0×145.0cm アラン・ヴァタール
レイモン・サヴィニャック 《としまえん:7つのプール》1980年 ポスター(オフセット印刷、紙) (上)102.7×144.7cm (下)103.0×145.0cm アラン・ヴァタール

※館内は写真撮影禁止

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