猛烈なシャウトと奇妙なパフォーマンスでジョー・コッカーの名を一気に世界レベルにしたライヴ盤『マッド・ドッグス&イングリッシュメン』

OKMusic

2018/3/9 18:00

1970年3月27日&28日、フィルモア・イーストでレコーディングされた本作『マッド・ドッグス&イングリッシュメン』は、ジョー・コッカーの名を世界的に広めたライヴ盤の傑作である。かつてアメリカの人気テレビ番組『サタデー・ナイト・ライヴ』で、怪優ジョン・ベルーシが物真似をして受けまくっていた本家がこれだ。コッカーのパフォーマンスは映像を観なければ分からないが、このライヴツアーはドキュメンタリー映画としても公開され、今ではDVDもリリースされているので、コッカーの不思議な動きを観てベルーシの物真似がいかに上手いかチェックしてみてほしい。

■60s後半から70s前半にかけての スワンプロックの流行

イギリスを代表する名ロックヴォーカリストのひとり、ジョー・コッカーは長い下積みを経て69年にビートルズの「ウイズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」のカバーで全英1位を獲得する。同年、アメリカで行なわれた『ウッドストック・フェス』への参加もあって、世界的な知名度を得るまでになるわけだが、彼の奇妙なパフォーマンスとパワフルなシャウトは、ロックシンガーとして文句なしのカリスマ性があった。レイ・チャールズに影響された彼の泥臭い音楽性はゴスペルとR&Bをミックスしたスタイルで、その頃アメリカで活躍していたスワンプロッカーのデラニー&ボニーと類似した音楽性を持っていた。

スワンプロックは黒人のR&Bやゴスペルと白人のカントリー音楽をミックスした、今で言うアメリカーナサウンドのひとつである。スワンプロックの歴史はポップス界のヒットメーカーとしてロスで名を挙げていたレオン・ラッセルのもとに、J.J・ケール、ジェシ・デイヴィス、ドン・プレストン、のちのデレク&ドミノズのメンバーとなるカール・レイドルら、旧友であるオクラホマ出身のミュージシャンたちが集まり、大挙して西海岸に移住した頃に始まる。ミシシッピ州出身のデラニー・ブラムレットとレオンはセッションを繰り返しながら、泥臭いスワンプロックを爽やかなカリフォルニアで仕上げていくのである。その頃の成果としては、69年にリリースされたデラニー&ボニーの傑作『オリジナル・デラニー&ボニー(原題:Accept No Substitute)』があり、このアルバムはジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、デイブ・メイスンらをはじめ、ジョー・コッカーといったブリティッシュロッカーたちに大きな影響を与えることになる。

■本場スワンプロックの洗礼

69年にジョージ・ハリスンの口利きでデラニー&ボニーが大所帯のグループ、フレンズを引き連れてイギリスツアーを行なうと、イギリスでは一挙にスワンプロック熱が高まっていく。イギリスのアーティストたちはデラニー&ボニーのようなサウンドを作るためにはフレンズを使うしかないと考えたのか、彼らをバックに起用してレコーディングすることが一気に増えた。

エリック・クラプトンのソロ第1作『エリック・クラプトン』、デイブ・メイスンのソロ第1作『アローン・トゥゲザー』、ジョージ・ハリスンのソロ第1作『オール・シングス・マスト・パス』など(これら3作とも1970年のリリース)、どのアルバムもバックを務めるのは、カール・レイドル、ジム・ゴードン、ボビー・ウイットロック、ボビー・キーズ、ジム・プライス、ジム・ケルトナー、クラウディア・リニア、リタ・クーリッジらフレンズの主要メンバーたちだ。

■フレンズの引き抜き事件

デラニー&ボニーのイギリス公演が成功すると、イギリスの人気シンガー、ジョー・コッカーのプロデューサーを務めていたデニー・コーデルがスワンプロックの中心人物であったレオンにジョー・コッカーのアメリカ公演のコーディネートを依頼する。レオンは彼の人脈で構成されていたデラニー&ボニーのバックミュージシャンを根こそぎジョー・コッカーのバックメンに引き抜いてしまう。

そして、レオンはコッカーの音楽監督に就任、2カ月に及ぶアメリカツアーをスタートさせることになるのだが、デラニー&ボニーはメンバーが揃わず、ツアーに出られない羽目となった。この引き抜き事件でレオンとデラニー&ボニーに遺恨が残ったのは言うまでもないが、それだけレオン人脈のミュージシャンたちが優れていたということであり、それら優秀なミュージシャンがレオンに対して圧倒的な信頼感を持っていたことも、大人数のマッド・ドッグス&イングリッシュメン・ツアーが成功した証なのである。

■本作『マッド・ドッグス& イングリッシュメン』について

コッカーの2カ月に及ぶアメリカツアーの中から、フィルモア・イーストで開催した2日間のライヴのハイライトを収録したのが本作『マッド・ドッグス&イングリッシュメン』である。オリジナルのリリースはLP2枚組で、全部で19のトラックが収められている。総勢20名にも及ぶバックミュージシャンを従えているが、コッカーのハイエナジーなヴォーカルはその厚みのある音にまったく負けておらず、全編にわたって圧倒的なパワーで歌い切っている。日本で現在50歳以下の人がコッカー歌を知ることになったのは、大ヒット映画『愛と青春の旅立ち』で使われたジェニファー・ウォーンズとのデュエット曲だと思うが、本作はその時のパワーとは比べものにならないほどの威力で、聴く者をノックアウトする。

演奏はレオンの指揮のもと、ゴスペル風味の強いスワンプロックに仕上がっており、おそらくレオンはスワンプロックが果たして世界レベルで売れるのかどうかを実験したかったのだろうと推測する。実際、本作がリリースされるとアメリカではアルバムチャートの2位まで上昇、彼の提示する音楽がハードロックやプログレなどに引けを取らないことが証明される結果となった。

演奏陣はフレンズから、カール・レイドル、ジム・ゴードン(このふたりはこの後すぐクラプトンとデレク&ドミノズを結成する)、ドン・プレストン、ジム・ケルトナー、チャック・ブラックウェル、ホーンセクションの3人(ジム・ホーン、ジム・プライス、ボビー・キーズ)、コーラス隊(リタ・クーリッジ、クラウディア・リニア、ダナ・ウォッシュバーン)が参加、演奏者でフレンズ以外のメンバーはクリス・ステイントン(コッカーのバックバンドであったグリースバンドから参加。のちにクラプトンのバックを長い間務める)ぐらい。他にもコーラス隊として、ダニエル・ムーア、マシュー・ムーア、パメラ・ポランドなど、ソロアルバムも出している中堅のシンガーたちも参加しているのだから、音楽監督としてのレオンの仕事ぶりはさすがとしか言いようがない。

収録曲は、ローリング・ストーンズ、ビートルズ、トラフィックのカバーをはじめ、ディランやレナード・コーエンのカバーもあり、コッカーの雑食性(黒人音楽も白人音楽も好き)が感じられる選曲となっていて、サウンドは3管を生かしたソウル・ゴスペル色の濃いアレンジである。まさにスワンプロックの王道をいく作品だと言えよう。

なお、2005年にはデラックスエディションと称する2枚組CDがリリースされた。ザ・バンドのカバーをはじめ、レオンやクラウディア・リニアがリードヴォーカルをとる曲など、未発表曲(映画では既発のものもある)が多数収録されている。

■この後のスワンプロック

レオンとデラニー&ボニーが創り上げた西海岸のスワンプロックは、この後も広がりを見せ、もっとディープなアメリカ南部のマスルショールズやメンフィスの録音スタジオに関心が集まる。ストーンズ、ジョージ・ハリスン、クラプトン、トラフィックなど、多くの大物アーティストが南部のスタジオを訪れ、スワンプテイストのアルバムをリリースすることになるのだが、70年中頃にはロックはポップなAORと破壊的なパンクに二分し、泥臭いルーツ系ロックは徐々に力を失っていく。そして、80年代後半から90年代初頭にかけて再発見されるまで長い間忘れられることになるのだ。しかし、本作のようなスワンプロック作品を聴くと、ロックの持つダイナミズムと人間臭いサウンドにはまってしまい抜け出せなくなるのである。スワンプロックこそ、僕のもっとも好きなロックの形態である。

もしジョー・コッカーを聴いたことがないなら、これを機会にぜひ聴いてみてほしい。本作でもいいし、ソロ名義の『アイ・キャン・スタンド・ア・リトル・レイン』(‘74)でも『ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル』(’75)でも『スティングレー』(‘76)でも、70年代のコッカーのアルバムはどれもいいのです♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Mad Dogs & Englishmen』

1970年発表作品

\n<収録曲>
1. イントロダクション (Live At The Fillmore East/1970)
/ Introduction (Live At The Fillmore East/1970)
2. ホンキー・トンク・ウィメン (Live At The Fillmore East/1970)
/ Honky Tonk Women (Live At The Fillmore East/1970)
3. イントロダクション (Live At The Fillmore East/1970)
/ Introduction (Live At The Fillmore East/1970)
4. スティックス・アンド・ストーンズ (Live At The Fillmore East/1970)
/ Sticks And Stones (Live At The Fillmore East/1970)
5. クライ・ミー・ア・リヴァー (Live At The Fillmore East/1970)
/ Cry Me A River (Live At The Fillmore East/1970)
6. バード・オン・ア・ワイアー (Live At The Fillmore East/1970)
/ Bird On The Wire (Live At The Fillmore East/1970)
7. フィーリン・オールライト (Live At The Fillmore East/1970)
/ Feelin' Alright (Live At The Fillmore East/1970)
8. スーパースター (Live At The Fillmore East/1970)
/ Superstar (Live At The Fillmore East/1970)
9. イントロダクション (Live At The Fillmore East/1970)
/ Introduction (Live At The Fillmore East/1970)
10. レッツ・ゴー・ゲット・ストーンド (Live At The Fillmore East/1970)
/ Let's Go Get Stoned (Live At The Fillmore East/1970)
11. ブルー・メドレー:アイル・ドラウン・イン・マイ・オーン・ティアーズ~僕のベイビーに何か~アイヴ・ビーン・ラヴィング・ユー・トゥ・ロング (Live At The Fillmore East/1970)
/ Blue Medley: I'll Drown In My Own Tears~When Something Is Wrong With My Baby~I've Been Loving You Too Long (Live At The Fillmore East/1970)
12. イントロダクション (Live At The Fillmore East/1970)
/ Introduction (Live At The Fillmore East/1970)
13. 北国の少女 (Live At The Fillmore East/1970)
/ Girl From The North Country (Live At The Fillmore East/1970)
14. ギヴ・ピース・ア・チャンス (Live At The Fillmore East/1970)
/ Give Peace A Chance (Live At The Fillmore East/1970)
15. イントロダクション (Live At The Fillmore East/1970)
/ Introduction (Live At The Fillmore East/1970)
16. シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドウ (Live At The Fillmore East/1970)
/ She Came In Thru The Bathroom Window (Live At The Fillmore East/1970)
17. スペース・キャプテン (Live At The Fillmore East/1970)
/ Space Captain (Live At The Fillmore East/1970)
18. あの娘のレター (Live At The Fillmore East/1970)
/ The Letter (Live At The Fillmore East/1970)
19. デルタ・レディ (Live At The Fillmore East/1970)
/ Delta Lady (Live At The Fillmore East/1970)

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