ソニー・シックス始動、過去最高益に隠れる危機…一部品メーカー化で「財務の会社」か


 ソニーの新体制は、吉田憲一郎氏と十時裕樹氏の2人の代表執行役が担う。

4月1日付で平井一夫社長兼CEO(経営最高責任者)が代表権のない会長に就任し、吉田副社長兼CFO(最高財務責任者)が社長兼CEOに就任する。新社長を支えるCFOには十時氏が就く。

新たにCEOとなる吉田氏は、東京大学経済学部を卒業し1983年にソニーに入社。財務部や社長室などの管理畑を歴任後、子会社のソネット(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)に出向。平井体制となった13年12月、ソニー本体の執行役員として呼び戻された。

一方の十時氏は、早稲田大学商学部を卒業し1987年にソニーに入社。ソニー銀行を設立したことで知られる。吉田氏に請われてソネットのCFOを務めていたこともある。直前までCSO(最高戦略責任者)のポストにあり、今後も吉田氏の右腕となる。

平井体制の転換点は、吉田氏を副社長に、十時氏をCSOに呼び戻した時だった。今後は、十時氏を筆頭に、テレビ事業の再建を担った高木一郎氏、カメラ事業の牽引役となった石塚茂樹氏、オリンパスとの医療事業などを手掛けてきた勝本徹氏の3人の執行役が吉田氏の脇を固める。平井体制下で苦楽を共にしたメンバーが経営中枢を形成するわけだ。平井氏を含めて、さしずめ“ソニー・シックス”といった体制だ。

石塚氏はデジタルカメラなどのイメージングプロダクツ&ソリューションズの社長。新たにモバイルコミュニケーション事業とストレージメディア事業担当が加わる。

高木氏はテレビのソニービジュアルプロダクツ社長とビデオのソニービデオ&サウンドプロダクツ社長を兼務。新たに生産・物流・調達を担当する。

新しく執行役EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)に就任する勝本氏は、デジタルカメラのソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ副社長だ。

「今のソニーを体現した人事ともいえる。つまり、ソニーの中核は金融事業であり、“財務の会社”ということだ。だから、財務畑の吉田氏が社長に昇格した」

全国紙の記者は、こんな辛口の見方をする。

●「ものづくりのソニー」復活までの遠い道のり

「平井改革」によって業績は立て直したが、その代償は大きかった。ソニーの原点といえる「ものづくり」を放棄したことによって復興が達成されたという、アナリストの厳しい指摘もある。

いわば、外国製品を安く買って「ソニー」というブランドのワッペンを貼って商売するような会社になった。これは、かつて米国の電機メーカーが絶滅前の最後の最後にとった手法と同じだ。

「メーカーとしての土台となるものづくりでは、部品メーカーになるということです。もっとも稼いでいるのはスマートフォン用のカメラ。部品というのは、客の要望を聞いてつくっていくので、クリエイティブではありません。むしろ、納入先の希望価格などコスト計算がシビアになるので、まさに“財務の仕事”なんです」(外資系証券会社のアナリスト)

ただ、アナリストたちにとって、57歳の平井氏退任は想定外だったようだ。60歳を迎える次期中期計画達成時点で退任するとみられていたからだ。しかも、1歳上の吉田氏へのバトンタッチだ。「平井氏が最高業績の今年退任するのは、今後の業績の伸びが想定できないから」(別の証券アナリスト)といった見方もある。

スマホ用カメラの先行きは安泰ではない。儲かる分野は、中国メーカーが虎視眈々と進出を狙っている。8K画質のカメラを中国メーカーも出している。ソニーの「これからさらに儲ける」との現経営陣の読みは甘いといわざるを得ない。

「ソニーブランドを牽引する製品、サービスが見当たらない。かつての『ウォークマン』やアップルの『iPhone』のような大ヒット商品がない。アマゾンや世界最大の会員数を誇る動画配信サービスのネットフリックスのようなコンテンツサービスに強いというイメージも醸成されていない。管理畑の吉田氏は、経営のカジ取りは難しいだろう」(ライバルのエレクトロニクスメーカー首脳)

そもそも、吉田氏は「次にバトンを渡すつなぎ役」(ソニーの元役員)とみられているのだ。

「今回の人事で、十時氏のCFO就任や、石塚氏がモバイル担当を兼務することから、ソニーは今後、モバイルを主軸とすることをやめる可能性が見えてくる」(同)

好業績は、為替の円安など外的要因が大きい。テレビや携帯電話、映画の不振を、ゲーム機が支えてきた。ゲーム事業が下降サイクルに入っていくなかで、他の事業でどう補っていくかが喫緊の経営課題だ。「最高益といっても7割方は運だ」と、冷めた眼で分析する現役役員もいる。

ソニーは人工知能(AI)やロボットなど新技術開発に力を入れている。ソニーの次の成長は、新たな領域への進出や新技術の創出がなければ担保されない。そんななか、「4月から開発部門のトップとなる勝本徹執行役がカギを握る」(ライバルのエレクトロニクスメーカー技術担当役員)との指摘がある。

その勝本氏は、ユニークな経歴の持ち主だ。1982年4月にソニーに入社。民生用のカムコーダー(ハンディタイプのカメラ一体型のVTR。一般に「ビデオカメラ」という)の商品開発・設計に携わり、英国に赴任後、2005年8月からデジタルイメージング事業本部AMC事業部長として、コニカミノルタからカメラ事業の譲渡を受け、一眼カメラシステム“アルファ”の事業を推進。11年10月からデジタルイメージング事業本部副本部長に就任。コンパクトデジタルカメラやカムコーダーの技術・商品開発の責任者。13年、オリンパスとの合弁医療事業会社の社長に就いた。デジタルイメージング事業本部副本部長、システム&ソフトウェア技術部門の部門長を経て現職である。

かつて世界を席巻したソニーは、インターネット時代に入り米アップルや米アマゾンに圧倒的な差をつけられた。ソニーの創業者、井深大氏は“ソニースピリット”についてこう述べている。

「ソニーしかできないことを、ソニーがやらなくなったら、ソニーでなくなる」

ソニーが往年の輝きを取り戻すには、まだ遠い道のりを必要とするだろう。出井伸之氏、ハワード・ストリンガー氏という2人の元社長が「ソニーらしさ」を忘れ去り、“普通の会社”にしてしまったからである。

ソニーの失敗の典型例を挙げておきたい。

有機ELで先行していたのに、液晶テレビを主力とすることに方針を変更し、有機EL開発をやめた。ソニー内部では「あんなに早く液晶の価格が下落するなら、有機EL開発をやめなかった」という後悔の念も聞こえる。この時の判断は、「これだけ液晶がバカ売れするなら、液晶で稼いだほうがいい。液晶がダメになってきたら、再び有機ELの開発に戻ればいい」ということだった。しかし、有機EL開発を中断していた間に、韓国や中国のメーカーが勢いを増し、ソニーは追いつけなくなってしまった。

●2018年3月期は最高益

ソニーは2月2日、社長交代と合わせて18年3月期の連結決算(米国会計基準)の業績を上方修正した。売上高は前期比11.8%増の8兆5000億円の従来予想を据え置いたが、営業利益は前期の2.5倍の7200億円(従来予想は6300億円)に上方修正した。1998年3月期の5257億円を上回り、20年ぶりに過去最高益を更新する。純利益は6.5倍の4800億円(同3500億円)に増額した。米国の税制改正の影響で税負担が減り、従来の予想を1300億円上回り、こちらも最高益である。

米国ドナルド・トランプ政権のもとでの税制改正により、35%だった米連邦法税が21%に下がったことで、将来支払うべき税金は減る。会計ルールで繰り延べ税負担が減り、利益を押し上げる。トヨタ自動車は2919億円、本田技研工業(ホンダ)は3461億円、最終利益が増加することになる。ソニーも“トランプ効果”の恩恵に浴した。

ソニーは9つの事業セグメントに分けており、そのなかで稼ぎ頭はゲーム、金融、半導体、音楽だ。ゲームはG&NS(ゲーム&ネットワークサービス)事業でゲーム機やソフトウェアを扱う。ソニー・インタラクティブエンタテインメントなどだ。18年3月期の営業利益は1800億円(17年3月期は1356億円)の見通し。主力ゲーム機「プレイステーション(PS)4」の17年10~12月期の販売台数は、前期比70万台減の900万台だった。18年3月期の販売予想1900万台は据え置いた。

金融はソニーフィナンシャルホールディングスやソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行が担い、営業利益は1750億円(同1664億円)の見込み。

半導体はイメージセンサーやカメラモジュール、電池や記録メディアなど。スマートフォン向けイメージセンサーが中心で、営業利益は1550億円の黒字(同78億円の赤字)に転換する。しかし中国のスマホメーカー向けは低調だった。

音楽はソニーミュージックエンタテインメントなど。営業利益は1100億円(同758億円)の予想である。
(文=編集部)

あなたにおすすめ