めくるめくレトロテックの洪水と80~90年代音楽。Vaporwaveのパーティに行ってきた

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屋根裏で見つけた古いMacintoshをコスチューム化したYo Mykei(仮名)さん。
Image:Akaha Rabut for Gizmodo

懐かしいけど新しい。

今年2月13日はキリスト教のお祭り・マルディグラの日で、その前の1カ月ほど世界各地でさまざまなイベントが開かれました。マルディグラの開催地の中でも特に有名な米国ルイジアナ州ニューオーリンズでは、今年もKrewe(クルー)と呼ばれるカーニバル集団がそれぞれ趣向をこらしたパレードを繰り広げました。

ニューオーリンズのマルディグラそのものは、日本で言えばねぶた祭りみたいな伝統行事ですが、その中で唯一、完全にバーチャルな「パレード」を行ったクルーがいました。その名も「Krewe of Vaporwave」。

Vaporwave(ベイパーウェーブ)とはこの10年ほどで確立されてきた音楽ジャンルのひとつであり、ムーブメントでもあります。…って何が面白いのか、彼らのパーティを米Gizmodoがレポートしていますので、どうぞ!


Clairissa Mulloyさんは、友だちの家で発掘したというレーザーディスクを麦わら帽子のようにかぶっていました。日よけできる範囲が大きくなるから「CDより良い」のだと言いながら。一方、Nisey Shanksさんはバルコニーからダンサーを見下ろす目をしばたたかせ、まつげを青く光らせました。入力元のないスクリーンのような、深いコバルトブルーです。それはKickstarterで入手したモーションセンサ内蔵のLEDつけまつげで、その日の朝にちょうど届いたところだそうでした。「予兆よ」彼女は言いました。
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パーティには約600人が集結。「ピンクと青緑、夏と海、永遠のバケーション」というドレスコードを受けた参加者は、古いテクノロジーや現実逃避感といったVaporwaveらしさをそれぞれに織り込んでいた。
Photo: Akasha Rabut

Shanksさんの後ろでは、プロジェクターが20フィート(約6m)幅の壁にWindowsのスクリーンセーバーを流しています。積み上げられた36台のブラウン管では、米国地質調査所のチュートリアルの合間に90年代アニメ『不思議の森の妖精たち』が流れています。カップルたちが列をなして、VHSチャンネルをリアルタイムでミックスし、動画の中の自分たちの顔を緑やピンクや黒に変化させています。一方、内側を鏡張りにしてカメラを設置したブースの中では、CDをヘルメットに貼り付けた男性がゆっくりと旋回しています。彼はブースから出ると、積み上がったTVモニタでTiVoがスロー再生する自分のパフォーマンスを眺めていました。

これは、Krewe of Vaporwaveによるパーティです。Kreweとはマルディグラの日の数週前から町をパレードする集団のことで、40組以上が存在します。そしてVaporwaveとは、ネット発の音楽ジャンルから始まって、より幅広いアートへと広がったムーブメントのことです。それはマルディグラのような文化的記号をつなぎ合わせ、権力をからかい、生きることの不条理をあぶり出します。伝統的なカーニバル・クルーは社交界にデビューする若い女性を「クイーン」として祭り上げたりしますが、今回Krewe of Vaporwaveは我々の現代社会を支配する権力を最前面に押し出しました。それがつまり、スクリーンという権力です。
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36台並んだブラウン管TVは、1984年万博のアトラクションで「固定式パレード」とも言われた「Wonderwall」へのオマージュ。TVもまた、固定式の娯楽である。
Photo: Akasha Rabut

2015年に発足し、CraiglistやReddit、Googleの共有フォルダを介してネット上で組織されたこの集団は「最初にして唯一のバーチャルなマルディグラ・クルー」を名乗っています。まず彼らのパレードは、ピクセルとしてしか見られません。彼らは今年2月6日にそれをマルチプレイヤーゲームの形でダウンロード公開し、さらにそのプレイ動画をTwitchでブロードキャストし、そしてパーティ会場でもVHSカセットを1本12ドル(約1300円)で販売していました。

そんなコンセプトは、Vaporwaveへのオマージュです。VaporwaveはYouTubeの違法コンテンツ検知アルゴリズムに対抗し、発掘したオーディオをブツ切りやスロー再生、つぎはぎしたところから始まりました。その後、Ramona XavierやJames Ferraroといったプロデューサーが、そのアイデアを徐々に音楽として凝縮させていきました。

パステルやネオンの波のようなキラキラした音の下には、資本主義へのドライな批評精神があります。商業的なガラクタをハサミやノリでつぎはぎにして作品化したダダイズムのアーティストのように、気の抜けたBGMやレトロ広告、商業ポップをコラージュするVaporwaveは、不条理が極まった現代文化を反映しています。

父親の屋根裏部屋を漁って出てくるのは戦時中の遺物やアンティークのトランクじゃなくて古いコンピュータであるような、そんな今の世代にとって、Vaporwaveは懐かしさとレジスタンスをもたらしています。つまりVaporwaveとは、かつてのテクノロジーへのオマージュであると同時に、テクノロジーの主導権を取り戻そうとする動きでもあるのです。

「TVの初期は社会の中心がTVで、我々はスクリーンに流れるものの意のままでした」バージニア工科大学School of Visual Artsのビデオアートコースで教鞭をとるRachel Lin Weaver教授は言います。教授はこのパーティで、三角錐を敷き詰めた壁にプロジェクションマッピングを行いました。「私たちは今集中砲火を浴びていますが、Vaporwaveが注目したのは、こうなる前の時代です。それは、私たちがまだ変化を起こせたかもしれない時代でした。」

「これは、インターネットの深い悲しみのためにあります」Arcade Fireのフロントマンで、最近ニューオーリンズに拠点を移したWin Butlerさんは言います。彼は最近使いだした仮名「Windows 2000」でこのパーティのDJを務める中で、1992年のホイットニー・ヒューストンの『I Will Always Love You』と、1983年のイタリアンディスコヒットのリミックス、Washed Outの『Feel It All Around』のアナログ盤をかけていました。
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Win ButlerさんがDJ「Windows 2000」として参加、旧名は「Windows 98」。「前より安全なOSになったんだ」とおどける。彼の選曲は近過去へのノスタルジアと現代の過剰刺激の間を行き来し、1992年のホイットニー・ヒューストンの『I Will Always Love You』の後にはFutureが『Mask Off』で「Molly Percocet」(訳注:MollyもPercocetも薬物名)のコーラスを連呼した。彼にとってのカーニバルとは、「非常に健康的な、社会規範の逆転だ。そこで人々はそのシステムから脱却できる。」
Photo: Akasha Rabut

DJブースの下で身体をくねらせる群衆の中、Jesse ShamonさんはMicrosoft Wordにインスパイアされたコスチュームを身につけていました。眉の下にスペルチェックのアンダーラインをペイントし、イヤリングはサポートキャラクターのClippyを意図していました。「テクノロジーがよりより恐ろしい存在になった今、私たちはまだ控えめだった昔を懐かしみ、あの頃は楽だったと感じているのです」とShamonさん。「私たちはクリップアートというよりは『ブラックミラー』へと、急速に変化しています。」
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ドレスコードには「おばあちゃんのAOLアドレス」のような指定もあり、参加者は衣装のインスピレーションを古いテクノロジーに求めた。左:「ブリジット・ジョーンズの日記」のVHSテープを全身にまとったElizabeth Seleenさん。中央:Microsoft Wordのキャラクター「Clippy」にインスパイアされたイヤリングを着けたJesse Shamonさんと、そのボーイフレンドでDixieの紙コップのデザイン「Jazz」をシャツにあしらったSam Bakerさん。右:ヘルメットにCDを貼り付けた「Happiness Is」(仮名)さん。
Photos: Akasha Rabut

ニューオーリンズの中でも急速に小ぎれいになりつつある バイウォーター 地域のThe MusicBox Village で行われたこのパーティには、発表によれば600人ほどが集まりました。でも彼らにとって、このイベントはまだ2回めです。1回目は「IRL Ball」(訳注:IRL=In Real Life、Ball=パーティ)と題し、ニューオーリンズで最近増えたアーティスティックな移住者250人ほどを集め、カジュアルなダイキリバーで行われました。仕掛人はブルックリンのDJ「Lil Internet」、彼は関係者の間ではVaporwaveのミニ版「seapunk」をインスパイアしたことで知られています。「僕が感じた空気感は『シンギュラリティ・キッチュ』です」と彼は言います。「それから、自分たちがハイパーリアリティに突入するのを感じて、それを訳知り顔で目配せしあって祝福するような感覚です。」
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パーティはYouTubeでブロードキャストされ、1984年万博初日の4時間番組のパロディとなった。左は、レポーターよろしくボールのカオスを解説するJosh Shreveさん。中央は万博マスコットのパロディ「Seymore D. Icks」にマイクを向けるScott Andersonさん。右はライブモニターのフィードを見て笑うアンカーのSam Moodyさん。
Photo: Akasha Rabut

今年のパーティは「The World’s Unfair(World's Fair=万博、の反対)」と題し、1984年のニューオーリンズ万博のパロディとなっていました。1984年の万博はありがちな万博で、いろんな国や企業のブースが、カナダでもクライスラーでも、イノベーションの可能性を宣伝していました。でも現実は厳しく、ニューオーリンズ万博は万博として史上初めて開催中に破産してしまいました。ルイジアナのビジネスマンたちがマネジメントに失敗し、州が事態収集に動いたのですが、業者に対する支払いも全部は完了しませんでした。あげくに1000万ドル(約10億円)かけて作ったロープウェイが、初稼働にあたってニューオーリンズの大司教を乗せたままストップするアクシデントまで発生しました。
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パーティでは、大司教を乗せて止まったロープウェイのカゴに乗ることもできた。
Photo: Akasha Rabut

会場では当時使われていたロープウェイのカゴのひとつが展示されていて、またレンタルの子ども用ミニトレインが万博のモノレールをもパロディしていました。動画技術批評を専門とする即興コメディアングループ「Special Features」は、万博初日に放送された4時間に及ぶ居心地の悪い生放送を再現しました。

「こんな壮大なものがそこまでみっともなく失敗したという、それがすごく良いと思う」ドラァグクイーン3人組「High Profile」のひとり、Visqueen は言いました。High Profileはジョージ・マイケル追悼として、彼の曲のVaporwave版リミックスに口パクしつつストリップショーを披露しました。メンバーはそれぞれ巨大な携帯電話やコカインを模した大量の小麦粉、そしてジョージ・マイケルの顔画像をお尻に貼って振っていました。
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クルー・メンバーのひとり、元ニュースディレクターのSwen Nowさん(仮名)は、このパーティでもその役割を果たした。
Photo: Akasha Rabut

「これは生きたミームであり、マルディグラ団体でもあるんだ」50歳のおじに連れられ、弱冠15歳で参加したMax君は言いました。「これぞインターネットだよ。」

ただ彼のおじのTransceierさん(仮名)は、Vaporwaveにそれほど新しさを感じていませんでした。彼はテックミリオネアのJosh Harris(ドキュメンタリー映画『We Live in Public』で詳細に描かれた人物)のネット初期の社会実験で技術を担当したテックデザイナーです。Vaporwaveについて最近メーカーフェアで知ったという彼はこう語ります。「Vaporwaveが何なのか説明を聞いたとき、私は言ったんです。『僕はそれを永遠にやってきたんだよ』ってね。」
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ニューオーリンズのビルボードトラックへのオマージュとなる作品を取り出すTransceiverさん。コンテンツはリアルタイムで変えられ、その場で起きていることに動画でコメントできる。
Photo: Akasha Rabut

Transceiverさんは私立学校から寄付されたモニタ48台をトラックの外面に設置し、それをiPhoneアプリとつながった48台のRaspberry Piでコントロールして、リアルタイムで動画を変えていきました。クルー・メンバーは彼のリードに従って、店舗を改装してできた教会での二次会に流れました。二次会ではクルーのキャプテンのラップグループが演奏し、その夜を締めくくりました。

ちなみにそのキャプテンとは、ハーバード大学で宗教学を専攻した37歳の男性です。彼はDJがサンプリングするギターリフに合わせて、『Guitar Hero』の白いプラスチックのギター型コントローラーを取り上げ、腕を回してかき鳴らすふりをしました。さらには革命の扇動家のように、叩きつけて壊してしまいました。

「僕が壁に血を残すようなことをするとしたって、これくらいだよ」彼は言いました。

Image:Akasha Rabut

Adriane Quinlan - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)

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