第69回 板前が生んだ伊勢のソウルフード「まんぷく食堂」

Walkerplus

2018/2/14 12:00

三重県伊勢市の宇治山田駅に隣接した商業施設「宇治山田ショッピングセンター」の中に、“伊勢のソウルフード”を出すと評判の店がある。「まんぷく食堂」だ。

■ 板前が夢を形にした「まんぷく食堂」

「まんぷく食堂」の創業は1975(昭和50)年のこと。和食の板前だった鋤柄(すきがら)広彦さんが28歳で「自分の店を持ちたい」と独立してスタートした。当時、26歳だった妻の鈴子さんと一緒に店を始め、早々に開発したのが「からあげ丼」(630円)である。この名物はすぐに地元でおいしいと話題となった。客を魅了するレシピは「秘密です」と鈴子さんがウフフと笑う。しかし「身体にいいものを使っとります」とヒントをくれた。

現在は、創業者の息子である大平(たいへい)さんが店に入っている。広彦さんが大平さんの大学在学中に亡くなり、大平さんは卒業後にすぐ店を手伝うようになった。また最近は、鈴子さんが足を悪くしてしまったため、調理場には立たず店内に座り、客の話し相手を担当している。名義のうえでは鈴子さんが主人だが、料理など店の運営は大平さんが主力となっている。

「まんぷく食堂」は個性的な店構えも特徴だ。にぎやかに装飾された店舗外側には鈴子さんのパネル看板が置かれている。ショッピングセンター内の一角にある3店舗分をそれぞれ借りており、2店舗は客席だけ。そして注文を受けたら中央の店で料理を作り、完成したらスタッフが運んでいく。食べ終わって会計のために中央の店へ顔を出せば、鈴子さんと大平さんが「ありがとう」と声をかけるのが一連の流れとなる。常連客なら軽い世間話も追加されるだろう。

■ 変えない創業の味

調理を主に担当する大平さんは「料理のレシピは変えていません」と話す。大平さんも「からあげ丼」のレシピについては口をつむぐが、「ショウガとニンニクで下味をつけて、さまざまなスパイスを使用しています」と話す。そうしてスパイシーな味付けをして、カツ丼のようにダシをきかせた卵でとじてご飯にのせる。こう書くとさほど特徴を感じないが、それでも「ここのからあげ丼はほかよりおいしい」と客に評価されている。鈴子さんは「このあたりのおいしい水を使ってるからかね」と笑う。

大平さんは「お客さんのほとんどが地元の方です」と話す。そして「インターネットで知ったのか、最近は観光客の方も来てくれるようになりました」と続ける。観光客向けのメニューとして増やしたものが「新福定食」(750円)だ。ミニサイズのからあげ丼に加えて、伊勢うどんまたはかけうどんが付いてくる。伊勢の名物とソウルフードを1度に食べられるというわけだ。

ユニークなメニューとしては「みそかつ丼」(720円)がある。言わずと知れた名古屋名物だが、鈴子さんは「名古屋の味噌がどんなんか知らんのです」と話す。カツの上にかけられた味噌は伊勢産を使用しているそうで、見た目に反してやさしい味わいに抑えられている。きっと地域の好みに合わせた調整なのだろう。

■ 味は変えないが、雰囲気は変わった

先述のように「料理のレシピは変えていません」と話した大平さんだが、強調したのは、“は”の1文字だった。店の飾り付けを増やしたのは、大平さんが店に入ってからだという。「北海道を旅した時、飲食店とカルチャーが密接になっているのを見て、それを参考にしました。飲食店にいろいろ貼ってあってもいいと思って」と話す。店内には音楽のポスターやイラストなどが飾られ、地元高校野球チームの活躍を報じた新聞なども壁面をにぎやかす。「貼るようになったら、お客さんが『これも貼って』と持ってくるようになったんです。持ちつ持たれつで地域を元気にできたら」と大平さん。

店の雰囲気がにぎやかであり、名物の「からあげ丼」は店名を体現したようにボリュームがある。いかにも若者が好みそうな店だが、かれこれ40年以上同じ場所で続けているだけに根強いファンもいる。「若いころにうちで食べた人が、40年経って、孫を連れてきてくれることがありますね」と大平さん。「昔からのお客さんが、すごく励ましてくれます。『このまま頑張ってね』って」と鈴子さんが微笑む。

「まんぷく食堂」は現在、鋤柄さん親子と全17名(取材時)のアルバイトスタッフで運営している。スタッフの多くは若く、これも店の活気につながっているのだろう。取材中にも、大平さんが高校生らしき客と親しげに世間話をしている様子を見かけた。元気な鈴子さんと明るい大平さんが待つ店。この店では、胃袋だけでなく心も“まんぷく”にしてくれるのだ。(東海ウォーカー・加藤山往)

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