顔は通勤電車、走りは「新幹線」? JR東が運営権を獲った英国の電車に乗ってみた【さかいもとみの旅力養成講座】

Traicy

2018/2/12 14:10

WMTが使っている「クラス350」と呼ばれる通勤車両(写真:さかいもとみ)

クリスマスのイギリスはどこもかしこもお祭りモード。多くの人々がクリスマス休暇を実家や旅行先で過ごそうと、イブの24日までターミナルはどこも混み合います。でも、25日クリスマス当日の街は打って変わって静かに。人々が普段使っている公共交通が全て止まるからです。そんな12月末、筆者は運行が始まった、JR東日本が運営権を獲得したロンドン郊外を走る鉄道に乗ってきました。

報道でも伝えられているように、JR東日本は2017年8月、三井物産と共に「英国で鉄道事業の運営権を獲得」しました。鉄道の名前はウェスト・ミッドランズ・トレインズ(WMT)といいます。

ところで、「日本のJRが総合商社と共に鉄道運営権を獲った」と聞いてどういう状況なのかピンと来る人はあまり多くないのではないでしょうか。そもそも「(JR東日本が)海外で鉄道運行事業に参加するのは初めて(報道資料より)」な訳ですから、その様子を想像するのが難しいのは当然と言えば当然かもしれませんね。

フランチャイズ制度とは何か?

車内はクリスマスの帰省客で満員。通路にも人がぎっしり(写真:さかいもとみ)

JR東日本と三井物産が共同で発表した報道資料を読むと、「英国では民間企業が旅客鉄道運行事業の運営を担うフランチャイズ制度をとっており、地域毎に分けられた各路線の運行事業者は、英国運輸省による入札によって決定される」とあります。このフランチャイズ制度について説明してみましょう。

イギリスは1997年に行われた国鉄の民営化を受けて鉄道事業を「線路や信号などの設備インフラを管理する部分」と、前述のように「旅客サービスを受け持つ部分」の二つに大きく分割しました。これを「上下分離方式」と呼びます。

うち、旅客サービスに関わる部分に携わりたい企業(単独でも、複数法人による共同事業の形でも可)は、運輸省が運営権(フランチャイズ)という形で振り分けており、これを獲得するために各企業は基準・条件に沿ったプレゼンを軸とした書類を作成し応札します。

JR東日本と三井物産はこの手順に則って2016年11月、WMTのフランチャイズを手に入れるべく、オランダ国鉄の100%子会社であるアベリオ(Abellio)と共同で入札を行いました。その結果、ロンドン−リバプール間を含むイングランド中部を結ぶ通勤路線をはじめ、ロンドン~バーミンガム間及び同市の都市圏輸送を担う旅客サービスを受け持つフランチャイズを獲得したというわけです。

仕様は通勤電車、速度感は新幹線?

線路はヴァージントレインズの高速振り子車両と共用している(写真:さかいもとみ)

WMTの列車が走るロンドンから北に向かう線路は、高速線と各駅停車用の緩行線との複々線となっています。

筆者はロンドン・ユーストン駅から約85キロ離れたミルトンキーンズ間までの無停車で走るWMTの通勤電車に乗ってみました。見た目はフツーの通勤車両ですし、複々線なので「列車は緩行線を走るけれど、途中駅に止まらない程度のことだろう」と思って乗っていました。

ところが実際に乗ってみたら「通勤電車」とは思えないパフォーマンスで走ります。上り線をすれ違う列車のほとんどは線路を共用するヴァージントレインズの「ペンドリーノ」と呼ばれる高速振り子車両ばかり。慌てて乗っている車両の仕様をチェックしたら、通勤電車なのに最高時速180キロという優れもの。乗り心地も走行音もどちらかと言えば新幹線に近い感じです。印象を述べるとしたら、「品川から熱海に行くのに快速アクティに飛び乗ったら、乗った電車がいきなり新幹線に化けた」くらいの衝撃を感じました(ちょっとこじつけですが)。

JR東日本のプレゼンスは感じられるか?

WMTは運営に当たって、新たに鉄道会社の名称2つを考案した(写真:さかいもとみ)

WMRの入札に当たり、日本側2社の出資比率は合わせて29.9%でこれをJR東日本と三井物産が等しく分けています。残りの70.1%はアベリロが出資しています。つまり、日本側は資本構成では半分に満たないマイナー出資者にとどまります。

日本人としては、せっかくJR東日本がフランチャイズに参加している訳ですから、英国の電車なり駅なりでJRのロゴが目にできるかどうかが気になります。しかしいまのところ、全くそれらしい表示やロゴはどこにも見当たりません。唯一それらしい文字があったのは、車内で繋がるWi-Fiサービスの会社案内画面に「私たちのWMTは3社のコンソーシアムにより構成されています」と記されていたことでしょうか。

WMTの名での運行は12月10日に始まったばかりで、新会社のロゴ付き車両さえも見ることができませんでした。フランチャイズを他社から譲り受けてすぐの時は、どこの路線でもそんなことが普通に起こるので、準備が間に合っていないこと自体は決して不思議ではありません。

JR東などが持つWMTの運営権は契約期間が10年もあります。運行はまだ始まったばかり。今後、このフランチャイズを通じ、なんらかの形で日本の鉄道文化(特に時間に厳しい運行?)が英国に伝わるきっかけになることを期待したいものです。

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