第66回 岐阜・郡上八幡で愛され続ける、変わらない味と存在「松葉屋」

Walkerplus

2018/2/11 07:00

かつて城下町として栄え、今なお古い建物が多く残る郡上八幡エリア。この町で大正時代から営業を続けている「松葉屋」は、今も多くの客を迎えている。

■ 1世紀以上の月日を数える大衆食堂

現在の主人は4代目の前田悠さん。若くして亡くなった夫に代わって先代を務めた、母の眞由子さんと一緒に店を守っている。悠さんは大学を卒業後に1度はほかの業種に就職したが、それでも店が多忙になる盆シーズンは帰省して家業を手伝っていた。世の中をみて、やっぱり継ごうと決めた悠さんは調理師学校で学び、本格的に店に入ったのは10年ほど前だという。

眞由子さんが「明治生まれの祖母から、創業は1914(大正3)年と聞いてます」と教えてくれた。現在は麺類を中心とした大衆食堂になっているが、以前は宿泊施設も兼ねた料理旅館として営業していたという。しかし戦後あたりに“宿泊よりも食事を”というニーズに応えるような形で、食事に注力したそうだ。食料の少ない時代の配給後には、店に行列ができたと伝わる。

店を創業したのは悠さんの曾祖父にあたる。それから祖父母、父母と継承され、5年ほど前に悠さんが継いだ。店名は当初「前田うどん」だったが、戦地から帰ってきた祖父が「店名が古い」と、現在の「松葉屋」に変更したそうだが、その由来は残念ながら伝わっていない。「『なんとか屋』っていう名前がかっこいい時代だったんじゃないですかね」と悠さんは笑う。

■ 隠れメニューを公開したら話題に

「松葉屋」の人気メニューは「天ぷら中華そば」(800円)だ。何もトッピングしない「中華そば」(650円)自体は2代目の時代からあったのだが、店では「天丼」(800円)用に天ぷらを揚げていたため、常連客から「中華そばに天ぷらのせて」と頼まれることがしばしばあったという。悠さんが店に入ってから、ある雑誌取材を機会にこれを正式にメニュー化したところ好評となり、とりわけラーメン好きの観光客が多くなったという。中華そばのレシピ自体は当初から変えておらず、カツオベースの豚骨醤油で仕上げた、昔ながらの支那そばだ。

「地元のものという意味では、これもおすすめですよ」と悠さんが教えてくれたのは「自然薯とろろそば」(1300円)だ。地元で採れた自然薯をたっぷり使ったとろろそばで、自然薯の豊かな香りが丼から立ち上る。ところが口に運べば芋の味はやさしく、次々と箸が進む。「うちでもっとも高価なメニューですけど、材料費でギリギリです」と悠さんが笑う。自然薯は秋のおいしい時期に仕入れて、庭に埋めて保存しているそう。そうしてなるべく全シーズンで出せるようにしている。

そば、うどん、中華そばと麺類メニューが充実した「松葉屋」だが、丼ものも充実しているのは多くの大衆食堂と同じだ。ふんわりと揚げたカツで作った「カツ丼」(800円)は、素朴でありながらも麺の店らしい芳醇なダシの味わいが口中に広がる。国産ということ以外にことさら特別な豚肉を使用しているわけではないそうだが、しかし上質な満足感を味わえる。

■ 「伝統を守りながら、時代に寄り添いたい」

「松葉屋」のレシピは、長年大きく変えずに維持し続けている。「田舎やもんで、味を変えると何を言われるか分からんのです」と悠さんは苦笑する。だから材料の変化に合わせて微調整を続けている程度だそう。なお、いろいろな料理に使用する醤油は、2代目が醸造所と一緒に開発した特注のものを使い続けている。その評判と出来のよさから、ほかの店が「松葉屋の醤油をうちにも売ってくれ」と醸造所に持ちかけたことがあるそうだ。「ちゃんと断ってくれたそうですと」と悠さん。

ところで、地元の郡上八幡では年に1度の盆踊り「郡上おどり」が有名だ。徹夜で催されるこの当日、多くの店が0時あたりに店を閉めていくなか「松葉屋」は深夜3時すぎまで店を開けて客を迎えるのが慣例となっている。「大変ですけど、どこも開いてないんじゃ客に申し訳ないって。地元の人からも『開けててくれ』と頼まれるんです」と悠さんは話す。地元に根ざした営業は、昔から続いている「松葉屋」の習慣というわけだ。

悠さんに今後の店をどうしていきたいか聞いてみると、いい言葉が思いつかない様子で首をひねる。すると眞由子さんが「伝統を守りながら、時代に寄り添って、なんてどう?」と助け舟を出す。「今の時代、珍しいものを出していきたいとは考えているのですが、でもごっそり変えるのはもったいないと思ってますね」。そう話す悠さんを見て、眞由子さんは「でもお嫁さんが来て、おしゃれな喫茶店に変えたいって言ったら『どうぞどうぞ』と私はいいますよ」と冗談めかす。母子2代で営む「松葉屋」は、古きよきものを守りながら、しかし固執はしていない。客が望む味のために、その店を守り続けているのだ。(東海ウォーカー・加藤山往)

https://news.walkerplus.com/article/135274/

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