三島由紀夫の怪作をドラマ化「命売ります」第5話放送直前に前半をおさらい

エキレビ!

2018/2/10 09:45

BSジャパンで1月より放送が始まったドラマ『命売ります』(土曜夜9時)も、きょう2月10日の放送の第5回でいよいよ後半に入る。

『命売ります』の原作は昭和を代表する作家・三島由紀夫の同名小説。原作小説は1968年に「週刊プレイボーイ」に連載され、その後、1998年にちくま文庫に収録された。このちくま文庫版が、2016年に「隠れた怪作小説発見!」と帯に銘打ったのをきっかけとして版を重ね、三島の異色作として再注目されるようになる。

『命売ります』はそのタイトルどおり、現代社会に虚しさを覚えたコピーライターの青年が、睡眠薬を飲んで自殺を図るも失敗し、それならば自分の命を他人に預けようと、売り出すところから始まる。今回のドラマは、この設定を踏まえつつも、2018年という現在の状況に即した展開を見せている。第1回から先週放送の第4回までの各話をざっと振り返ると、こんな感じだ。


第1話「開業。命売ります」
主人公の山田羽仁男(中村蒼)は、自らの命を売り出して最初の客となった岸という老紳士(田中泯)から、彼の若妻・るり子(橋本マナミ)と関係を持ち、その愛人(大杉漣)に見つかってほしいとの依頼を受ける。だが、羽仁男が妻といざ関係を持つと、寝室に入ってきた愛人はなぜかベッドの二人の写真を撮り始めた。るり子は逃げ出し、愛人からピストルを向けられた羽仁男は「やっと死ねる」と笑うが、「じゃあ殺さない」と言われて結局殺されないまま帰されてしまう。後日、羽仁男は再び会った岸からるり子が水死したことを伝えられる。

第2話「吸血鬼の館」
羽仁男は、男子高校生の井上薫(前田旺志郎)に、彼の母・八重子(酒井若菜)のため、ある依頼を受ける。それは、八重子に死ぬまで血を吸わせてあげてほしいという突飛なものだった。羽仁男はこれを引き受け、毎晩、彼女に存分に血を与える(ピンクの照明に包まれた部屋で、酒井若菜が中村蒼の体に舌を這わせる姿はじつにエロかった)。

そのうちに八重子が“吸血鬼”となったのは、夫に捨てられたショックが原因であることが明かされる。しかし、しだいに衰弱する羽仁男の姿に気が咎めた彼女は、彼を病院に預けると、一人で自宅に火をつけて自殺してしまうのだった。なお、孤児となった薫は、このあと羽仁男のもとに身を寄せ、助手役を務めることになる。

第3話「天使すぎる女医」
3人目の依頼者は、前話で羽仁男が入院した病院の看護師・木島(谷村美月)。その依頼は、木島と同じ病院に勤める女医・城山(壇蜜)を失墜させるため、彼女の医療ミスで死んでほしいというものだった。木島によれば、女医は実績を上げるため患者にしきりに手術を勧め、たびたび医療ミスも起こしているにもかかわらず、日頃から同僚や患者たちに取り入っているおかげで見逃されているという。そんな女医の評判を落とすため、羽仁男は入院して、あれこれ仕掛けるも、なかなかうまくいかない。やけになった彼は女医と関係、それに木島も嫉妬して関係を持つ。

このあと女医に医療ミスをさせるため、羽仁男は手術にのぞんだ。そして手術は失敗する……のだが、女医が手術したのは別の患者(森本レオ)だった。羽仁男は、木島の心変わりにより、ほかの医師から手術を受けて救われたのだ。このあと、木島は羽仁男との関係を暴露され、一方の女医は辞表を申し出るが、院長がかばってくれてかえって出世する。

第4話「平成の毒婦」
羽仁男は、身内を「平成の毒婦」と呼ばれる女に殺されたという3人の男女から依頼を受ける。宮出(松下由樹)というその女は、男たちに結婚を持ちかけ、カネを巻き上げたあげく、相手を自殺に見せかけて殺害したという。しかし遺族たちは、警察から自殺と断定され、十分な捜査をしてもらえなかった。そこで羽仁男に、宮出が殺人者であることを証明するため、彼女と接触し、殺されてほしいと依頼したのだ。彼はいったん躊躇するも、結局引き受ける。

婚活サイトを通じて宮出と出会うことに成功した羽仁男は、思いがけず彼女の優しさに接する。ある夜、宮出が以前交際していた男にナイフで切りつけられると、羽仁男は彼女を自分のもとに匿い、一緒に暮らすことになった。そこで彼は、自分が受けた依頼について打ち明け、自分の心は空っぽだが、死ぬと考えたらそれが埋まったのだと打ち明ける。これに宮出は同情を示す。

だが、最後の最後で、彼女は本性を現し、練炭自殺を装って羽仁男を殺そうとしたところを、警察に踏み込まれる。結局、羽仁男は今回も目的を達せなかったが、しだいに自分が命を惜しむようになっていることに気づき始める。

原作には出てこない主人公の仲間たち
これまでの話で、原作どおりなのは第2話までで、それ以降はオリジナルのストーリーだ。第4話で描かれた自殺に見せかけた殺人事件など、いかにも現代っぽい。

設定における原作との最大の違いは、原作ではまったくの孤独だった羽仁男に、ドラマでは、行きつけの喫茶店のマスターの杏子(YOU)や常連客の男(田口浩正)など何かと手助けしてくれる人が周囲にいることだ。第2話で知り合った薫少年も、原作以上に羽仁男のため活躍する。第4話のラストでは、杏子のおかげで命を救われたことを知り、突っかかる羽仁男に、彼女が「薫のお母さんが助けたかった命でしょ。中途半端に死んでんじゃないわよ」と一喝するシーンもあった。このあたりは、絶望に追い込まれたとき、手を差し伸べてくれる人は案外近くに存在するというメッセージのようでもあり、なかなか示唆的である。

設定は現代に変えている部分も少なくないとはいえ、それでもこのドラマにはどこか昭和の匂いが漂う。主演の中村蒼は、昨年末には黒澤明の映画『赤ひげ』のリメイクドラマ(NHK・BSプレミアム)で、小石川療養所の医師である赤ひげに反発しながら、しだいに感化されていく若き医師・保本(映画での配役は加山雄三)を演じていたが、今回のドラマといい、悩める青年役がハマる。その助手となる薫を演じるのも、いまどき詰襟の学生服のよく似合う少年で、誰かと思えば、お笑いコンビ・まえだまえだの弟だった(こんなに大きくなっていたとは)。そのほか依頼人の役にも、谷村美月といい壇蜜といい、黒髪の似合う昭和な女優が目立つ。

ドラマはこれまで、どのエピソードも羽仁男と女性たちとの関係を軸に展開してきた。しかし今夜放送の第5話で彼の相手となるのは、ブラック企業を経営する男(山崎銀之丞)。ここで物語の流れも変わっていくのか。三島由紀夫の原作では、羽仁男が逃走を続けた末に、思いがけない結末が待ち受けていたが、ドラマはそこをどう料理するのか、気になるところだ。

※先週放送の第4話は、「ネットもテレ東」で2月10日21時53分まで無料配信中
(近藤正高)

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