権威に質問「ビットコイン長者になれなかった自分を一生後悔しなければならないのですか」

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Image: Elena Scotti / Gizmodo US

ビットコインを初めて使った人はピザを買いました。ピザ2枚で1万ビットコイン。 買っていなければ今頃は資産80億円(今月落ちる前は110億円)。それを思うと悔しくて眠れない夜もあるんじゃないでしょうか。

一時は1ビットコインの価値は2万ドル(約218万円)となり今は3分の1ですが、たまさかお兄ちゃんを黙らせるためにお祖母ちゃんの小遣いでビットコインを買って億万長者になったティーンが「長者になれなかったらあなたのせい」と煽って大人が反応するなど、モラルが落ちています。

百年に1度めぐってくるかこないかのギャンブルに負けたわれわれは一生後悔しなければならないのか。人類試練の時を乗り越える叡智を求めて、暗号通貨、心理学、宗教の有識者に答えを聞いてみました! 以下にまとめてどうぞ。
Brian Patrick Eha
ジャーナリスト。近著に「How Money Got Free: Bitcoin and the Fight for the Future of Finance( マネーがフリーになる: ビットコインと金融の未来をめぐる戦い)」。

マリリン・モンローのこの名言、聞いたことあるかな?

「最悪な私も受け止められない人に、最高の私を味わう資格なんかないわ」

ビットコインも同じです。だから後悔しても仕方ないのです。 2012年時点で10ドル未満だったビットコインの価値に気づけなくて、2013年、2014年、2015年まで待っても気づけなかったんですからね。

というか気づいた人のほうが少ないです。ビットコインが専門の記者ですら、最初はペットロック(手間いらずのペットとして原価1円の石を売ったら大ヒット、半年でブームが終わった1970年代の社会現象)の再来かと思ったと言ってるぐらいですからね。ビットコインの船には誰も乗りませんでした。乗ったとしても途中で波が荒くて降りた人も多くて、乗組員(普及に奔走したアーリーアダプター、マイナー、スタートアップ創業者、ソフトウェア開発者)ですら座礁しそうになるのをだましだましでした。成功を疑う材料はいくらでもあったんです。バブル、暴落、詐欺、逮捕、メルトダウン。波乱万丈すぎますよね。

今から始めてもビットコイン長者はなれないかもしれませんが、暗号通貨とブロックチェーンのテクノロジーはまだこれから伸び代がかなりあります。投機熱とその報道に埋もれて陰が薄いだけで、このイノベーションは本当にすばらしく、それを支えるクリエイターも頭のいい人たちで、必死に働いています。解決しようとしているニーズや問題(テキーな仲間内では「ユースケース(活用事例)」と呼ばれている)は実に幅広い分野におよびます。

投資のアドバイスにはなりませんが、少しでもこの分野に関心があるのならビットコインだけを調べないで、その先にあるイーサリウム、Dash、Zcash、Golem、Augur、SALTといった暗号通貨についても調べてみて欲しいですね。取引きのパワフルな新機軸を考える動きもあれば、ソフトウェア応用、新金融ツールに力を入れている動きもあります。どれも開発の超初期段階なので成功するかどうかは未知数ですが、内部では結構盛り上がっていますよ。
Matthew D. Green
ジョンズホプキンズ情報セキュリティ研究所准教授。暗号通貨「Z-Cash」共同創業者。

ビットコインがこうなるとは誰も予想できなかったはずですよ。だってビットコインは明日2ドルになってもおかしくない通貨なので。暗号通貨の値動きで学んだのは、こいつには合理性のかけらもないということです。「予見できたはず」、「予測できたはず」と後悔しても自分がみじめになるだけで、得になることなんか何もないです。こんなクレイジーな状況は誰にも予想できなかったのだし、いつ終わるのかは誰にも読めません。みんな「いつか終わる」、「しばらく死んだようになる」と言っていますけど、それで本当は不安なのに今が買い時だと自分に言い聞かせてビットコインを買ってるタイプの人は大損する確率がかなり大きそうです。
Garrick Hileman
ケンブリッジ大学講師。「2017年世界暗号通貨ベンチマーキング研究」著者。

ビットコインを買わなかった自分を責める必要はないし、その理由はいくらでも思いつきます。

第一、ビットコインを早い段階で買っても、保存状態が悪かったり、「紛失」した(暗号通貨の秘密鍵がなくなった)り、取引所が何度もハック被害に遭っているうちに盗まれてしまった人も結構いますからね。飲み屋で酔っぱらうたびにその愚痴を言う人生に比べたらまだましですよ。

さらに、世界の頭脳や権威ですらビットコインの価値は読めなかったんです。たとえば有名どころではポール・クルーグマン(2008年ノーベル経済学賞)。彼が2013年の時点で「ビットコインなんか通用するわけない」と言った話はあまりにも有名です。ほかにもブラッド・デロング、タイラー・コーウェンなど、経済学の名だたる大家は軒並み懐疑的だったし、初期にビットコインを研究した誰もが同じ結論に達していました。だから。自分を責める必要なんかまったくないんです。
Joseph Bonneau
ニューヨーク大学コンピュータサイエンス学部准教授。

暗号通貨分野で働いて6年が経ち、この4年は学部でも教えているので、ビットコインとイーサリウムを買おうと思えば、買う機会はいくらでもあったんですけど、結局一度も大金は注ぎ込まずに今に至ります。尊敬する研究者もそういう人が多いですね。中には結構儲かった人もいるけれど。要は、この分野で働き、この技術のことに誰よりも詳しく、朝から10時間ぶっ通しで板書しながら学生に暗号通貨のしくみを教えてる研究員の目から見ても「絶対買い」と言い切れるほどの材料はなかったんです。

ビットコインのことを去年初めて知って「もう2年早く知っていれば…」と思った人もいると思いますけど、僕なんて技術的なしくみについて教科書を書いて学生に教えてもいたんですよ。なのにただの一度だってビットコインの時価総額がどこから来ているのか読めたなかったし、したがって相場が上がる時期を予測することもできませんでした。コンピュータサイエンスが専門だから単に金融の世界がわかってないだけかもしれない(その可能性は大いにある)けど、もっと単純に、予測が難しい水物なのかもしれません。12月も半分に減ったしね(訳注: 回答は1月時点。このあとまた半分に下がってます)。
Amy Summerville
マイアミ大学心理学部助教授。

後悔は有用な感情です。痛覚みたいなものですね。熱いコンロに触ると痛みでストップ!の危険信号を体に送るメカニズムと一緒で、 後悔は「ほかの行動を起こしていれば結果は違った」というときに湧きおこるネガティブな感情です。換言すると、失敗から学びを得ていることでもあります。その意味では、よい反応と言うことができます。

ただ厄介なのは、特にビットコインの場合はそうですけど、後悔の元にあるのが「カウンターファクチュアルな発想(実際に起こった現実とは別の想定) 」 ですので、ロジックではどうにも処理できないことです。

突然大金持ちになったらどんなに人生バラ色だろう、とつい想像してしまう気持ちはよくわかります。ましてやタッチの差( 「去年買っていればなあ!」)の場合は想像するなと言うほうが無理でしょう。しかし、「カウンターファクチュアルな発想」が浮かぶのは、いつも起こってからなので、後から物事を振り返るときに入るバイアスに気をつけなければなりません。結果が全部わかってから「こんなの予想できた!」と言うのは簡単なのです。いくらでも言えます。ビットコインでも株でも、答えがわかってからだと簡単に見えるのです。そして、現在から遡って「なんであのとき」となるのですね。現実には、過去のその時点では、まだそこまで明白には見えていなかったはずなんですよ。
Ari Juels
コーネルテック(コーネル大学)ジェイコブス研究所教授。暗号通貨&コントラクト研究所(IC3)共同所長。

星占いを読まなかったと後悔するのと変わりありませんよ。専門家でも読めなかったんだから。ビットコインのテクノロジーはインスパイアリングだし、科学や産業の発展に変革をもたらす可能性もありますが、それはあくまでも「可能性」であって、ビットコインの周りには問題が山積みです。 環境破壊、派閥争い、スケーリング、高い手数料もなかなか解決の糸口が見えなくて、今はビットコインでラテ1杯買おうと思ったら、およそ2杯分の手数料がかかるんですね。

コンピュータサイエンスの仲間内ではビットコインに感動している人も多いけど、それ以上に懐疑的な人のほうが多く、投資した人はとても少ないです。研究者も開発者も今はビットコインの問題解決に一生懸命取り組んでいますが、それと並行してもっと魅力的な次のオルタナティブもいろいろ開発を進めています。ビットコインは1、2年前まで金融界を牛耳る兆候すらありませんでした。それを考えると、今後オルタナティブの台頭で消えても特に驚くようなことではないかもしれません。
Mark Toohey
デジタル通貨専門弁護士。ブロックチェーン「TBSx3」創業者。

億万長者になりたくない人はいません。しかし投資にはほかの目的もたくさんあります。高収益のリターンを得ること以外にも、重要な転機となる何かに投資することで息の長い満足感を得ることができます。その点、ビットコイン価格の急騰が世界にもたらす息の長いバリューは皆無に等しいでしょう。むしろビットコインの通貨としての有用性は著しく損なわれてしまいました。長年われわれが必死になって開発してきたものが、ただの富の集積の道具になってしまう危機に晒されているのです。デザインと活用に革命をもたらすはずだったのにアート、不動産、サラブレッドと変わりない投機の対象になってしまいました。ビットコインはこんなもんじゃないはずなのに。後悔なんか必要ありません。未来をつくる、築いていく何かに投資することを考えるべき。
James Grimmelman
コーネルテック法学教授。

みんなビットコインを買わなかった自分に後悔しているんでしょうが、買っても秘密鍵を失くした自分に後悔している人もいるし、ハックされる取引所に預けておいた自分に後悔している人もいます。それに、早く買った人は強気になりすぎて今頃売れなくて困ってるんじゃないかな。
Jeremy Clark
コンコーディア大学情報システムエンジニアリング准教授。

まだまだゲームオーバーではありませんよ。ビットコイン信者派が正しい場合、これから横這いか高くなっていったらそのとき後悔すればいいのであって、懐疑派が正しくてバブルが崩壊するのなら、ドットコムバブル株とかシンセティックCDO(債務担保証券)を買わなかったと後悔してるようなものです。気に病む必要はありません。ビットコイン投資家にも売りか買いか読みづらい不透明な状況と言えます。

なにせ、ビットコインは買った人ですら後悔していますからね。1BTCを買った 友達はなんで100BTCを買わなかったのかを後悔し、10万BTCを買った人はなんで1000万BTCを買わなかったのかを後悔し、キリがありません。未来予測は難しいですよね。一番幸せなビットコイン投資家は、新しいテクノロジーが単純に面白いと思って飛びついただけで、評価についたボーナスは後付けという人たちかと。
Nancy Colier
心理療法士/異教宗教家。「The Power of Off: The Mindful Way to Stay Sane in a Virtual World(OFFのパワー。仮想世界で心を健康に保つマインドフルアプローチ)」著者。

過去に起こったことを後悔していると、今ここにあるチャンスを見逃してしまいますよ。失敗と失望を果てしなく堂々巡りするばかりではどこにも行き着きません。失ったものに執着することは、現在ここにある瞬間を放棄していることにほかならず、そこから未来の後悔が生まれます。そうして自分で自分の首を絞めているんです。

「ビットコインを買うべきだった」と考えるとき、私たちは過去の自分をなきものにしているのです。本当はその時点でビットコインの先を読めなかった自分を許してやらなければならないのに。

後悔しても、起こってしまったことに変わりはありません。後悔で心が曇って、なんの教訓も学べなくなり、今この瞬間にもビットコインレベルのチャンスが目の前にあるかもしれないのにそれすら見逃してしまう。これは学びを拒否しているからです。


Image: Elena Scotti / Gizmodo US

Daniel Kolitz - Gizmodo US[原文
(satomi)

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