【映画コラム】これは現代版の西部劇なのか…『スリー・ビルボード』

テレビファン

2018/2/8 12:05


 本年度のアカデミー賞で、作品、脚本、主演女優、助演男優賞などにノミネートされた『スリー・ビルボード』が公開中だ。

舞台は、米ミズーリ州の田舎町。何者かに娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、犯人を逮捕できない地元の警察署に抗議するため、町はずれの道路沿いの空き地にある朽ちた三つの広告看板(=スリー・ビルボード)にメッセージを書き込んで、新たに提示する。

警察や町民はこれを快く思わず、撤去を促すが、ミルドレッドは決して引き下がらない。やがて両者の対立は激化し、ミルドレッドの行動も常軌を逸していく。

バンダナを頭に巻き、青いツナギに身を包み、というミルドレッドの戦闘態勢的な外見は、あたかも“女クリント・イーストウッド”を思わせる。

また、頑固で怒りに燃えた主人公、善悪のはざまで揺れながら観客の予測を覆す行動を取る登場人物たち、というイーストウッドの諸作(特に『許されざる者』(92))をほうふつとさせるところもある。そもそも、閉鎖的な田舎町に、復讐(ふくしゅう)のために現れた主人公、というのも、西部劇にはよくあるパターンだ。

だが、その多くが勧善懲悪物で、事件もきちんと解決する往年の西部劇に比べると、本作は、決していい母親ではないミルドレッド、末期がんに侵された好漢ウィロビー警察署長(ウディ・ハレルソン)、マザーコンプレックスで暴力的で差別主義者のディクソン巡査(サム・ロックウェル)といった、悩み多き人物たちの心情や行動、そして迷宮入りの事件を描き込むことで、人間の心の闇の深さや、多面性を浮き彫りにしていく。そこに現代性が強く感じられるのだ。

監督・脚本はアイルランド系イギリス人のマーティン・マクドナー。北野武の映画に影響されたという唐突な暴力シーンとブラックな笑い、冒頭と途中に流れるアイルランド民謡「庭の千草」の切なさが共存するところが、あたかも、本作の一筋縄ではいかない流れを象徴するかのようで面白い。アカデミー賞での脚本、主演女優賞の受賞は有力と見た。(田中雄二)

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