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「anone」この世界にたくさんいる落っこちてしまった人たちの物語。幽霊でもいいから、そばにいて4話

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広瀬すず主演、坂元裕二脚本の水曜ドラマ『anone』。過酷な現代社会で行き場をなくした人たちが繰り広げる寓話じみた物語だ。キャッチコピーは「私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった。」。

先週放送された第4話の視聴率は6.4%。「わかりにくい」という評判を気にしているのか、冒頭に3話までのダイジェストが挿入されていたが、このドラマの持つ良さや伝えたいこと、うまみなどは一切伝わってこなかった。『anone』とはそういうドラマなのだ。個人的には、お茶の間さえ似合わないと思っている。疲れているとき、ゆっくり一人で膝を抱えて観たいドラマだ。


男社会にすり潰された女・るい子
「私の名前はアオバ、苗字はない。この世に生まれてこなかったからだ。幽霊っていうのとは少し違うけど、まぁ、そう思ってもらえるのが一番手っ取り早い」

いきなり現れた少女、アオバ(蒔田彩珠)はそう説明する。第4話では、1000万円を持ち逃げした青羽るい子(小林聡美)の過去にスポットが当てられていた。アオバは、生まれてくるはずだったるい子の娘だ。

るい子の半生は、男社会にすり潰される連続だった。幼少時はロッテオリオンズの村田兆治に憧れ、中学で野球部に入ろうとするが「頑張ればいつか野球選手と結婚できるよ」という言葉とともにマネージャーになるよう言い渡される。高校2年のとき、バンドマンになろうとしてバンドを組むが、バンド仲間の男に押し倒されて妊娠。アオバはこのとき生まれてくるはずだった子だ。このときから、るい子にはアオバが見えるようになる。

社会人になったるい子は人一倍働くが、男社会に跳ね返され続けて退職。結婚して子どもを生むが、家の中にも男社会は厳然として存在した。「男の子ってそういうものでしょう」と言って息子を甘やかす義母に「それは男性に対して失礼だと思います」と毅然と言い返したるい子だが、まったく相手にされない。体調が悪くて倒れ伏しても、息子と義母は心配するどころか、彼女をまたいで外出する。ついに家を飛び出したるい子は一人で暮らすようになった。アオバも一緒だ。

「母の願いは、いつもたいていかなわない」

アオバの言葉がせつない。親から捨てられたハリカ(広瀬すず)、騙されてすべてを奪われた末期がん患者の舵(阿部サダヲ)、夫に先立たれて育てた娘と縁を切られた亜乃音(田中裕子)、企業に搾取されて自死を選んだ西海(川瀬陽太)らと同様、るい子もこの社会に居場所のない人間だった。いてもいなくても、どっちでもいい人たち。

ずっと一緒だったアオバ
第3話で象徴的に使われていたモチーフは「煙」だったが、第4話でのモチーフは「幽霊」だった(アオバが言うには「少し違う」のだが)。どちらも実体がなく、いるかいないかよくわからない存在。

ハリカは幼少時の「ニセモノ」の記憶で自分を支えていたが、るい子を支えていたのは幽霊であるアオバの存在だった。「ニセモノ」の娘……と言うのは、少しアオバに気の毒だが。

「ずっと一緒だったの。娘だし、友達だし、私自身だし。この子がいなかったら、今頃私……」

るい子は、こう説明している。彼女が名乗っていた「青羽るい子」という偽名を見ても、アオバとの一心同体ぶりがわかる。生まれなかった子を忘れてしまうこともできたかもしれない。でも、彼女は忘れなかった。彼女を取り巻く過酷な環境が、忘れさせてくれなかったと言うこともできるだろう。

アオバは必要のない人にしてみれば「心の病気」で片付けられるものかもしれないが、るい子にとっては必要不可欠な存在だった。目に止まらない、存在の不確かなものだって、誰かにとって必要なものならば、それは間違いなく大切なものだ。目を瞑っているアオバと喋っているるい子、背中合わせの2ショットが素敵だった。

「幽霊だって、必要なときは寝たふりをする。そのとき私は起きていたけど、母の顔を見るわけにはいかなかった。見たら泣いてしまう」

夫と息子と義母の待つ家に帰ったるい子は、離婚届を突きつけられる。たったひとりの残酷な食卓でも、一緒にいてくれたのはアオバだった。

「あのね、お母さん。私、いい子?」
「いい子」
「ふーん」
「いい子だよ。お母さん、アオバのこと大好き」
「ふーん」

「大好き」っていい言葉だなぁ、と思う。「大好き」と言える相手がいる人は幸せだ。たとえその相手が幽霊であっても。「ふーん」というアオバの返事もいい。泣ける。画面に集中していないと、こぼれ落ちそうな音なのだけれど。

魂でもいいから、そばにいて
ドラマ評論家の成馬零一は、2011年の東日本大震災以降、「幽霊のような異界の住人の視線から人間を見つめ直そうという作品」が増えていると指摘している(リアルサウンド映画部 2月1日)。アオバ役の蒔田彩珠が子役として出演していた是枝裕和脚本・監督のドラマ『ゴーイング マイホーム』もそのような一作だ。このドラマで伝説の小人クーナの夫婦を演じていたのは、舵役の阿部サダヲと亜乃音の娘・玲役の江口のりこだった。

東日本大震災以降、被災地では幽霊の目撃談が相次いでいるという。奥野修司の書籍『魂でもいいから、そばにいて 3.11後の霊体験を聞く』(新潮社)は、被災者から聞き取った幽霊譚をまとめたものだ。大切な人を失い、悲しみに暮れる中で、その人たちが幽霊という形で帰ってきて、そばにいてくれる。本書の中で奥野は「事実であるかもしれないし、事実でないかもしれないが、確実なのは、不思議な体験をした当事者にとって、それは『事実』であるということである」と書いている。

『anone』のるい子にとって、アオバとのひとときはまぎれもない「事実」であり、かけがえのない存在であることは間違いない。そんな思いを抱えて生きている人が、この社会には間違いなく存在しているということを、このドラマは伝えてくれている。

世の中から落っこちてしまった人たちのドラマ
「鼻って、普段気にしてないとぜんぜん見えないけど、一旦見えちゃうとやたらと視界に入ってくるでしょう。そういう感じで幽霊が見える」

るい子は幽霊について、こんな風に語っていた。「鼻」と「幽霊」は普段から多くの人たちに気づかれない存在だ。もう一つ、多くの人たちから気づかれないものがある。それはハリカや舵のような人たちだ。

死んだ西海のことを気にし続けていたハリカは、るい子の幽霊話に食いついていた。彼女も、多くの人たちがほとんど気にしない、この世にいる弱くて存在感のない人たちのことを見えてしまう。亜乃音には「世の中の悲しいことにいちいち感情移入してたら身がもたないよ。忘れなさい」とたしなめられていたが、それでも彼女の視界には舵やるい子のような、世の中から振り落とされたような人たちを気にせずにはいられない。それは彼女が天使だからだろうか?

「みんな言うよ。普通は落とさないよって」
「じゃあ、おばさんは普通は嫌だな。だって、落し物したら、探すことができるでしょ? 探しものしたら、もっと面白いもの見つかるかも」
「あーっ、わかる!」
「わかる?」
「探すのって楽しいよね!」
「楽しいよね」

これは亜乃音と、玲の子ども・陽人(はると)の会話。ハリカをたしなめた彼女も「落とさない」ことではなく「ものを落とすこと」「落し物を探すこと」を肯定している。それは「普通」ではないかもしれないが、別にそれでいいじゃないかと言っている。そういえば、るい子もアパートの階段から盛大に転がり落ちていた。『anone』は世の中から落っこちた人たちのドラマだ。

ラストで亜乃音は玲と再会するが、冷たく拒絶されてしまう。玲は再婚する相手がいると言っていたが……その相手は中世古(瑛太)だった! 中世古には妻(鈴木杏)と子がいる。そして彼の目的はタイトに金だった。「またここに帰るんだ」と彼が見つめていた写真からは、かつての裕福な暮らしが垣間見える。彼に何があったか、そして彼が何を考えているかはまだわからない。

今夜放送の第5話では、寄る辺ない4人が共同生活を始めることになる。中世古の過去、彦星(清水尋也)の容態なども明かされる。物語が大きく動き出しそうだ。
(大山くまお)

●Huluにて配信中
U-NEXTにて配信中

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